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ぎんこさんの読書ノート

2003年読んだ本
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 4

文学刑事サーズデイ・ネクスト〈1〉ジェイン・エアを探せ! (ヴィレッジブックス)

著者 : ジャスパー フォード

出版社:ソニーマガジンズ

発売日:2005-09

評価 :

完了日 : 2003年12月30日

 もし本の世界に入ることが出来たら?登場人物に会えたら?本好きなら一度は考える空想を、楽しくポップに書いた本です。面白かったです!

本の帯に「ハリー・ポッター」のよう、と書いてありましたが、なんとなくわかる気がします。話が似てるわけじゃないんですよ。全く異なる世界を書くのではなくて、現実とリンクしつつ、別世界を描く。ゆえに親しみはあるけど、やっぱり違う世界の面白さがあるところ。あと、造語をバンバン使って、独特の世界を作るとこ。そんな部分が似てると思いました。
 
 が、「ハリーポッター」がファンタジーのリスペクトであるのなら、こちら「サーズディ・ネクスト」は、文学へのリスペクト。副題にもある「ジェイン・エア」を始め、シェイクスピア、ルイス、ワーズワース、ポーなどの作品がちりばめられ、時にはパロディとして、時にはシェイクスピアの正体を真面目に考察してみたり。文学作品を知っている人はもちろん、「ジェイン・エア」を読んだ事のない私でも、あらすじを追ってくれるので取り残される心配はなかったです。
 
 キャラクターも魅力的。主人公のサーズデイは、等身大の女性で、ヤリ手な部分と昔の男をいつまでも忘れられない弱さも持ち合わせている。お父さんは「クロノガード」と呼ばれる、元時間警察で、今は自由に時間の中を飛び回っている。伯父さんはヘンな発明に熱心で、「文の門」という本の中に入る事のできる装置を発明して、凶悪犯ヘイディーズに狙われる。こんな愉快なネクスト家の中で、一番私が気に入ったのは、お兄ちゃんのジョフイ。一応牧師さんなんだけど、口が悪い悪い。でも、意外と信者を獲得してるし、超大真面目な事とおふざけを交互に言ったりするんです。んで、気になったのは「ジョフイはFがふたつあるスペルの方」てサーズデイが言うシーンがあるんだけど、作者のジャスパー・フォードのフォードもFが2つあるんだよね。これってただの偶然かしら?
 
 できれば「ジェイン・エア」だけでも読んでた方がいいとは思いますが、気楽に読める1冊です。シリーズ化されてるそうなので、続編が楽しみですね。こういう本から古典をたどって読んでみるのもいいんじゃないかと思いました。


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 1

蘭に魅せられた男―驚くべき蘭コレクターの世界 (ハヤカワ文庫NF)

著者 : スーザン オーリアン

出版社:早川書房

発売日:2003-07

評価 :

完了日 : 2003年12月27日

 「蘭」という花で、私が思いつく種類といえば…「胡蝶蘭」と「カトレア」かな?胡蝶蘭ってすごく高いですよね。でも、そんなに好きな花ではなかったんですが、会社の受付にある胡蝶蘭も、この本読んで少し見る目が変わりました。知ってますか?蘭って大事にすれば人間より長生きするんですって。だから、蘭コレクターは遺言状に誰に相続させるか記すそうです。そう思うと、あの胡蝶蘭の値段もなっとくかもしれません。長い間花が咲くしね。
 
 この本では、ライターのスーザンがラロシュという男に興味を持つところから始まります。このラロシュという男、すこぶるつきの「変わり者」。何かに必ず熱中しており、何年かは異常なぐらいそれに打ち込みますが、ブームが過ぎ去ると見向きもしないのです。で、スーザンが取材した時は「蘭」でした。珍しい蘭を手に入れたいあまり、フロリダ州の保護区から蘭を盗んだのです。しかも、保護区で植物を採取することを許されたセミノール族と同行し、いざという時はセミノール族が盗ったことにしよう、という用意周到さ。
 
 スーザンはこのラロシュを中心に、様々な「蘭に魅せられた人たち」について書き出します。1800年代半ばから盛んになった、蘭コレクターたちがやとった「蘭ハンター」は、文字通り世界中を駆け巡り、時には命の危機に会いつつも、貴重な蘭をイギリスやアメリカなどに持ち込みました。その中には現在見ることが出来る蘭のルーツとなってるものもあります。そして現在、蘭ブームは過熱。ナーセリー(植物を栽培する場所)での盗難、ワシントン条約に反した蘭の違法な採取の問題…。美しい蘭に熱中する人たちはさらに増えているようです。
 
 日本人の蘭マニアにも触れられています。ミチヒロ・フクシマ氏は、故福島道博氏のことで、日本航空の初代クアラルンプール支社長として赴任し、当地で蘭の魅力にとりつかれたそうで、定年退職後には家族も捨ててマレーシアに定住し、蘭の研究にいそしんだそうです。そこまでやっちゃいますか?って感じですね。
 
 蘭についてのエピソードは魅力的なんですが、もう少し各章ごとにテーマをしぼった方が面白かった気がします。中盤からダラダラした所もありました。ですが、蘭に興味のなかった私でも楽しく読めました。奥深い「マニアの世界」をのぞいてみたい方がいかがでしょう?(2003.12.27)


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 1

オスカーとルシンダ

著者 : ピーター ケアリー

出版社:DHC

発売日:1998-12

評価 :

完了日 : 2003年12月23日

上下2段組で、600p以上というボリュームのある本です。内容はタイトル通り、オスカーとルシンダという2人の男女が出会うラブストーリーですが、作者はこの2人の主人公がどのように生まれ、生きたのか詳細に描いてます。しかも、脇役たちにもかなりのページを割いているので、このボリュームも当然と言えるかもしれません。
 
 この物語の中心にあるのは、「賭け」です。オスカーは厳しい戒律を守る父のもと、クリスマスプティングも食べさせてもらえません。親子は愛情で結ばれてはいるのですが、母の不在とオスカーの「宗旨替え」で、仲違いしてしまいます。成長し、ギャンブルに熱中するオスカーは、牧師として、神を信じる一人の信徒として罪の意識に苦しむあまり、オーストラリアでの布教を決意。旅の船の中で出会ったルシンダも、ギャンブルに熱中していますが、こちらは宗教でなく、女であるゆえに引け目を感じ、自らの工場にも口を出しにくい状況に歯痒さを感じていました。「賭け」と「罪の意識」がセットになった2人は似た者同士と言えます。
 
 普通、賭けというとお小遣いが欲しいとか、まぁ要するに「金」目当てですが、オスカーとルシンダにとって賭けはそんなものではありません。生きる情熱であり、賭けをしている時こそ最も輝く瞬間です。勝ち、負けは関係ありません。ルシンダが「負けると体が軽くなる」というようなセリフをはきますが、負けて懐が軽くなるのではなく、心が軽くなっちゃってるのです。うーん、変わり者。そんなルシンダを愛しちゃったオスカーは、あるとんでもないギャンブルにでます。
 
 「賭け」「宗教」をメインにし、女性の差別や社会進出、そしてケアリーの故国であるオーストラリアの歴史など、様々な要素がてんこもりの力作です。私は、宗教について勉強不足なので、そのあたりがよくわからなかったのが残念ですが…。
 
 で、面白かったのが、ルシンダが出会うパクストンという男。彼は実在の人物です。ジョセフ・パクストンは公爵家の庭師で、様々な品種を手がけた天才でした。一番有名なのが、ロンドン万国博覧会で作られた水晶宮です。これはガラスでできた壮大な温室で、当時はとても斬新だったそうです。作者は、ガラス工場を経営していたルシンダに作中で出会わせてますが、面白いアイデアだと思いました。これを知ったのは、同時期に読んでた「蘭に魅せられた男」というノンフィクションでした。ちょっとした偶然で驚きましたです。はい


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 1

女の小説 (光文社文庫)

著者 : 丸谷 才一,和田 誠

出版社:光文社

発売日:2001-09

評価 :

完了日 : 2003年12月18日

 バイアットの「抱擁」についての文があると聞いて読みました。

女の小説、というタイトルですけど、女性が主人公の小説の話、というわけではなく、女性が書いた本の話なのです。いわゆる「女流作家」ですね(最近聞かない言葉だけど)。とりあげている作家は、紫式部に始まり、コレット、ヴァージニア・ウルフ、パトリシア・ハイスミス、マルグリット・デュラスなど、本好きならどれか一つでも読んだことがあるだろうし、読んだことがなくても内容ぐらいは知ってる本。元々雑誌に連載されていたエッセイなので、どれか気になるのだけ読んでみてもいいでしょう。
 
 で、私は紹介されてる作品のうち、読んだことがあるのは…半分もないかな(^ ^;)。オースティンは最近「高慢と偏見」読んだけど、紹介されてるのは「マンスフィールド・パーク」だったし。一番読みたかった「抱擁」についてのエッセイ「詩人たちと学者たち」は面白かったです。丸谷さんは、この本の主人公ローランドとモードを「学者としての作者の分身」であり、19世紀の主人公であるアッシュとクリスタルベルを、「詩人としての作者の分身」ととらえます。なるほど〜。4分割ってのはすごいね。あと、アッシュの手紙がはさまっていた本にもちゃんと意味があり(興味のある方はぜひ本文を読んで)「文学的含意がある」と語る。知らなくても本の感動が変化するわけではないけど、そこまで作られた作品なんだな、とさらに好きになっちゃいそうです。うーん、でもこのエッセイは、本を読んだ人の方が楽しめるかも。ねたばれということもないけど、あんまり筋は知らないまま読んで欲しいな、と思いました。「抱擁」という本が好きだから、よけいにそう思うのかも。
 
 樋口一葉の「たけくらべ」の新説にも驚いたし、ハイスミスの書く主人公トム・リプリーにヒトラー伝説というモチーフがあったなど、どれもフムフムと頷く興味深いエッセイです。有名な本を読んでみたいけど、とりあえずさわりだけしりたいわ、という方にもいいんじゃないでしょうか。(2003.12.18)


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 2

高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫)

著者 : ジェーン オースティン

出版社:岩波書店

発売日:1994-07

評価 :

完了日 : 2003年11月27日

 イギリス文学の代表作ともいえる名作。ラブストーリーであり、ホームドラマでもあるので女性には特に楽しめるのではないでしょうか。

まず私はこの「高慢と偏見」を読む前に、イギリスのBBCが制作したドラマ版を見ました。ドラマの放送時、通りから人が消えたほどイギリスでは人気のあったドラマだそうです。私も、見るまでは「名作のドラマなんて、私には楽しめないだろうな」と思い込んでましたが、いやー面白かったです。原作をほぼ忠実にドラマ化してますし、読んでいる方も読んでない方も、一度お試しあれ。
 
 んで、本の方はドラマでストーリーを知っているので、ドキドキ感は無かったものの、やはり楽しめました。特に下巻は一気に読めましたね〜。この物語は、まずエリザベスとダーシーのラブストーリーです。第一印象サイアクの男女が、数々の誤解をしながらも次第に打ち解け、いい感じになっていく。舞踏会をコンパとかに変更すれば今すぐにでも現代のドラマに出来そうです。そして、ベネット家の愉快な面々のホームドラマ。書斎にひきこもる事だけが楽しみの皮肉家のパパ、娘の結婚に熱心で、思い込みの激しいママ(どこかウチの母に似ている)。その他にはライト感覚な妹や、鼻持ちならない従兄など、オースティンは愉快に、そしてクールに登場人物を描きだし、イキイキとした表情を見せてくれます。
 
 オースティンの描いた世界は、確かにいくつかの家族と、小さな土地がすべてであり、せまーい世界です。ですが、人はどんな生き方でも、所詮そのくらいの世界でしかみな生きられないのではないでしょうか。家族、結婚、そんなテーマだからこそ、この物語は現代を生きるわたしたちが読んでも、楽しめる作品なのだと思います。タイトルに対する「偏見」は、とりあえずどこかにうっちゃってしまって下さい。今も昔も変わらぬものが、この作品にはあると思います。


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 1

ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験―北米アパラチア自然歩道を行く

著者 : ビル ブライソン

出版社:中央公論新社

発売日:2000-06

評価 :

完了日 : 2003年11月22日

 米アパラチア自然歩道を歩くオジサンたちの努力と笑いのエッセイです。「ドーナッツをくれる郵便局と消え行くダイナー」で知ったブライソンおじさんのトレッキング奮闘記。おもしろかったです。
 
 で、まず「北米アパラチア自然歩道」ってどこよ?と地図を見てみますと、アメリカの南部ジョージア州から、カナダの近くのメイン州まで。かなり距離がありますね〜。これをず〜っと歩き通すワケ?それはすごすぎる…と思ったら、人によっていろいろなパターンがあるようです。もちろんすべて徒歩で歩き通す人もいるし、夏休みの間だけ歩いて、続きはまた来年歩くとか、はたまた1日ずつ歩いて、車で家に帰ってまた朝トレイル(歩道)に戻る人もいます。自分の子供の結婚式に出るために歩いている人もいて、うーんなんておおらかなんだアメリカン…と感心しました(ヘタしたら間に合わないとか考えないのだろうか)。
 
 愉快な我らがブライソンさんは、「そうだ、アパラチア・トレイルに行こう!」と思いつきます。でも、ひょっとしたらクマが出るかも…一人じゃキケン、と友人を誘いますが、なかなか食い付いてくれる人は現れません。そこに、やっと一人の男が。それは、元アル中で独り身のカッツでした。食べることとテレビが大好きなカッツと、真面目なんだか不真面目なんだかわかんないブライソンは、まさに凸凹コンビ。弥次喜多道中は前途多難ながらも始まるのでした。
 
 昔、ピクニックとハイキングの違いは、ピクニックは食べることが目的で、ハイキングは歩くことが目的、と聞きました。トレッキング、しかもアパラチアを歩くことは、想像以上に大変なことです。何キロもある装備をかつぎ、自らテントをはって野宿、さらに病気にかかることもあるし、クマなどの動物に襲われることもある。そして、なんといってもここはアメリカ。殺人もあります。ブライソンさんもカッツとはぐれたり、恐ろしい低体温症にかかりそうになったりとピンチもありますが、なんとかかんとか乗り切ってしまいます。
 
 結果からすると、この長大なアパラチア・トレイルをブライソンさんは歩き通すことは出来ないのですが、まだまだあきらめていないようです。時には愉快に自分たちの失敗を語り、時には失われつつある自然を真面目に語る、そんなブライソンさんの毒舌とユーモアが堪能できる楽しい一冊でした。(2003.11.22)


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 3

神の名のもとに (講談社文庫)

著者 : メアリ・W. ウォーカー

出版社:講談社

発売日:1995-07

評価 :

完了日 : 2003年11月18日

日本でもオウム事件以来、カルト教団というのは知られた存在になりましたが、アメリカでは80年代前半には3000以上のカルト教団が存在したそうです(訳者あとがきより)。カルトの本場?アメリカはテキサスを舞台にして、預言者を名乗るモーディガイと人質になったスクールバスの運転手、ウォルター・デミングと子供たち、そして部外者ながら、事件に深く関わる主人公モリー・ケイツは、手をこまねいているFBIたちとは違ったルートで事件に迫っていきます。
 
 この本の魅力は、モリーという女性を通し、過激な事件に対して割とスローペースで話が進んでいくことにあります。ハデな銃撃戦や、プロのネゴシェイダーではなく、別れた旦那と今は恋人どうしで、同居しようか悩むフツーの女、娘に痛いとこをつかれてムッとする、ごくごく一般的な女性モリー。そんな彼女は、モーディガイという男、そしてベトナムから帰ったあと、隠者のような生活をしていたデミングを知ることによって、事件の解決へと導きます。
 
 モリーが事件の外から見た視点ならば、デミングは人質となって内から見る視点です。決して子供のあつかいに慣れているわけでもなく、なるべく人と関わらないように生きてきたデミングは、危機にあたり必死で子供たちを守り抜こうとします。誰よりも争いを嫌ったのに、子供たちのために戦おうと決意するデミングの姿は思わずウルウルきました。
 
 カルト、そして宗教とは、信じる事とは、そんな重いテーマをエンタメの領域でせいいっぱい表現していたと思います。モーディガイの描写には、少々物足りない気がしましたが、基本的に人間はまだまだ捨てたもんじゃない、という作者の希望が感じられる本でした。宮部みゆきなどの日本の女性ミステリ作家が好きな方も、この作品は楽しめるんじゃないでしょうか?


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 1

オコナー短編集 (新潮文庫 オ 7-1)

著者 : オコナー

出版社:新潮社

発売日:1974-03

評価 :

完了日 : 2003年11月11日

 オコナーは以前「善人はなかなかいない」という短編集を読んでいるのですが、面白かった事しか記憶になくて。この「オコナー短編集」は、改めてオコナーの凄さを私に再認識させてくれました。わずか24歳という若さで難病に襲われ、その後絶えず死を意識していたオコナー。しかし、彼女は自分や世界をしっかりと見つめ「人間として、作家として、力の及ぶかぎり烈しく攻めぬいた」(訳者)のでした。冷静な人間描写や、その鋭い視点は作品の随所に見ることが出来ます。
 
 「川」
父親は息子を子守りのコニンにあずける。コニンは子供を説教師の所へつれていくのだが、子供は「説教師と同じ名前」だと嘘をついていた。
オコナーの小説には不可欠なキリスト教。説教師の説く「川」は子供に意外な影響を与えます。孤独な子供は、なにかに帰属したかったのかもしれない。
 
 「火のなかの輪」
コープ夫人は、牧場を経営している。ある日、昔やとっていた男の息子と仲間がやってきて、泊めてくれというのだが。
真面目で働き者で信心深いと思っているコープ夫人が、決して相容れることのない少年たちを目の前にしてうろたえる姿が冷徹に描かれてます。こーいういわゆる「良識ある大人」は、オコナーの小説では頻繁に皮肉な存在として出てきますね。
 
 「黒んぼの人形」
ヘッド老人は、孫のネルソンを連れてひさし降りに町に出る。目的の1つはネルソンに生まれた町を見せるため、もう1つは町が恐ろしい場所だと教えるためだ。
いきなり「黒んぼ」で、差別用語バリバリですが(^ ^;)南部が舞台なので、登場人物は大抵差別的です。ヘッド老人は、かなり黒人に侮蔑的ですが、都会でピンチに会うと、孫も放り出してしまう意気地のなさ。自己正統化することで、ようやく家に帰ることが出来るのでした。
 
 「善良な田舎者」
ホープウェル夫人は、高学歴だが体の弱い娘と暮らしている。ある日、善良そうな青年が聖書を売りにやってきて、娘と接近するのだが…。
これまた痛烈な1編。ホープウェル夫人は、聖書売りの青年を善良な田舎者であり、地の塩だとほめるのだが、娘と彼の間で、意外なことが起きます。訳者あとがきを読むと、この小説をオコナーは書きながらラストを決めたらしい。ショッキングなラストだけど、オコナーは決して衝撃を狙ったわけでなく、作品を突き詰めた結果こうなったのだなと思いました。画家がたくさんの線を引いて、最後に1本の線に決めるように。
 
 「高く昇って一点へ」
ジュリアンは高血圧の母のために、バスで減量クラスまで送っている。リベラルな現代人であるジュリアンに比べ、母親は差別意識に満ちていて、ジュリアンは母に見せつけるため、わざと黒人の隣に座るのだが。
タイトルがなんともいいですね。ジュリアンは大学を出て、自分は自由な感性を持っていると信じているが、実はそうでもないし、母親から独立してもいない。一方母親は、今までの短編に出てきたような良識ある(と自分は思っている)差別主義。親子であるゆえに相容れない関係が悲しい結果を招くのでした。
 
 「啓示」
病院の待ち合い室で、タービン夫妻は順番を待っていた。待ち合い室には「白人の屑」とあばた顔の醜い若い女がいた。普通に会話しているつもりだが、タービン夫人は若い女ににらみ付けられてしまう。
おおっ「本の雑誌」で青山南さんがあげていた短編だ〜。「白人の屑」と訳されている「ホワイト・トラッシュ」は、白人社会でも最下層の人たちで、黒人よりも差別される事も多いらしい。神にタービン夫人が感謝するとき、彼女に与えられた啓示とは。ラストのダークで幻想的なシーンが印象的です。
 
 「パーカーの背中」
パーカーは入れ墨をするのが趣味。愛していない女となぜか夫婦になっている。ある日、パーカーは背中にとんでもない入れ墨をしようと思い立つ。
今までの作品の中でも、かなりキリスト教のネタが多い一遍。信心深い奥さんにイライラする事の多いパーカーが、ある入れ墨を妻に見せると…。パーカーが奥さんに勝てる日って、きっとこないと思う(笑)
 
 地味〜な文庫だけど、訳者あとがきがかなりいいです。オコナーの生涯と見どころを簡潔に書いてます。自分にも厳しく、他人にも厳しいオコナーの視線は鋭くて、いたたまれない気持ちにもなりますが、人の醜さ、弱さをまっすぐに書いているからでしょうか。どこか爽快感もある不思議な感覚でした。 


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 1

トゥモロー・ワールド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

著者 : P.D. ジェイムズ

出版社:早川書房

発売日:2006-10

評価 :

完了日 : 2003年11月10日

 「女には向かない職業」やダルグリッシュ警視シリーズなどで日本でも有名なイギリス人作家、P・D・ジェイムズですが、なぜかSFを書きました。それがこの作品です。SF的ガシェットはあまり出てきませんし、アイデアもあまりカッとんだものではないです。少子化が叫ばれる昨今、田舎の村はこの小説の中の出来事のように、働き手がいないので老人が孤立したりなんて話題は良く聞きます。1995年に生まれた最後の子供、オメガが美しいが無秩序な性質を持ってるという設定も、最近のワカモノはなってない!という作者の皮肉なのかもしれません。
 
 そんなワケで、いろんな意味で地味(作者の作品群の中では目立たず、SFとしても目立ってない)な感じですが、私はこの未来のくせに19世紀といってもいいようなヴィクトリア朝的雰囲気が気に入りました。もっとはっきり言うと、この本の見どころは「廃墟」だっ!ええ、私は廃墟が好きなんです(笑)四半世紀も人類は子供が誕生せず、いずれやってくるであろう人類の滅亡の日。その日は突然でなく、じわじわと侵食するように迫ってくる。主人公セオは、その日を空想します。誰もいない図書館や博物館、動く事のない発電所。最後の一人が死に絶える時、どんな便利な道具も立派な建物も使われなくなってしまう…そんなディストピア世界がたまりません。
 
 そんなイギリスの曇り空のような陰鬱な雰囲気から後半は一転、サスペンスタッチになりグイグイと読ませます。「オメガ」という言葉からも、黙示録の有名な一文を思いださせますが、この小説は作者が現代の問題を照らして書いた黙示録なんでしょう。だが、最後の最後でまだ、雲の間からさす光を、作者はあきらめていないかのように見えます。SFファン・ミステリファンには薦めがたいですが、この雰囲気が好きな人には楽しめると思いました。(2003.11.10)


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 1

魔界転生〈上〉 (角川文庫)

著者 : 山田 風太郎

出版社:角川書店

発売日:2002-11

評価 :

完了日 : 2003年10月19日

 山田風太郎といえばコレ!というぐらい、有名な小説ですが、始めはこのタイトルじゃなかったらしいですね。旧題は「おぼろ忍法帖」で、映画タイトルが気に入って作者自ら変えたとききましたが、確かにピッタリだと思います。
 
 お話は映画になったことでも有名ですが、山田風太郎といえばエロティシズム!これは映画よりとーっても濃厚です。なんたって転生するには、愛した女性とエッチして、その1月後に女の体をやぶって生まれ変わるんだから…(ある意味男性の究極の夢なのかも)。転生する剣豪たちは、大抵生きてる時にはいろいろな意味で悶々としてたもんで、転生してハジけちゃってます。この宮本武蔵みちゃうと、哀れというかなんというか…。
 
 そんなわけで、転生衆のインパクトが大変強いのですが、柳生十兵衛はとっても飄々としていてカッコイイのです1きゃー、十兵衛さま!って感じ(全国各地の山田風太郎ファンさま、ミーハーですみません)。へらへら〜っとしてますが、とても複雑な心をもった、魅力的な男です。柳生三人娘、うらやましいぞ。しかし、この女の子たちはホントにさらわれるのが専門だったなぁ…。ま、こっちはサワヤカなお色気担当ということで…。クララお品は妖艶な魅力担当ですから。私はお品の十兵衛に惹かれる姿がいじらしくもあったけどね。うーん、こんな美女たちに迫られて理性を保てる柳生十兵衛ってやはり凄い男だわ。そこもカッコイイ。
 
 映画では弥太郎って出てないのでしょうか?私はこの男の子が出ると、とても話が面白いと思うし、十兵衛とのかけあいなんかも楽しめるのになぁ。残念。映画を見た方も、原作は話が全く違うし、若い方でもこの奇想天外なストーリーはウケるんじゃないかと思いました。(2003.10.19)


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 1

サラマンダー―無限の書

著者 : トマス ウォートン

出版社:早川書房

発売日:2003-08

評価 :

完了日 : 2003年10月19日

 本が好きな方なら、「本について書かれた本」も好きですよね。もちろん私もそうです。この本の主人公、フラッドは奇想天外なからくり仕掛けに住む伯爵に、本作りを依頼されます。この伯爵は、本を読むことももちろん好きですが、何より変わった本を集めるのが好きなコレクターです。と、いうより奇妙な城を完成されるため、図書館を作ってるのです。伯爵は、過去に戦争に家族を奪われたり、領地を引き裂かれたりとヒドい目にあい、こんな城を作ろうと思いたちます。
 
 からくりの城、奇妙な図書館、そして不思議な本を製作する印刷工、美しい城のあるじの娘…。うーん、ロマンですね(^ ^)。後半は、主人公一行が世界各地を旅することになります。遠くは中国まで行き、上質の紙を探したり。主人公たちだけの話でなく、途中には出会った人たちの語る挿話もあり、幻想譚としても楽しめます。
 
 広い世界を旅する話なのに、なんとなーくこじんまりとまとまってしまったかな〜という気もしました。でも、これはあくまで「本の中の旅」というイメージを意識して作者がわざと書いているのかもしれません。小さな宝箱に入ったおもちゃをひっくり返したような、そんな面白さのある小説でした。わりとあっさりと読めるので、秋の夜長にとりくむにはいい本だと思います〜。


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 5

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

著者 : テッド チャン

出版社:早川書房

発売日:2003-09

評価 :

完了日 : 2003年10月11日

 この作家はジャンルから見るとグレッグ・イーガンに似ていると言われます。理数系ネタを多く扱うからです。でも、作品から受けるイメージはかなり違う気がしました。どっちかというと、イーガンの方が私はわかりやすいかな。
 
 「バビロンの塔」
【宇宙の天蓋に届くというバビロンの塔を、人々は作り続ける】
いきなり一本目が古代の話でビックリ。塔の頂上まで何日もかかるという高さが酩酊感を誘う。
 
 「理解」
【事故により受けた治療の副作用で、知能が上がった男】
いわゆる超人モノですが、とんでもないレベルまでいっちゃうのがスゴイ。でも、最後につまづくものが…。
  
 「あなたの人生の物語」
【地球を訪れたエイリアンとのコンタクトにのぞむ言語学者】
表題作です。感動の一遍!との評判なので、期待してたんだけど…。うーむ、これはオチを知ってから読んだ方が、感動できるかもしれない。よくよく考えると感動なのかもしれないけど、あんまりピンとこなかったかな。
 
 「七十二文字」
【72文字で綴られる「名辞」によって、あらゆる機械を動かせる世界が舞台】
これは面白かった!「名辞」は、コンピューターのプログラムのような、陰陽師が使うおフダのようなイメージかな。ホムンクルスなどの錬金術ネタもあれば、クローン技術もあり、面白い世界観が魅力です。これは長篇が読んでみたい。
 
 「人類科学の進化」
科学雑誌「ネイチャー」に掲載された、ナンチャッテ科学記事。
 
 「地獄とは神の不在なり」
【妻を天使降臨で失った夫は、なんとか天使を見て天国に行こうとするが】
天国と地獄が目に見えて存在する世界でのお話。地獄が出現して故人が見える、という所で、むかーし読んだ「蜘蛛の糸」を思い出した。子供のころ、地獄のイメージが怖くてうなされました。この話の天使は人間の善悪は頓着しないので、とんでもない悪党が天国に行ったりする。無条件の愛は何も求めないこと、それが信仰でないの?と作者は語ってるようです。
 
 「顔の美醜について」
【顔の美醜で人を判断してはいけない、という考えから、美醜を認知しない「カリー」という装置が作られた】
ドキュメンタリー風にインタビュー形式になってます。面白くなさそーと思ったんですが、これが意外といい!気に入りました。「カリー」という機械をつけると、人の顔の美醜が認知できなくなるのですが、これが学校や地区によって導入されたり、されなかったりしてる。付ける派、付けない派で議論が巻き起こります。「美」というものの本質、顔というものに振り回される人間の姿が描かれていて興味深かったです。女性の方が楽しめるかも。(2003.10.11)


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 2

サハラに舞う羽根 (創元推理文庫)

著者 : A.E.W. メースン

出版社:東京創元社

発売日:2003-07

評価 :

完了日 : 2003年10月01日

 古典ミステリ「矢の家」で有名な作者の冒険小説。なんと7度も映画化されているイギリスで愛されている小説だそうです。

 人が追い込まれた時、まっ先に捨てることの出来るのがプライド。でも、失った後にそれを取り戻すのはかなり難しい。この本の主人公、ハリー・ファイヴァシャムは、代々続く軍人の家系に生まれました。が、母親の優しい性格を引き継いだのと、厳格な父親に戦争の話を聞き過ぎたのか、戦いを恐れるようになっていきます。臆病ではないのに、臆病になる事を恐れるあまりに逃げてしまい、結果「臆病者」よばわりされて愛する女性も失うハリー。昔も、今もそうだと思うのですが、男性が「臆病者」と呼ばれるのは、最大の屈辱じゃないでしょうか。(ましてやカノジョに言われた日にゃ)。
 
 なにもかも失ってから、おのれの中の勇気を奮い立たせるハリーは、汚名を雪ぎ、プライドを取り戻す旅に出ます。まぁ、このへん多少ご都合主義と呼ばれても仕方ない感じもしますが(笑)。イギリスでは、そんなハリーを思うエスネ、そしてエスネを思うハリーの親友ジャックの行動が描かれていきます。それぞれの個性がはっきりしているので、読みやすかったです。正直この3人が素直じゃないのにイライラしますが、素直になっちゃったら50pで終わる小説だからね…(^ ^;)
 
 あとがきに作者メースンの経歴が紹介されていましたが、彼の人生そのものがまるで小説のよう。多趣味、多芸であり、政治家として辣腕をふるうが、第一次世界大戦が始まると、志願し諜報部で活躍。戦後はナイトの爵位を授けられる話もあったが、辞退し、自伝を書くように勧められても「私の人生は自作の中に書き込んだ」と断ったという。んまー、なんてカッコイイの。「ピーターパン」て有名な作家バリとメースンは深い友情で結ばれていたらしく、ハリーとジャックの友情を彷佛とさせます。
 
 友情、愛、そして冒険という超直球小説ですが、気楽に楽しめました。私としては、こころ優しき冒険家、ジャックのラストが良かったです。心に南十字座を持つ男。なーんてね。真の主人公は彼だったのかも…??


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 1

J・G・バラードの千年王国ユーザーズガイド

著者 : J.G. バラード

出版社:白揚社

発売日:2003-06

評価 :

完了日 : 2003年09月28日

 バラードの作品は、いくつか読みましたが、特にすっごくファンというわけではありません。この本を手にとったのは、映画についての文章もあるから。まぁ、パラパラと好きな所だけ読めばいいな、と思ってたんですが、意外や意外、他の部分も面白かったのです。文章のほとんどは、雑誌に連載していた(と思う)書評なのですが、日本で発売されていない本も多いです。が、どれも文自体が面白いから「結局読めないじゃん、コンチクショー!」とは思いませんでした。ほら、ブックガイドの何がイヤかって、なんか「読んだ自慢」になってるのが多くないですか?でも、そこはさすがバラード、彼なりの一つの作品になってるのです。
 
 バラードは、映画だけでなく、視覚芸術や科学、テリトリーであるSFについても語ります。とりあげている作品や人は、それほどマイナーではないので、ちょっと興味のある読者なら楽しく読めるのではないでしょうか。芸術なら、エドワード・ホッパーやデヴィット・ホックニー、それにダリは、かなりお好きなようです。科学なら、アインシュタインなどのメジャーどころから、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」で有名なファインマンのエピソードまで。このファインマンさん、私は温厚な紳士としての面が強かったんですが、たいへんな女好きだったらしく(笑)バーで女性を口説くテクニックもあみ出したそうです。バラードは、「このテクニックこそ本にして欲しかった!」とくやしがってます。あんたも好きねぇ(笑)。
 
 あと、自伝的な部分ですね。上海での収容所生活についてなど。それと、自分の読書遍歴なども興味深いです。本を読まずにロックコンサートばかり行く自分の子供たちを心配していたが、20代を過ぎて読むようになってホッとした、とバラードも人の親なんだなぁ…と思わせる部分も。バラード自身は、10代の頃に有名な文学はあらかた読みつくしたそうですが、若い時に文学作品を本当に理解したとは言えなかった、20代、30代と大人になってから読む方が良かったのではないか、との意見は私もうなずけるものがありました。ただ、フツーの人は、その頃は仕事で忙しくて読めないのですが…(^ ^;)
 
 ところどころ、うーんその考えは納得できん!みたいな部分もありましたが、全体的に楽しく読めました。バラードのファンなら、彼の作品の源泉をたどることの出来る本だし、そうでない方なら、好きな部分だけ読むのもいいかと思います。それだけで買うには、ちょっといい値段ですが…。(2003.9.28)


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 9

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262)

著者 : カート・ヴォネガット・ジュニア

出版社:早川書房

発売日:2000

評価 :

完了日 : 2003年09月23日

 ヴォネガットの世界観は独特であり、読み始めはかなりとまどう部分も多いのだが、ヴォネガットの作品は一見とんでもない設定に見え、さらに悲観的な部分も多いけれども、結局は人間ってものは捨てたもんじゃない、という暖かい視線があるところが私は好きだ。
 
 「タイタンの妖女」では、この世のすべてを見通せる男、ラムファードの予言通りになってしまったマラカイ・コンスタント=アンクが火星をへて遠くタイタンまで(本人の意志とは関係なく)旅をすることになる。ヴォネガット版「オデュッセイア」ともいえる話になっている。
 
 家族のかたち、戦争というものの不条理さと笑うしかない部分(このへんは、「スローターハウス5」でさらに発展)を交えつつ、SFらしい奔放なアイデアもたっぶりつまっているのが楽しい。私は、アンクとボアズが遭遇する生き物、ハーモニウムが好きだ。この生物は、2つのメッセージしか持ってない。それは「ココニイル、ココニイル、ココニイル」「キミガソコニイテヨカッタ、ヨカッタ、ヨカッタ」。なんとも言えずいい言葉だ。難しいことを考えなくても、この2つの言葉さえあれば、人は幸せになれるのかもしれない。

 ラストは、とてもハッピーエンドとは言えないのかもしれないが、美しくて、どこかホッとする、しみじみとした読了感が味わえた。ストーリーが奇抜なのでヴォネガット最初の一冊にはおすすめできないが、ヴォネガットが好きなら楽しめる本だと思う。(2003.9.23)


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 1

カルカッタ染色体

著者 : アミタヴ ゴーシュ

出版社:DHC

発売日:2003-06

評価 :

完了日 : 2003年09月21日

 クラーク賞というSFの賞を受賞した作品。作者はSF作家ではなく、普通小説の人みたいです。

 時代の設定は近未来です。そして、何か国語も喋ることのできる有能なコンピューター「AVA」なんて出てくるので、すごくSFチックですが、内容は幻想小説っぽいです。悪夢的というか。なので、SF的要素を楽しみにしていた私には、ちょっと拍子抜けした感じはありますが、物語は3つの筋が錯綜し、からみ合い、ラストに向けての疾走感がたまらない面白い小説になってます。
 
 やっぱり、何よりも魅力は舞台がインドという事かな。SFでインドってあまり無いじゃないですか。インドの熱さというか、濃さというか、そーいう部分+SFというある意味ミスマッチな感じが不思議な味わいです。あとがきを読むと、登場人物はインド神話から名前を貰っているそうで、そこがさらに幻想的なイメージを盛り上げてます。
 
 SF好きの私としては、「カルカッタ染色体」という、そのものの説明がもうちょっと欲しかった気がします。ワンアイデアで最後までいっちゃったかな〜って気もしないでもないです。「フリッカー、あるいは映画の魔」という小説にちょっと似てる部分があるんですが、もっとウンチクで「カルカッタ染色体」を読者に信じさせる説得力が欲しかったです。あんまりウンチクが多いのも、興醒めでしょうけど。難しいさじ加減かな。
 
 食べ物の描写が好きな私としては、「マンゴーピクルス」なるものがどんな味か気になりました(笑)。「マサラをまぶした黄金のポテトの山」もウマそうだったな〜。やっぱ辛いのかな?それはともかく、インド味のSFというちょっと変わった風味を試してみたい方はぜひ! が、幻想小説として読んだ方がすわりはいいとおもいます。(2003.9.21)


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 2

アウステルリッツ

著者 : W・G・ゼーバルト

出版社:白水社

発売日:2003-07-25

評価 :

完了日 : 2003年09月07日

 本を開くと、まず写真がたくさん挿入されているのに驚くと思います。この写真は、単なる状況説明ではなく、物語上に重要な意味を持っているのです。モノクロで古い写真は、シュールでもあり、物語を秘めたような、ドラマチックさもあります。訳者あとがきによると、作者自ら集めたらしく、人物や風景、アウステルリッツの興味の対象の建築、さらにハップル宇宙望遠鏡の天体写真まであります。
 
 私は、この本のテーマはズバリ「空間」だと思いました。ヨーロッパの過去の大戦の暗い記憶や時代に翻弄される個人の歴史、建築物の空間。それらがとぎれることのない文章の中に、モヤモヤとした空間をつくり出している。始めは、独特のゼーバルトワールドにとまどったのですが、次第にこの本という空間の中を、霧の中を歩くように読みすすめばいいのだな、と自分で納得しました。霧の向こうからあらわれるアウステルリッツの描く過去の風景は、ヨーロッパの持つ知識と、そして戦争の爪痕を見ることが出来ます。
 
 写真とおなじように、作者は様々なエピソードも聞き集めたそうです。この本に書かれている事は実際にあった部分もあるのでしょう。そんな虚構とも現実ともつかない雰囲気がこの本には似つかわしい。この「アウステルリッツ」がゼーバルトの遺作だそうですが(交通事故による早すぎる死…)、他の作品も読んでみたいですね。(2003.9.7)


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 2

歳月のはしご (文春文庫)

著者 : アン タイラー

出版社:文藝春秋

発売日:2001-08

評価 :

完了日 : 2003年08月17日

 Webで評判が高く、一度読んでみたいと思っていたアン・タイラーの代表作です。冒頭は、満たされない主婦、ディーリアの浮気の話かと思い、ま、まさかハーレークイン風?とビビった私ですが、それは全くの杞憂。誰でも一度は考える「自分はなんのためにここにいるの?」といった存在意義を感じたディーリアは、生まれて始めて家を出て一人で生活するという冒険をします。そこから始まる人々との交流や、離れた家族との接触を、作者はとても丁寧に描写し、まるでディーリアという人が本当に存在するかのように感じました。
 
 この物語の中で、事件といえばディーリアの家出ぐらいで、あとは本当にフツーのできごとばかりです。その家出も、割とアッサリというか、家族が泣きわめくわけでもなく、淡々と描かれます(かといって、家族が傷付いてないわけではないが)。そんなごく普通の風景の中に、ディーリアと取り巻く夫が、子供が、友人・隣人が、何を考え、どう感じたのかをじっくりとしっかり見せてくれる。そこには小さな幸福や不幸が、キラキラとモザイクのようにちりばめられていて、読み手をグイグイと引き込みます。この作家の描写能力はハンパじゃありません。
 
 ディーリアの冒険は、この本とともに終わりを迎えるわけですが、小説が終わっても、ディーリアの人生という旅はまだ続きます。しかし、以前とは違う光景が彼女の目の前には広がっています。人生、いつになっても悩みはつきませんが、それもまた悪くないんじゃない?って感じが好感持てる、サワヤカな作品でした。(2003.8.17)


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 2

この世の果ての家 (角川文庫)

著者 : マイケル カニンガム

出版社:角川書店

発売日:2003-04

評価 :

完了日 : 2003年08月12日

 社会のドまん中を生きる事の出来ない男女4人の、切ない青春ストーリーです。
 
 ボビーとジョナサンの奇妙ともいえる深い関係に、クレアという年上の女性(ジョナサンとは性的関係はない)と、ジョナサンの母親アリスを加えた4人の生き方を、カニンガムはこの作品で丁寧に描写しています。それぞれが一人称で語る構成になっているので、かなり心理描写は深く追求され、重苦しいまでの雰囲気を持ってるシーンもありました。
 
 登場人物は、どの人も何かをかかえています。ボビーは家庭環境の不幸さからか、自分の居場所を求め、ジョナサンは同性愛者であり、深く愛せる相手を見つけることが出来ない孤独さ。そんな2人を愛するクレアも加齢とともに安定を求め、安定した生活のはずのアリスは変化を求めます。登場人物はエキセントリックな人たちではあるけれど、根本的な部分は誰でも持つ先の見えない人生に対する不安や怯えであって、共感できます。
 
 カニンガムというと、やっぱり「めぐりあう時間たち」(これはまだ映画のみ)を引き合いに出したくなりますが、「この世の果ての家」でも共通する部分があります。家族と愛情、同性愛、そしてエイズ(死の隠喩?)です。「この世の果ての家」は、1990年に書かれた作品で、作者のみずみずしい感性が光ってます。まだ未完成の魅力というのかな〜。そんな部分も、この小説が「青春小説」と言いたくなるんです。
 
 この作品はどことなく寂しい感情が漂ってますが、それは夕日を見るときに似た感じ。ちょい哀しいような、清々しいような。そういえば作中にも主人公たちが夕日を見るシーンがありましたが、私はとても好きな場面です。
今若い人も、かつて若かった人も(笑)、失った何かを思いだせるような、そんなシミジミとした素敵な作品でした。


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 1

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

著者 : グレッグ イーガン

出版社:早川書房

発売日:2003-07

評価 :

完了日 : 2003年08月08日

「適切な愛」
夫が事故で重傷を負った。クローン技術が発達した時代、脳さえ無事なら数年後にスペアの体が出来上がる。脳を保存する場所は、なんと妻の子宮だった。
なんともグロテスクな話。保険の契約により脳だけを生かす装置を借りることが出来ないので、医者は子宮こそ脳の保管にふさわしいという…。「わたしは死も踏みにじったし、母性も踏みにじった」というセリフが印象的でした。
 
 「闇の中へ」
ランナーとは、謎の物体「吸入口」から人を救う仕事人のことだ。私は現場に急行した。異星人のワームホールとも予測される吸入口に、飛び込む私だが。
うーん、これは自分はイマイチかな。一番SF的な話かもしれません。割と理詰めな感じかな。ピンとこなかった。
 
 「愛撫」
シーゲル刑事は、殺人事件の現場で豹と人間のキメラを発見する。住んでいた科学者は死亡。このキメラから、奇妙な事件に巻き込まれることになる。
え、これがアートなの?と思う作品は結構実際にある。ビルを布でつつんだりとか、ただ人が立ってるだけとか。この短編では、かなり過激なアーティストがとんでもない計画を実行します。
 
 「道徳的ウィルス学者」
キリスト教を熱心に信じる科学者は、あるウイルスを開発する。それは、同性愛や婚外交渉を持つと、死にいたるウイルスだった。
自分が神の代理人と信じて開発したウイルスをばらまく学者。そのウイルスの欠点を指摘し、科学者を糾弾する娼婦がカッコイイ!しかし、怖い話ですよねぇ…。ラストはもっと怖いことに。こんな科学者がいない事を祈る。
 
 「移相夢」
人間の脳をスキャニングし、データとしてコピーする時代。ある男もそうしようとするが、コピーをする時に「移相夢」を見ると言われ戸惑う。
イーガンの短編では、よくあるテーマ。人間の脳に近い精巧なプログラムを走らせるという事は、それはもう「人間の脳」として機能してしまう。それがネットワークによってコピーを繰り返すことによって見る無限の夢は悪夢なのか?悪夢なんだろうな…やっぱり。
  
 「チェルノブイリの聖母」
スイスで運び屋が殺された。彼女は依頼を受けて、18世紀のイコンを運ぶ途中だった。奪われたイコンを取り戻すために、男は捜査を開始する。
うーん、タイトルは面白そうだったんだけど、作品はまぁまぁ。イコンの写真にノイズが走っている理由がゾゾっときました。タイトル見てもオチはわかりやすいですけどね。
 
 「ボーダー・ガード」
量子サッカーに興じるジャミル。チームの中にいた女性と知り合い、関係を持つ。彼女は、長い時間を生きてきた「死」を知る人間だった。
この短編の見どころは、やっぱり量子サッカーか。どんなサッカーだかサッパリイメージ出来ないです。イーガン版「クイディッチ」かいな(笑)メインは「死」の無くなった世界での哲学…と言えばいいのかな?「不死」というのがここまで肯定的な小説も珍しいかも。
 
 「血をわけた姉妹」
カレンとポーラは双子の姉妹。成長し、対称的な人生を送っている。カレンは遺伝的な病気にかかっており、ポーラもまた、同じ病気にかかっていた事がわかる。
ポーラに複雑な感情を抱くカレンの語りを中心にした、医者が科学のためと称して行っている人体実験の話。事実を知ったカレンのとった行動は?血をわけた姉妹でも、やっぱり他人は他人なんだよね。少し切ないです。
 
 「しあわせの理由」
ぼくは、12歳の頃に脳腫瘍に侵されていた。だが、幸福だ。脳腫瘍が、快楽物質を出していたから。治療を受け、脳腫瘍は消滅したが、鬱病に悩まされて成長したぼくは、ある治療を受ける。それはたくさんの他人の「思考パターン」を脳に入れる事だった。
表題作です。私たちは感情は心で感じると思うけど、脳の科学反応で感情は生まれるんだよね。脳腫瘍の治療によって「しあわせ」を感じるシナプスを破壊されたぼくは、4千人のサンプルを脳に注入し、やっと生きる気力を見い出すが、30歳を過ぎて味わう思春期はかなり苦い。脳内物質によって左右される心を、切なく書いていて私は好きな短編です。
 
 イーガンの短編は、科学ネタ満載だけれども、決して科学万能主義ではないし(どちらかというと少し否定的かも)、SF苦手な人でも興味の持てるテーマだと思います。解説では「理系が」「文系が」と強調してますが、あまり気にせず気楽に楽しんで欲しい本だと思います。(2003.8.8)


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