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「老いじたく」成年後見制度と遺言 (文春新書)

著者 : 中山 二基子

出版社:文藝春秋

発売日:2005-03

評価 :

完了日 :

認知症を患う高齢者に対し、高額な羽布団を売りつけたり、無駄なリフォーム工事を押し付ける悪質商法が後を絶ちません。そんな中、注目を集めているのが、2000年4月に介護保険制度とともに導入された「成年後見制度」です。まだ体力・気力ともしっかりとしているうちに、財産管理を信頼できる後見人に委ねておけば、万一、認知症になって詐欺被害に遭っても、契約破棄などの手段を講じることが可能となります(この場合は、成年後見制度の中の「任意後見制度」を使うことになります)。

すでに認知症等を患い、判断能力が不十分であるときは「法定後見制度」を利用することになります。ですが本書によれば、近年では〈「任意後見制度を使って老後に備えたい」〉という相談が増えているのだそうです。実際に資料をひも解けば、平成14年4月からの一年間における任意後見契約締結の登記合計1,801件に対し、平成17年4月から平成18年3月までのそれは4,904件に上っています(*1)。〈“自分の財産や年金を使って、自分が望む暮らしを生きていく”〉ことが〈老いじたく〉であると、この道のエキスパートである著者は説きます。それを実現する手立てのひとつが、「成年後見制度」というわけです。

しかしながら、制度を利用したからといって必ずしも安心というわけでもないようです。先ごろ、成年後見人である弟が、知的障害を持つ兄の財産を着服して、自身の借金の返済に充てていたという事件が明るみに出ました。一般に、後見人に対しては、〈その事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります(*2)〉ということですが、そのチェック機能は万全とはいえないようです。

とはいえ、高齢化社会が進む一方で「子どもたちとは別に暮らす」と考える人が増えているご時世です(*3)。今後益々、同制度の活用が重視されていくことは間違いないでしょう。〈誰もが成年後見制度を使えるようになる〉には、〈専門相談を充実させる〉にかぎると本書は説きます。同時に、〈プロの成年後見人の育成〉も肝要であると説きます。

現実には〈成年後見人の約八三パーセントは家族・親族などが選任〉されているということですが、先の事件の例を考えると、“信頼の置けるプロ”に任せるという手段も一考に値するといえそうです。老親の介護や遺産を巡るトラブルは、とかく家族間の確執を招きやすいものです。成年後見制度の存在が、図らずも現代家族の抱える問題を浮き彫りにし、〈新しい親子関係〉の在りかたを示唆しているように思えます。(中島 駆)

(*1)「成年後見関係事件の概況~平成17年4月から平成18年3月~」(最高裁判所事務総局家庭局)
http://www.courts.go.jp/about/siryo/saiban/sonota/pdf/seinen06.pdf

(*2)「自分のために-みんなの安心 成年後見制度」(法務省民事局)参照
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji95.html

(*3)「老後は誰とどのように暮らすのがよいか」(図表)
http://www8.cao.go.jp/survey/h17/h17-life/images/z58.gif


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ロボットと暮らす 家庭用ロボット最前線 [ソフトバンク新書]

著者 : 大和 信夫

出版社:ソフトバンククリエイティブ

発売日:2006-05-15

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昨年の「愛・地球博」において、そのリアルな造形で注目を集めた接客用ロボット「アクトロイド」のバージョンアップ版(?)が登場したようです。「アクトロイド DER2」というのがそれで、〈前作に比べ脚が細くなり、表情もより豊かに表現できる〉のだそうです。こちら(http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/10/06/201.html)で動画を見ることができますが、動きに多少のぎこちなさは残るものの、その仕種や表情は本物の人間と見紛うばかりです。彼女の存在は、私たちにいやがうえにも、ロボットとともに過ごす未来を想像させずにはいられません。

では、家庭内にアトムやアクトロイドのようなロボットたちがやって来る日はいつになるのでしょうか? そんな疑問に答えるのが、本書『ロボットと暮らす』です。著者自身は研究者というわけではなく、ロボット関連技術を活かした商品やサービスを提供するベンチャー企業家であり、ロボカップというロボットによるサッカー大会で2連覇を成し遂げたチームの監督を務める人物です。とかく、類書の多くは“ロボット先進国”日本の技術自慢や、SFアニメを彷彿とさせるような稀有壮大なものに陥りがちです。そんな中にあって、より現実的な視点から、家庭用ロボットのあるべき姿を追求する本書の姿勢には好感が持てます。

本書の射程はあくまで〈五年、十年後の近い未来のロボットとの暮らしを思い描くこと〉です。そうなると、アトムはおろか、精巧に作られたアクロイドさえも、人間とともに“家庭で暮らす”までに至っていないことは明らかです。面白いことにロボットには明確な定義がないのだそうです。逆に言えば、各省庁によって幅広い解釈があり、例えば経産省では〈センサーで情報を収集し、それに基づいて判断し、何かしら動作をするもの〉となります。そうなると鉄人28号はロボットでなく、最新型の電子レンジはロボット、という私たちの先入観とはいささか異なる結果となってしまいます。

ですが現実的に考えれば、私たちの暮らしに必要なのが鉄人28号ではないことは明らかです。さらに言えば、アクトロイドのような人型である必要性もありません。そう考えれば、〈ロボットの外観は、人に近づけることを目標にするのではなく、人に愛されることを目指すべき〉〈ロボットはオールラウンドなインターフェースである。つまり、何にでもつながる可能性をもっていることが一番の長所である〉、そもそも〈歩く必要はあるのか〉とする著者の主張も納得がいきます。

著者の描く、五年、十年後の家庭用ロボットの姿は、かなりユニークです(詳細はぜひ本書にてご確認ください)。〈まず人が手に入れるのは、アトムのパワーでなく、頭脳である〉という本書の結論は、ロボット=巨大、人型、力持ち……といった既存のイメージをことごとく消し去るものです。もちろん遥か未来にはそうしたロボットが街を闊歩しているのかもしれませんし、その可能性を著者は否定しているわけではありません。経産省の試算(*)によれば、ロボットの国内市場見込みは〈現状の0.5 兆円から、2010 年には約1.8 兆円、2025 年には約6.2 兆円となると予想される〉のだそうです。近い未来、思いもよらない形のロボットが私たちの生活をサポートしてくれているのかもしれません。(中島 駆)

(*)「ロボット政策研究会 報告書」(経産省ロボット政策研究会/2006年5月)
http://www.meti.go.jp/press/20060516002/robot-houkokusho-set.pdf


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アメリカの宇宙戦略 (岩波新書)

著者 : 明石 和康

出版社:岩波書店

発売日:2006-06

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スペースシャトル「ディスカバリー」と「アトランティス」の打ち上げ成功、それにともなう国際宇宙ステーション(ISS)の建設再開。無人火星探査車「オポチュニティー」の巨大クレーターへの接近、そして次世代シャトル「オリオン」の発表――スペースシャトル「コロンビア」の空中分解事故から3年あまりを経て、アメリカの宇宙開発事業がにわかに活気づいています。冷戦終結と同時に、ソ連というライバルと目的を失ったアメリカの宇宙開発事業が沈滞したことは周知の通りですが、ここへ来て、再び宇宙に目を向ける大国の意図はどこにあるのでしょうか?

そんな疑問に答えてくれそうなのが本書です。著者は時事通信社外信部長を務める人物で、アメリカの政治・外交の裏舞台を見つめ続けてきた人物です。〈軍事専門記者でも、科学専門記者でもない〉とは本人の弁ですが、それゆえに、たんなる夢物語とは縁遠い政治と宇宙との極めてキナ臭い関係を浮き彫りにしていると言えます。国の威信をかけた一大プロジェクトであると同時に、軍事政策とも分かちがたく結びついている宇宙開発事業――〈科学面での宇宙開発と軍事面でのミサイル防衛を同時並行で推進しているのは、ブッシュ政権を特徴づける重要な要素〉であると著者は説きます。

日本ではあまり知られていない気がしますが、ブッシュ大統領は2004年に〈今後の宇宙戦略の柱となる三つの大きな目標〉を明らかにしています。ひとつ目は〈ISSを二〇一〇年までに完成〉させること、ふたつ目が〈シャトルの後継機として乗員専用探査船を二〇〇八年までに開発し、遅くとも二〇一四年までに最初の飛行実験を行う〉こと。最後に、その次世代シャトルによる〈長期の滞在を目標〉とした月面探査です。こちらは2020年に最大4人を月面に送ることを目標としていますが、その先に火星への有人飛行があることは明らかです。

大統領選を前にした時点でのブッシュ大統領のこの発言は、〈政治臭さ〉を感じさせるものではあります。〈長期戦略と言いながら、実体は極めて近視眼的ではないのか〉という著者の疑問も当然でしょう。とは言うものの、本書で識者が語るように、ブッシュ大統領の計画が、目標を失いつつあったNASAに対して〈大胆なビジョン〉を与えることにはなったようです。昨今の相次ぐニュースは、その表れと言えるでしょう。

一方で、ミサイル防衛戦略の一環としての宇宙開発に関しても、本書ではページが割かれています。実際にミサイル防衛配備の進むアラスカに赴き、関係者にインタビューを敢行している点などは、ジャーナリストたる著者の面目躍如たるところでしょう。その他、中国の台頭、日本との関係など、宇宙開発がいかに政治の道具となっているかがよく理解できます。北朝鮮の核実験が巷間を賑わしていますが、「宇宙戦争」などという最悪の事態は、映画やアニメの中だけの話にしてもらいたいものです。(中島 駆)


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事故と心理―なぜ事故に好かれてしまうのか (中公新書)

著者 : 吉田 信彌

出版社:中央公論新社

発売日:2006-08

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福岡市で幼児3人が犠牲となった事故をきっかけに、飲酒運転撲滅の気運が高まりを見せています。警察庁の資料(*1)をひも解けば、たしかにここ数年の交通事故による死亡者数は減少傾向にあります。今年のデータ(*2)を見ても、上半期での死亡者数(事故発生から24時間以内に死亡した人数)は2,922名。これは〈昭和30年以来、51年振りに三千人を下回った〉というほどの低さです。法令違反別では、スピード違反による死亡事故も年齢を問わず減じています。

ところが飲酒運転による死亡事故に目を転じてみると、平成16年から増加傾向にあることがわかります。飲酒運転による死亡事故件数は、平成13年から急激に減少し始めています。同年は「危険運転致死傷罪」が新設された年でもありますので、法による歯止めが掛かったことの証左といえるかもしれません。近年になって増加に転じたのは、その効果が薄れてきたということでしょうか? 実際に、福岡の事故のあとで実施された「秋の交通安全運動」では死亡事故件数は減ったものの(*3)、摘発件数は現職警察官3人を含む3,856件にも上ったとされます(*4)。〈前年同期比で約24%減〉とのことですが、運転者の意識の低さを嘆かずにはいられません。

飲酒運転などの悪質運転にかかわらず、交通事故の加害者・被害者となる可能性は誰もが持っています。減少傾向にあるとはいえ、毎年7千人あまりの命が犠牲となっていることは事実です。では、未然に事故を防ぐことは不可能なのでしょうか? あるいは、事故を引き起こしやすい性格や行動というものは存在するのでしょうか? そうした事故と人間行動との関わりを、客観的なデータを駆使しながら、心理学の手法を用いて検証したものが本書です。〈人間の言行不一致ぶり、合理性が徹底しないさま、そして行動にいつのまにか偏った奇妙な癖が生じる〉ことが明らかにされます。

本書によれば、飲酒運転の防止策として〈決定打ではないが、数値にでる実績を残しているのは罰則の強化であった〉ということです。外国に比すれば、日本は〈成績優良国家〉ということですが、その要因を著者は〈日本では大きな事故が起きるとそれにたいし、なんらかの反省と運動が生じ、官民あげての変化と対処をもとめる傾向が外国にくらべれば強いのかもしれない〉と推測します。たしかに福岡の事故を機に、〈反省と運動〉が生じていることは事実です。飲酒運転による処分の厳罰化を決定した自治体もあれば、来店客のキーを預かった上で、帰宅時に運転代行サービスの利用を促す飲食店もあります。

ですが先述の通り、自覚の低い運転者は後を絶ちません。〈安全の動機は高いが、動機を実現する実行力、スキルが不十分〉であるとも著者は指摘します。その実行力やスキルが、被害者ばかりではなく、加害者をも救うことになることは、肝に銘じる必要があるのではないでしょうか。(中島 駆)

(*1)「過去10年間(平成8年~平成17年)の死者数の推移」(警察庁交通局)
http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu1/shisha.htm

(*2)「平成18年上半期の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締状況について」(警察庁交通局)
http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu33/20060727.pdf

(*3)「平成18年秋の全国交通安全運動期間中の交通事故発生状況」(警察庁交通局/9月21日~9月30日)
http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu36/20061004.pdf

(*4)http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/21974/参照


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