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ぎんこさんの読書ノート

2006年読んだ本
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硫黄島の星条旗 (文春文庫)

著者 : ジェイムズ ブラッドリー,ロン パワーズ

出版社:文藝春秋

発売日:2002-02

評価 :

完了日 : 2006年10月15日

 父親が国のヒーローだとしたら、その子供はどう思うだろうか。しかも、父親が自分がヒーローということを否定し、何も語らずに死んでしまったら?この本の作者、J・ブラットリーはずっと父親のことを考えていたに違いない。そしてこれからも、父親のことを想い続けるだろう。
 
 1枚の写真がある。6人のアメリカ軍兵士が日本の硫黄島にある擂鉢山の頂上に星条旗を掲げる写真。アメリカで最も有名な写真と言っても過言ではない写真。彼らは何者なのだろうか。彼らはどこから来て、どのような人生を送ったのか。太平洋戦争から半世紀以上過ぎた今、彼らの真実の姿は意外にも知られていなかった。星条旗を掲げた男たちの1人、ジョン・ブラッドリーの息子、ジェームス・ブラッドリーは写真に写った父を含むアメリカ兵6人が、擂鉢山に来る以前のこと、英雄になった時のこと、そして彼らがどのように生き、死んでいったのかを綿密に調べ、1冊の本にまとめた。そこに書かれた男たちの人生は、どこにでもいる若者の人生であり、後世は英雄という肩書きに、あるものはうかれ、あるものは沈黙を守り、あるものは破滅していった。
 
 硫黄島の戦闘は凄惨であり、日本人にとっても重要な意味のある戦闘である。だが、この本では硫黄島の戦闘についてはそれほど詳しく書かれていない。作者の父親と5人の男たちについては語られるが、それはミクロの視点であり、戦闘全体を俯瞰するマクロの視点はあまりない。時々作者は歴史学者の視点に立ち意見を述べるが、正直日本人の私には腹立だしい部分も少しはあった(訳者もあとがきで述べているが)。結局、この作者は戦争そのものを調査したり検証したいわけではなく、父親探し(それはすなわち自分探しなのだろう)をしたいだけであって、硫黄島の戦闘を真面目に知りたい人にはこの本はあまり役に立たないかもしれない。
 
 しかし、私はそれでもこの本は良い本だったと思うし、感動した。それは、この本はあくまで「父親」の物語だからである。子供ならば、父親が何を行い考えていたのか知りたいだろう。その思いは誰でも、どんな国の人間だろうが同じである。だから原題はFLAGS OF OUR FATHERSなのだ。父たちの星条旗、父たちの物語。その点では邦題はやはり「父たちの星条旗」の方が良かったのではないかと私は思う。(2006.10.15)


この感想へのコメント

1.madi (2007/12/04)
この硫黄島の星条旗というのは日本以外の国ではアメリカで数回切手図案(45年に一度1995年の50周年に一度など 20世紀の大事件として扱われています。たしかにアメリカにとって最大の被害があった戦闘ですから、アメリカにとっては大事件です)になっており、英語圏では説明不要の自明のものだったようです。
2.ぎんこ (2007/12/04)
コメントありがとうございます
アメリカでは有名な戦闘というのはこの本を読めばわかりますし、有名な銅像もあるし切手の話も本に出てきたのでわかりますが、歴史というものはいつでも新たな発見があります。この本では過去の歴史の洗い直しや発見をまとめた本(つまり歴史について)ではなく、あくまで身内の(特に父親の)話であり、そこが感動的なのではないか…と思いました。
 

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モーダルな事象 (本格ミステリ・マスターズ)

著者 : 奥泉 光

出版社:文藝春秋

発売日:2005-07-10

評価 :

完了日 : 2006年08月24日

久しぶりに分厚い日本の小説、しかもミステリを読んだ。評判の高い作品だけあって、さすがに面白かった。本編の主人公、桑潟幸一は冴えない短大の文学部助教授で、自分の仕事がパッとしないことがよーくわかっているダメ男だ。でも、文学というジャンルに未練があり、成功することをいじましくも望んでいる。そんな時に転がり込む無名の作家の未発表原稿。売れるはずがないと思われたが、意外に本はどんどん売れていく。このへんは最近の売れる本のブームをこばかにしているようで笑えるものがある。それと、大学生に対するかなりキビシイ評価は作者自信も大学教授である経験から書いたものなのかもしれない。
 
 この物語はミステリとしての仕掛けがある。ひとつのパートは事件に巻き込まれる桑潟もとい桑幸のパートだが、事件が進むにつれ、次第に幻想小説のような雰囲気になっていく。もうひとつは元夫婦の諸橋倫敦と北川アキの探偵パート。こちらのパートの方がいわゆる「ミステリ」になっているのだが、探偵役の2人が事件に深く絡まないので、このミステリパートが面白くないわけじゃないが、物語に引き込まれない。自分としては序盤の桑幸パートがとても楽しかったので、元夫婦探偵パートはちょっと退屈だった。だが、この2人もとぼけた味わいでキャラクターとしては気に入っている。

 読み終わって知ったのだが、この作者は芥川賞作家で、ミステリ作家ではなく純文作家だった。私としてはミステリの部分よりも笑える部分や幻想的な部分が好きだったので、ぜひ他の作品も読みたいと思った。(2006.8.24)


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