たなぞう

WEB本の雑誌

ぎんこさん > 読書ノート

ぎんこさんの読書ノート

2007年読んだ本
-
<前のページ 1  2  次のページ>

 

みんなの感想を読む
 3

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-2)

著者 : スタンダール

出版社:光文社

発売日:2007-12-06

評価 :

完了日 : 2007年12月20日

 本作「赤と黒」は、若き主人公ジュリヤンの軌跡を描いた作品ですが、ジュリヤンに多大な影響を与えたのが2人のヒロインです。彼女たちは、19世紀という抑制された時代に生きながらも、意思を持つ女として生き生きと描かれています。

1人は前編に登場したレナール夫人。出会った当時、ジュリヤンはレナール夫人に関心を持ちませんが、母のような包容力と激しい愛情を持つ美しいレナール夫人に惚れ込むようになります。女子修道院からすぐに結婚生活に入り世間をほとんど知らない彼女にとって、ジュリヤンとの恋が初めての「自由」であり、自らの意思で望んだことでした。罪の意識に苦しむ姿は、ちょっと現代の感覚ではわからない部分もありますが、これは宗教上の問題でしょう。不倫という事実に苦しみつつも、ジュリヤンへの愛は失わないレナール夫人の姿は、ラスト近くでは雄々しさまで感じられます。

 そして、もう1人のヒロインはパリ社交界の花形、令嬢マチルドです。19歳の美しい少女ですが、高貴な生まれのせいかプライド高く、自分の将来がわかりすぎて退屈しきったマチルド。今まで自分のそばにいなかったタイプのジュリヤンに次第にのめりこんでいきます。計算高いマチルドと疑り深いジュリヤンの恋は、かけひきというより謀略、といった方がぴったりくるくらいです。しかしまだ若く、本気の恋をしたことのないマチルドは「ジュリヤン(という素晴らしい男)を好きな自分」が好きなのであって、本当にジュリヤンに身も心も捧げている、というわけではありません。伝説のヒロインに自分を重ね合わせることで自己愛にひたっています。ですが、彼女は19歳。このような感覚を10代〜20代で経験した女性も多いでしょう。マチルドはこのような自己本位の部分もありますが、賢いゆえに王侯貴族の時代が終わるのではないか、と時代の空気を感じ取ってもいます。そういう予感もあって、ジュリヤンに惹かれていき、自らの地位すらも手放そうとします。

 野心を持ちながらも金への欲がなく、愛情など出世の道具と思いつつも女性を真剣に愛してしまう矛盾したジュリヤンは、栄達への道を目前にしながらも、激しい感情によって過ちを犯してしまいます。最後に自分の幸せは何処にあったのかを悟るジュリヤン。神を信じない彼が、最後の最後には穏やかな気持ちだったというのは、哀しくも皮肉です。

 19世紀に書かれた「古典」ともいえる作品ですが、現代文学の先駆けといえる描写が多々見受けられ、現代の私たちの心にひびく物語だと思います。(2007.12.20)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 5

赤と黒 (上) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-1)

著者 : スタンダール

出版社:光文社

発売日:2007-09-06

評価 :

完了日 : 2007年12月11日

 野心あふれる若い男が目指すものは、地位、金、女。それは古今東西変わりません。格差社会だのワーキングプアだの、流行の言葉も閉塞感いっぱいな現代日本。そんな今こそ読まれるべき本、その名は「赤と黒」。主人公はジュリヤン・ソレル。若くハンサム、それだけが武器の男です。貧しい大工の息子として生まれたジュリヤンは、ナポレオン失脚後の19世紀フランスで、窒息しそうな生活を送っていました。心の支えはナポレオンの著書「セント・ヘレナ日記」だけ。しかし、ナポレオンに傾倒していることは、王政復古の時代に公言する事は出来ません。

 そんな屈折したジュリヤンに転機が訪れます。町長の子供たちの家庭教師になったジュリヤンは、次第に頭角を現します。そして町長レナールには美しい夫人が…。もちろんジュリヤンとレナール夫人の間には恋が芽生えるのですが、レナール夫人の葛藤は激しいものです。不倫は神の教えに背くことであり、子供が病気になれば神の罰だと苦しみます。一方ジュリヤンは出世のため僧職についてますが、根本的に無神論者で神の罰など信じていません。
 
 ジュリヤンにとって、レナール夫人との関係は貴族階級への挑戦に過ぎませんが、だからといって恋心がないわけでもありません。美しい夫人に本気で恋してしまいます。出世欲と本気の恋、だれよりも強い自尊心と生まれからくる卑屈さ、アンビバレンツな感情を持つジュリヤンは、複雑な面を持つ人間像で非常に面白いし親近感もわきます。特に男性なら、一度は経験ある感情ではないでしょうか。

 「赤と黒」というと、昔の文学全集には必ず収録されていた難解そうな古典というイメージですが、現代に通じるところもたくさんある、大変面白い小説です。19世紀、一般市民が力をつけ、貴族社会が形骸化した時代にサラリーマン・ジュリヤンの野望はどんな結果を迎えるのか。下巻が楽しみです。(2007.12.15) 


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

ベルリン1945

著者 : クラウス・コルドン

出版社:理論社

発売日:2007-02

評価 :

完了日 : 2007年12月09日

 コルドンの「ベルリン三部作」最終巻です。1945年はドイツ敗戦の年ですが、本作はヘレの娘、エンネが主人公となります。ヘレは投獄されており、祖父と祖母を両親だと思って育ったエンネ。彼女が7つのころに戦争が始まったので、戦争のある生活しか知りません。空襲に怯え、食料もなく、さらに学校ではナチスの教育しか受けられなかった時代に、エンネは両親の真実を知り父ヘレと再会します。ヘレも「1919」で突然の父の帰還にとまどいますが、娘であるエンネも収容所から帰ってきた父と距離感を感じています。
 
 「1933」から12年。ゲープハルト一家はこの期間に様々な試練に耐えていたことがわかります。家族の死、マルタとの別離。ゲープハルト一家は傷をかかえながらも、戦争が終わることに希望を持っています。ですが、エンネはそんな家族の歴史を知らされていないので、父や見知らぬ叔母にとまどい、動揺します。真実を知ること、それは大人への第一歩なのかもしれませんが、敗戦という動乱期に大人にならざるをえないのはエンネにとって辛いことでしょう。ですが、エンネはひとつひとつ運命を受け入れ、成長していきます。
 
 ドイツが敗戦しようと、ナチスが崩壊しようと、人々は生き続けなければなりません。敗戦後のベルリンの様子もエンネの目を通して描かれます。ソ連軍の横暴なふるまいによる事件も多々発生しますが、しかし紳士的なソ連軍人もいます。ナチスに傾倒していた近所の住民も、ナチスの敗北が決定的になると、自分は反ナチスだったという「アリバイ作り」にはげんだり、終戦後はナチス党員だということを隠してヤミ市で荒稼ぎしている人もいます。ナチスに従った人々でも貧しい層は、ただ単に裕福になりたかっただけで、心からナチスに心酔していたわけではなかったのでしょう。だが、マルタの夫のような真面目な党員は、自らの行動を悔いて最前線に志願し、戦死していました。マルタも貧しさからナチスに傾倒した一人ですが、家族と実の兄ヘレとの関係の亀裂に苦しみます。「1919」を読んだ読者なら、ヘレとマルタの幼い日々を思い出し切なくなるでしょう。
 
 戦争が終わることによって、なんとか自分を取り戻そうとするヘレですが、自らの信条であった共産主義がどうなったか、モスクワにいた党員ハイナーに聞いてショックを受けます。結果的には、ロシアもドイツと同じように独裁主義となり、ユダヤ人差別などをしていました。なかなかハイナーの話を信じないヘレは、今後ドイツ分断という悲劇にどうやって生きていったのでしょうか。この本では終戦直後で話は終わり、その後の家族はエピローグの簡単な説明でしか語られません。冷戦時代のゲープハルト一家も読みたかったです。(2007.12.16)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 2

ベルリン1933

著者 : クラウス コルドン

出版社:理論社

発売日:2001-02

評価 :

完了日 : 2007年12月05日

 前作の「ベルリン1918」から14年後、ヘレの弟で14歳になったハンス坊やが主人公になったのが本作「ベルリン1933」です。ナチスが政権を握る前夜を描いています。訳者あとがきによると、日本人になじみのうすいドイツ革命を扱った「1919」よりも先にこの「1933」を刊行したそうですが、ドイツの政情や人々がどのようにナチスを受け入れたのか(もしくは反発したか)、それとゲープハルト一家とその周辺の伏線を味わうには、やはり「1919」から読んだ方が良いでしょう。大きくなったハンスや姉妹のマルタの意外な行動など、前作から読んでいれば驚く設定が多々ありました。

 失業率が高い1933年のドイツで、ハンスは就職が決定し、初出勤です。家族のほとんどは失業中で、ヘレは政治活動を理由に仕事をクビになってます。真面目に働いていた母親もあっさりとクビになっていて、家族は困窮状態。仕事場でナチス党員に激しくいじめられるハンスですが、辞めることもできません。前作の主人公ヘレと違って、基本的にはノンポリで体操が好きなハンス。そんな彼はミーツェというユダヤの血をひく少女と出会い恋をしながらも、混乱のドイツで何を見てどう生きることを決意するのか。この本は14歳という若いハンスの青春物語であり、残酷な歴史の中で生きる少年と家族のホームドラマでもあります。
 
 ナチスドイツを描いた本は児童書でも多いですが、本作の特徴はドイツ革命から歴史の流れを書いたこと、あくまでゲープハルト一家の視点からみたドイツにしたこと、です。庶民にとって、大きな政局の流れははたから見ているに過ぎませんが、それゆえに大多数の読者である「一般市民」から見た戦争がリアルに描かれています。一般の国民にとって、国内の政治や国際情勢よりも家族の方が大事でしょう。ですが、その大きな流れによって家族は数奇な運命に巻きこまれていきます。ゲープハルト一家にも不吉な影が漂いながらも、希望を持つハンスとミーツェの姿はまぶしく、哀しく見えます。(2007.12.15)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 3

ベルリン1919

著者 : クラウス コルドン

出版社:理論社

発売日:2006-02

評価 :

完了日 : 2007年12月03日

 ジャンルとしては児童書になる本書ですが、大人が読んでもまったく遜色ない作品です。ドイツ本国ですら忘れられかけているというドイツ革命を、一般庶民の少年ヘラとその家族を通して描いています。

 1918年に起こったドイツ革命は、国王を国外追放するという大きな成果を上げますが、結果的には権力者はそのまま政権に残ってしまい、真の革命はなされませんでした。その政治的混乱は長引くことになり、結果的にナチスの台頭を招くことになってしまいます。

 この物語では、貧しい主人公一家がどのように日々を過ごし、社会を見てきたかを細かく描いているので、ドイツ革命になじみのない日本人の私も、革命を身近に感じることが出来ました。今の時代から見ると、ソ連も崩壊し社会主義は衰退してしまうのがわかっていますが、この物語を読むと人々が何を求めていたか、何を望んでいたのかよくわかります。当時の人たちを現代のものさしではかることは出来ません。

 時代背景がしっかり描かれているので歴史小説としても十分楽しめますし、社会に絶望し、それでも希望を失わない人々の人間ドラマとしても面白いすぐれた小説でした。(2007.12.3)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 6

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)

著者 : 佐藤 優

出版社:新潮社

発売日:2007-10

評価 :

完了日 : 2007年11月11日

 文庫が出たので読んでみました。
 
 思ったより面白かったです。もちろん作者が経験したことを書いたノンフィクションですけど、クライムノベル、サスペンスとしても読めると思う。「陰謀の〜」「諜報部員○○」とかいうタイトルが好きなら絶対楽しめるでしょう。
 
 内容は、あのムネオハウスで巷の話題になった「鈴木宗男事件」。その捜査の過程で捕まった作者が語るもうひとつの側面の「鈴木宗男事件」。鈴木宗男はあんまりいいイメージがなかったけど、この本読むと全然違う。

 佐藤優に対してのイメージも、あの見かけと「ラスプーチン」という名称で、なんだか陰湿な官僚のイメージがあった。だけどこの本を読んで彼はそこまで重要なポストの人間じゃなかったことを知った。出身大学も同志社だし(官僚の場合、東大だと出世コースからして違うらしい。派閥もあるし)、大学で教えた経験もある学者肌の官僚。仕事内容も、お金を動かしたりする責任者というよりは、実際に動いて情報を集めたりしている。まあ警察でいうと、署長さんというより刑事さん。しかも熱心な。
 
 だから悪いことするといっても限りがある。刑事さんの汚職と署長さんの汚職じゃスケール違う。佐藤優がなんかやらかしたとしても、そこまでの事は出来ないだろう。で、署長さんクラスは逃げちゃったりしてる。結局、鈴木宗男目当てで捕まってしまた運の悪い人だった。
 
 でもこの人の面白いところは、獄中でもそれなりに何かを得てるとこかもしれない。精神的にまいってしまう人も多いし、本人も辛かっただろうけど、結局こういう本にまとめたり、語学の勉強をしたりとなかなか充実した獄中生活。獄中の日常についても少しふれているが、これがまた面白い。この経験から何か小説かけば、ラスプーチンからドストエフスキーになれたかも…?。宗教の専門家ですし。
 
 この文庫版は解説が川上弘美だが、あっていないと思う。せっかく解説をつけるなら、この著者を助けた編集者とか、ベタだけど事件を良く知るジャーナリストとかが良かった。(2007.11.11)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 26

ウォッチメイカー

著者 : ジェフリー・ディーヴァー

出版社:文藝春秋

発売日:2007-10

評価 :

完了日 : 2007年11月06日

 リンカーン・ライムシリーズ第7弾。今回は装丁も変わって心機一転です。前作の「12番目のカード」がかなりイマイチだったせいか、期待は高まります。
 
 で、感想はというと、今回は前作よりは面白かったと思うし、持ち味であるドンデン返しもしっかりあるし、エンタメ系ミステリとして楽しめました。犯人の「ウォッチメイカー」のキャラクターもいいし、これまた巧妙な手口がライムの敵にふさわしい。
 
 ですが、さすがにネタ切れしてきたのか、ライムの活躍より今回のゲストヒロイン、キャサリン・ダンスの活躍の方が目立ってるような気が。これは「魔術師」でもそうだったけど、ライムの捜査方法がマンネリになってきたので、ゲストヒロインが活躍しちゃうというパターンが出来たのかも…。ダンスは別作品では主役を演じるそうで、個性が強すぎるかもしれない。
 
 今回はラストがある意味驚き。賛否両論あるんじゃないかと思う。途中で「ボーン・コレクター」の登場人物がちらっと出てきたりするので、シリーズのおさらいもしたいところ。
 
 トムは今回、出番はまあまあ。「リンカ−ンは気に入った相手には名字で呼ぶ。だから自分の名字は一生呼ばれない!」というセリフに爆笑。最終巻までトムの名字は出てこないかも??(2007.11.6)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

碁を打つ女

著者 : シャン・サ

出版社:早川書房

発売日:2004-08-25

評価 :

完了日 : 2007年10月23日

 フランスで「リセ(高校生)が選ぶゴングール賞」に選ばれた作品。著者は中国人だが、10代でフランスに渡りフランス語でこの作品を書いた。
舞台は1937年の満州。主人公の少女は高校生だが、碁を打つことが好きで公園に通う。社会が戦争によって混乱していく中でも、少女は恋をし、女としての自立は何かと考える。もうひとりの主人公、男は軍人として満州に赴き、軍人として名誉ある死を選ぶこと、そしてその反対側にある情愛をも欲している。そんな2人の主人公の心情が碁の対局のように、交互に書かれる。
主人公たちの愛は悲劇だが、描写は幻想的で生臭くなく、主人公の少女の思考は現代の少女にも共感できる部分が多いだろう。そういう所が幅広い読者にうけいれられたのかもしれない。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

コレクター (上) (白水Uブックス (60))

著者 : ジョン・ファウルズ,小笠原 豊樹

出版社:白水社

発売日:1984-07

評価 :

完了日 : 2007年10月22日

 監禁小説の元祖とも言える作品です。テレンス・スタンプが怪演した映画があまりにも有名ですが、原作も素晴らしいと聞いたので読んでみました。
映画では主人公フレデリックの行動が主でしたが、小説では監禁されたミランダの日記が後半に出てきます。彼女は監禁された間もそれまでの自分の人生を考えており、そこにフレデリックの入る余地はありません。フレデリックが彼女に取り入ろうとしても、結局彼女を独占することは絶対にできない、ということが日記の存在でよりいっそう明らかになっています。
ミランダの社会主義的な考えや愛読書が「ライ麦畑でつかまえて」だったりする部分が、時代を感じるなあと思います。いまどきの女の子だったら、ミランダの様に悩むことはないかもしれません。ミランダはフレデリックの事をキャリバンと呼びますが、これは物語でもかかれているようにシェイクスピアの「あらし」から。こちらのミランダはハッピーエンドですが…。
 結局のところ、フレデリックはミランダの「外側」が気に入っていて自分の生活に取り入れたいだけ。彼女の中身はどうでもよかった。だから最後はあっさり代わりを見つけます。森の中で倒れる木のように、決して外には聞こえないミランダの叫び声。読んだあと、なんとなく鬱になってしまう本です。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 5

本棚探偵の回想 (双葉文庫 き 15-2)

著者 : 喜国 雅彦

出版社:双葉社

発売日:2007-10

評価 :

完了日 : 2007年10月22日

 前作「本棚探偵の冒険」に続いての第2弾古本エッセイです。単行本は著者検印がついてたりするコレクター向けの本ですが、ライトな私は文庫で十分です。
今回も古書についてアツく語ってますが、前作に比べるといささかパワーダウン。ですが、不況の出版界のために大金5万円(十分大金です)で新刊を買うぞ!とか、足フェチアンソロジーを編んでみよう、さらにミステリのトレーディングカードが欲しいから自分で作ってみた!など、あいかわらずトバしてます。ミステリに詳しくない私には、ミステリ以外の本について語ってる部分が意外と楽しめました。埴谷雄高の「死霊」は年とったらゆっくり読むためにとっとく!みたいな。何にせよ、本好きには十分楽しめる内容です。表紙もステキ。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 5

弟の戦争

著者 : ロバート ウェストール

出版社:徳間書店

発売日:1995-12

評価 :

完了日 : 2007年10月01日

少年の弟、フィギスは小さい頃がら他人にシンクロする性質だった。弱った動物を見れば両親や兄に「助けてよ」と訴え、そうするまで絶対にゆずらない。難民の子供の写真を見れば、食事もせずに別の世界へ行ったかのようにふるまう。とまどう両親と少年だったが、あのイラク戦争が始まるまでは、まだ幸せだった…。フィギスはイラクの少年とシンクロしてしまい、アラビア語を寝言でつぶやくようになる。

 そんな話です。戦争というテーマをよく描いてきたウェストールですが、これはイラク戦争という最近の戦争を書いているので、現代人にガツンときます。戦争には、必ず敵がいるのだけど、その敵が人間であること。それをなぜか忘れてしまっている人間を痛烈に批判しています。しかし、少年の父親や少年の同級生は、当時のイギリスにはごく普通にいた人たちでしょう。それも戦争の一面なのです。そういう部分もウェストールは逃げずに書いてるのが凄いと私は思います。
 
 非常に重いテーマを易しく、しかし真っ正面から書く児童文学作家って貴重だと思います。子供だけでなく、大人も一緒に読むべき本だと思いました。(2007.10.1)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 4

夢の守り人 (偕成社ポッシュ 軽装版)

著者 : 上橋 菜穂子

出版社:偕成社

発売日:2007-07

評価 :

完了日 : 2007年09月12日

 1.2巻は武人バルサの辛い過去の話が中心に進んできたが、今回はトロガイ、タンダといったシャーマンが中心のお話。元々文化人類学を研究している上橋菜穂子の本領発揮といったところで、トロガイの過去と今に至る過程は面白いし、物語の核には女性の感情ー嫉妬や強さというテーマもあり、今までとは違う味わいに仕上がっている。ただ今回は設定が多少交錯していたような。基本的には遊び人属性のユグノの魅力も中途半端だったような気がする。
だが久しぶりのバルサとチャグムの再会や、タンダを想うバルサの姿とか、色々と楽しめた作品だった。次に期待です。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

かかし

著者 : ロバート ウェストール

出版社:徳間書店

発売日:2003-01

評価 :

完了日 : 2007年09月07日

「ブラッカムの爆撃機」でファンになった児童文学作家ロバート・ウェストールの作品です。カーネギー賞を受賞してます。

 いやー、面白かった!つい夜更けまで読んでしまいました。物語は14歳の少年、サイモンが主人公。ただでさえ難しい年頃なのに、サイモンのお母さんは再婚する。相手が気に入らないサイモンは、とにかくすべてを否定し素直になれない。父親への思慕から新しい生活を選んだ母を裏切り者とののしるサイモン。そんな時、サイモンは新居の近くに水車小屋を見つける。そこはいわくつきの場所で…。
 
 ジャンルはホラーになるのかな。とにかく怖い。だけど、おばけが怖いんじゃないんです。人間の中にある憎悪、嫉妬、欲望といった感情にどう向き合っていくか。サイモンもそういったどろどろとしたものに押し流されそうになります。どこの国の子供も14歳とは恐ろしい年頃ですねー。大人の事情とかも随分わかってるし、男女の関係も察してるし。でも作者はサイモンが子供でかわいそう!という書き方はしていなくて、サイモンの子供ゆえの残酷さ、わがままさもきっちり書いてる。
 
 14歳の少年だけでなく、大人にもマイナスの感情を押さえきれない時ってあると思う。その時どうすればいいか…この本には正解も解決もないけれど、ウェストールは何かを訴えていると思う。それは読み手がそれぞれ考えることだろう。
 
 サイモンの友人、トリスがとてもいいキャラクター。秋の青空のようなスカッとした心と人の気持ちを察することに長けたどこか大人びた少年。彼がサイモンの友人になったということが、ウェストールがこの物語に与えた希望なのかもしれない。(2007.9.7)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 9

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

著者 : ロバート・アトキンソン ウェストール

出版社:岩波書店

発売日:2006-10

評価 :

完了日 : 2007年08月16日

 うーん、これは面白かったなあ。というか児童書なのこれ?ネットでの書評やら感想blogなどで評判は聞いてたけど、思ったより良かったです。書評に取り上げられてたのは、宮崎駿が表紙や漫画を書いてるというのも大きい。
 
 表題作「ブラッカムの爆撃機」は、WW2のイギリス空軍を舞台にした作品。主人公ゲアリーはウェリントン爆撃機(通称ウィンピー)の無線士で、他には親友の航法士キット、いわくありげな機長、通称「親父」などが主な登場人物です。これは宮崎駿の詳細なイラストがとても参考になるのですが、数人のチームで 1機の爆撃機を操縦するんですよ。この爆撃機、なんと布製。ちょっとでも火が出ようものならあっというまにおだぶつです。こんな飛行機でドイツに空爆していました。
 
 で、タイトルのブラッカムは別の飛行機の機長で、いやーなやつ。ところがある爆撃の帰還中にゲアリーたちの爆撃機はブラッカム機と遭遇する(これはかなりめずらしいらしい)。しかも近くにはドイツ空軍の夜間戦闘機、ユンカースが!

ゲアリーたちの仲間は、戦争時に集められた急ごしらえの乗組員たち。それぞれ生まれも育ちも違うが、命がけのフライトで強い絆で結ばれている。そんな彼らのドラマも面白いが、戦争という悲惨な経験が数多くの男たちの心を深く傷つけ「この世」に戻れない悲惨な様子もしっかり描いてます。それに、描写がものすごく細かい!作者ウェストールは子供に読ませるものでも、しっかりと嘘のない記述をしたいという主義だったらしい。こんな児童文学があるとは…イギリス文学の奥深さを見た。はっきりいって大人が読んでも全く遜色はない。
 
 宮崎駿の巻末マンガでは、宮崎が空想の中でウェストールに合うのだけど、「あなたの作品にはこのムゴイ世界と戦い続ける勇気と 失われたものへの愛惜にみちています。すてきです」とウェストールに言う。まさにその通りだなと思った。勇気、そして喪失。大きな意味での愛情。そんな今や陳腐とさえも言える要素が、ウェストール作品の中にはしっかり息づいている。
 
 他にも「チャス・マッギルの幽霊」「ぼくを作ったもの」という短編も収められている。前者はよくある幽霊譚と思いきや、意外なラストが素晴らしい。後者は戦争体験のある祖父と孫の交流。地味だけど「失われたものへの愛惜」にみちた良い短編だった。(2007.8.16)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 6

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫 Aフ 2-1)

著者 : ブッツァーティ

出版社:光文社

発売日:2007-04-12

評価 :

完了日 : 2007年08月11日

 「タタール人の砂漠」で知られるプッツァーティの本邦初紹介作品を含む短編集です。イタリアのカフカ、などと呼ばれるプッツァーティーですが、カフカの作品が迷宮だとすると、こちらはエッシャーの騙し絵のような、現実の中にある摩訶不思議な瞬間を描いた作家と言えるのではないかと思います。

 ですが、キリスト教の影響が大きいのと、時代に沿ったネタもあるので(冷戦など)、現代では多少古くさい印象がある作品もあるのは確か。しかし、表題作「神を見た犬」はキリスト教の立場から人間の本質を見つめた傑作といえると思います。他にも「タタール人の砂漠」のような不条理さが魅力の「戦艦<死>」や「コロンブレ」、作者自身の晩年を予測したかのような「七階」、星新一のような味わいのある「呪われた背広」など、夏の午睡に見る悪夢のような、幻想的な短編がたくさんつまってます。
光文社古典新訳文庫の異色作品としておすすめです。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 15

ロング・グッドバイ

著者 : レイモンド・チャンドラー

出版社:早川書房

発売日:2007-03-08

評価 :

完了日 : 2007年07月22日

村上春樹翻訳版「長いお別れ」ならぬ「ロング・グッドバイ」を読みました。旧訳は未読です。
面白かったです。ハードボイルド、というジャンルを読んだ事がなかったのですが、タフな主人公として有名なフィリップ・マーロウが私にはなんとなくセンチメンタルに見えてしまったり。見知らぬ酔っぱらいを助けたり、その男のために警察につかまっても不利な事は喋らなかったり…とってもかっこいいけど、どこか子供のようなシャイな所があるというか。詩に詳しかったり、一人でチェスの棋符を並べてたり、文系チックなところもある。
 
 物語の進行はかなりスローモーだ。マーロウがつぶやく部分が結構多いんだよね。金髪女はこう、だとか、有名なギムレットのうんちくとか。最近のせかせかしたジェットコースター的展開はなし。旧訳の清水さんは、原作をあえてカットした部分も多かったそうだけど、ちょっとわかる気がする。50年前に一般に読ませようとした時にあまりにも冗長すぎると思ったのかも。そのだらだらした所が文学的とも言えるんだけどね。しかし、カットしたことによって名セリフも生まれてるわけで、それが今でも「長いお別れ」が愛されてる理由だと思う。
 
 最後は二転三転するのでミステリ的な楽しみも十分だと思う。ま、でも基本的には男と男のロマンですよ。マーロウやレノックスに萌えですよ(笑)女性陣は、美しきオブジェといった所かな。だがそれがいい。男のロマンはいつも静止画なのさ。(2007.7.22)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 2

美しい星 (新潮文庫)

著者 : 三島 由紀夫

出版社:新潮社

発売日:1967-10

評価 :

完了日 : 2007年07月15日

 「星新一 一〇〇一話を作った人」に、三島由紀夫の唯一のSF作品として紹介されてたので、興味を持ちました。
で、読んでみた感想は…うーん、こんなに奇妙なSF見たことない…というか、これSFなのだろうか?当時賛否両論だったそうだけど、否の人の気持ちもわからないでもない。なんともカテゴライズしにくい、不思議小説だから。
 
 主人公は中流家庭の家族で、彼らはある日突然、自分たちが「宇宙人」という事に気がついた。だけど別に特殊な能力とか持ってるわけじゃなく、選民意識と星への郷愁だけ。その高いところからの目線で近所の人たちからは遠ざけられてたりする。家長たる父は、「UFOの会」を作って講演会を開いて世界平和を訴えている。彼らは宇宙人って言ってるけど、客観的な証拠はゼロなんで、読者はこの家族が狂ってるのか、それとも本当に宇宙人なのかはわからない。
 
 この小説の書かれた時代は、米ソの核実験が行われてた時代で、キューバ危機もあったかもうすぐか…世界が滅亡するんじゃないか?という不安のあった頃。映画や小説でも「核戦争後」がテーマの作品が多かった頃じゃないかな。今現在の世界情勢はナショナリズムによる民族の衝突、終わりなきテロ…といった、三島が書いてた頃の世界よりも複雑怪奇になってきてるので、「美しい星」を読むと若い人には違和感感じるかもしれない。ある意味単純な世界観という感じもするんだよね。生き残るか、滅ぶかの2つしかない。
 
 で、主人公の家族は「人類を助けたい派」の宇宙人なのですが、物語中盤から「人類滅ぼしたい派」の宇宙人3人が出てくる。この3人がまた人類というか、自分の身近な人間にルサンチンマン抱きまくりの小人物(小宇宙人?)。人類を滅ぼす妄想はものすごいんだけど(この妄想の描写は三島節炸裂で私は大好き)、実行は全くしてません。喫茶店でコーヒーすすりながら会合するぐらいのしょぼい悪の組織です。
 
 「人類助けたい派」と「滅ぼしたい派」が、お互いの持論を展開する部分がこの物語のクライマックスなんですけど、解説者はここを「カラマーゾフの兄弟」の「大審問官」に例えてた。「大審問官」は、神を否定するとこから始まってるんだけど(ここでの神はキリスト教の神ですが)、三島の方は、人類そのものの「業」みたいなある意味仏教的な解釈とも思えた。だけど、三島は根底では人間は愛すべき存在だと思ってたんじゃないかな。「きまぐれ」こそ人の美点だと論ずる部分を読んで私はそう感じた。
 
 この小説はSFともいえるけど、自分はディストピア小説とも、ユーモア小説とも言えると思った。いやね、三島は結構この小説で遊んでるんじゃないかと思ったのです。自分の戯曲を出して「小説家の書いたものなんか見たくない」と登場人物に言わせたりしてるし、結構遊び心あったんじゃないかと。他にもものすごくステレオタイプのハリーポッターにでもいそうな悪役おばさんが出てきたりと、割と本人も楽しく書いたのかなと思いました。(2007.7.15)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 29

狐笛のかなた (新潮文庫)

著者 : 上橋 菜穂子

出版社:新潮社

発売日:2006-11

評価 :

完了日 : 2007年06月10日

 「守り人シリーズ」でファンになった上橋菜穂子の作品が新潮文庫に収録されているので、読んでみました。さすがに手堅く面白いと思うが、設定が「守り人シリーズ」とかぶる部分も少しあるかも。あの世とこの世の境目「あわい」の設定など、上橋ワールドには定番の設定かなと思います。
物語は少女が狐を助けることから始まるという日本昔話のようなエピソードから、隣国の血を血で洗う憎しみの歴史へと展開していきます。憎しみあう人々の連鎖は断ち切れないのか?そんな人間のエゴをしっかりファンタジーでも描いているあたり、相変わらず私好みです。ただ、「守り人シリーズ」に比べると物語の深みはいまいちかもしれません。
だが、本書で特筆すべきは意外と「萌え系」なこと。主人公も多分美少女だし、主人公を慕う孤独な狐も美少年に変身します。哀しいラストも相まって、少女マンガ系のビジュアルがぴったり。「守り人シリーズ」よりも映像化向きだと思います。(2007.6.10)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 8

文学全集を立ちあげる

著者 : 丸谷 才一,三浦 雅士,鹿島 茂

出版社:文藝春秋

発売日:2006-09

評価 :

完了日 : 2007年05月19日

 昔は文学全集を持ってる家庭も多かった。出版社もそれで儲かっていたらしい。だが、その頃の人々が文学に親しんでいた…というわけではなく、多分テレビや冷蔵庫のような家電というか、家具というか、そういったものだったのではないだろうか。戦前戦後と本が貴重品であった時代に生きた人たちが、安定した生活の証明として文学全集を買っていたのだろう。
 
 で、現代はというと物質的に豊かになったし、さらに印刷技術の向上に加え流通の発達、インターネットの普及に伴う電子データ時代の到来、と出版業界も様変わりした。読み手も「本は高価な物」という意識は消えている。「早い」という言葉が何よりの宣伝文句となり、文化はどんどん消費される。小説も新しい作家が出てはまた消えていく。日本のブンガクはどうなっちゃうの?と素人の私でも考えてしまう。
 
 そんな憂いを抱いたオジサン3人が、今こそ文学全集が必要だと言い出した。読むべきとする対象は一般読者よりも若い作家。才能があるのに、すぐに消えてしまう作家は過去の名作を読んでいないからではないか…とオジサンたちは危惧したのだった。世界文学ならホメロスからSF小説まで、日本文学なら古事記から大江健三郎まで。幅広く、かつての概念を捨てて独断と偏見で選んでいる。これだけ読んでしまうのには、作家になる前におじいちゃんおばあちゃんになってしまいそうな気もするけど、確かに教養としてこれの半分、いや3分の1でも読んでいて損はないと思う。
 
 3人はそれぞれ専門分野を持つ人たちなので、ちょっと、いやかなり偏っているような気もするが、それはそれで楽しい。結局偉そうなことを言っても、文学を愛するという点では普通の読者と何ら変わりのないオジサンたちなので、やりとりだけでも十分に楽しい本なのだった。(2007.5.19)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 20

気になる部分 (白水uブックス)

著者 : 岸本 佐知子

出版社:白水社

発売日:2006-05

評価 :

完了日 : 2007年05月19日

「エドウィン・マルハウス」などで知られる人気翻訳家 岸本佐知子のエッセイ集。本業である翻訳についてのエッセイは少なく、タイトルにもあるように普段作者が「気になっている」部分をクローズアップした笑えるエッセイが多く、読みながらニヤニヤしてしまった。
 
 しかし!私は正直この本を読みながら、「イライラする部分」も多かった。なんで植物全部枯らしてしまうのよ〜とか、そんなこと勘違いする?とか。これらをすべて笑えてしまう人がうらやましい。そのような人は、きっとちゃんとした大人なんだろう。私がイライラするのは、きっと自分に身に覚えがあるからだ。笑い飛ばせない自分が悲しい。しかも、こんなに面白く書く才能もないんだからもっと悲しい。まあ、そんな事はどうでもいいんだけど、まじめに岸本さんに翻訳の話を聞きたい人以外におすすめの本です。(2007.5.19)


この感想へのコメント

<前のページ 1  2  次のページ>

Copyright c 2006 WEB本の雑誌 All rights reserved.