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ちょろいもさんの読書ノート

2006年マイベスト本!
2006年読了本の中からマイベストを選びました♪
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 5

愛と癒しと殺人に欠けた小説集

著者 : 伊井 直行

出版社:講談社

発売日:2006-11-17

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 めっちゃ好み!!!!

 『濁った激流にかかる橋』&『本当の名前を捜しつづける彫刻の話』がすごーーーく大好きな伊井直行なのだけれど、最近の『お母さんの恋人』&『青猫家族輾転録』で、イマイチ…と思っていたのでこの新刊はもう大歓迎。なんたって最初の前書きでヤられる!! 興味があるけどどうしようかなー、という方は、本屋さんか図書館でとにかく前書きだけ立ち読みしてみてくださいませ。

 ただ、すごく好みの分かれる本だろうとは思う。最初の「ヌード・マン」からして、受け容れられない人は絶対受け容れられないのでは。非常にやっかいな性癖を持つ主人公が家族のことを思ってその性癖を改めようとするのだけれどどうしても改めることができず、ついに…という話なんだけれど、この結末は誰にも予想が出来ませんよ! わたしは前書きの次にこれを読んで、もうこの本は傑作と確信(笑)。

 続く「掌」「ローマの犬」「スキーに行こう」「微笑む女」「えりの恋人」と、収められている6篇のうち1篇も普通の小説は入ってない。

 文章も不思議。
 「ヌード・マン」では視点が一人称と三人称に前触れもなくスイッチを繰り返すんだけれど、視点が変わることに寄る文章の相違がぜんぜん窺えない。この感覚はものすごく不思議。
 「えりの恋人」でも、こちらは人称こそ三人称に統一されているものの、二人の主人公ダイとえりとにいきなり視点が切り替わる。そうすることによって読んでいるこちらはなんだかずっと落ち着かない気持になってくる。むずむず。

 実験的といえば実験的なんだけれど、かといってものすごくとんがった前衛的な感じは全然ない。


 やっぱりヌード・マンが好きかなあ。
 掌はちょっと好きじゃないかも。なんか主人公がかわいそすぎて。同情しまくってしまった(苦笑)。あとえりの恋人も好きな作品。

 やー嬉しい。伊井直行、復活、って感じで。
 てゆかもっと注目されてしかるべき作家だと思うんだけどなー。


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 2

仮面物語―或は鏡の王国の記 (1980年)

著者 : 山尾 悠子

出版社:徳間書店

発売日:1980-02

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 その国を訪れた旅人・善助は彫刻師だった。すべての職業が世襲制であるその世界で、彫刻師とは葬儀の際に飾るために死人の姿そのままを写し取る仕事を意味していた。しかし善助の右手にしっかりと巻き付けられた包帯は、善助の別の姿を現していた。<影盗み>。見ればたちまち気が狂うと言われる、自分自身の”たましいの顔”を彫ると言われる男。それであればこそ、善助は鏡を見るとそれを見たとも気づかぬうちに失神する。

 その国の<帝王>加賀見は、一人娘の<館主>聖夜が<影盗み>に出会うことだけを恐れていた。一度死んだという噂のある館主。彼女の元には虎と自動人形が付き従う。

 議員の間久部は詩人を<二重館>に幽閉する。彼の娘はそれと知らずに影盗みである善助と知り合う。魔術師はすべてを予見している。

 そして盛大な葬儀の日、すべての人々はたましいの顔を盗まれることを恐れて鏡の仮面を身につける…。

 妖しくも美しい、鏡の国の物語。
 山尾悠子の現在までの唯一の長編作であるこの作品が絶版だなんて日本の損失だ!

 相変わらず難解で、文章は精読を強いられるけれど、それでも読者を引っ張り込んでやまないそのストーリーの魅力といったら。登場人物たちの魅力といったら。

 百聞は一見に如かず。
 とにかく手にとって、読んでみてほしい。

 ああ、言葉にできない自分がもどかしい。


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 1

逆転世界 (創元SF文庫)

著者 : クリストファー プリースト

出版社:東京創元社

発売日:1996-05

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 つねに移動を続ける巨大都市の中で生まれ育ったヘルワードは、ついに成人となる650マイルの歳を迎えた。父と同じ未来測量ギルドの一員となることを希望した彼は、見習いギルド員として初めて都市の外に出る。空に浮かんでいたのは書物で識っていたのとは違う、歪な太陽だった。そして見習い経験を積んだ彼は、都市の進行方向とは反対の南に旅に出ることに。そこで彼が知ったのは、ギルド員以外には隠されていた世界の真実の姿だった…!

 読むのに5日くらいかかった…。 翻訳物はどうしてもサクサク読めない。
 しかし!

 いやー、さすがプリースト。 今回は『奇術師』『魔法』と違ってバリバリのSFだったんだけれど、最後はバババーっと鳥肌が浮かんだ。
 まさに逆転世界。
 逆転ですよ、逆転!(なんのこっちゃ)

 何を書いてもネタバレになりそうなのが辛いところなんだけれど、これを読むと自分の立ち位置に不安を感じてくる。客観的な世界なんて存在しないんだよねえ…。
 わたしの主観は、世界が歪んでいる分だけ歪んでいるんだと再認識。

 そして主人公の男の背中のなんと哀切の漂うことよ。
 ああ、女は強し、男は哀し。


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 8

イリアム (海外SFノヴェルズ)

著者 : ダン シモンズ

出版社:早川書房

発売日:2006-07

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 いやーーーーーーやっぱりシモンズはおもしろい。
 ハイペリオン4部作が大好きな人はこれも絶対気に入るハズ。

 とにかく長くて、序盤は読むのがちょっとつらかった。でもそれでもリーダビリティは相当なもの。あの超有名なイリアスを下敷きにしているだけあって神話の神々・英雄がてんこ盛り。名前が覚えきれないほどだけれど、けれどそんなことはこの本を読むのにナンの障害にもならない。

 とにかく読んでいてシモンズの博学ぶりに落ち込むことしきり(苦笑)。イリアスもテンペストも、プルーストもナボコフも、読んでませーん。これらを読んでいれば何倍も愉しめるんだろうな。わたしもやっぱり古典をちゃんと読まないとダメだなあ…。orz
 とりあえず、シェークスピアの三大悲劇はこの間制覇したので、ついでにテンペストも読んでみようかな。

 ストーリーは3本柱で進む。少数の生き残った人類が100年きっかりの人生を怠惰に過ごしている地球、イリアスの物語がそのままに再現されているらしきテラフォームされた火星、そして火星の不審な動きを探るべく木星の衛星たちから派遣された、かつての人類の撒いた種から進化してきたモラヴェック(バイオメカニクス生物)。この3つがどれもこれも面白い!

 壮大な戦いを繰り広げる火星の神々&英雄達、彼らをただ見守る使命を与えられたホッケンベリーがあるきっかけで胸に抱き始めた野心。
 火星に近づいた途端に宇宙船を大破させられ、満身創痍で火星にたどり着いた、文学が大好きなモラヴェック達、人間よりも人間くさいマーンムートとイオのオルフ。
 怠惰な人生を送ってきたのに「さまよえるユダヤ人」サヴィに出逢い、壮絶な経験をすることになるディーマンとハーマン。
 様々な人間模様が繰り広げられる中でぐぐっと変貌していく人物達の姿は感動モノ。

 ただ、まだ第一部なだけあってたくさんの謎は明かされないまま。は、はやく第二部を!!(笑)


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 3

死の泉 (ハヤカワ文庫JA)

著者 : 皆川 博子

出版社:早川書房

発売日:2001-04

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 めちゃめちゃに凝った作品。
 もんのすご~~~~~く贅沢なエンターテインメント。個人的には訳者あとがきはくどすぎる気もするけれど(苦笑)。
 あ、未読の方は絶対にあとがきを先に読まないようご注意。

 かなり世界に酔いしれて午前3時までかかって一気読み(笑)。読了した今となってはなんだか頭がクラクラして、ちょっと自家中毒起こしてる感じかも(苦笑)。一気読みしないで精読すべき本だったのかもしれない。でも後半はスピード感たっぷりだったし、一気読みしないというのもツライ…。とにかく、読み応えはたっぷり。時間と体力があるときに読むべき本だと思う。

 ナチスドイツ、レーベンスボルン、双子を使った人体実験、怪しげな不老不死の研究、古いドイツの神話などなど、惹かれるキーワードが満載。
 耽美な幻想小説、と言えなくもないけれど、個人的にはもう少し通俗的(悪い意味じゃないですが)な感じを受けた。山尾悠子なんかに比べると。でもとっても好きな作風だわー♪

 ぜひ、他の作品も読んでみたい作家だ。


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 16

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

著者 : カズオ イシグロ

出版社:早川書房

発売日:2001-05

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 すっごおおおおおくよかった。今までこれを読まなかったことが悔やまれる。さすがブッカー賞受賞作。

 読み始めはついついジーヴスを思い出してしまい、そのうちドタバタコメディになるんじゃ…なんてハラハラしていたんだけれど(そんなんわたしだけだ)、読むうちにどんどん世界に引きこまれて最後は思いっきりしんみりしてしまった。

 たぶん、これが三人称だったらずいぶんイメージの違う作品になったんじゃないかと思う。
 スティーブンスのその執事然とした語りがものすごくハマる。物語はかれのひとり語りのその合間から溢れてくる。

 ラスト、新しい主人のために、ジョークの練習をしようと決意するスティーブンス。そのユーモラスさが愛おしく、切ない。


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 4

ピカルディの薔薇

著者 : 津原 泰水

出版社:集英社

発売日:2006-11

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 猿渡シリーズ(?)の2作目。

 読むたびいろいろな引き出しを開けて見せてくれるヤスミン(笑)だけれど、今回は面目躍如の美しくも妖しげな世界。あーやっぱりこれが一番好きだ。赤い竪琴も好きだけど。なんたって文章が美しい。日本人に生まれて原文でこれを読める幸せを噛みしめる。

 まず「夕化粧」でぞわぞわっとする。キタキタ! 最後のひとことがね…。ふふ。

 続く「ピカルディの薔薇」を読んでデジャヴ。あれ? なんか知ってるぞこの話…と思ったら、そうだ、これは中井英夫に捧げるオマージュを集めたアンソロジー『凶鳥の黒影』の再録だったのね。改めて読んで再び京極夏彦の某作品を連想する。これどうしても似てると思ってしまう…。あっちも傑作だけどこっちも負けてないワ! 妖しさではいい勝負。

 そして「籠中花」。ヤドカリ怖いよ…。これまたラストが美しい。話と関係なさげなシーモンキーで始まりちゃんとシーモンキーで締めるところがちょっと好きだ(笑)。

 「フルーツ白玉」ではおいしそうな不気味なような食べ物の羅列にまたくらくら。道民ですが内田?蛄(ざりがにと読むそうです)なんて初めて聞いたわ!食べたい!! キビャックは遠慮しておきたいけど…。 でもってここで前の短篇の白鳥飛鳥の違う面が垣間見えるのがかわいらしくも哀しい。あ、ちなみに例の「茹でた果実」だけれど、わたしは伯爵と同意見(笑)。

 「夢三十夜」はタイトル通り夏目漱石ばりの妖しげな夢が続くんだけれど、この終わり方はちょっと…不気味というより都合よすぎな気がしてしまったのはわたしだけ…かもね…。orz

 「甘い風」は美しすぎるウクレレに魅せられてしまった男の話。ハワイなのに妖しい(笑)。ハナの老人は一体何とウクレレを交換したんだろう…。ちなみにわたしは新婚旅行がマウイだったのにハナにはいきそびれました。くそー!

 ラストの「新京異聞」は、これって猿渡の祖先の話なのかな? 伯爵は例の伯爵と血の繋がりがあるのかしら。昭和初期の満州での妖しく不思議な一夜(二夜?)。

 とにかく最初から最後までくらくらしながら読み進み、本を閉じた後はいい感じに酔っぱらっていた。はー、うっとり。


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 66

ミーナの行進

著者 : 小川 洋子

出版社:中央公論新社

発売日:2006-04-22

評価 :

完了日 : 2007年01月25日

 これはよかった。

 『博士の愛した数式』(感想はこちら)があまりにも完成されていて、こんなの書いてしまったらもう小川洋子は何も書けないんじゃないかと心配していたんだけど(大きなお世話)、そんな心配はまるで必要なかったことをこの本を読んで思い知った。

 なんというか、現代のおとぎ話のよう(いや一昔前か)。

 物語のような素敵な洋館で1年間、従妹とその家族と一緒に暮らすことになった朋子。
 素敵な伯父様、物静かな伯母様、ドイツ人のお祖母様、ハンサムな従兄に美しい従妹。庭にはカバまでが住んでいる!

 けれど、お金持ちの素敵な家族は、実は幸せじゃないんだよね。
 朋子視点で描かれている物語だからはっきりとは書かれていないけれど、この家族に朋子は実はものすごくいろいろなものを与えているのだ。

 でも、主題はそういうことじゃなくって、朋子がそこでいかに素敵な1年間を過ごしたかということで。

 なんというか、うまく言えないけれど。
 すごくすごく豊かな物語を、繊細に慎重に、あえてマッチ箱のような小さな箱に詰めてみました、とでもいうような物語。
 この、物語のサイズがすごく重要なんじゃないかと思う。
 どんな物語にもぴったりのサイズというものがあって、書き足りなければ中途半端になるし、書きすぎれば冗長になる。

 甘ったるいけれど甘すぎず、ちょっと苦いけれど苦すぎず。
 うーん、絶妙。


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 3

ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

著者 : 飛 浩隆

出版社:早川書房

発売日:2006-10

評価 :

完了日 : 2006年12月13日

 飛浩隆、すばらしい!!
 もう一生ついていきたい。
 グラン・ヴァカンスと併せて、これは、買う!

 正直グラン・ヴァカンスと象られた力を比べたら象られたの方が全然上だ、と思ったんだけど、や、今回で思いっきりレベルアップ。すごい世界観。すごい人物設定。「クローゼット」は本気で怖かった…!

 大途絶(グランド・ダウン)以来まったく人間のゲストが来なくなった仮想リゾート空間で何百年もの変わらぬ生活をすごすAIたちとその世界を突然破壊する謎の蜘蛛の襲来が前作『グラン・ヴァカンス』のストーリーだったわけだけど、今回はその謎をいちいち埋めてくれるいわば「番外編」的な短篇集。でもでも、これが一々レベル高い! あれ、今思ったけどもしかして飛氏って短編向きな作家さんなのかしら?? いやいや、続く第三部では長編の魅力もいかんなく発揮していただきたいわ~。

 「夏の硝視体」でグラン・ヴァカンスの前日譚であるジュリーとジョゼのなれそめを語り、続く「ラギッド・ガール」で数値海岸がどのように形になっていったかを語り(この開発者の阿形渓がスゴイ~!)、さらに「クローゼット」で蜘蛛の開発者とラギッド・ガールの物語のその後を語り、「魔述師」でなぜ大途絶が起こったか?を語り、そして最後に「蜘蛛の王」で少年時代のランゴーニを語る。

 いや~~~~
 とにかく贅沢。至福。
 日本にもこんなスゴイSFがあるんだぞ!と胸を張りたい気分。

 「視床カード」ってちょっと前に読んだ『オルタード・カーボン』を連想したんだけれど、それより設定はもっとずっと緻密だ。このカードや「多重現実」、「アンヴィーブ」、「情報的似姿」、などなど、よくこんな設定考えるよなあ。そういう設定だけでもうヤられちゃいます(笑)。

 ちなみに、この中に収録されている「クローゼット」はS-Fマガジン初出時とはなんとラストがまったく違う! 賛否両論分かれるところだろうけれど、個人的には僅差で雑誌掲載時の方が好きかも…。ただ、今後のストーリー展開など考えると、こういう形に変える必要があったのかなあ、と邪推。興味のある方は比べて読むとおもしろいかと思います。


この感想へのコメント

1.シン (2007/02/08)
はじめまして。SFは不案内なんですが、あまりのかっこよさにはまってしまいました。「象られた力」の滅びの感覚、しびれました。発想もすごいし文章も美しい。続編が待ち遠しいですね!
2.ちょろいも (2007/02/09)
>シンさん
いらっしゃいませ♪
わたしもSF好きな割に全然読んでいないのですが、これは本当にカッコよかったですよね!
続編はいつになるんでしょうね~。
わたしも今から読みたくってウズウズしてます(笑)。
 

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 9

バルタザールの遍歴 (文春文庫)

著者 : 佐藤 亜紀

出版社:文藝春秋

発売日:2001-06

評価 :

完了日 :

 第三回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。第二回は大賞該当作がなかったので、実質的には二回目の大賞受賞作。

 ひとつの体に宿った二つの魂、メルヒオールとバルタザール。彼らを本当に理解してくれたのは従妹のマグダのみだった。
 公爵の爵位を持つ二人はハプスブルグ家が没落しナチスの台頭する時代の中で転落の一途の人生を辿る。放蕩により財産を食いつぶし、父が財産整理をしてただひとつ残していた広大な屋敷も父の死後叔母に奪われる。父の後妻として家に入ったベルタにバルタザールは夢中になるが、彼女も父の死と同時に姿を消す。結婚の決まったマグダに想いを残しながらも二人は屋敷のあるウィーンを出てゆく。どこへとも当てのなかった二人は思いつきでアフリカを目指すが…。

 あらすじを書いてみたところでこの小説の魅力はひとつも伝わらない。佐藤亜紀、恐るべし。まるで翻訳小説のような佇まいのこの作品は品格ある文章で読者を一気にメルヒオールとバルタザールの二人に惹きつけて離さない。そこにあるのは退廃の美だ。二人は二人であるがためにいつでも孤独ではない。彼らは彼らの世界の中に完結している。つねに最悪の選択肢を選んでしまう彼らはそれ故にけして転落した先から這い上がることがないけれど、その転落に悲壮さはない。

 彼らをとりまく登場人物もまた魅力的。
 従妹のマグダ、義母のベルタ、ナチの少尉エッグハルト、叔父のグラーベンメッサー、使用人にして父の秘密を知るロットマイヤー。

 一筋縄ではいかない登場人物たちに、一筋縄ではいかない物語。物語は終わっても、二人の遍歴は続く…。
 「読書」の醍醐味を思う存分堪能することができた一冊。


その他の本の感想はこちら♪
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 3

少年時代〈上〉 (ヴィレッジブックス)

著者 : ロバート マキャモン

出版社:ソニーマガジンズ

発売日:2005-07

評価 :

完了日 :

感想は下巻に♪


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 49

夜市

著者 : 恒川 光太郎

出版社:角川書店

発売日:2005-10-26

評価 :

完了日 :

 第12回日本ホラー小説大賞受賞作である表題作と、書き下ろし「風の古道」を収録。

 いずみは高校時代の同級生・裕司から夜市に誘われる。そこはおよそあらゆるものを売っている、この世ならぬ異界だった。幼い頃裕司は弟とともに夜市に迷い込み、そこで弟を売って「野球の才能」を手に入れた。その罪悪感から彼は、弟を買い戻すためにここを訪れたという。意を決していずみは言った。「あなた、私を売るつもりでしょう?」

 これがデビュー作だということにまず驚く。このクオリティの高さ、エンタメ度の高さ、そしてホラーとも和製ファンタジーともつかない独特の雰囲気をきっちりと確立した完成度の高さ。読み終わった後にいつまでも続くなんともいえず深くもの悲しい余韻。恒川光太郎、今後絶対に注目しようと決めたわ~!

 弟を売ってからずっと罪悪感に苛まれ、それがいつしか虚無感となり裕司をしっかりとつかまえる。彼の気持ちがよくわかるから予想もしなかった彼の行動がすんなりと納得できるし、胸が詰まる。弟の人生がまたきっついのよね…。彼らの行く末をいつまでも考えてしまった。

 そして、同時収録の「風の古道」がまた、「夜市」に勝るとも劣らぬ作品なのだ。ふたつの作品の世界観がさりげなくリンクしているところも個人的にはちょっとおいしかったわ。ラストの「これは成長の物語ではない。」からの一節がすごく好き。そうだよなあ、際限のない迷路だよなあと。

 人を選ばずみなに自信を持ってオススメしたい一冊!


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3.りんご (2006/08/03)
こんにちは。私は3日ほど前に読み終わりました!いろんな意味で涼しくて暑い夏にぴったりの本でした。個人的には夜市よりも古道に行ってみたいかなあ・・・(笑)しとさんも是非読んでみてくださいませ!
4.ちょろいも (2006/08/04)
>りんごさん

古道もすごくいいですよね~♪
この時期に読まれたなんて、ラッキーですね(笑)。
この本がデビュー作だなんて驚きですよね。はやく次作が読みたいものです。

もっと読む(4件)

 

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 3

少年時代〈下〉 (ヴィレッジブックス)

著者 : ロバート マキャモン

出版社:ソニーマガジンズ

発売日:2005-07

評価 :

完了日 :

 ゼファーはけして平和なだけの町ではない。人種差別は横行し、ギャングたちが賭博や娼館を牛耳り、殺人事件は解決されず、近隣にできたスーパーマーケットのせいで職を失う人たちがいる。しかしそこには確かに、「古き良きアメリカ」がある。
 登場人物がひどく大勢いるのだけれど、彼ら一人一人に個性があり、町の一部になっている。彼らがいるからゼファーがあるのだとよくわかる。

 一番の要は最初に起こる殺人事件の真相なのだけれど、それ以外の膨大なエピソードがそれぞれ小さなミステリや、成長物語になっている。手に汗握るスリリングな場面もどっさり。

 マジックレアリズムっぽさが全編の基調になっていて、わたしはそういうのはわりと好きなのだけれど、もしかするとその辺りにひっかかる人がいるかも。

 非常にいろんな要素が詰め込まれていて、気を抜くとちょっとわけがわからなくなるんだけれど(笑)、あちこちにさりげなく伏線がちりばめられており、小さな謎が大きな謎へと繋がっており、かなり読み応えのある作品だった。


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 5

蝶のゆくえ

著者 : 橋本 治

出版社:集英社

発売日:2004-11

評価 :

完了日 :

橋本治は意識的な作家だなあと思う。どんなささいなことも、さらっと流さずに、必要なことを必要な文体で必要なだけの量の文章で描く。暴くべきことは容赦なく暴く。けれど、冷徹なようでいてどこか暖かい。

 なんといっても最初の「ふらんだーすの犬」がすさまじい。深く考えずに逃避の挙げ句に親になってしまう美加。彼女に子どもを産ませたことで「これでもう自分の義務は終わった」と考える美加の最初の結婚相手・俊一。子どもがいることをうち明けられて「いいじゃん、別に」と答える、想像力の欠如した二番目の夫・幸信。こんな人々が現実を生きている姿がありありと浮かんでくる怖さ。そしてラストの1文の衝撃。しばらく続く作品が読めないくらい打ちのめされた…。

 「金魚」もかなり強烈。短編だというのに、加穂子の夫の家の歴史と加穂子たち夫婦のこれまでの軌跡がありありと浮かび上がってくる。加穂子が姑に感じる哀れさに強引に共感させられてしまうような力強さがある。

 ちょっとほかの作家とは比べられないような存在感。
 やっぱり橋本治はどこか違う、とあらためて思い知った作品。


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 13

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

著者 : 古川 日出男

出版社:角川書店

発売日:2001-12

評価 :

完了日 :

 苦節16日(笑)。おもしろかった!!!!
 これはホントに、本好きの、本好きによる、本好きのための本。本好きじゃない人には辛いかも…。ベルカもそうだけど、ホントに受け容れ層が狭そうだわ…(笑)<古川作品。
 けれど、わたしには思いっきりど真ん中!

 一言で言うなら書物の物語。
 なのに、「ああ、これって本の物語なんだ…!」と気づくのがものすごく後半だった。何度も何度も、これは本ですよ、って書いてあるのに。

 それにしてもこんなに読む作品読む作品好きなのに、どうして古川作品はいつも読むのに苦戦するんだろう。序盤はいつも全然進まない。今回はホントに途中で挫けるかと思った…。挫けなくて本当によかった(笑)。

 「読まれている瞬間、おなじ時間を生きているのは、その一冊と、その一人だけなのです。一冊の書物にとって、読者とはつねに唯一の人間を指すのです。」
 ああ、この言葉にシビれない本好きがいるだろうか。

 最後の最後まで先が読めなかった。
 だいたい「こういうふうに進んでこういうふうに着地するのかなー」という予想があって、それは裏切られたりすることもあるけれど、その裏切られ方も最後の最後に「そうきたか!」くらいなことが多いのに、これはもう途中経過から翻弄されっぱなし。アーダムと、ファラーと、サフィアーンの運命がどういうふうに絡むのか、どうその糸がもつれていくのか、そしてその結末はどうなるのか、これは悲劇なのかそれとも大団円で終わるのか、その辺の予測がまるで不能。
 物語的にはRPGゲームのような設定&内容(剣と魔法とドラゴン!)なのに、そして登場人物たちの語り口調はときに辟易するほどくだけているのに、それじゃあ内容が陳腐なのかというとまるでそうじゃない。わたしは読んでいて中盤あたりはトルネコの冒険を連想したのだけれど、かといってその連想が物語を貶めることはまるでない。
 文章に、力が溢れている。

 入れ子になった物語の外側の、「災厄の書」を編もうと試みるアイユーブや、”夜の種族”である語り部ズールムッドの物語も予測不能。

 ああ、読書の愉しみを最大限に堪能させてもらったわ…。
 数日は余韻に浸りっぱなしだった。


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 5

下山事件―最後の証言

著者 : 柴田 哲孝

出版社:祥伝社

発売日:2005-07

評価 :

完了日 :

 かなりおもしろかった。
 なんというか、さすが関係者の孫。ずるい気もするけど(笑)。後出しじゃんけんぽいとこもなきにしもあらず。

 けれど、最初は関係者の孫というだけが強みなんだと思っていたら、轢死現場に残っていた血の道についての洞察や、事件を思い切りマクロな視点から見る考察など、おおっと刮目する部分がたくさん。
 結局下山総裁がナゼ殺されたか、という核心部分においても、きっと松本清張説(by日本の黒い霧)の肉付けに終わるんだろうと思ったらまるっきり松本説をひっくり返し、かつ説得力のあるものが。
 今までのところ真相に一番近いところにきているのがこの本かもしれない。

 けれど、肝心の所はなんでぼかしてるのか。書けない理由があるのか。
 結局あなたも真実は墓場に持っていってしまうのか…。
 それがすごく不満。

 それからびっくり仰天なのは、森達也証言ねつ造疑惑が浮上したこと。読み始めからどうも、最初の頃は一緒に取材していたはずの森達也に対しての著者の不信感を感じるというか、そいういうところはあった。森達也と一緒に取材し、かつ後から森達也を出し抜いて名を上げようとした(?)諸永裕司に対しては好意的なのに、なぜ森著『下山事件 』は無視するのかなーと(ちなみに森著『下山事件』も諸永氏『葬られた夏―追跡・下山事件 』も取材のもとになったのは「彼」として描かれているこの本の著者・柴田氏の親族の証言)。
 そうしたら、森著作には証言ねつ造部分があると爆弾発言。

 うーん、こういうのは結局当事者じゃないとわからないけれど。でもどうもこの”平成三部作”には下山事件そのものに対する部分よりも取材活動中のお互いのトラブルやドロドロ、みたいなものが多い気がする(諸永著作は未読だけど)。森達也なんて思いっきり下山事件より「ボクは諸永に裏切られました」という部分がメイン?みたいになっているし。

 もしも証言ねつ造疑惑が本当のことだとしたら、これまでの森氏にたいするイメージも少し変わってしまうなあ。センチメンタルに過ぎる部分こそあるけれど、正直な人だと思っていたのに。それってポーズだってことなのか?
 まあでも、結局「言った、言わない」の水掛け論で、どちらの言い分も鵜呑みにはできないけれど。

 ただ、森氏の作品に証言ねつ造があったとしてもそうでなくても、また、どちらの作品がより真相に迫っていたとしても、正直に言えばわたしの胸に響いたのは森達也の『下山事件』だった。ノンフィクションとしてのできはこちらの方が上だし、証言ねつ造は本当にあったとしたら許されないことだと思うのだけれど。「関係者の孫が書いた」というのはセンセーショナルだ。けれどそれだけに、その本はごく個人的なものになってしまう可能性を含んでいる。

 森達也の『下山事件』を読んだとき、わたしは確かに下山事件を自分の身に引き寄せて考えることができたのだ。けれどこの本を読んだとき、その真相(?)に驚愕はしたけれど、その事件はわたしにとって「関係者の孫にとっての下山事件」でしかなかった。
 渾身の作品なだけに、それがとても残念だった。


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 1

アラビアン・ナイトメア (文学の冒険シリーズ)

著者 : ロバート・アーウィン,若島 正

出版社:国書刊行会

発売日:1999-09

評価 :

完了日 :

 「アラビアの悪夢って何ですか?」
 「それはただの噂で、というのもその病気をいちばんよく知っている人間はそれがどんな病気か語れないからだが、ともかくはっきりしない不思議な話で、病気か呪いかわからない。アラビアの悪夢は、猥褻かつ奇怪で、単調かつ残酷だ。この悪夢病にかかると、悪夢が毎晩訪れても、朝になるとその夢を忘れてしまうのが症状のひとつでね。意識しないうちに無限の苦痛を経験することになる。毎夜毎夜終わりのない苦しみが続き、朝になると患者は起きて何事もなかったかのように日常生活をこなし、一日の労働を終えるとさあ今夜もぐっすり眠ろうと考える。純粋な苦痛だな。…」

 15世紀、カイロ。巡礼者としてこの町を訪れたバリアンには秘密の任務があった。しかしカイロで思わぬ足止めを喰ううちに、カイロに一緒に入った一行のひとり、画家のジャンクリストフォロは1冊の本を残して連行され、その本を手に入れたバリアンは毎夜悪夢に悩まされるようになる。 彼の病気を治すためといって、同じく一行のひとりであるヴェインは彼を猫の父のもとに連れて行く。しかし不安に感じたバリアンは彼らから逃れ、町をさまよっているうちに語り部のヨルと出会う…。

 と、あらすじを書いてみてもこの物語を説明することはできない。どこまでが夢なのか。どこまでが物語なのか。物語が入り組んだ入れ子になっていて、読んでいるうちに自分がどこにいるのかわからなくなってくる。はっと気づくと自分が口から鼻から血を流していそうで怖い(笑)。

 幻想的でエロティックで奇妙で不気味な物語。

 まさに悪夢をそのまま本にしたようなこの味わいはほかではちょっと味わえない。嫌いな人は受け付けないかもしれないけれど、好きな人にはたまらないめくるめく悪夢の世界を感じることができるはず。

 とにかく、一度手に取ってみることをオススメ!!


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1.LIN (2006/08/04)
ちょろいもさん、こんばんは~♪
ちょろいもさんの記事で、ここのことを知り、
早速、登録してみました。
『アラビアン・ナイトメア』読みたいんですよー。
『アラビアの夜の種族』とどっちがオススメですか?
ロバート・アーウィンは『必携アラビアン・ナイト』って本を
書いていてそれがすごくほしいんですけど、
どうしても見つかりません(しくしく)
2.ちょろいも (2006/08/05)
>LINさん

おお、LINさんもお仲間ですね~(はぁと)。
ナイトメアと夜の種族は、どっちがオススメ…というのはかなり難しいです。でもLINさんは確か夜の種族の文体の軽さがダメって言ってませんでしたっけ…? ナイトメアにはそんなことはないと思うので、もしかしたらそちらの方がLINさんのお気に召すかもしれませんわ~。
必携アラビアン・ナイトは素晴らしいらしいですね。
わたしも機会があったら読んでみたいです。
 

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 2

ぬかるんでから

著者 : 佐藤 哲也

出版社:文藝春秋

発売日:2001-05

評価 :

完了日 :

もう何を言えばいいやら…

『イラハイ』でしびれ、『沢蟹まけると意志の力』でもうダメかと思うほどヤられてしまったわたしなんだけれど、この作品で徹底的に打ちのめされた。

佐藤哲也、すごすぎる。

今回は初めての短篇集だったんだけれど、表題作である冒頭の「ぬかるんでから」でもうシビれた。続く13篇すべての作品がわたしを内部から崩壊させた。

短篇なだけにあのしつこすぎるくらいのしつこさはかなり薄まっているのだけれど、その分読みやすさは上昇。そして、こちらの方が他の長編よりもストーリー性が高い(笑)。

誰にでもお勧めできる本じゃないかもしれない。
でもわたしは大好きだ!
佐藤哲也の本に出会うことができて、かつ、佐藤哲也の作品に選ばれることができて、わたしは本当に幸せだ。


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 14

パリ左岸のピアノ工房 (新潮クレスト・ブックス)

著者 : T.E. カーハート

出版社:新潮社

発売日:2001-11

評価 :

完了日 :

 いやー…。
 なんでクレストブックスはこんなにいい仕事ばっかりするんだ!!

 小説ではなくてノンフィクションなんだけれど、上質の小説のような味わいのある一冊。 パリの閉鎖的な、けれど一度入り込むことさえ出来ればとても居心地のよい独特のコミュニティ。

 ピアノの魅力に惹かれたひとりのアメリカ人が小さなピアノ工房に集まるコミュニティに招き入れられ、やがてピアノの深く多彩な魅力にますます取りつかれ、人間関係の滋味を味わい、音楽に彩られる人生に足を踏み入れる。

 ああ、いいなーこんなピアノ工房。

 思わずうちのアップライトを弾いてみたくなった。
 そして、ベートーベンのピアノソナタを聴きたくなってCDラックを探すものの、ない。 あ、これもいいわ!とセロニアス・モンクのCDを引っ張り出してくる。 ジャズなんて滅多に聴かないんだけど(笑)。 とにかく、ピアノ曲ならなんでもいいから聴きたい気分になった。

 綿密に調べて緻密に書き上げるタイプのノンフィクションじゃなくて、けれどピアノの魅力、パリの魅力を限りなく引き出している一冊。

 きっと素敵な時間が過ごせること請け合い。


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4.ちょろいも (2006/09/16)
>ペネロペイアさん

ぜひ、読んだら感想を教えてくださいね。
気に入ってくださるといいんですが。
5.anokeno (2007/06/10)
私も読んでみたくなりました ありがとう

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 7

ある秘密 (新潮クレスト・ブックス)

著者 : フィリップ グランベール

出版社:新潮社

発売日:2005-11

評価 :

完了日 :

 「ぼく」は生まれつきひ弱な少年だった。間に戦争は挟まったものの、難を逃れ幸せに暮らしてきた両親の間の一粒種で、両親の愛を一身に受けて育ったはずなのに、「ぼく」は不安で、ある日屋根裏部屋で小犬のぬいぐるみを見つけたのをきっかけに、心の中に「兄さん」を作り出した。以来「兄さん」の影に隠れるように暮らしてきた「ぼく」に、やがて「兄さん」は重荷になってくる。そして15歳の誕生日を迎えた翌日、「ぼく」はある秘密を知ったのだった…。

 本当に価値のある、いい作品に出会うと言葉を失う。
 けして長くはない物語に、詰まっているのは本当に純粋で美しい結晶体。無駄な文章はどこにもない。

 静かに、少しずつ、心の中に流れ込むような物語。
 悲しく、つらい秘密を知って、それを抱えて、昇華させてゆく「ぼく」。読み進むうちにしんしんと胸の中に何かが降り積もっていくようだ。

 フランスで「高校生が選ぶゴングール賞」という、高校生が選ぶ賞を取った作品らしいのだけれど、こういう作品を選びうるフランスの高校生の質の高さに驚きと羨望を感じた。

 ちなみにこれは作者の自伝的小説と言っていいみたい。訳者あとがきで、作者グランベールへのインタビューの内容が触れられている。

 ”…両親の物語を書こうと思いついた。…夢中で書き上げた。だがそれから苦労が待っていた。文章が感情に流され、あまりに思い入れたっぷりであることに気がついたのだ。…「残ったのは骨の部分だけでした。結局、それだけが必要だったのです」。”

 ああ、これこそが、この作品を明確に「手記」ではなく「物語」にしている理由なのだ。

 とにかく胸に染みる一冊。巡り会えた幸せに感謝する一冊。


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この感想へのコメント

2.ちょろいも (2006/08/02)
>しらっちさん

なんというか、押しつけではなくすごく色々なことを考えさせられました。本当に「逸品」ですよね~。
3.anokeno (2007/06/10)
高校生のレベル高いですね

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