たなぞう

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ya_kenさんの読書ノート

2007年 読了
2007年に読んだ本を極力全部載せていきます。
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 13

異邦人 (新潮文庫)

著者 : カミュ,窪田 啓作

出版社:新潮社

発売日:1954-09

評価 :

完了日 : 2007年12月31日

 読んだのに、感想を書くのを忘れてしまった作品。


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 34

人間失格 (新潮文庫 (た-2-5))

著者 : 太宰 治

出版社:新潮社

発売日:1952-10

評価 :

完了日 : 2007年12月31日

今年の前半で読んだはずなのに、たなぞうに入っていなかったので、追加しておく。


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 8

蝿の王 (新潮文庫)

著者 : ウィリアム・ゴールディング,平井 正穂,William Golding

出版社:新潮社

発売日:1975-03

評価 :

完了日 : 2007年12月27日

 あらすじにも書いてあるが、一見少年冒険物という体裁だが、そんな生易しいものではない。人間のあるべき姿や陥ってしまう悪い姿を的確に、そして露骨に描いている。

 ふと油断すると「子供のやることだから……」と読み流してしまうかもしれないが、それではもったいない。これは大人の社会にでも起こることを、子供の世界を通すことで分かりやすく描いているんだ。

 読んでいて、ドキッとすることが多い。
 例えば、選挙で政治家を選んだはずなのに、当選した瞬間、非難の対象となる人もいる。もちろんそこには非難される理由があるのだが、あまりにも簡単に否定されてしまう人がいるのもたしかだ。
 この作品でも多数決でリーダーを決める場面がある。それは正当な決め方で、問題も無かったのだけど、一部の人間(といっても子供)のわがままから仲間割れが起こり、それが多数派となり、結果としてこの狭い世界の正義になる。当初描いていた「正義」の形は簡単に歪んでしまうのだ。

 この作品の中でサイモンという子供が登場する。彼の動向に注意しながら読んでみると面白い。彼がもっとも精神的に強い(強くなる可能性を秘めている、と言った方がいいかもしれない)子供なのだ。しかし結果は……。

 名前に比べてはるかに読みやすい作品なので、ぜひ今こそ読んでほしい作品だ。


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 30

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)

著者 : 村上 春樹

出版社:新潮社

発売日:1988-10

評価 :

完了日 : 2007年12月23日

 最近読んでいる本は本当に良い作品が多い。偶然なのかもしれないし、ただ読み手として許容範囲が広がったのかもしれない。無難な作品を選んでいるということかもしれない。ともかく、この『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』も間違いなく良い作品の一つだ。
 この作品は「世界の終わり」と「ハードボイルドワンダーランド」という二種類の世界が平行して描かれており、小説の各章が二つの世界を交互に描いていく。この作品の凄いところの一つはこれらの二つの世界が最後まで明確には交差しないのだ。あくまで二つの世界として独立していて、登場人物もストーリーも別物になっている。もちろん、途中で「なるほど、この世界はもう一つの世界の○○なんだ(ネタバレするので伏字)」と気付くことにはなるが、よくある小説のように両方の世界の登場人物が出合ったりはしない。なのに、違和感がない。

 さて、「世界の終わり」という世界は住民が心を持っていない世界だ。完全に機械的な世界だが、争いのない”完璧”な秩序を保っている。心が無いからこそ完璧なのだ。心が無いというのはつまり不確定要素が無いことを意味する。
 一方で「ハードボイルドワンダーランド」は普通の世界の延長線上にある未来を描いている。科学技術が進歩しているという点以外はいたってノーマルな世界であり、「世界のおわり」とは大幅に違う。当然、人はみな心を持っており、それは不確定要素となる。この不確定要素が最後に「世界の終わり」を揺り動かすことになる(少し大げさな表現だが)。

 この作品が村上春樹の作品の中でもっとも良いという人も多いし、その気持ちが凄く分かる。だけど、今のところ『海辺のカフカ』『ねじまき鳥クロニクル』が一番好きだ。


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 23

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)

著者 : 村上 春樹

出版社:新潮社

発売日:1988-10

評価 :

完了日 : 2007年12月22日

(上巻に感想を記載)


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 26

東京奇譚集 (新潮文庫)

著者 : 村上 春樹

出版社:新潮社

発売日:2007-11

評価 :

完了日 : 2007年12月18日

 村上春樹氏の短編集。日常の中で起こる不思議な出来事を描いている、が。正直、欲求不満に終わった。内容は寓話的で個性的なメタファーをもっているのだけど、何かいかせてない印象がある。最後の『品川猿』なども名前・名札をモチーフにした不思議世界を描いているが、どこか空虚な、ちょっと寒い内容に感じた(村上春樹氏の作品が凄く好きだからこそ、寒く感じるのだ)。
 
 あえて好意的に捉えてみよう。
 村上春樹氏は何かのインタビューで「短編作品は長編作品の為の実験だ」というような内容のことを話している。つまり、この短編は何らかの形で長編に生かされていくことになる。そうなると、話は別だ。先ほど寒いと言った『品川猿』なども長編の中の調味料としてならば悪くない。『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる「ねじまき鳥」や「加納クレタ」のような位置に「猿」が出てくるのであれば、分かる。

 というわけで、より一層期待を込めて『長編を待つ』姿勢を強めていきたいと思う。
 ってか、翻訳いいから、長編書いてよ>村上さん!


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 1

「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち (新潮文庫)

著者 : 大江 健三郎

出版社:新潮社

発売日:1986-02

評価 :

完了日 : 2007年12月17日

 正直な話、初めて読む大江健三郎氏の作品がこれでなくて良かったと思っている。
 雨の木(レインツリー)をモチーフに展開される短編集となっているのだが、細切れの作品ではなく、あくまで集合体として一つの作品に仕上がっている。特に一作目の『頭のいい「レインツリー」』と最後の『泳ぐ男』は圧倒的な面白さで、途中で読むのを止められなかった。それは奇想天外なストーリーで「早く結論が知りたい」という意味で「読むのを止められない」のではなく、この作品の世界観から抜け出したくなくて、読むのを止められない感覚だ。特に『頭のいい……』で出てくる「雨の木(レインツリー)」の描写が印象的で作家としての視点の鋭さというか、貪欲さを感じた。

 で、なぜ「初めて読む大江健三郎氏の作品がこれでなくて良かった」のか? たまたま俺が集中力を欠いていたのだと思うが、中盤の作品で疲れてしまったのだ。読み進めることが出来たモチベーションは「大江健三郎氏の作品ならば、このまま終わるわけは無い」という半ば盲目的なーーそして限りなく危険なーー意思による。
 
 ちゃんと集中して、読み直す必要がある。


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 18

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)

著者 : 村上 春樹

出版社:新潮社

発売日:1997-09

評価 :

完了日 : 2007年12月12日

 この作品をどう評価すべきか、凄く混乱している。
 
 読んでいる最中、かなり強い力で引き寄せられた。長いけど途中でだれる事も無く、適度な緊張感を保ったまま読み切れた。それはひとえに村上春樹氏の読みやすい文章と飽きさせない視点切り替えと構成によるものだと思う。極端に「意外性」に頼る事無く、不可思議な世界を描いている割には当たり前の事のように話が展開したと思う。

 この小説にはたくさんの人物が登場する。そのそれぞれが人格を持っていて、みんな弱くて、救われたがっている人ばかりだった。一見人を救っているように見えるナツメグでさえも弱くて助けを呼んでいた。

 ところが、主人公の『僕』はどうだろう? 『僕』の人格は思ったほど描かれていないと感じた。むしろ『僕』を淡白に描く事で、『僕』を通してみる世界を具体的に描こうとしたように見えた。そして、周りの登場人物の視点によって結果として『僕』が描かれているような印象だ。つまり僕を通して脇役達を描き出して、描き出された脇役を通して『僕』を描いたような……。説明するのが難しい.

 これ以上、感想を書くのが難しい。実際はもっと書いたのだけど、書きながらもアレコレ想像してしまって収集がつかなくなったので、中途半端だけどこれでおしまい。

 ところで、深い意味は無いのだけど、この作品を読み終わって頭にパッと浮かんだ映像がある。それはピカソのゲルニカという作品だ。根拠は無い。とにかく頭に浮かんだ。


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 6

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

著者 : 志賀 直哉

出版社:新潮社

発売日:2000

評価 :

完了日 : 2007年12月08日

 大好きな志賀直哉の短編集。
 ほとんどは既に読んだ事のある作品だったけど、気持ちよく通読できた。というよりも一度目に読んだときよりも満足度が高かったように思う。
 特に「城の崎にて」の簡潔にして、強烈なメッセージは最近の小説では見かけない。鋭利な刃物のような作品だ。
 もちろん、「小僧の神様」や他の作品もすばらしい。だけど、これも一度目よりも二度目の今回の方が圧倒的に楽しめた。多分、他の志賀直哉作品を読んだりした経験から、より明確に彼の作品を読み込めるようになったんだと思う。

 志賀直哉は二度読め。


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1.Tetchy (2007/12/09)
Tetchyと申します。お邪魔します。
学生時代に読んだこの短編集は今でも強烈に記憶に残ってます。特に「城の崎にて」のあの無常観といったら・・・。
確か4つくらい死のパターンがあったと記憶してますが、あの中でハチが死んでいるシーンが社会人になった今、リアルに感じてなりません。
2.ya_ken (2007/12/09)
初めまして。
あのハチのエピソードや思わずイモリを殺してしまう場面には「さすが志賀直哉」と唸ってしまいました。語りすぎる事無く、簡潔に表現されている事が彼らしいのでしょうね。
 

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 17

ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)

著者 : 村上 春樹

出版社:新潮社

発売日:1997-09

評価 :

完了日 : 2007年12月06日

 おや? 2部で完結してしまったように見えるけど、まだ3部が残ってる。おかしいな……、と思って調べたところ、どうやら元々は2部で完結する予定だったけど、「必要性を感じて」第3部を追加で書いたらしい。納得。

 たしかに2部の時点で宙に浮いた話はたくさんある。クミコはどこに言ったのか? 笠原メイのその後は? 加納姉妹(マルタ・クレタ)の本当の役割・目的は? 猫はどこへ? ……。

 最近、本の感想でよく書いているけど、俺は小説に物理的な意味(形而下、とでも言えばいいのかな……)での解決を求めていない。例えば、先ほど挙げた宙に浮いたエピソードに関してどう決着が着くのかはそれほど重きを置いていない。もちろん気にはなるし、その「気になる」という感情は小説を読み進める原動力にもなる。だけど、読み終わった後の満足感は主人公の精神面の解決や問題提起の良し悪しによる。

 そういう意味で、やはり2部で完結しているように見えるのだ。そして、満足度も低くない。
 ところが村上春樹氏は3部を書いた。彼が宙に浮かせたエピソードを一つ一つ解決していくとは思えない(彼の作品はいつだって宙に浮いたエピソードを残して終わる)。だから、きっと精神面、または何か表現し尽くせなかったことがあるんだろうと思う。そういう意味で3部を楽しみにしたい。


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 23

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

著者 : 村上 春樹

出版社:新潮社

発売日:1997-09

評価 :

完了日 : 2007年12月05日

 カラマーゾフを読み終わり、「次は短い短い作品を」と思ったのになぜか、三部作の『ねじまき鳥クロニクル』を読み始めてしまった。でも、カラマーゾフに比べてれば100倍読みやすいけど。

 この作品は他の村上春樹作品と同じように抽象的・概念的な展開を見せている。猫がいなくなった以外に具体的な事件は発生していない。嫁がいなくなったのは事件ではあるが、まだ具体的とは言いがたい(実際にいなくなったのだけど、主人公の認識としてまだ抽象的な事件の域を出ていないように感じる)。出てくる脇役もみな抽象的で何か象徴をしているようで、それが何を象徴しているのかがまだ分からない(読む力が不足しているのかも)。

 三部作なので、まだ全体の三分の一しか終わっていない。言ってしまえばまだ導入部だ。読んだ感覚としては「駒は揃った。さて、これからどうなるのか?」という楽しみな感じ。

 期待して二部以降を読んでいきたい。


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 1

死ぬための生き方 (新潮文庫)

著者 :

出版社:新潮社

発売日:1991-04

評価 :

完了日 : 2007年12月03日

 第一の失敗は、この本を小説の短編集だと思って買った事だ。
 この本は死生観をテーマにしたエッセイ集だ。エッセイが嫌いなわけではない、否、それどころか時々エッセイを読みたくなるときもある。だけど、小説を読みたい気分の時にエッセイを読むとそのずれが気持ち悪いものだ。肉まんだと思って食べたらあんまんだった時の気持ちに等しい。

 ともかく、内容に関してもコメントしておこう。
 まず、ほとんどの著者の書いている事が似ている。いや、死生観が似ているのであればいい。そうでなくて文章の構成や表現が似ているのだ。簡単に言うと以下のようになる。
1. 初めて死を感じたときの話(小さい頃の病気や事故、戦争体験等)
2. それを老いた今、振り返って思う事
3. まとめ
 
 大体みんなこんな感じだ。ただ、作家や詩人の書いているものはやはり考えさせるものがある。例えば宗左近氏(詩人)のエッセイは考えさせるものがある。もう一つ印象的な文章があった。ただ、メモ帳に文章は記録しておいたものの、どこに書いてあったのか忘れてしまった。。

『現代の日本人には”生”しかない』

 なるほど、たしかに"死”について考える機会は少ない。そう言う意味で、こういうエッセイも悪く無い。


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 8

カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫) (光文社古典新訳文庫)

著者 : ドストエフスキー

出版社:光文社

発売日:2007-07-12

評価 :

完了日 : 2007年12月02日

 エピローグを含めた作品への感想は4巻の感想として書いたのでそちらを読んで頂きたい。ここでは、亀山郁夫(訳者)の解説に対する感想を書く。
 何はともあれ、全5巻を読み終えた今、もの凄い達成感を感じている。思えば今まで千以上の小説を読んできたが、ここまで長いのは初めてだ。いわゆるシリーズものならばともかく、明確な一作品としては間違いない。

 この亀山氏の解説を読んでいて、とんでもない思いが沸々と沸き上がってきた。駄目だ、それは駄目だ、と、自分に言い聞かせて、勇気を持ってその思いを閉じ込めた。その思いを実現させてしまえば、間違いなく底なし沼に入り込んで抜けられなくなるのは間違いない。
 そう、解説を読んでいる最中『今すぐ、最初から読み直したい』衝動に激しく駆られるのだ。自分の気付かなかった仕掛け、メッセージ、伏線、モチーフ、それがあまりに多く、思い出すだけで鳥肌が立つ。その感動を今すぐ味わいたくなってしまい、事実、ところどころの象徴的な箇所をたった今読み返していた。

 なんだか、一生カラマーゾフ漬けにされてしまいそうな危険性を肌で感じて、読み返す手を止めた。

 それが来年になるか、数年後になるか、10年・20年後になるかは分からないが、必ず読み返す日が来る。そう思わずにはいられない。その時も「カラマーゾフ万歳」の節を熱い思いで読める自分でありたい。


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1.KUMI (2008/01/08)
こんにちわ。以前、コメントさせていただいたKUMIでございます♪カラマーゾフ、読み終えられたのですね。
相変わらず、ya_kenさんの書評は、説得力すごい!
ところで、ドス初挑戦の私はいきなり長編はやはり自信がなく、『白夜』から初め、今『罪と罰』を読んでいるのですが
ものすごい心理描写に圧倒されっぱなしです。ドスを読むきっかけをくださってありがとうございました♪
2.ya_ken (2008/01/09)
>KUMIさん
「説得力すごい!」だなんて、俺にはもったいない言葉ですよ。本当はもっと冷静に文学的分析をしてみたいと思うんですよ。だけど、その作品を気に入れば気に入るほど、「この作品を読め」ってみんなに熱く語りたくなっちゃって…。本当にドスは深い作家だと思います。罪と罰に圧倒されたのが、ドスを好きになったきっかけなんです。
 

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 8

カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)

著者 : ドストエフスキー

出版社:光文社

発売日:2007-07-12

評価 :

完了日 : 2007年11月30日

 カラマーゾフの兄弟の本編を読了した。ここでいう本編はエピローグを含む第5巻の途中までだ(第5巻のエピローグ以降は解説等が書かれている)。

 もう、感想に何を書いていいのかも分からない。ただ、後半の裁判の風景、特に検事側と被告人側の壮絶な論告の応酬はすさまじい。俺は出社前に30~40分くらい喫茶店で読書するのを日課にしているのだが、まさにこの論告部分はこの喫茶店で読んでいた。そのときの俺の興奮状態といったら、もう……。ページを捲る手つきは荒く、引っぺがすようにして読む進む。コーヒーなんて飲んでいる時間がもったいなくなってしまい放置。途中でコーヒーが冷めていることに気付き、ちびちび飲むのが面倒になり一気飲み。そしてまた読む進む。冗談ではなくて、そんな状態だった。一心不乱に…、なんて言葉はあのときの為にあったといっていい。

 あの論告を読んでいる最中、とにかく「あぁ、この部分を描き出す為に、この長い小説があったんだ!」と思った。だから、一言一句読み飛ばすまいと、躍起になって読んでいたんだと思う。ドミートリー・カラマーゾフの人間性を二つの視点(検事と弁護人)から分析し、それをドラマティックに語りつくす様子は最近の小説では感じられないほど熱く汗臭くロマンティックでもある。

 今思えば「この部分を描き出す為にこの小説が書かれたんだ!」と思う場面はここだけではなかった。例えば、ゾシマ長老にまつわる部分。死の直前に語る話はもちろん、もっと前半のカラマーゾフ一家とゾシマ長老の絡みもそうだ。ドミートリーが見る極貧の親子の夢の話もそう、イワンが見る幻覚とのやりとりもそう、ゾシマ長老の死を無言で嘆き泣くアリョーシャの描写もそう(この部分は電車で読んでいて不覚にも泣きそうになった)、もちろん大審問官もそうだ。そして、ドミートリーの判決が出た後のエピローグでアリョーシャが子供達に聞かせる「カラマーゾフ万歳」の節だってもちろんだ。

 ほかにもあるはずだ。結局、まだまだ俺には読み解けていない。俺が上に挙げた山場は誰でも気付く分かりやすい部分だが、実際は些細な一言が底なしに深い意味を持っていることもある。ゾシマ長老の遺体が発する腐臭に関する部分もアリョーシャの人間性を確固たる物にする意味で重要だった。
 
 この作品は永遠の未完成作品である。というのもドストエフスキーはこの文庫5冊に渡る『第1部』と、その13年後を描いた『第2部』をもって完成とするつもりだったからだ。

 だけど……、ね。

 もう、この時点で小説としての完成度は恐ろしく高いと思う。もちろん解決されるべき問題は無数にある。宙に浮いたままになっているエピソードもある。だけど、人間を描くということは(つまりこれが小説だ!)いつだって未解決のエピソードで溢れかえるんだ。なにもかもを解決して死ねる人などいないし、いるとしたらそれは幻覚だ。

 『カラマーゾフの兄弟』はそういう意味でも人間を描くことに成功した作品だと思う。そして、最高の完成度でもってそれを達成している。

 さあ、ここで一瞬頭をよぎる問題がある。

 ――さぁ、この作品を読んでしまった今、これから何を読めばいいのだ!――

 これに関しては村上春樹氏が言った言葉を借りて答えにしたい。

――――――以下、引用
 自分がいつか成し遂げたいと思っていることは、もっとやさしくて読みやすい現代の『カラマーゾフ』を書くことだ。
(……略……)
核心と言われる章「大審問官」については無理だけれど、例えば上巻冒頭の長老ゾシマの民衆とのほんの数行のやりとりの中にも書きたくなるような言葉がいかに沢山あることか!
――――――

 つまり、これを読者の立場に置き換えてみよう。

 『カラマーゾフの兄弟』に描かれていることをすべて読み取ることは酷く難しい。しかし、その一部(そう、たとえカラマーゾフの数行にあたる内容であったとしても)を明確に分かりやすく描き出した作品を探すことにも価値がある。そういった作品をたくさん読み解いて、またカラマーゾフに挑むとき、きっと一歩踏み込んで読み込めるだろう。

 次回読むときに何を思うのか……。


この感想へのコメント

1.芦原直也 (2007/12/03)
こんにちは、3巻でコメントさせて頂いた芦原です。
私はエピローグ最後の、アレクセイの演説に感動しました。今までの物語が一斉にフラッシュバックして、一見不要だと思っていた些細なエピソードも含めて『カラマーゾフの兄弟』という一つの作品であると再認識させられましたね。
2.ya_ken (2007/12/06)
>芦原直也さん
ですよね。あのエピローグはあそこまで読んできた人にとって凄く意味深い内容だったと思います。それもあそこまでの積み重ねがあったからこそなんでしょう。その積み重ねの偉大さと大胆さに感動せずにはいられません。
 

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 7

カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)

著者 : ドストエフスキー

出版社:光文社

発売日:2007-02-08

評価 :

完了日 : 2007年11月21日

 凄いぞ,ドストエフスキー。
 この3巻の勢いと言ったらもう……。読むのをやめられない、ドミートリーが町でドンチャン騒ぎを起こし、父殺しの容疑で尋問を受ける場面は本当に止まらない勢いで読めた。
 ドミートリーがどんなことを恥に感じているのか。この点で周辺人物とズレていて、そのズレがドミートリーの人間性を浮き彫りにしている。でも、ここまで丁寧に読んできた人ならばカラマーゾフ家の兄弟達がどのような点を恥に感じ、何を誇りとしているかは薄っすら感じているのではないだろうか。その感覚に身を任せればいい。

 とにかく、あと1巻を残しているが、この時点ではっきりと言おう。今年、カラマーゾフの兄弟を読み始めて本当に良かった。いや、もっと早く読んでおけばよかった。


この感想へのコメント

5.ya_ken (2007/11/26)
>KUMIさん
ぜひぜひ探してみてください。
他の翻訳もぱらぱら捲ってみると違いが分かると思いますよ。
6.ya_ken (2007/11/26)
>芦原直也
現在4巻の半ば。ここに来て感じたのは「この作品はただの哲学・思想小説ではなく、エンターテイメント小説としても十分に楽しめるものだ」ということですね。4巻を読了したら感想を書きますので、良ければ読んでやってください。

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 10

カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)

著者 : ドストエフスキー

出版社:光文社

発売日:2006-11-09

評価 :

完了日 : 2007年11月18日

 カラマーゾフもやっと二冊目を読了した。いやはや、その中身の濃いこと濃いこと。特にこの二冊目には、かの有名な「大審問官」の節がある。この節だけでも一つの作品として完成されていると共に、この部分がカラマーゾフの兄弟の中核を成すという人もいるくらい大事な部分だ。
 その中身は神学に疎い俺には難しいが、けっして難しいだけでつまらない内容ではない。俺はネットで調べたりしながら出来るだけちゃんと読み込んだつもりだ。
 「大審問官」だけでなく、ゾシマ長老が死ぬ際にした説教の中身が描かれているが、その中身も濃い。ひたすら神や愛について描かれている。
 これらの部分を読みきれるかどうかが一つの境目になるのかもしれない。俺は楽しんで読めたが、駄目な人もいるだろう。しかし、一方では兄弟間の関係が面白くなってくる。神云々が分からなくても思い切って読み飛ばしてしまって読了してみて欲しい。

 ちなみに俺はゾシマ長老が死んで、アリョーシャが泣いているシーンで泣きそうになった。


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 15

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

著者 : ドストエフスキー

出版社:光文社

発売日:2006-09-07

評価 :

完了日 : 2007年11月12日

 今までドストエフスキーの作品は『罪と罰』と『白痴』を読んできた。どちらも凄く面白かったし、読み応えもあった。そして、今、こうしてカラマーゾフの兄弟を読み始めて、さらなる面白さと読み応えへの期待が大きく膨らんでいる。
 この1冊目はほとんどが登場人物の紹介やそれぞれの関連性・背景といったものに費やされる。こう書くと退屈な話に見えるかもしれないが、そんなことはない。ドストエフスキーは本当に人間を描くのがうまいと思う。読んでいて「この人は今後どうなるんだ?」という期待が湧いてくる。
 この感想を書いている今、2冊目の半分くらいまで読み進んでいるのだけど、1冊目をちゃんとじっくり読んでおくことをお勧めする。そうすると2冊目移行転がるように読んでいける。


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 11

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

著者 : 村上 春樹

出版社:新潮社

発売日:1987-09

評価 :

完了日 : 2007年11月04日

 最近、小説は謎解きでもなければ、完結したドラマでもない、という考えがある。中途半端に始まり、中途半端に終わってもいいんだ。
 小説っていうのは性質の違いこそあれ、謎や不思議を含んでいる。そしてそれを解き明かしていくのが話の筋だったりするわけだ。謎というのは別にミステリー的な意味合いではなく、『ある男女が結ばれるかどうか?』という恋愛的な謎であったり、『主人公の旅がどう終わるのか?』という興味本位的な謎だったりする。そして読み終わって「あぁ、そうなるのか!」となるのが普通で、その結論をもって面白いか面白くないかを判断する人が多い。
 村上春樹という作家はわりと、謎を謎のまま残して終わる作品が多い。それも話の根幹に関わる部分を解決しないまま終わったりする。だから、彼の作品を好きになれない人がいるんだと思う。
 ところが、彼の作品のように謎を謎のまま残す作品は、謎の解決部分にメッセージや主張を込めていない。その謎自体や各人物の謎への取り組み方にそれを込めている。
 そういう考えから、表題作の『納屋を焼く』『蛍』といった作品は凄く良い作品だと思う。


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 5

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

著者 : 大江 健三郎

出版社:新潮社

発売日:1959-09

評価 :

完了日 : 2007年10月30日

 凄いぞ、大江健三郎。
 表題作になっている『死者の奢り』『飼育』を読んだ後、本当に独り言で「凄い……」と言ってしまった。あの世界観や視点が悪気の無いエグみのようなものを生み出しているんだ。『飼育』で子供達が黒人を”飼う”様子などまさにそうだ。子供達は別に黒人を虐待したり差別したりしているわけではない。作者が言いたいこともそうじゃないはずだ。だからこそ、エグい。
 『死者の奢り』で淡々と死体を運ぶ様子や管理人の死体に対する思い、そしてその労働が無意味に終わるというストーリー。どれをとっても凄いとしか思えない。気持ちが悪いとか、暗いとか、そういうことじゃないんだ。
 
 他の短編に関しては表題作ほどの衝撃は無かったものの、標準以上の評価をしてもいいと思う。
 大江健三郎作品を読むならここから始めてもいいのではないかな?


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1.パートママ (2007/11/01)
もう一度読み返したくなりました。どこかにあるはずと探したら、ブックオフで売ってしまってました。残しておけばよかった。古いのに新しい感じしませんでしたか。
2.ya_ken (2007/11/02)
本当に今でも読める作品ですよ、これは。
久々に衝撃的な作品でした。手元に置いておきたい作品ですよね。
 

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 2

真夜中の犬 (光文社文庫)

著者 : 花村 萬月

出版社:光文社

発売日:1997-06

評価 :

完了日 : 2007年10月26日

 俺は花村萬月が好きだ。
 あの暴力と性描写だけを通して描くような乱暴な小説に新鮮で普段と違う視点を感じるのだ。近親相姦や同性愛といった少し異常な性癖を割とサラッと書いてしまうのが彼の作品の良さなんだ。普段だったら目をしかめるような状況も、花村萬月の作品ではその行為を通して見る精神世界を見ることになり、行為に目をしかめることなく、意図を汲み取れる。
 と、褒めちぎってきたところでこの作品の感想を書こう。
 『真夜中の犬』もやはり暴力と性描写で構成された作品だ。数人の女と狛犬と呼ばれる危険な男と共に主人公の貢が行動するのだが、その間に喧嘩したり、セックスしたりと忙しい。最初に書いたようにこれらの行為の裏にある意図を感じながら読むのだが、如何せん一つだけ拭えない気持ちがあった。それは”飽き”だ。
 花村萬月の作品はいろいろ読んだ。どれも面白かったし、それは嘘じゃない。ただ、作品を構成する道具がいつも同じなんだ。個人的には『ゲルマニウムの夜』が好きだった。この『真夜中の犬』も面白いが、材料が近いから読むなら『ゲルマニウムの夜』の方がいいと思ってしまう。
 
 なんだか、この作品の感想というよりも花村萬月の作品全体に対する愚痴になってしまった。結論としては俺は花村萬月の作品が好きだけど、少し飽きてきたってところか。


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