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カーシーさんの読書ノート

故きを温ねて
私のノートは重複も多いし、あんま役に立ってないんですが(汗、今「ホームズ」とか古いものを読んでおり、今後、カーやクイーンも読んでいくことになるので、その辺のモノを入れていこうかと。
あと、「ソードワールド」などの短編は「ホームズ」などと比べると、最近の部類に入ってしまうのですが、一昔前のものではあるので、それくらいのものも独断と偏見で入れていこうかと。
もとい、すでに旬が過ぎ、現在見向きもされてない可能性があるもので、しかし今もってなお、俄然注目すべきものをチョイスして入れていく所存。※娯楽限定で!
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 4

シャーロック・ホームズの事件簿 (新潮文庫)

著者 : コナン・ドイル,延原 謙

出版社:新潮社

発売日:1953-10

評価 :

完了日 : 2008年12月25日

・高名な依頼人
「ボール箱」にも、いつものホームズ紙芝居的に、
飲み込めないものがあってビビったけど、
この「高名な依頼人」にも、ある種の
生っぽい怖さを覚えてワクワクした♪

メルヴィル嬢というお嬢様が、実は非常にワルな、
グルーナー男爵というヤツの口車に乗せられ、
そいつと婚約することになるんだけど、
それじゃ困るってんで、恋は盲目になってるお嬢様の目を
さまさせてやってくれないか、という依頼話。

何が怖いって、グルーナー男爵は催眠術を使うのか、
まぁ、手段はともかく、相手をマインドコントロールして
どんな横槍も、すべて自分たちを別れさせるための
讒言に見えるよう、色眼鏡を仕掛けれるところが怖い!

いくらホームズが実際の被害者をつれてきて、
目の前で証言させても、聞く耳をもたないんだから。

なに言っても、「ずいぶん我慢してお話を
うかがっておりましたけれど、
私の気持ちははじめに申しあげておきました通り、
少しも変わりございません」だもん。

打つ手があるのか心配になったし、
ある意味最強の敵だと思った。

男爵の賢いところは、昔、悪いことをしてきたことを
お嬢様に告白していること。
全部じゃないだろうけどね。

それだって、
「ああ、自分には全てを打ち明けてくれて
すっかり生まれ変わっているんだわ」
って思わすための手口さ。

けど、お嬢様にかかると、
「せっかく改心して懺悔してやまない人を
未だに悪く言って貶めるなんて絶対に許せない。
人間は変わりえる、ということを信じられない、
可哀想な人たちだわ」

「グルーナーは確かに昔悪かった。
でも、今をその分、まっとうに生きようとしている。
そして、私を愛してくれている。ああ、グルーナー。
誰があなたを貶めても私だけは信じていてよ」ってな具合?

ホームズたち偉いよ!

・白面の兵士
負傷で戦地から退き、それがもとで
離れ離れになった戦友が、音信不通になっている

家を訪ねてみても、諸国漫遊の旅に出たとかほざいて、
ラチがあかない。

家を探ってみると、病的に顔面蒼白になった友らしき姿が!?

すけきよか(笑

これ、ホームズ視点で書かれてる。
読者サービスかな?って、延原さんは書いてたけど、
これは自分が飽きないように、工夫したんじゃないかなぁ。

実際に、友人が見つかったのかどうか?
そして白面男の謎は、ご一読あれ!

・マザリンの宝石
十万ポンドのマザリンの宝石を盗んだ犯人が、
直接アパートに乗り込んでくる。
空き家の事件のトリックを少しツイストさせて、
敵を油断させ、まんまとごっつぁんです。
三人称で書かれた滑稽な一話。

・三破風館
《三破風館》を中身まるごと全部合わせて、
高値で買うという男があらわれて、
疑念に思ったメーバリー夫人が
ホームズに調査を依頼。

裏には、さる金持ち女のスキャンダル隠しの陰謀が?


・吸血鬼
ワトスンの旧友の再婚相手が、
旧友と前妻との間にできた十五才の息子に
理由もなく打擲を加え、
自身の赤ん坊から血を吸っているところを目撃する!?
旧友は妻が吸血鬼になってしまったのかと疑うが。

これは途中で、内容を見抜けて気持ちよかった!

・三人ガリデブ
ガリデブ3人集めたら、一人当たり五百万ドルの
遺産を与えてもいいという遺言!?
そんなバカな。
「赤髪」の亜種だとすぐわかった。

・ソア橋
橋のたもとに、頭部に銃弾を受けた女の死体が。
金山王ギブスンの妻だ。
現場には凶器も、目撃者もいない。
捜査上、女家庭教師ダンバー嬢が容疑者として
逮捕されるが…。

これは、切なかった。
奥さんそこまでやるかってなもん。
ダンバーは、ギブスンの舵までとろうとしてて
偉い奴だった。

・這う男
高名な生理学者プレスベリー教授に異変が?
教授は最近、親子ほども歳の離れた
アリス嬢と婚約した。

彼女は非の打ちどころのない麗人。
彼女に夢中な教授だが、
問題は年齢の差だった…。

そんなある日、
教授はまるで人が変わったかのように、
深夜に床を這って屋敷内を徘徊するのだという!
いったい教授に何が起こったのか?

面白い! 這う教授が不気味!
頑張る気持ちもわかるけどね。

・獅子の鬣
これは、赤いミミズばれができて死んだことで、
最初から犯人が予想ついた(海育ちだからさ)。
あとはミスリードの情報をどう配置するかだけ。
ホームズ視点もの。

・覆面の下宿人
メリロウ夫人の下宿に、七年前に部屋を借りて以来、
ヴェールで顔を隠したまま過ごす不思議な女性がいた。
一瞬かいまみた顔は、醜く無残に切り裂かれていたという。

その女性が健康を害し、
もう長くない感じになったところで、
死ぬ前に告白をしたいと願いをもらす。

ホームズはロンダー夫人という名前と、
告白を聞き、当時、名の知れた猛獣使いだった
ロンダーとその妻が、飼っていたライオンに
襲われたという事件を思い出す。

そのロンダー夫人が、告白したこととは?

これはちょっと悲しい告白。
ある人が死んだからもう言える告白。
そして、死を思いとどまるラスト、好きだな。


この感想へのコメント

1.Tetchy (2008/12/25)
実質最後の短編集になるんだったかな?
「ソア橋」は昔、推理クイズ本でよく紹介されていたほど有名なトリックで、ドイルの最後の根性を見た気がしました。
「覆面の下宿人」はいいですね。こういう話に私も弱いです。
ところで
>すけきよか(笑
には笑わせていただきました(`□´)
2.カーシー (2008/12/26)
>Tetchyさん
いつもコメント、ありがとうございます♪

>「ソア橋」は、推理クイズ本でよく紹介されていた有名なトリック

そうなんですか! ははぁ、確かにトリック自体にフックも感じました。

>すけきよ
でへへ、なんだか真っ先に浮かんだもので。

「白面の兵士」は、「黄色い顔」の亜種なのかなぁとも
思いましたね。
身内の隠し事っていうククリと、異様な顔色の人物をかくまっているというククリでかな?
 

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 3

シャーロック・ホームズの叡智 (新潮文庫)

著者 : コナン・ドイル,延原 謙

出版社:新潮社

発売日:1955-09

評価 :

完了日 : 2008年12月25日

ほかの短編は、本当は入るはずだった各巻に、
載せてきたので、割愛して、
最後の2編について書いとく。

・ショスコム荘
借金で首の回らなくなった
馬主のサー・ロバート・ノーバートンは、
今度のダービーで
なんとしても勝利を収めねばならなかった。

もしダービーで負けた場合、
全財産を差し押さえられてしまうからだ。
というか、現状、
妹の財で食わしてもらっている身分なのだ。

しかし今回、金をかき集めて、
勝てばすべて穏便におさまる。
が、そんなとき、ノーバートンは、
夜な夜な地下の納骨堂で誰かとコソコソ密会したり、
仲のよかったはずの妹を遠ざけたり、
異様な振る舞いをするようになる。

調教師のジョン・メースンは、
借財のプレッシャーで、
主が発狂したのではないかと不安になり、
ホームズに調査を依頼するのだが……。


真相究明中に、骨がキーになってていい! 
今BONES見てるし、雰囲気上々!

ちょっと違うけど、
構造的には「椈屋敷」の匂いがする。

つまり、○はすでに○○しているんだけど、
それを隠しているんだね。
じゃないと、元手もくそもなくなってしまうから。
※椈屋敷の場合、○は、まだ○きているけど、
閉じ込めておいて、○○をやとって騙してたんだっけね。


・隠居絵具屋
アンバリーという老人が、
美術用材料製造会社で財産が出来たのをきっかけに
六十一で事業から手を引き、
二十も若い妻を得て楽隠居の身に浴した。

しかし、その暮らしは二年しか続かず、
妻は愛人と共に資産の大部分を持ち逃げし、
そのまま行方をくらましてしまったという。

平凡な事件っぽかったが、
他の事件で手が塞がっているホームズは、
ワトスンに代役を頼んで調べさせる。
すると・・・。

構造的には、
ショスコム荘のバリエーションといえなくもない。
もうひとつの捜査の線がしかれているから、
軽く複雑にしてるけど、フタをあけてみると、
老人が二人とも○○していたんだよね。

ホームズのひっかけ作戦で、
居留守中に調べてみると、
金庫がガス室に!? それがすごいわ。

まぁ、大好きなワトスンが活躍するし、
まずまずな一品かと。

叡智では、「技師の親指」が好きだったなぁ。

うう、もう7:00になる!
ありえないほど仕事ある日なのに~(泣
ほとんど寝れないけど、俺、ガンバ!

---
追記:
やっぱり結局、大遅刻。本当に首だな、こりゃ;;

しかし、ホームズ月間はこれにて、幕。
いやぁ、楽しませてもらったなぁ。
勉強にもなったし。
構図は単純なのに、
話す順序(プロットといってもいい)が
うまいから、ついつい引き込まれる。

それに、ワトスンとホームズの
コンビの造形もほっこりとしてよかった。
なにより、そこかしこに感じる、
ユーモアがなんとも心地よかった。
紙芝居みたいに感じる古めかしさも乙。

そういえば、延原さんもあとがきで
ドイルは、話しがうまいみたいなことを書いてたから、
私が指摘するまでもなく、
やっぱりドイルがすごいことは確かなよう。

実際、ここまで生き残っていて、
ファンも多いんだから、
それなりの理由があってしかるべきだよね。

いやはや、
ありがとう、ホームズ、ありがとう、ワトスン!
おかげさんで、いい血と肉になりやした♪

※「話す順序」というのは、たとえば、
「ホームズさん! 先生は狂ってしまわれたんでしょうか!?」
とか冒頭付近でいきなり、
インパクトを持たせておいて、
「まぁまぁ、それじゃなんのことだか分かりませんよ。
話の「あとさき」があべこべになってしまうのは、
ここいるワトスンくんの専売特許はずなんですがね」
とか、なんとかユーモアで受けて、
そこから徐々に状況をひもとかせていって引っ張りつつ、
そしてまた次に、
「ああ、先生は夜な夜な、あんな薄気味悪い
納骨堂に降りていって、誰とあってるんでしょうなぁ」
「おや、ますます面白くなってきましたね。
一体どういうことです?」
と次なる謎要素をもうけて、ずんずん進めていく感じ?

サラっと流れるように、しかし、
力強いサスペンスをもって読ませていくあの感じから、
とても話のうまいおじさんだなぁと。
どのパターンでも、けっこううまく乗せてくれる。

特にワトスン視点のもの導入部は、
ほとんどすべて、神のように素敵だと思う!


この感想へのコメント

3.Tetchy (2008/12/25)
この短編集は各集の未収録作品を集めたものですが、そのせいで(?)クオリティの高いものになってますよね。
「話す順序」について、興味深く読ませていただきました。
とどのつまり、ミステリって語り口が全てだと思います。誰の視点で描くかで、普通の事が魅力的な謎に映ったりするわけで・・・。
4.カーシー (2008/12/26)
>Tetchyさん
どもども。ほんとは、ちゃんと収めてほしかったですけど、文庫に収まらなかったみたいですね(汗

>話す順序
ミステリは語り口がすべて。確かに視点によって、普通のことなのに魅力的にみえますものね。

ホームズでいつも思ってたのは、とにかく隠してる単純な事実があって、あとはそれから逆算して、どこからどんな風にたどり着かせるかっていう道筋がうまいなぁと。

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 5

シャーロック・ホームズ最後の挨拶 (新潮文庫)

著者 : コナン・ドイル,延原 謙

出版社:新潮社

発売日:1955-04

評価 :

完了日 : 2008年12月10日

「帰還」より楽しめた。※修正&追記

・ウィステリア荘
冒頭、慌てて飛び込んでくる依頼人に殺人の疑い。
※一瞬ノーウッド系かと思った

ガルシアという外国人と、とあるパーティで出合って、
あっという間に親密になり、彼の家に泊まりに呼ばれたのだが、
行ってみると家はオンボロで、うまいと言ってた料理人の腕もイマイチ。
更に給仕をしてる男は不気味で場を暗くするし、
ホストからして接待に上の空という始末。

一体どういうことだ?と不満に思いつつ、
やれやれと用意された部屋のベッドで眠る依頼人。

朝起きてみると、館のどこを探しても誰もいない!
さてはイタズラかと、ガルシアの身辺を探り始めるが、
謎は深まるばかり。

そこでホームズに頼みにきたところ、刑事がきて、
ガルシアが殺されているという。
そのポケットにあったのが依頼人との手紙だ。

疑われる依頼人。
疑いを晴らすためにも正直に話し始めるが…。

読みどころとしては、地元警察のベインズ警部が、
ホームズと拮抗するほどの抜け目なさがあり、
競争に色味を添えているところ。

それから、グロテスクな雰囲気。
館から見つかる、猿か人間の頭のミイラ、
羽根つきのままバラバラにされた白い雄鶏、
バケツに溜められた血、山盛りの黒こげの骨等。

フタをあけてみると…だが(^^;

依頼人が何のために館に呼ばれたのかが、第一の基点?
怪奇風味あるので良い。

・ボール箱
読み返して大注目!
一度目は、「塩詰めにされた耳」という
ショッキングな道具立てばかり気にかけていたが、
ここには通常のホームズものにはない、
異質な怖さが横たわっていた。

人生がいかにあやふやで、抗いがたい流れをもって
私たちの背中に張り付いているか。

愛し合っていたはずの二人が、
第三者の悪意のさじ加減ひとつで、疑心暗鬼となっていき、
一旦そうなると元には戻らず、もがけばもがくほど心が離れ、破滅の道へと転がってゆく。

ユーモア紙芝居じゃない、生っぽい怖さがここに。

魔性の女がひとり。
目をつけた男は自分の姉妹を妻にしている。

男は一途。
つれなくされた魔性の女。
女は「あなたの夫が私に…」とか、
姉妹に讒言をする。

やがて、信頼し合っていた夫婦にヒビが…。

更に女は、友人のイケメンを夫婦に紹介し、
家族ぐるみの付き合いをさせていく。

不安から、酒におぼれていく旦那。
どうしようもなくイケメンに傾いていく妻の心


その時、歴史が動いた。

・赤い輪
屋敷に住まわせたが、姿を見せない謎の住人。

中味は、秘密結社の殺し屋がからんだ愛の○○行。

殺人が起こるがハッピー?

・ブルースパティントン設計書
ホームズ兄、マイクロフト再登場。すこぶる面白い!

マイクロフトは政府のあらゆる情報を統括する
窓口&情報バンク&処理回路になっていて、
各方面の情報はすべて彼の脳にインプットされる。
あまたの情報はそれぞれ瞬時に吟味され、
関連性などを踏まえた上で、精度の高い情報として、
適宜、政府にフィードバックされる。
これはもうSFだ!

そんなマイクロフトが、出張ってきた問題が、
イギリスの新型潜水艦の設計書が盗まれた件。
完成したら、どこの海軍も太刀打ちできまいというシロモノだから、
政府も躍起なわけ。

設計書部門の公務員が一人、線路上で死体となって発見され、
そのポケットには設計書の一部が残されていた。
しかし、大事な部分は抜き取られている。

この線路上におかれた死体に着目した捜査が読みどころだ!


・瀕死の探偵
ホームズが瀕死!?
「牡蠣は繁殖力が高い。どうして大西洋は牡蠣でうまらないのか?
宇宙は牡蠣で滅びるか?」などとほざいて、
頭もおかしくなっているようだし、
こんどばかりはと、私も思った。
まったく、ハドソン夫人を泣かせるなんて!

この伝染病を治せるのは、○○だけだから
そいつをうまく連れてきてくれ。
任されたワトスン君に事件の解決はかかっていた。

小気味よく堪能。ホっとした。

・フランシス・カーファクス姫の失踪
及第点;

ホームズが、「なにせ型が並外れて大きなものでして」
という棺職人の声を聞き逃すなんて、おかしいと思った。

・悪魔の足
ホームズが養生に出かけた土地で怪奇な事態が!
ある家で暮らしていた兄妹たちが、カードゲームの途中で、
何者か恐ろしい姿でも見たのか、二人の兄は
狂ったように、ゲラゲラ笑ったり、歌ったりして発狂状態で、
妹は腰をおろしたまま、顔や身体を恐怖にひきつらせて死んでいる。

一人、カードゲームを抜けて帰った弟が怪しいが、
なんとその弟も、その後すぐに妹と同じく、
恐怖に身体をひきつらせたまま亡くなる。
この二転する感じがいい。

・最後の挨拶
三人称の軽快なスパイもの。
養蜂と読書にあけくれていたはずのホームズが、
恐怖の谷のバーディ・エドワーズばりに活躍してた?

その締めくくりが本編のシーン。
ホームズが送り込んだのか、自然体の老婆マーサが
出番少ないのに存在感を感じる。スピンオフ希望?

追記:
飽きて三人称とかやってみた可能性も?


この感想へのコメント

20.カーシー (2008/12/11)
天才で、異常なくらい犯罪に対して熱い執着はあるが、何があっても芯はぶれず、どこか飄々としていて、客観性は常に失わず、いうなれば、ルパンやシティハンターやコブラたちに共通する、「ピンチのときにもどこか常にゆとりがある」感じ?を持っているのがホームズ。そのホームズの底知れない叡智とゆとり、それが物語の底で一本通ってるのが、あのなんとも言えないユーモアを支えている正体のひとつかも。
21.カーシー (2008/12/11)
普段、飄々としつつ、鋼鉄の意志を持ってぶれないホームズが、ちょろっとブレた瞬間、我々はグラっときてしまうのかも。
一人の女にあしらわれ、その人のことだけは「あの女(ひと)」と呼ぶようになったり、このはさんのいう、ワトスンに対する態度もひとつブレであり、モリアティとの対決で綴ったワトスンへのメモなんかも、普段けして見せない、鋼鉄の仮面の下の熱い奔流がみえたために、私はグワっときたのかも。

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 3

恐怖の谷 (新潮文庫)

著者 : コナン・ドイル,延原 謙

出版社:新潮社

発売日:1953-08

評価 :

完了日 : 2008年11月26日

※11/27修正
冒頭の暗号問題から、つかみはバッチリ。
「踊る人形」とは違う角度の推理だから新鮮だし。
解いた瞬間、ストン!っとドラマが劇的に展開を
始めるんだからたまらない。

しかし、その前に ややや! と思ったことがある。
ほぼ発表順で読んでいる私の中では、
モリアティ教授はもう死んでいるはずなのだが、
この「恐怖の谷」の時間軸の中では、
リアルタイムでまだ活動中なのである!

まぁ、モリアティが生きてることで、
「最後の事件」へと繋がっていく物語として
実にドキっとする作品にはなっているのだが(惑
※ワトスンは「最後の事件」でモリアティのこと知ってなきゃ!

さて、暗号を解いた矢先、それと符号した惨殺事件が発覚するわけだが、
ホームズらは、背後にモリアティの影を感じつつも、
事件現場へと急ぐ。

今回の被害者は、散弾銃を至近距離からあびて
顔がグチョグチョっていうんだから
不謹慎な話だがワクワクするじゃないか!

水堀をめぐらせ、橋をおろさねば行き来できない、
ある意味、警戒厳重な昔ながらの館での殺人。
どうやって入り、どうやって逃げたのか?
窓枠の血の痕跡。部屋から無くなった片方の鉄アレイ。
死体の腕の○と▲を合わせた怪しげな焼印、
傍に落ちていた「v.v.341」という謎のメモ、
そして、抜かれた結婚指輪に、いかにも
何かを隠しているっぽい被害者夫人と
被害者友人の男性。

第一部だけでも、オカズがいっぱいあって楽しいのなんのって。
フタをあけてみると、ノーウッド系? 
と拍子抜けする分もあるかもしれないけれど、
そこにいくまでの流れはしっかり引っ張りがきいてるし、
殺された男の背景は、第2部に引き継がれ、
それがたっぷり読ませるからたまらない。
※クライマックスで驚くぞ!

オチは、探偵の話が浮上してきた時に、ひょっとして?
と予想がついたのだけれど、それでも実際わかると
「キターーー!!」と嬉しくて、スカっとして、
けれど、
裏にいる本当の敵さんは甘くなくて、ゾゾ~っときて、
「ホ、ホームズさん! あんたが頼りだ、頼みますぜ!」という気持ちになる。
ま、「最後の事件」へ流れていくのを知ってるだけに
逆にぞくぞくするラストになっておるわけですな。
いや、これを読んでから、「最後の事件」読む方がいいのか?

第2部は、恐怖の谷に巣くう暗殺団の話。
短編集で大好きだった「オレンジの種五つ」。
あっけない結末で実に惜しい作品だった。
登場する秘密組織をもっと暴ききり、
彼らとのガチンコの勝負が読みたい!と思った。
「恐怖」では、違う組織だが、暗殺団組織の実態?
が描かれているので、その意味でも興味深く読めた。

もっとも面白く読めたのは、
なんといっても、“マクマード”という
暗殺団に新入りしたタフガイの快進撃ぷり。
向こう見ずで力強く、直情径行とおもいきや、
目端もきいて、機転もきく。

このマクマードが、人殺しなんぞ、なんとも思わなくなっている
獰猛な虎やライオンのごとく荒くれた暗殺団の中を
ズカズカ入り込んでいき、昇進していくのだ!

あん、素敵よ、マクマード! ハラハラしちゃう!
とまぁ、女でなくても、その逞しい心臓に惚れちまいそうなわけだが、
はてさて、そのマクマードがどんな活躍をするか、
そして、第一部の惨殺事件とどうからむのか?
それは、読んでからのお楽しみ。

※暗殺団といっても妙に人間臭い連中だった。怖さでいったら緋色の教団が↑か。
※延原さんがアメリカなまりを訳せないといって匙をなげていた。現代翻訳者たちは?

追記:
現代の問題に根ざしつつも、娯楽としても読ませてくれた
初野晴「1/2騎士」を堪能したあと、ホームズを手に取ると、
どうしても陳腐で色あせたものに感じられた。

が、比べるステージがそもそも間違っている!

なので初心に戻り、紙芝居を楽しむ境地になって、入り直した。
⇒現代の洗練された作品とは比べずに、
純粋に読み物として、次はどうなるのかを
子供みたいにワクワクして待つ。
この楽しみ方ができないときつい。

しかし、ホームズものの登場人物達がおりなす物語は、
推理ものとしては陳腐になっても、
ユーモア小説としては普遍的な魅力がある。
導入からオチまで持っていく語り口の旨さもあるし、
乱暴に言ってしまえば、ホームズ=古典落語か?
※落語よー知らんが;

新作落語のように、現在を生きる我々の息吹こそ
盛り込んだりはしてないが、
主人公の凸凹コンビをはじめ、個性豊かな面々が登場して交錯する綾には、
昔も今も変わらない市井の人々の滑稽さが息づいているのでは?

熊さんとハチ公が、「こりゃ驚いたね、どうしてわかったんだい?」「なに、タネをあかせば簡単なことさね」とか、丁々発止やりとして聞かせるホームズ落語があっても不思議じゃないし。

若手の流行芸やコントはすぐに廃れるが、
業や可笑しみすらホッコリ滲みだす、
そんな話芸の域に昇華・到達した漫才や落語には
何度聞いても廃れない、不朽の面白さがある。

ホームズがそれだ。


この感想へのコメント

10.このは (2008/11/26)
一人ホームズ祭中のカーシーさん、こんばんは☆
ホームズの日は、1月6日とするのが有力なようです。
(1854年1月6日が生年月日とのことから)
カーシーさんに遅れること2か月後ですが、来年の1月をホームズ月間にしたいと思います。
11.カーシー (2008/11/27)
>このはさん
あはは。祭り中のカーシーでございます。
「叡智」はほとんど、途中で読んできてますので、
私が残しているのは、「最後の挨拶」と「事件簿」ですね。
ホームズの日までに読み終わることを目標に頑張ります。
このはさんは、記念すべき1月から再読?スタートでございますね。
私は初読ですが、お先に失礼させて頂きました(^^;

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 5

シャーロック・ホームズの帰還 (新潮文庫)

著者 : コナン・ドイル,延原 謙

出版社:新潮社

発売日:1953-04

評価 :

完了日 : 2008年11月17日

ホームズ第三短編!
「帰還」は総じて小品の印象?
これだ!という高まりを感じるものが少ないかも。

・空家の冒険
ホームズが帰ってきてくれた!
それが嬉しいということに尽きる。
肝心のお話は、オマケみたいなもので、
主軸は滝から帰ってこれた言い訳話。

ただ、ファンにとっては
帰ってきてくれたことが嬉しくてね。
それでいて、振り子の振幅が左と右で同じくなるように、
「あの最後の事件で、あなたのメモを読んで、
しゃくりあげようとまでした感動を返せ!」
なんていうアンビバレンツな悔しさも湧いてきたり(^^;

事件そのものは本当にご挨拶程度。
だいたい、珍しい弾丸を使ってることが
証拠になっていくんだけど、
そんな珍しい弾丸使うやつは、事件のたび、
自分でございと名乗りをあげているようなもので、
今まで尻尾も捕まれず、裏で犯罪をやり続けてきたっていうのは
おかしな話ではないか。

まぁ、とにかく帰ってきたことだけを祝おう!
家の有名なトリックは遊び心がある。

・踊る人形
暗号解読もの。
出だしから謎の暗号で引っ張ってくれて、
読み解かれてく楽しさはある。
でも余裕こきすぎて…。

ポーの「黄金虫」を読んでいると、「ああ」と思う。
個人的には、ホームズの「黄色い顔」も思い浮かんだ。
いい旦那さんが奥さんを疑いつつも、守ろうと必死。

・美しき自転車乗り
しょーもない男たちが、カワイコちゃんを狙って
追っかけてる滑稽話。

・プライオリ学校
金持ち貴族の息子が誘拐。
その裏にあるのは、やっぱり財産がらみと
いびつな家族関係?
ラストのホームズの茶目っ気にニヤリ。
もらうもんはもらっとけ。

・黒ピーター
「帰還」の中では、これと「金縁の鼻眼鏡」がお薦め!
お話はストレートこの上ないんだけど、
なんとも殺され方がダイナミックで。

ネタの構図的には「グロリア・スコット号」や、
「ボスコム谷」の系譜として覚えておくか。

・犯人は二人
恐喝の王者とホームズが対決!? …と思いきや、
なんとまぁ、ある意味肩透かしの展開。
しかし、タイトルを振り返ってみるとクスっと笑える。

・六つのナポレオン
有名なのかもしれないけれど、ネタ的にはどうってことない。
が、導入部は面白い!

ナポレオンの胸像ばかり狙って壊し回っている
狂信的な男の正体とは?
※ネタ的には「青いガーネット」と予想がつく。

・金縁の鼻眼鏡
ある隠遁的な生活をしていた老教授の助手が、
部屋にあったナイフで刺されており、
「先生、あの女です……」と謎の言葉を残して亡くなった。

ホームズの機転をきかせた捜査で
暴かれるのは老教授の過去か?
ホームズが謎を突き崩してゆく小気味よさと
切ないラストまで堪能できる名品。

・アベ農園
ケント州では指折りの大富豪、アベ農園の主人が殺された。
犯人は、3人組の強盗団ランドール一味と目されていたが…。

※「緋色の研究」は、ちょっとスパンの長い復讐劇だったけど、
あれか「背の曲がった男」の流れを組む位置づけ?
「踊る人形」は、逆の亜種か。

…にしても犯人が格好良い。しかし殺しは殺しなので、
大岡裁きを是とするか非とするか、現代では悩む問題だ。

・第二の汚点
大政治家二人が、公表されたら戦争もおきかねないという
ある秘密文書が紛失した件で訪ねてくる。

そして、その屋敷の近くでは、裏で悪事を働いていた男が殺される事件が!?
二つの事件は繋がっているのか?

と書くと大きな話に感じるけど……(汗
真実はどうか。
殺人に偶然の要素もありすぎだし。
恐喝屋がからむ「犯人は二人」くらいの重さかしら。

-「『叡智』より」-
・ノーウッドの建築士
ノーウッドの建築士の家が火事になり、黒焦げの死体が出る。
殺害容疑にかけられたのは、その晩、建築士当人から、
全財産を引き渡すという遺言書をたまわった事務弁護士だ。

事務弁護士の親に世話になったからなんとかいって、
財産を譲りたいといってきたので、
そりゃもう喜んで引き受けるわけだけど、
なぜか確実に書類手続きが終わるまで
両親には秘密にしておけという。
ビックリさせてやろうじゃないかと。

奇妙な話だが、こんな儲け話を断る人は相当な人なわけで、
彼は手続きのため、建築士の家を訪ね、
用事を済ませて帰宅した。
で、朝起きてみると殺害の嫌疑がかかっていてビックリ仰天!

これを建築士泣かせの方法で解決するホームズ。
実に執念深い、逆恨みが暴かれる。
冗談で済むはずはないだろと言いたくなる。
※黒こげ死体のトリックはひどい。

・三人の学生
奨学金のかかった重要なテストの答案用紙が
何者かに書写された形跡がある。
犯人は、その事件現場の階上に住む学生3人に
しぼられた。

ホームズが、相変わらず見事な手並みで
その3人のうち一人が犯人とわからせてくれる。
執事の愛情がキラリ。

・スリー・クォーターの失踪
フットボールだかなんだか知れないけれど、
とにかく花形選手が大事な試合前日に失踪した。

フタをあけてみると、秘密に愛を育んできた
男女の切ないドラマが…?


この感想へのコメント

1.Tetchy (2008/11/17)
本作の「空家の冒険」は有名すぎて、ネタバレが公然になってますよね^^
確かに私も本短編集はパワーダウンを感じずにはいられませんでした。
カーシーさんがおっしゃるように、アイデアの重複も見られますし。
尤もドイルも読者の熱烈なリクエストを得て、復活させたので、いやいや書いていたのかもしれませんが。
2.カーシー (2008/11/18)
>Tetchyさん
こんなに楽しませてもらってきたのに、申し訳ないですが、
これはおっしゃるとおり、仕方なくつむぎ出した匂いがしました。

いつもなら、たとえ重複ネタであろうと、
のびのびワクワクするように書かれていて、
工夫を重ね、手を抜いてない感じがしてましたから。

もうちょっと構成こだわってれば、
もっとクオリティ高められたかも
という作品も見受けられました。

盛り返しに期待したいです。
 

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 1

マンドレイクの館 (富士見ファンタジア文庫―ソード・ワールド作品集)

著者 : 山本 弘

出版社:富士見書房

発売日:1991-06

評価 :

完了日 : 2008年11月12日

ソードワールド短編集第4弾!

・「マンドレイクの館」山本弘
山本弘は正真正銘、稀代のストーリーテーラーだ!
しっとり、緻密に「ジェライラの鎧」で読ませたと思ったら、
「ナイトウィンドの影」ではコミカルに、
軽快にキャラとプロットで唸らせて、
そして、今回は「マンドレイクの館」で、
設定(伏線)と物語(伏線)とが、
これ以上なく不可分な状態で
どどどん! と畳み掛けてきて、もうメロメロ!

この設定を思いついたとき、
山本さんは全世界を見下ろして
ニマ~っと笑ったに相違ない!
※パトレイバーのムービー冒頭付近で
高所から飛び降りたあのホバみたいな笑い方で!

この驚天動地のクオリティの連発が
17年前の作品だっていうんだからね!
驚いちゃうよホント!

ってことは17年積読してきたのだけれど、
なぜもっと早く手にしてこなかったのか!
ええい! 今はグチってるバヤイではない!
ホームズとともにソードワールドを制覇するのみだ!

もし、山本さんが嫌いじゃなく、
ファンタジーもいけるというクチの方、
悪いことはいいません。
ぜひ、ソードワールドを堪能してくだされ。

もう最初の映画のようなワンシーンから
ぞくぞくして引き込まれます。
いわくありげな美人が
ふらりとその街の洋食屋?に入ってくる。
※記憶でだーっと書いてますんで、
細部間違ってても気にしないように!

ふと、メインストリート側の窓に目をやると
通り過ぎてゆくのは、
なんともきらびやかで豪奢な馬車。

その馬車から、
町民に笑顔をふりまいているのは
なんとも可憐な幼い少女。

彼女は、先ごろ亡くなった父親のあとをつぎ、
この地方の領主となった娘だという。

通り過ぎる間に、一瞬、
いわくありげな美女と可憐な少女とが、
窓を介して目を合わせたような、
合わせてないような――

この場面はよく覚えておいて、
読後に振り返ってみるといい。
納得の唸りとも、ため息ともつかぬものが
こぼれおちるに違いない。

美女は、店員にさりげなく
少女のことをたずねる。
店員は美女にほだされ、
ペラペラとしゃべる。
が、まだまだ核心に触れられない。

これを言っても
ネタばれにもならんだろうから言ってしまうが、
彼女はズバリ、
幼き領主を亡き者にすべく送られた
腕利きの女暗殺者なのであった。

前任者の尻拭いをしにやってきたはいいが、
どうにも少女について腑に落ちない点があるのだ。
やり手の前任者が、なぜあのように
見るからにか弱い少女をし止めることもできず、
終わってしまったのか?

彼女も前任者に輪をかけて腕利きの殺し屋で、
無論、失敗は許されないのだが、
信用できるのは、忠実な部下一人だけ。
暗殺者をかかえる盗賊ギルドは
裏切りにまみれた世界。
上層部さえ信用はできないのだ。

しかし、命令は絶対。

やがて、目算どおり、
忍び込んだ領主の館には
なんと、恐るべき秘密が……。

少女 VS 女暗殺者の戦いは
もうくんずほぐれつ! どうなることやら、
それぞれに背負ってきた過去や背景をまじえ、
うなるような展開が待っています!

この一遍だけで、金を払う価値はある。
ていうか、孤高の女暗殺者シャドーニードルの長編が読みたいぞ、わしは!

権謀術数にたけ、残虐にして冷徹な
盗賊ギルド上層部との死闘をじりじりと読みたい!
幹部である腹違いの兄との宿縁もぜひからませて!

・「子供たちは眠れない」友野詳
これも、作者ならではのコミカルな味わいが出てて
軽快に楽しく読ませる一品。

この「マンドレイク」の短編と、
先の「ふたりのラビリンス」という短編集は、
モンスターをコンセプトにして
あまれた作品集なのだが、まぁほんと、
いろいろな角度から楽しませてくれる。

タイトルで想像がつくかもしれないが、
ある日ある街で、子供だけが助かった夜に
ウジャウジャとモンスターがやってくる。
それをどう防ぐかが読みどころ。
※ネタがわかっても大丈夫だと思う。たぶん(汗

構図は単純だが、この作者の筆は
バカっぽいティストで狙ってて(特に敵)、
それでしっかり楽しめるので安心だ。

同じみのコボルトやスケルトンや
コブリンがわんさか登場するぞ。

・「幻獣の遺産」清松 みゆき

もしかして、清松さんのは初めてだったりして?

安定した筆致で、幻獣狩りに賭ける一行の
冒険譚を読ませてくれる。

まぁ飛び抜けてどうの、
ということはなかったけれど、
病気になった仲間を救うため、
どうしても幻の獣を殺して材料を
得なくてはならなくなったパーティの話で、
最後までしっかり牽引してくれる。

唯一頼れるのは、なぜかやる気をなくしてしまっている
狩人のじいさんただ一人。
彼を引っ張りだすことには成功するのだが…。

展開は予想の域をでないけど、
キャラのかき分けなど申し分なく、
飽かず読ませてくれる。

水野良氏の描く羽頭パーティと比べると、
じゃっかん印象が弱いパーティだが、
冒険のなりゆき次第で、もっと深化していきそうな気配。

これで清松氏は書ける人なのだとわかったし、
他の話も楽しみにしていきたい。


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 7

バスカヴィル家の犬 (新潮文庫)

著者 : コナン・ドイル,延原 謙

出版社:新潮社

発売日:1954-05

評価 :

完了日 : 2008年11月09日

導入から古めかしい怪奇味があって
やっぱりぐいぐい引き込まれた。
ホームズたちの留守中、依頼に来たらしい紳士の
忘れ物のステッキから、客は田舎の医者であろうとか、
いつものごとく判じていると、当の依頼人が再び訪ねてきて、
まずもってその推断は間違ってなかったとわかる。

しかし、そんな枕はどうでもいい。
依頼人モーティマ博士が持ち出した古い祟りの記録から
話はドロドロと暗い雰囲気に包まれていく。
※本書は特に、事件の舞台となる茫漠とした沼沢地の描写を
頻繁克明に出してくるので、なお更、
物語が重苦しい感じになっていく。
※根底のユーモアは不動で軽快に読める。

その昔、件の沼沢地がある地方の領主だった
ユーゴー・パスカヴィル卿は、
神をも恐れぬ残虐な男だったらしく、
数々の冒涜的な行為を繰り返していたという。
なかでも性の淫蕩なること甚だしかったらしい。

拉致監禁など、日常のことであったろうが、
ある日、一目見て懸想したとある郷士の娘を
是が非でも自分のものにしたくなったユーゴーは、
無頼な輩と徒党をくんで家から浚ってきてしまう。

早速、自館の上階へ娘を幽閉し、
階下で仲間と祝いの酒を酌み交わし、
酔いまくって罵詈怒号を響かせていたところ、
当然、娘は生きた心地がしなかったようで、
怯えわななきながらも、館の窓から
壁面に這った蔦を頼りに逃げ出し、
一路、父親の待つ実家を目指し――
沼沢地のある方面へ一目散に駆けていった。

食い物などもって、上階へあがったユーゴーが
いざ娘のいないのを知ると、荒神の狂うがごとき怒りようで
「あの娘を取り戻せなかったのなら、オレの身も心も悪魔に捧げてやるぞぉ!!」
と怒号する。その気性の激しさは、
仲間の無頼漢さえ呆然とするほどだったという。

そこで無頼の一人が我に返ったのか、酔っていたのか、
犬をけしかけてやろう!などとほざきだした。
ために、それは実行されることになったわけだが、
ユーゴーは犬に負けじと、素早く馬にのりつけ、
娘のあとを悪鬼の形相で追いだした。

残った無頼の輩も、必死であと追ったが、
なんと辿り着いた先にあったのは、
娘の死体と、尻尾を股にはさみ、
怯えきった犬たちの姿であった。

当のユーゴーはというと、まるで地獄から抜け出てきたような
(自分らが放った犬とはまったく別次元の)、
悪魔のごとき巨大な黒い犬に、今まさに
その喉を食い破られているところであった。

血を滴らせて振り向いた黒犬の
爛々たる眼光に恐れをなし、無頼どもは
われ先へと逃げ出したのであるが、
うち一人はそのとき落命し、二人は逃げ延びたものの、
余生を正気では過ごせなかったという。

神を冒涜しすぎた振る舞いで、
ついに地獄の番犬にやられたのだから、
我々子孫は、これから神さまをあつく信望し、
すごしていかねばならん。
そして沼沢地には近づかず、夜は出歩かないこと。
そうすれば神のおぼしめしがあるだろうと。

とまぁ、ユーゴーの息子が子孫たちに
そんな書置き残していったわけなのだが、
何代か下った現在、チャールズという
パスカヴィルの男爵が不自然な死をとげた。

襲われた形跡はないが、本人とは思えぬほどに
恐怖に顔を歪め死んでおり、
近くには巨大な犬の足跡があったという。

そして、その莫大な財産と領地を、結縁者として、
新たに受け継ぐことになったヘンリ卿は
領地へ行くべきか行かざるべきか、
チャールズのお抱え医師だったモーティマとともに
ホームズに相談するのだった。

いつもならホームズが相棒のワトスンともども
領地へ繰り出し、事件の解明にあたるのであろうが、
長編なだけに別な展開を見せる。

自分は他の引き受けごとがあるからロンドンに残り、
いざという時まではワトスンに頼むということで、
中盤はワトスンが大活躍することになるのだ。

なんだワトスンか、などと思わないでほしい。
そもそもホームズに感情移入なさしめるのは、
一般人ワトスンの視線によるところが大きいからだ。

だから「パスカヴィル」は、いつもの短編より、
ワトスンの視点にたって、あれこれ思い巡らすゆとりがあり、
そのぶん楽しく読める。
考えすぎてはずれた予想もあったが、
ホームズのやり口?は、ちょっと伏線が出た時点でわかったし、
やっぱりなと思えて楽しかった。
※個人的には短編にした方が物語として、
完成度は高められたなと思う部分はあったが。

ラストは、ネタがわかってみると、
怪奇めいていた魔法が解けてしまい、
魅力がなくなっていくから、
すばやく閉じるべきなのだろうが、
最後に残された疑問等処理をするので、
ちょっぴり間延びする。そこはご愛嬌。
全部スッキリするし。

はてさて、モーティマに遅れ、
ロンドンへ相談にやってきたヘンリ卿が、
早くも何者かに付けねらわれていることがわかる冒頭から、
(ホームズがその序盤で敵に一敗する!)
領地でのワトスンの涙ぐましい?活躍まで、
一文字一文字、紙芝居に食い入る子供のように楽しめた。
※まだらの紐の亜種か。


この感想へのコメント

7.Tetchy (2008/11/12)
確か「踊る人形」も「黄金虫」もどちらとも暗号解明の手掛かりは同じ文字から始まるんですよね。
これは最初に思いついたポーが慧眼でしたね。

>ホームズなら解いていてほしいです(^^

ホームズ=ドイルですからねぇ。後年そのことに触れなかったという事はやはりドイルでも解けなかったんでしょう。
だからこそ今でも謎なんでしょうね。
8.カーシー (2008/11/13)
>Tetchyさん
「黄金虫」の暗号を解いていく過程は、宝探しもかねていたので、その辺「マスグレーヴ家の儀式」なんかにも繋がっているんでしょうかね。
にしても、ポーがいなかったら、ホームズもなかったかもしれないわけで、ポーに感謝せねばなりません。

>ホームズ=ドイル
なるほど。本人の器にあまるものは、書き示せないですものね。ちなみに、ドイルのヒゲ顔が、私の中ではワトスン像になってますね(^^

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 1

ふたりのラビリンス―ソード・ワールド短編集 (富士見ファンタジア文庫)

著者 : 水野 良

出版社:富士見書房

発売日:1991-05

評価 :

完了日 : 2008年11月04日

ソードワールド短編集の第三弾!

くー! 冒頭から嬉しい!

・ふたりの迷宮(ラビリンス):水野良
⇒われらが羽根頭パーティがまたまた登場!
第一短編集の究極の名作
「ジェライラの鎧」(山本弘)に匹敵するできばえ!
※「レプラコーンの涙」参照!

ソードワールドの世界で
「ロミオとジュリエット」をやったらこうなるのか的なお話だ!

下敷きがしっかりあるせいか、
キャラを見せる話というより、
読み応えのある物語として堪能できる一遍。

あいかわらず、パーティの軸であるライスは
感情移入させてブレさせないし、
今回は金勘定にひいでた魔法使いチェペルが
物語を暴走気味にひっぱっていく。

とある遺跡に迷い込んだパーティ。
そこには肉体をもたず、永遠にさまよう美しい女性の生霊が・・・。
生霊にとりつかれたように進み出るチェペル。
彼はいったいどうしたというのか?

身体の奥が透けてみえる、美しい生霊の話をきくと、
彼女は愛する男をずいぶん長い間待っていたらしい。

この遺跡から出る前に、パーティは彼女の願いをきいてあげることになるのだが、その結末とは・・・。

いやはや、完成度高い短編で降参。お見事。

・惨劇は突然に:高井信
⇒やや、これはひどい。
話の書きようによっては、もう少しマシになるはずだが、
書いてはいけない書き方をして、
せっかくのサスペンスを殺している。

これは読みたくなければ飛ばしてよし。

あまり事件の起きたことのない村。
ひとりの青年がゴリラに襲われたという。
ちょうど村に立ち寄っていたのは
凄腕だと酒場で自慢話をする冒険者。

村に冒険者がくること自体珍しいのだが、
こんなにラッキーなことはない。
さっそく村長が冒険者にゴリラ退治を頼むが、
村一番の力自慢で、戦士を自負している男がひとり、
自分にやらせろ!と抗議する。

村長は、その小うるさい村の戦士を
やっかいばらいしたいと常々考えていたので、
これでプライドをズタズタにしてうやろうと、
二人を競わせて賭け事とすることにした。
※冒険者が本当に凄腕なら、
村の戦士は当然大負けすることになるわけだ。

村には娯楽がないから、みな熱狂して賭けをはじめる。
※みんな凄腕を信じてるから、
誰も村の戦士には賭けない。
だから戦士は自分で大枚をはたいた。。

ところが、凄腕の冒険者も
実はホラコキでそんなに強くはなかった。
それに村一番の力自慢とはいえ、
実践経験がまるでない戦士も
これまたそれほど強くはないのだった。

だから二人ともビビリながら、
ゴリラ退治に出向いたわけだが・・・。

村の戦士は出向いた先で、なんと例のゴリラが
メッタメタに殴られ、殺されている死体を発見する!
さては先を越されたか?
残念がろうとした瞬間、ふとおかしいことに気がつく。

もしもあの冒険者が倒したのなら、
賭け事の証拠としてゴリラの首を
切り取っていってるはずなのに、
その頭はめった打ちになってるだけで
そのまま体についているのだった。

おかしいなと思い、ゴリラの首もそのままに
冒険者を探しにでた戦士は、やがて当の冒険者が
フラフラと歩いているのに出くわす。
その首元には謎の生物が張り付いていて・・・。

・・・・・・・

うーん。冗長なところと、
作品として成立させるために
削るべきところを削ってほしい。

・緑の都市:下村家恵子
これは読ませる! 
そしてセンスオブワンダーも味わえる!
下村さんってこんなにすごいのが書ける人だったのね!

祖父が書き残してくれた地図をもとに、
緑なす空中庭園都市をさがしていた主人公ナリルは、
自分と同じものを目指し、しかも頼りになるほど
豊富な知識を持つ青年リザンと出会う。

二人は協力し合い、ついに
古代魔術師が作りたもうたであろう、
緑なす巨大空中庭園都市アーティスに
たどり着く。

そこにいたのは、
アーティスの子にして番人である
可憐な緑髪の少女アーティア。

彼女に都市で研究ができるよう、
部屋や食事や羊皮紙の用意など、
いろいろ取り計らってもらうのだが、
なぜかそのアーティアに
冷たい態度ばかりとるリザン。

そんなところからリザンと離れ、
急激にアーティアに接近していくナリルだったが・・・。

ちょっと展開がよめたところもあったけど、
この緑の古代都市の正体や、アーティアの正体など、
もうSFチックな驚きとともに
ぐいぐい楽しませて最後まで読ませる!

杖に封じ込まれた生ける古代魔術師エルドースや、
陸上シーサーペント?のような
リザンの買い馬ウェブも脱出劇で活躍するし、
情景描写も女性ならではの繊細さもあるのか、
なかなかに達者で美しく、
読み応え十分な短編じゃ!

やっぱり、ソードワールドはええのお。


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ナイトウィンドの影―ソード・ワールド短編集 (富士見ファンタジア文庫)

著者 :

出版社:富士見書房

発売日:1990-10

評価 :

完了日 : 2008年11月04日

ソードワールドの短編集。
ロードス島戦記の世界と一緒。

「スレイヤーズ」やら「風の大陸」やらに触れてきた
世代の人には懐かしいのではないかしら。

中学時代から積んでた本て、お風呂場で読むくらいしないと
本当に開かないなと思い、ふやけるのも覚悟の上で
今、読み始めているのだった。

これはちょっと秀逸で風呂場にはもったいない話だったが。

・ナイトウィンドの影(山本弘)
⇒山本さんてこの時からこんなに書けたのか!
※アイの物語が書けて当然!最新作ほしい!

娯楽短編としてすごいクオリティ。
リプレイで登場していた、露出度の高い
ぴっちりとした黒装束の女盗賊ナイトウィンドの
誕生秘話といえる。
リプレイと、例の「薬」の話で繋がってて
合わせて知ってる人には大満足の読後感。

こんなに時代がたっているのに、
物語は色あせてなかった。
キャラの造形が気持ちいいベタに落としこめている点と、
展開の転がし方がうますぎる!

話は、ナイトウィンドが名をあげるため、
相棒のダバールとともに
とある領主の城へ忍び込み、何かを盗もうと
手を尽くすというだけのことなのだが、
そこに別の伏線がうまく挿入され
からめてあるから一本線では終わらない!

しかも、この話自体がリプレイの伏線に
なっているという構図。うまいうまい。

・鏡よ、鏡!(高井信)
⇒文章的な技術は必要最低限。
お話も単純。無難に読める。
知能がそれほど高くないドワーフなのに、
腕力ないから賢者(セージ)を目指してしまったデュダ。
彼はいつも悪友にからかわれている。

その日も、遺跡でひろった鏡を賢者先生なら
鑑定できるよな?とからかわれたところ、
わからないとは言えず、調べることに。

で、わからないので、親友たちを誘って
その遺跡まで出向くが、恐るべきトロルに出くわし、
最後はその鏡の力でなんとやら…と。

お話もキャラもギリで及第点。
発展性はないこともないが。

・神官戦士が六人(水野良)
⇒降参。山本先生と水野先生には降参するっきゃない!

うまいなぁ。タイトルもいいけど。
キャラだて、キャラ裁き、話はこび。
よどみなく穴がない。

とある地方の美貌の領主が、
これまたこの世のものとも思えない
美しい女性を妻とした。
あるとき、その女性が
まさしく化け物だったのを見たものが出て、
領主を追い出せと騒ぎになる。

そこへ、鳥の羽根を頭にさし、
それを目立つ目印として
売り出し中の冒険者パーティがやってくる。

そのパーティは当初、
街の実力者で商売の神チャザの司祭でもある
ルファードとともに
領主にこの地域から出て行くよう
説得に行くはずだったが・・・。

その街に、主義主張の違う神官戦士が
6人集まり、事態は錯綜していく。

これが面白いのは、羽根頭パーティの主人公で、
神官でもあるライスの「軸」がブレないからだと思う。
基本となる軸がぶれないから、
脇役が、振れ幅大きく右往左往するのを、
「おいおい!」と感じられて楽しいのだ。

言い換えれば、読者の感情移入が
途切れないということ。

主人公のライスは
商売の神チャザの万年神官(試験とか、
ご供養金の少なさで落ちてるっぽい)で、
うだつがあがらず、
ちょっと優柔不断で、
ちょっとお人好しで、
だけど、ちょっと正義感もあって、
なのに、臆病には違いなくて、
されど、頑固にめげないところもあって、
ちょっとだけ訓練も積んだ戦士なだけに、
まんざら戦えないこともなくて、
なにもかも中途半端だけど
悪いやつではないプレーンな男である。

こんなファジーな主人公だもの、
自分目線にならない人は
めったにないのではなかろうか。

その周りには、
わがままで自分勝手で調子がいい、
だけど憎めないハーフエルフの女の子リーナイラと、
魔法使いで知識欲旺盛な賢者でもあるのに、
チャザの神官であるライスより
そろばんに強く、金勘定の鬼のチェペル、
そして、いつもすっとぼけて飄々としているけど、
怪力で酒飲みのドワーフ、オスターがおり、
日々、あーでもないこーでもないと、
のたまっているのだ!

この騒々しいパーティに、さらに、
曲がったことが大嫌いな至高神ファリスの神官やら、
逆に悪の道を突き進む、暗黒神ファラリスの神官(領主の弟)なんかもからんでくるから、
てんやわんやで面白くなってくるわけだ。

人って、案外融通きかないもので、
だからこそ、人と人がぶつかりあって
何かが生まれるのだけれど、
この物語にはその、ありのままの自分の信念に生き、
融通きかない人々がおりかさなって生み出す
人間模様の複雑な妙味が横たわっている。

化け物女と愛をかわしたという領主と
その化け物女だって頑固に自分を貫こうと
しているわけだしね。

そんなそれぞれの人たちが
自分の思惑で行動しようとしている中で、
われらが羽根頭パーティが選んだ道とは!?

ソードワールドの短編はもう廃れているのかもしれないけど、
ぜひ、多くのライトノベルファンに味わってほしいな。
ソードワールドをプレイしたことがない人でも楽しめるはず!


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 2

シャーロック・ホームズの冒険―新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

著者 : アーサー・コナン ドイル,Arthur Conan Doyle,日暮 雅通

出版社:光文社

発売日:2006-01

評価 :

完了日 : 2008年11月04日

日暮版購入! 挿絵があって読みやすい。
が、ここには延原版の感想メモ★★★を書く。
他の版は、訳の違いを調べたりする資料になった…(謝

・ボヘミアの醜聞
⇒アイリーンという名の機知に富んだ女性がホームズ相手に一杯食わせる話。
妙にスカっと痛快な読後感。ポーの「盗まれた手紙」が原型みたいだが、要点は、人が巧妙に隠したものをいかに見つけ出すか。
「海軍条約文書事件」もその構図ネタのバリエーションだと思う。

・赤髪組合
⇒有名で未読の私もネタを知っていたため、インパクトはなし。しかし奇天烈で愉快。

・花婿失踪事件
⇒メアリーがかわいそう。恋心を弄びやがって。義父がずる賢いと困る。成敗してくれる法律がないのが残念。
話の方向性は違うが、ネタの構図としては、唇の捩れた男と同じではあるまいか。

・ボスコム谷の惨劇
⇒無実の青年を救うための捜査。浮かび上がるのは、重病老人の無法者時代か。守るべきもののため、老い先短い命を振り絞る。
弱みを持つ者の話の構図として「グロリア・スコット号」が思い浮かぶ。
「さらばお別れです」老ターナーはおごそかにいった。

・オレンジの種五つ。
⇒ワトスンはお話の導入部の天才ではないかと、
各編を読むたび思ってきたが、これは今まで読んだ中でダントツのサスペンスをもった導入部!

風の咆哮が聞こえてきそうなほどの嵐の描写と、オレンジの種が五つ送り届けられたものが次々に殺されていく話とが相まって、冒頭からグイグイ読ませる!

しかし、本文中にも竜頭蛇尾という意味合いの言葉を出ているように、幕切れがあっけなさ過ぎて残念。できれば、KKKの一味と、四つの署名よろしく、長編にてデッドヒートを繰り広げて欲しかった。

・唇の捩れた男
⇒名作らしく、なるほどとは思ったが、それ以上感心もしなかった。構図・テンション的には「花婿失踪事件」とかわらんかも?

・青いガーネット
⇒鳥の胃袋にあった貴重な宝石をめぐってドタバタ。
鵞鳥の仲介店のオヤジとホームズのやりとりがユーモア賞。

・まだらの紐
⇒有名なので仕掛けは知ってた。ゆえにインパクトはなし。
しかし、ワクワクする雰囲気が冒頭から漂っていていい。

癇癪持ちの怪力で依頼人の義理の父ロイロット博士。狒々(ヒヒ)や豹が放たれている屋敷。茨だらけの狭い庭には、ロイロットの友人だというジプシーたちがテントで暮らす。
依頼人(妹)の姉は、死ぬ前に口笛のような音を聞いたとしきりに気にしており、結果、変死を遂げるのだが、死に際に「まだらの紐よ!」と叫んでいる。
そしてその口笛の音がとうとう妹のもとに…。

仕掛け自体に完全犯罪のリアリティないけど、雰囲気は好き。
※どうせなら「スネーク・フライト」くらいやっとくれ(^^;

・花嫁失踪事件
⇒貴族の花嫁が式後に逃げ出した話。フタをあけてみると事件でもなんでもないが。まぁ災難としか言いようがない。

・椈屋敷
⇒ミステリの要素とかそんなこと関係なく、これか「技師の親指」が、「冒険」の中では一番好き!

女家庭教師ハンターが聡明で、実に勇敢に行動する(彼女をスピンオフしてもよさげ!)。
ハンターが再就職することになった椈屋敷には、アダムスファミリーに出てくるような面々が住んでいる。
主人のルーカッスルは豪放だが、ニコニコの笑顔にはいかにも裏がありそうで、
その妻は無口でいつもうら悲しさを秘めて泣いている。
一方、ハンターが頼まれた息子はというと、弱い虫や小動物を殺しまわっては喜ぶ性格で、
召使い夫婦もまた、酔いどれ二重あごの巨漢の犬番頭(凶暴なマスチフを手名付けている)と、
ムッツリとだんまる冷酷な感じの妻という案配で、
やはり一癖も二癖もありそうなのだ。

そして、開かずの扉には、椈屋敷に秘められた秘密が…。
暴かれるのは、傲慢な欲望によって歪められた家族の姿か。

・技師の親指
⇒ドイツなまりのある陸軍大佐が、相場の10倍の報酬で圧搾機の故障診断をその技師に頼んだ。
さらわれるようにして連れ込まれた屋敷には、黒い衣服をまとった謎の美女がいた。
彼女はカタコトの言葉で技師に逃げろ!というが、時すでにおそし!?
診断を終えた用済みの技師は、見たこともない巨大な圧搾機によって!―――

いやぁ、ドキドキしますよこれは! なぜか、「魍魎の匣」を思い浮かべてしまったし、最高に読ませる!
※「叡智」の中に入ってるが、本来は「冒険」の中の一遍。

・緑柱石の宝冠
⇒宝冠を盗もうとしていたとして逮捕された青年。
構図は違うが、無実の青年系の話だからボスコム系とも言えるか。
しかし、こっちはちょっと悲しいなぁ。
向こうは愛しい人が真実応援してくれたからいいけど。こっちは愛しい人のために・・・。
※「叡智」

あとは、延原氏のあとがきがいい。氏はホームズのどの作品にもユーモアを感じてやまないという。
その感じたユーモアは、読んでみればわかる通り、そこかしこの行間から溢れている! 延原ホームズ万歳!


この感想へのコメント

1.Tetchy (2008/11/04)
延原訳ホームズ大絶賛ですね!しかも今回も懇切丁寧に1編1編感想を書いて下さり、愉しく拝読しました。
某所でも延原氏が日本人にホームズ像を形成させたみたいな事が書いてあり、そうかもなぁと思い