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ぎんこさんの読書ノート

2003年読んだ本
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 1

ブロンド〈上〉―マリリン・モンローの生涯

著者 : ジョイス・C. オーツ

出版社:講談社

発売日:2003-03

評価 :

完了日 : 2003年08月03日

著者ジョイス・C・オーツは、アメリカでは「ノーベル賞に一番近い作家」と呼ばれているそうです。私はこの本が初めてですけど、短編からミステリから、いろんな本を書いてるそうな。代表作となりそうなこの「プロンド」は、マリリン・モンローの評伝ではなく、フィクションとして描くことによって、彼女の内面により深く迫ろうとしています。
 
 モンローについての本は、ノーマン・メイラーなどの有名作家によって何冊も書かれていて、今もなお、アメリカ人を中心とした多くの人たちに愛されています。それはどうしてなのか?彼女よりも美しい女優も、演技のうまい女優もいたのに、なぜ「MM」なのか?作者はその魅力を、彼女の内面と外見の剥離に見い出します。不安定で繊細な神経を持ち、家族を強烈に求めながらも、小さい頃から男性をひきつける「美人」であったノーマ・ジーン(マリリンの本名)。女優になってからは、見る方は彼女をセックス・シンボルとしてしか見ていないのに、演技こそ 「ホントの自分」であると信じるマリリンの姿は、痛々しい程です。マリリンと映画界、そしてアメリカの歴史を絡めて「アメリカ人そのもの」にも作者は迫ります。
 
 はっきりいって、マリリン(というかノーマ・ジーン)は、生まれつきの娼婦だと思う(少なくとも、この作品の中では)。ちょっと過激な言い方かもしれないけど…。外見もグラマラスで、男性なら誰もが夢中になるオンナだし、それに加えてあの頼りない内面。同性が見ても「守ってあげなきゃ」と思ってしまうぐらい。もし、もっと昔に生まれていたら、国を傾けた美女として歴史に残ったかもね〜。
でも、いざ結婚してみると、彼女のコワレた心と向き合うので、どんなパートナーとも続かない。どんな男でも、完全にノーマを守る父親にはなれないから。愛を得られず、自己崩壊していくマリリンは、結末を知ってるだけに切ないですね。


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 2

ブックストア―ニューヨークで最も愛された書店

著者 : リン ティルマン

出版社:晶文社

発売日:2003-01

評価 :

完了日 : 2003年07月21日

 NYの74丁目に、1978年から97年まで営業していた書店「ブックス・アンド・カンパニー」は、素敵な書店でした。店主ジャネット・ワトソンは真の本好きであり、そんな彼女の理想に惹かれたお客の中には、有名作家から、映画監督から、ミュージシャンもいました。もちろん、本を愛する普通のお客さんたちもたくさん。この本では、店主の回想を中心に、関わったスタッフやリーディング(朗読)に来た作家たちのインタビューで構成されています。
 
 ジャネット・ワトソンは、幼少の頃から本を愛し、成長しました。離婚した後、昔からの夢だった書店を開業することを思いつきます。ここで彼女の家庭をさらっと説明すると、父親はIBMの重役で、とてもお金持ち。「TIMES」の表紙も飾ったナイスガイとか…。そして、母親はとても美しく、若き日はジェームス・スチュアート(かっこいい!)とデートしたとかなんとか…。ブルジョアですねぇ。
 
 そんなわけで、資金は調達しやすかったようですが、父親はこと商売となると、とてもきちんとした人らしく、後に借金は返したそうです。そんな背景も、彼女が利益よりも理想を追求しやすかったのでしょう。開業当時は、売り物の本に作家のサインをしてもらったために、返品できなくなったり、パートナーともめたりとトラブルも続きましたが、だんだんと軌道に乗っていきます。
 
 彼女は、この書店でたくさんのリーディングを開きました。その中には、当時はまだ売れてなかったポール・オースターやイーサン・ケイニン、マイケル・カニンガムなどがいました。作家の後押しをし、自分の気に入った本を厳選し、売る。それは洗練されたニューヨーカーに受け入れられ、愛されたようです。
 
 ところが。時代は移り変わります。1997年にこの書店は閉店したのですが、その時は、書店の大型化・ディスカウント化、そしてインターネットの普及による影響。どれも、ジャネットの理想と相容れないものでした。時代は小売業には厳しくなってきたのです。このへん日本もいっしょだなぁ…。そして、ジャネットは私が見るに、商売の才能は父親から受け継がなかったようです。コンピューターによる在庫管理を父親から勧められていながら、それを利用しなかったり、時代を先取りする努力はしてなかったと思います。彼女の理想の本屋は、19世紀なんだから仕方ないのかもしれないけど…。
 
 本好きならたまらない本、とのフレコミで読んだのですが、本に対する愛もさることながら、商売の厳しさを見てしまいました。理想と金もうけのバランスってとっても難しい。今後、さらに書店のあり方は変わっていくでしょう。ですけど、本がこの世で一番お手軽なメディアということには、変わりないんじゃないかな…と思います。(2003.7.21)


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 8

本格小説〈上〉 (新潮文庫)

著者 : 水村 美苗

出版社:新潮社

発売日:2005-11

評価 :

完了日 : 2003年07月14日

 「本格小説」というタイトルからして、すごいインパクトです。だって、自分の小説に「本格」ってつけるのって、かなりの度胸だと思うんですけど。中表紙には「日本近代文学」と書いてあるし、クラシックな雰囲気を持っていますが、作品自体は割と現代的な手法もふんだんに使った、凝った作りになっています。
 
 まず、「私」こと水村は、アメリカで長い間暮らしていて、十代の時に「本格小説」の主人公である「東太郎」という男と出会います。東はミステリアスな雰囲気を持った男で、頭も良く、出世していきます。「本格小説の始まる前の長い長い話」の章では、「私」の家族の話も絡め、東のアメリカでの話を書いていきます。この部分は、「嵐が丘」でいうと、ヒースクリフが嵐が丘から姿を消した後、立身出世していく部分にあたります。「嵐が丘」では触れられなかった部分を、この小説では前ふりとして描きます。
 
 そして、現在は講師としてアメリカで教える「私」の元に、日本での東太郎を知った青年が現れます。この青年は、軽井沢で土屋冨美子(「嵐が丘」でいうとネリーで語り役)という女性と出会い、東が日本でどのような葛藤があったのか、今はどうなっているのか聞いたのです。その物語を「私」に話す青年。ここまでが前章になります。長い…。さて、ここからやっと「本格小説」本編だぞ!と思うと、さらに今度は冨美子や東と関わった家族の話が語られ、やっと東とキャサリン役のよう子の話になるのは、下巻からです。
 
 下巻からは、上巻での伏線が生きてくるし、物語も帯のコピー通り「超恋愛小説」で、かなりグイグイと読ませてくれます。「身分違いの恋」なんて、現代では古典的なネタですが、戦前から優雅な生活をしていた重光家と三枝家、そして戦後の混乱をやっと生きてきた東太郎との対比にもなってます。そして高度成長期を経て、経済的に大きく発展していく日本を背景に、重光・三枝家の衰退にあわせるかのように東は実力で出世していきます。「企業」の時代が到来したのです。力関係は一気に逆転。そんな時代の中で、東を愛するよう子、よう子を愛する夫の雅之の愛情劇は、かなりスリリングです。
 
 「嵐が丘」現代版と言われていますが、内容もキャラクターも、オリジナルを踏襲しつつも別の物語になっています。語り手、冨美子も血も肉もある、生身の女として描かれているのが印象的です。「嵐が丘」は、感想でも書いたように「ドールハウス的」というか、内に内にこもる話ですが、「本格小説」では、著者の経歴もあってか、アメリカと日本を舞台にするというスケールの大きさ、戦後から高度成長期、バブル崩壊までの大河小説としての面白さも持ち、エンターティメントとしての完成度も高いと思いました。
 
 ところで、この「本格小説」で気になるのは、どこからどこまでがホントの話?という部分だと思うんですが、前章の「私」の経歴はある程度事実だと思います。でも、「本格小説」の本編は、全くのフィクションだと私は思ってます。だって、「小説」とうたってあるんですから、ここは「小説」として楽しむのが筋ってものでしょう。ですが、「東太郎」や「よう子」のような人たちは、戦後の日本にいたかもしれないな…。と、想像できるあいまいな部分に、この物語の面白さはあると思いました。(2003.7.14)


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1.パートママ (2008/04/16)
感想を書こうと思いましたが、先にこの感想を読んでしまい「そうそうそうなのよ、そのとおり」と思って書くことなくなりました。こんな古い感じの恋愛小説好きです。
2.ぎんこ (2008/04/16)
コメントありがとうございます。
私の方こそ、パートママさんの感想を拝見していろいろ思い出しました。なにせ読んだのは5年前でして(^ ^;)文庫にもなったし、再読したい本です。
 

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 7

第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)

著者 : アゴタ・クリストフ,堀 茂樹

出版社:早川書房

発売日:2006-06

評価 :

完了日 : 2003年07月04日

 意外と面白かったです。「悪童日記」「ふたりの証拠」でバラまかれた謎を解く、ミステリ的な所とか。「悪童日記」で国境を越えたのは、双子のどっちだったのか?父親は、本当に父親だったのか?「クラウス」「リュカ」という双子は存在しているのか?等の疑問が次々と明かされます。まさに“ほんとうの『悪童日記』”。作者は自伝的な話、と言ってるので、リアリティは「第三の嘘」の方があるかもしれません。双子の両親の確執とか、うーんありそうだなぁって思いました。
 
 「悪童日記」は、とにかく寓話的で、双子はあくまで象徴でしかなく、人間的とは言えなかった。そこが私は好きだったし、物語の魅力になってたと思う。でも、作者としては、「悪童日記」の成功により、双子に肉付けをしたくなったのではないかな?それが2・3作目に当たる。あくまで本編といえるのは1作目だけであって、残りは追補編だと思いました(だが、物語の構造上は1作目こそオマケに過ぎないのが面白い)。だから、読んでも読まなくてもいい(^ ^;)。あくまで好みですね。ま、せっかく出てるのだから、読まないのももったいないです。
 
 しかし、「悪童日記」で見せてくれた、クールで残酷な人間描写はどこへいったのやら、続編はとてもナイーヴなんです。なんか、こう、表現の裏に、何かを見るような奥ゆかしい魅力が、続編によって失われたような気がする。読者の想像にまかせておいて!というゼイタクな文句(笑)。しかし、よく作り込まれた物語の奥深さが、読者を混乱させ、そして「物語」とは?「真実」とは?というテーマを考えさせてくれる。
 
 訳者あとがきによると、4作目が書かれるのでは、といった期待もあったそうだが、今の所無さそう。正直、リュカとクラウスの話はおなかいっぱいなので、3部でキレイに終わって良かったな、と。今のところ、クリストフの他の作品を読む予定は無いのだけど、またこの作品に負けないすごい作品を書いて欲しいと思います。


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 4

灰色の輝ける贈り物 (新潮クレスト・ブックス)

著者 : アリステア マクラウド

出版社:新潮社

発売日:2002-11

評価 :

完了日 : 2003年06月28日

 作者アリステア・マクラウドはカナダのケープ・ブレトン島の生まれで、きこり、漁師、坑夫で学費をかせぎ、進学。大学教授として長年教壇に立ちました。ケープ・プレトンは「赤毛のアン」で有名なプリンス・エドワード島の近くだそうです。作中でも、「晴れたらプリンス・エドワードが見える」というセリフがあったような。地図を見ると「シッピング・ニュース」のニューファンドランド島も近くにあり、文学ツアーでもこの3つの島で作ったら一部にウケるかもしれない(笑)
それはともかく、そんな経歴を持つ作者の生き方そのものが、反映された作品となっています。
 
 「船」
たくさんの兄弟は、この島を出て行った。寡黙で読書が好きだった漁師の父、そんな父と、出て行く子供たちを理解できなかった母。それもすべて過去の事だ。
いやー、いいですね。これ。まずつかみはオーケーって感じです!朝の4時に起きてしまい、過去をゆっくりと回想する男。寂しくも、悲しい光景なんですが、どこか暖かみもあるし。本好きのお父さんの後姿は、たくましくて、孤独です。
 
 「広大な闇」
18歳になったジェームズは、この島を出ていこうと決意する。祖父も父も坑夫だったが、自分はそのようになってはならないから。
突然「この家を出ていく」と告げる息子。出ていく日が来るとは知りつつも、その日を迎えると動揺する父と母。しかし、出ていってもこの土地の記憶は消えないのでしょう。兄弟が多くて、2部屋に男の子・女の子を振り分け、ジェームズは両親の隣の部屋。「劇的!ビフォーアフター」に応募してあげたいな(笑)
  
 「灰色の輝ける贈り物」
ジェシーは、学校で成績が良く、頭のいい男の子。夜に酒場でビリヤードに熱中するようになる。賭け事で得たお金を、両親に渡そうとするが。
表題作です。「灰色」というのは、お金(札)の事なのかな。反抗期(というか、大人に変わろうとしている)ジェシーは、金を稼ぎ親を喜ばせたいのに、厳格な親は受け取らない。両親と子供の間のミゾを、父の友人が救います。ちょっとしたウソが人を助けることもある。
 
 「帰郷」
弁護士の父と、都会育ちの母に連れられて父の実家のブレトン島へやってきたアレックス。10年降りの帰郷だ。
島を出て行き、成功した息子を誇りに思いながらも、生活や考え方にカベを感じる両親。親孝行したいと思いつつ、家族の事を優先せざるをえない息子。そんな構図が帰郷によって明らかになります。語り手は10歳のアレックスで、子供の目から見た正直な視点が、さらにそのカベを際立たせます。
 
 「秋に」
父が炭坑に向かう日までに、母は長年飼っていた馬を売ろうとする。家計が苦しいからだ。可愛がっていた父は反対するものの、母にノーと言えない。
生活のために、馬はいらない!と主張する母と自分をずっと待っていてくれる愛すべき老馬を売ることがつらい父。息子たちも売ることには耐えられない。しかし、家族の絆はそれでも続いていく。辛いながらも、家族という愛を感じる一遍。
 
 「失われた血の塩の贈り物」
男は少年たちを見つめる。車で長い距離を旅してきたのだ。少年に連れられ、祖父と祖母に出会った。少年の家族と共に一夜をすごす男の目的は?
島に生きる寡黙な老人に愛される少年。少年を見る男の目がなぜ切ないのかは、読んで頂くとして。作中で少年と老人が歌う歌は、きっと英語で読んだらもっといいのだろうな〜。失われた絆を思う男が哀しい。
 
 「ランキンズ岬への旅」
久しぶりに祖母の元を訪れた26歳の青年、キャラム。祖母の今後の生活を考えるために、親戚がやってくる。その前に、キャラムは祖母に伝えたいことがあった。
祖父の死、そして祖母の息子たちの死。たくさんの死の中で、祖母は生きてきた。孤独な祖母は、キャラムに戻ってきてと懇願するのですが、キャラムにも強烈な現実が。辛い時、いつも立ち返るのは故郷なのかもしれません。
 
 「夏の終わり」
8月ももう終わろうとしている。世界中の炭坑を旅する男は、休暇を海岸で過ごしていた。家族を顧みることのなかった自分を振り返るのだが…。
坑夫として誇りを持ち、妻の父も坑夫だった根っからの坑夫は、家族とのつながりの無さを後悔しつつも、自分の腕で支えてきたんだという自負が、彼の基本。ゲール語の歌が最後に出てきますが、ケープ・ブレトンはケルト文化圏なんだそうです。
「私は死へと旅立つ、真に王である私は/名誉やこの世の喜びが何の役に立とう/死は人にとって当然進むべき道/私は死んで土塊を身に纏うことになる」(本文)
作品を貫く男(父)の生き方を象徴するような詩でした。


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 2

パタゴニア

著者 : ブルース チャトウィン

出版社:めるくまーる

発売日:1998-10

評価 :

完了日 : 2003年06月25日

 まず思ったのは「パタゴニア」ってドコなのよ?国?街の名前なのか?調べたところによると、「南米の南緯40度以南の地方」とのこと。本に掲載されている地図でも南緯40度以南になってます。地方の名前なんですね。
 
 作者ブルース・チャトウィンはかなり変わった経歴の持ち主。イギリスの中流階級の生まれで、モールバラ・カレッジを卒業後にオックスフォードを目指すが、失敗。その後あの有名な美術オークション会社「サザビーズ」に入社して、腕を振るいます。18歳でピカソの贋作を見破ったという伝説まであるそうな。26歳で会社を辞め、大学で考古学の勉強、さらにサンデー・タイムズの記者としても働き、この「パタゴニア」で作家デビューしたのは37歳の時!そして48歳という若さで亡くなっています。中国での旅の途中での死だったそうです。
 
 一つの所に留まることが出来ない旅人の血を持つ作者は、幼い頃、祖母の家にあった「ブロントザウルスの皮」を見つけて大興奮。それは、祖母のいとこ、チャーリー・ミルワード船長がバタゴニアで見つけたものでした。「生涯において、あの1片ほど欲しいと思ったものはほかにない」(本文より)と言わしめたシロモノでしたが、祖母の死後、母親に捨てられてしまいました(ありがち〜)。しかし、それでもパタゴニアへの情熱は冷めることなく、彼は遠い世界に旅立ちます。
 
 チャトウィンの旅は、基本的には徒歩。徒歩で行く、というと地元の人は驚いたそうですが(そりゃ広大な土地だもんね)。パタゴニアで彼は様々な人種と出会い、話をし、別れていきます。さらに、ここがミソなんですが、その土地にまつわるの過去の逸話も挿入されるのです。大航海時代にダーウィンたちといっしょにイギリスに渡ったインディアンの少年、伝説のギャングたち、パタゴニア王国を作ろうとした男、インディアンの言葉で辞書を作った牧師…。その奇妙な実話は、チャトウィンの心を揺さぶり、読者の興味を掻き立てます。
 
 時空を越えたパタゴニアの旅を、チャトウィンはクールな筆致で描写しています。ですが、底にある熱い旅への情熱を、感じ取ることが出来ました。プロントザウルスの皮から始まり、チャーリー・ミルワードの水先案内で導かれる不思議な旅を楽しめる素敵な本です。そうそう、チャーリーって「エンデュアランス号漂流」のシャクルトンと同世代なのね〜。2人のエピソードもなかなか興味深いですよ。


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 1

暗黒のメルヘン (河出文庫)

著者 : 澁澤 龍彦

出版社:河出書房新社

発売日:1998-07

評価 :

完了日 : 2003年06月23日

 泉鏡花・坂口安吾・石川淳など、そうそうたるメンバーの短編アンソロジーです。

「龍潭譚」(泉鏡花)
【つつじ畑に迷いこんだ少年が、姉に似た妖しい女と出会う】
いやー、これは読むのが大変でした。2度読み返してしまった…。つつじのむせかえるような香りに酔ってしまいそうなお話です。
 
 「桜の森の満開の下」(坂口安吾)
【盗賊が都の男を殺し妻をうばいとる。美しい女は、心に魔性を秘めていた】
あまりにも有名な話。私も大好きです。再読すると、安吾の人を喰ったような、シニカルさも魅力的だな〜。「ひそひそと花が降ります」など、表現も独特。
 
 「山桜」(石川淳)
【画家は金を無心するため、ある屋敷を訪ねる。そこには異様な光景が…】
オチを言ってしまうと、フーンって感じかもしれないですが、どことなく漂う不安感が良い!家で遊んでいる子供がかなりブキミ。
 
 「押絵と旅する男」(江戸川乱歩)
【私は列車の中で、大きな押絵を持つ男と出会った。その押絵には不思議な逸話が】
読んでる途中で「あ、これ読んだことあるなぁ」と気がついてしまいました。これも有名ですもんね。余談ですが、京極夏彦の「魍魎の匣」はこの作品に影響受けているのでは…。「D坂の殺人事件」も少し雰囲気似ている気がするし、江戸川乱歩がお好きなんでしょうね。
 
 「瓶詰の地獄」(夢野久作)
【瓶詰の手紙が3通海辺に流れつく。それは兄妹が孤島で書いた悲痛な内容だった】
これもまた有名な作品。再読です。「南国の島」「聖書」などのアイテムがさらに忌わしい雰囲気を盛り上げます。3つの手紙で構成されているのもとても面白い。
 
 「白蟻」(小栗虫太郎)
【新興宗教の一家が、東京を追われて山へと向かう。異形の家族の末路は…】
奇形児あり、ヘンタイありのゴシック小説。小栗は初めて読みました。これは中編と言っていい程のボリュームです。
 
 「零人」(大坪砂男)
【推理小説家は、故障で停止したバスで植物に詳しい男に出会う】
植物に偏愛を持つ男の犯した罪とは?「女性は一番美しい時に花に変わってしまえばいい」と言う勝手な男に、意外な「探偵」がアリバイを崩します。
 
 「猫の泉」(日影丈吉)
【ヨンの町に立ち寄った男。役場で「予言を聞いて下さい」と言われる】
これも有名な一遍。読んだことがありました。読んでるうちにオチを思い出した。影絵のような雰囲気を持っている作品です。
 
 「深淵」(埴谷雄高)
【不思議なめまいに悩む男が、医者の診察を受ける】
2冊ほど持っているのに、初めて読んだ埴谷作品。これは、小説というよりは自己との対話というか、思考実験っぼい所のある文。
 
 「摩天楼」(島尾敏雄)
【男は空想の中で、NANGASAKUと名付けた街を飛ぶ】
かなり短い話ですが、架空の街の描写が細かい!
 
 「詩人の生涯」(安部公房)
【老女のつむぐ繊維がジャケツとなり、街で売られる】
なんだかプロレタリア文学のような趣もありますが、「ユーキッタンユーキッタン」「チキンヂキンと鳴る雪」など、不思議な語感が楽しい。
 
 「仲間」(三島由紀夫)
【深夜、ロンドンの街を歩く父と、煙草を吸う子供。ある男と親しくなるが…】
これは結構恐いなぁ。「仲間」という意味がわかるラストがゾゾ。ホラー的要素あり。三島ってこんな短編も書いてるんですね。うまい!
 
 「人魚紀聞」(椿實)
【レイテ戦で死んだと聞いた友人が生きていた。緑の眼の美女を紹介すると言う】
海賊、人魚、絶世の美女が現れる、酒場から始まる物語。冒険とロマン溢れる幻想の物語でした。
 
 「マドンナの真珠」(澁澤龍彦)
【飛行機が太平洋に墜落。生き残った美女3人は、亡者の乗る船に拾われる】
かっとんだ澁澤ワールドの亡者は、「亡者イズム」なるモラルを持つ集団だったりする。人間のように振る舞いたい、食欲や性欲を体験したいと思いつつも出来ない彼らが悲しい。幻想の「赤道」が結構スゴイ。私が子供の頃に思ってた事だわ!
 
 「恋人同士」(倉橋由美子)
【ミカはババが大好き。隣のヤンニの事を好きになるけど、やっぱりババが好き】
ずばり言ってしまうと、ミカとヤンニは猫です。飼い主同士、猫同士は恋人のような関係になるんですが…。オチは、ヘンタイ入ってますけど女性作家ならではの繊細でエロティックな話です。
 
 「ウコンレオラ」(山本修雄)
【宇宙から来たと思われる軟体生物が発見された。高度な知能を持つ菌類だった】
ま、いわゆる「エイリアン」。この作品では粘菌のような生き物です。高度な知能を持ち、哲学も一席ぶつ粘菌。彼等は今でも移動している…のかも。(2003.6.23)


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 6

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

著者 : アゴタ クリストフ

出版社:早川書房

発売日:2001-11

評価 :

完了日 : 2003年06月21日

 「悪童日記」では、寓話的で名前のない登場人物たちが繰り広げる、残酷で、でもどこかアッケラカンとした物語が魅力的でした。続編の「ふたりの証拠」では、グッと主人公の生活に踏み込んで描いています。成長し、女性を愛したり誰かと深く関わりつつも、虚無を抱えこんだリュカの生き方は魅力的ですが、前作のような雰囲気が好きだった私には多少ものたりなかったです。
 
 主人公であるリュカは、前作のラストで双子と別れ、主格は「ぼくら」だったんですが、「ふたりの証拠」で名前をつけられています。もう一人の双子は「クラウス」とリュカは呼んでいます。名前をつけられることにより、このカリスマ双子がグッと身近になっちゃったんですよね。私はこの双子は象徴的存在の方が良かったんですが、「悪童」を読み終わって、この子たちがどうなったか知りたいわ!と思った方にはこの続編も良かったかもしれない。私も、もちろん知りたかったのですが、なんつーか、想像させてくれた方がいいのかもしれないな〜。作者がこの物語と主人公に愛着があったのかもね。で、好評だったからつい踏み込んで書いてしまったと。私はクールな前作の方がヨカッタよ〜。
 
 ラストには、あるオチが用意されているんですが、これも大抵の読者は思っていた事ですね。きっと。「悪童」読んでた時にも、そーいう可能性はあるよな、と思ってましたから。でも、はっきりと書かれていないので、これは続きを読めばわかるってコトなのかも…って、はっ!これは作者に踊らされているのか?(笑)


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 1

うつろ舟―渋澤龍彦コレクション   河出文庫

著者 : 渋澤 龍彦

出版社:河出書房新社

発売日:2002-09

評価 :

完了日 : 2003年06月17日

「護法」
友人に冷やかされ、十王堂から譲法童子の木像を持ち出してきた男。ある日その譲法が現れ、男と酒を酌み交わす。
十王というのは、冥府の十王と呼ばれ、閻魔王もその内の1人。男と譲法の不思議な交流がメインだが淡々とした譲法のキャラクターが怖いような、面白いような。不思議な読後感。
 
「魚鱗記」
長崎では魚を使った遊び、ヘシルペスが流行していた。絵師はこの遊びの話を友人にするが、友人はヘシルペスの話をしたがらない。夜になり、絵師の枕元に友人の子供が現れるのだが、主に聞くと子供は亡くなったのだと言う。
魚を使った遊びヘシルペスから起こった不思議な幽霊譚。2人の子供の関係が妖しい。ヘシルペスやマフネステン(磁石)などの単語の語感がまた不思議。
 
 「花妖記」
抜け荷を売ろうとする男が、遊び人らしき男に呼び止められた。からかう気持ちで、男はある宝玉を売ろうとする。
遊び人の男の妄想か現実かわからない話に振り回される商売人。そして、ラストはかなり衝撃的だ。ちなみにこの宝玉、エロティックな目的で使われるシロモノ。
 
 「髑髏杯」
盲目の詩人は盃を集めるのが趣味だった。趣味が高じて、髑髏の杯が欲しくなり、ある武将の髑髏を探しに墓をあばこうとする。
バチあたりな事をする男の運命は、誰もが想像する通りなのだが、この墓あばきだけでなく詩人には過去にもある因縁があった。しかし、作者の書くこの詩人の末路は、どこか優しく、暖かい。死への誘惑にも見える。
 
 「菊灯台」
塩田で働く男たちの中に、一人若い男がいた。彼は、記憶が無かった。昔、人魚と交わり、海にいたところを人買いにさらわれたのだった。
この作品、スカトロ、同性愛、SMなんでもあり。でも、なんとも言えない妖しい死の魅力があった。
 
 「髪切り」
武士の娘として育ち、剣の手ほどきを受けた女。父と江戸に出て、道場を開いた。ある日、行者が家の近くにずっと座り込んでいるのを不気味に思う女だが…。
一言で言えば、髪フェチの話。この娘は女だてらに剣を握る男装の麗人。本人にその気は無いのだが、男っぽい姿が逆に女の美しさを際立てている。男性にとって、美しい女の髪は何よりの魅力のようだ。
 
 「うつろ舟」
海岸に、まるでUFOのような形をした舟が流れついた。その中には金髪碧眼の美しい女が箱を抱えて微笑んでいる。漁村ではさまざまな噂が飛び交うが…
表題作です。いやー、この話はすごい。空間の広がり方がSFのようにダイナミック!そして幻想的で、エロティックで、澁澤の魅力がたくさんつまった短編。
 
 「ダイダロス」
波打ち際に、打ち捨てられている一艘の大船があった。鎌倉の将軍が作らせたものだが、重すぎて動かず、そのまま打ち捨てられていたのだった。その船の中では、天平生まれの美女が一人で住んでいた。彼女はタペストリーに織られた女だった。
作中では特に触れられないのだが、ダイダロスとはギリシャ神話でミノスのラビュリントスを作った名工のこと。この短編の中にも大船を作った男が出てくる。船を作った男と、タペストリーの中の美女が出会う不思議な話になっている。(2003.6.17)


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 11

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

著者 : アゴタ クリストフ

出版社:早川書房

発売日:2001-05

評価 :

完了日 : 2003年06月10日

 時代は第二次世界大戦の末期、ハンガリーの田舎町らしき舞台で、おっそろしく頭のいい双子の兄弟の日々を、日記のように帳面に記したという形の小説です。原題は「Le Grand Cahier」で、直訳すると「大きな帳面」のような意味だそう。インパクトのある邦題で、手にとった方も多いんじゃないでしょうか。
 
 双子の兄弟を始め、登場人物や街にも特に名前はなく、象徴的です。文章もシンプルで、童話のような雰囲気を持っています。しかし、そんな無邪気とも言える文章で書かれた内容は、悲惨な戦争と、そこに生きる人々の末路。昨日までいた店の主人は「消え」てしまう。はっきりと書かれていないか、おそらくユダヤ人で、強制収容所に連れて行かれたのだろう…と想像できる。そんな感じですね。
 
 「悪童日記」というタイトルでもわかるんですが、この双子の兄弟、メチャメチャ悪党。というか、これでもか!というぐらいに、残酷なまでに頭が回る。戦争という状況すら、彼等にとっては利用するべきもの。そのへんが、不思議な爽快感があったりします。私は、ちょっとヘンかもしれないけど、この双子は「天使」だと思った。人間の善悪とは全く関係ない所にいる存在というか…。ダークヒーローとでも言うのかな?フツーの戦争小説だと、子供はヒサンな目に会うだけなのにね。双子の行動は、とんでもない事かもしれないけど、希望すら感じさせられる。生き延びるという希望かもしれません。
 
 んで、「悪童日記」が影響を受けたという「異端の鳥」を最近読んだ私としては、どうしても比較せねばならないんですが(^ ^;)基本的な所は一緒なんですよね。「子供が」「疎開先で」「大変な経験をする」という導入部分は。でも、物語の骨子は全然違いますね。作者の考え方が別なんだと思います。「異端の鳥」は、読者を完膚なきまでに叩きのめすような衝撃があるんだけど、「悪童日記」は、物語の面白さを押し出しつつ、衝撃的な場面を折り込んでいる。それに、「悪童」には出口がある。「異端」の方は…出口すら希望がない。ここが大きいかな。


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 3

宮殿泥棒 (文春文庫)

著者 : イーサン ケイニン

出版社:文藝春秋

発売日:2003-03

評価 :

完了日 : 2003年06月05日

 いわゆる「Good Boy」の切なく、ちょっと痛いお話。4つの中編が収録されています。
 
 「会計士」
幼馴染みの2人の男の子は、一人は真面目な会計士に、もう一人は企業の社長になっていた。かつて野球をしていたことから、会計士は元プロ野球選手を交えての親善試合に招かれるのだが…。
真面目〜に生きてきた会計士は、家族も持ち、そこそこに幸せだと信じている。そこに割り込んできたのは、不真面目だったのに今は社長の親友。面白くないのに、それを必死に隠そうとする会計士はちょっぴり滑稽。意味のない行動から、少しだけ家族と心を通わせるシーンは良かったです。
 
 「バートルシャーグとセレレム」
天才的な兄を持つ弟と両親は、兄を理解したいと思いつつ、距離を感じている。だが、兄は仲間と秘密の言葉を使って話し始め、家族はさらにとまどうのだが…。
にいちゃんは、数学コンテストに出てパンパン勝ち進んでしまう程の頭脳の持ち主。弟は、ごく普通だけどそれなりに人生楽しんでる。そして両親は、理解ある親でありたいと思っている。そんな微妙な家族の関係が、とてもリアル。ところで、私は作中の数学の問題の意味がわかりません(笑)。普通が一番?
 
 「傷心の街」
妻は出ていき、息子は自分の理解出来ないボランティアに励むのが実は面白くないウィルソン。帰郷した息子と野球の試合を観戦している時に、ある女性と出会う。
とにかくなさけないオジサンの話。どうして妻が浮気して出て行ったのか、ウィルソンはわからないようだが…。離婚後、そこそこ女性にもモテているから、魅力ある人なんだとは思う。息子はすでに自分の生き方があり、その中で精いっぱい父親の心配をしているのだが、もう家族はバラバラの道を歩いている。そして、父親も家族で過ごす日は帰ってこない事を頭では理解しながらも、忘れられない。寂しい余韻の残る話。でも、私はこのなっさけないオジサンの話が一番好きでしたね。
 
 「宮殿泥棒」
名門高校の教師、ハンダードはかつての教え子のセジウィックの思い出を語る。彼は、落ちこぼれで、手を焼く生徒だった。だが、今は産業界の大立者になり、ハンダートをあるイベントに招待する。
表題作です。真面目一直線の先生、ハンダートが主人公ですが、こーいう先生は自分が学生だったら、ちょっと苦手かもね(^ ^;)よく話して見たら、いい先生じゃないかとは思うだろうけど…落ちこぼれには厳しいし。教え子セジウィックは、カツオくんの如才無いところと、ジャイアンのようなイジメっこの部分を合わせもつ、まぁいわゆるゴーインで、成功するタイプ。はっきりいって、イヤな奴だよね(笑)。利用できるものは全て利用する。かつての恩師でも。「性格は宿命である」という言葉がこの作品に限らず何度か出てくるけど、2人の性格も年をとっても変わっていないようです。
 
 4つの作品すべて、天才や成功者の陰で比較されるフツーの人たちにスポットを当ててます。ただ単に甘くはなく、かなり苦味もある話です。人生の成功者とは言えない人々を、うまく描いている所が良かったと思います。


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 3

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく

著者 : ランス アームストロング

出版社:講談社

発売日:2000-08

評価 :

完了日 : 2003年06月04日

 世界一苛酷なレースと言われるツール・ド・フランスを制覇し生存率30%とまで言われ、脳にまで転移していた睾丸ガンをも制覇した男の物語です。自転車競技の選手よりも、ガンという病気を生き抜いた一人のサバイバーとして作者は書いています。
 
 アメリカでは、自転車競技はあまり盛んではありません。ヨーロッパではツール・ド・フランスの優勝者は英雄として讃えられる程の人気だそうですねぇ。アームストロングは、アメリカで育ちました。アメリカでは人気のあるフットボールや水泳に取り組むのですが、しっくりこない。ところが、自転車競技にはすっかり夢中になり、高校生の頃には賞金をかせぐようにまでなります。
 
 その後、着々とキャリアを積み、21歳の時、至上最年少で世界自転車選手権で優勝。若手の自転車競技者として、順風満帆なスタートでした。ところが、まだこれから…という25歳で、睾丸ガンに侵されてたんですねー。しかも、肺や脳にまで転移。調子が悪いなぁとは思ってたようなんですが、自転車競技はガマンするのが重要なんで、ずーっとガマンしてたそうです。きっと、フツーの人ならもっと早い段階で病院に駆け込んでたと思う…。25歳でガンだとは考えにくいしね。
 
 んで、ある日血を吐いてしまい、これはタダごとではないとようやく気が付き、病院に行ったら、即入院、即手術。しかも生存の可能性は30%!ガンの進行は末期状態でした。が、そこからより自分の方針とあった医者を探し、治療方法についても勉強するアームストロング。レントゲン写真や数値はほとんど理解してたそうで、すごい意志がある人なんです。
 
 いままで自転車競技で人生街道をひたすらつっぱしってきた彼は、レースに勝つことで強く、自分の価値が上がると思っていたそうです。「どうして自分が?どうして他の人でなく自分が?でも僕は、化学療法センターで僕の隣に座っている人より、価値があるわけでもなんでもないのだ。そもそも価値があるかどうかなんていうこと自体、おかしいのだ」(本文より)ガンの前では、何もかもが無力と知り、そしてそこから希望を見い出す姿は、涙がでました。
 
 そして、化学療法に耐え、退院したあとは、衰えた肉体と気力のなさに落ち込みつつも、奥さんと立ち直っていきます。うーむ、病院にいる時もそりゃ辛いでしょうが、退院してフツーの生活に戻るのも、それは大変なんですよね。ここでリアルだなぁと思ったのは、今まで闘病生活でつきそってくれた女性と別れてしまった事。この女性、きっと忍耐使い果たしたんだと思う…気の毒に。ここで映画だったらきっといままで看病してくれた人と結婚するんだろうけど、現実はそうはいかない場合も多いのね。きっと、この女性も別の方と今は幸せなんだろう…と思う。
 
 もうとにかく、このアームストロングの人生そのものが、トンデモナイのです。自分の人生をただ単に書いただけでも、物語になっちゃう希有な人。彼はいまだに現役で(32歳)、ツール・ド・フランスで4連覇してるそーです。表題作の「マイヨ・ジューヌ」とは、「黄色いジャージ」という意味のフランス語で、現在区間までの総合一位の選手が着るジャージ。原題は「It's Not About the Bike」。(2003.6.4)


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 10

石の猿

著者 : ジェフリー・ディーヴァー

出版社:文藝春秋

発売日:2003-05-31

評価 :

完了日 : 2003年05月31日

 事故で脊髄を損傷し、四肢麻痺というハンディキャップを背負いつつも、凄腕の鑑識としてNY警察に協力するリンカーン・ライムを主人公としたシリーズ。他にもライムのパートナーである赤毛の美女、サックスや友人の刑事、ロン・セリットーなど、いつもの登場人物の顔ぶれが楽しめる娯楽ミステリに仕上がっている。
 
 今回のテーマは中国人密航者。不法移民として、中国から命がけでやってきた人たちが作品の重要なキーとなる。作者はそんな中国人たちを公平に、そしてやや優しく描いている。特に、ライムとも親密な関係になるソニーはいい味出してる。自分の運命を呪い、危険な手術を受けて少しでも体を改善したいライムに、ソニーは運命を受け入れること、今の姿そのものが自分だと理解する事を勧める。押し付けがましくなく、自然なソニーにライムが心を許すシーンは印象的だ。
 
 だが、ミステリ的にな面白さは薄れたかもしれない。ディーヴァーはラストの2転3転のドンデン返しが持ち味だが、今回は割とあっさりめ。作品は中国密航者と蛇頭について、詳しく書き過ぎてミステリの部分はおざなりなのかも…。
 
 ライムシリーズが好きな方なら、いつものメンバーが番外編というか、箸休めといった感じで楽しめるだろう。私の好きな看護士、トムも相変わらず目端の利く男で楽しかった。でももう少し出番増やして欲しいというのはファンのわがままだろうか。


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 22

停電の夜に (新潮文庫)

著者 : ジュンパ ラヒリ

出版社:新潮社

発売日:2003-02

評価 :

完了日 : 2003年05月30日

 この本は、9つの短編が収録されています。カルカッタ出身のベンガル人の両親を持つ作者は、ロンドン生まれで幼少時に渡米。だから、インドの文化を持ちつつパーソナリティはアメリカ人って感じでしょうか?読む前は、そのような経歴から自分には感覚的にわからない部分が多いだろうなぁと危惧してたのですが、そのような事はまったくなかったです。誰の人生でも起こりうるであろう、ちょっとした瞬間をとても丁寧に書いてあって、涙腺刺激されました。
 
 「停電の夜に」
【夫婦の住むアパートに停電の知らせがくる。停電の間、夫婦は1つずつ隠し事を出して話し合うように】
表題作。少しだけボタンを掛け違えてしまった夫婦。溝は埋まりそうにないのだが、停電が2人の心を近づける。しんみりとしていて、ロウソクの灯のような話。
 
 「ピルザダさんが食事に来たころ」
【子供だった私のもとに、ピルザダさんはいつも食事に来ていた。インド・パキスタンの争いに巻き込まれた家族をいつも心配するピルダザさん】
泣かせ度高いです。子供の頃って、両親のお客さんにすごく興味を持つんですよね。お土産つきならなおさら(笑)。そんなお客さんの事情を回想する形で綴られています。遠くにいる人の無事を願うこと。そんな気持ちが切なく、泣けます。
 
 「病気の通訳」
【インドで観光客相手の通訳の仕事をしているカパーシー。アメリカからきたインド系のダス家族を案内するが、奥さんに少しだけ憧れる】
インドっていう国は、通貨でも10以上の言語で書かれていると聞いたことがあります。カパーシーは、病院で人々と医者の通訳の仕事もしている。そんな時に会ったアメリカから来た婦人に、色々妄想するんですが…。観光客と、そこに住む人の温度差がおもしろい。
 
 「本物の門番」
【階段掃除をしているブーリー・マーは、住民に苦労話もするが、贅沢な暮らしをしていた時の事も話す。ホラだろうと聞き流す住民】
上記の作品とはちょっと毛色が変わって、インドの貧しい人たちの話。なんとなくうまく助け合っていたブーリー・マーと住民の関係の崩壊が、淡々と切なく描かれてます。
 
 「セクシー」
【ミランダは、インド人の男と不倫関係にある。インド人の友人ラクシュミに、自分の親類の夫が不倫していると聞き、動揺するが言い出せない】
これは切ない。不倫しているミランダの週末の寂しさ、着ることのないドレスを買うシーンとか…。その中でも、ラクシュミの親戚の子供のいうセリフがイイ! ラストは、少しだけ悲しくて、それでいて希望があって好きです。
 
 「セン夫人の家」
【シングルマザーの母と暮らすエリオットは、セン夫人の家にあずけられる。セン夫人にとって「うち」はインドであって、アメリカではなかった】
土地にすぐになじめる人もいれば、そうでない人もいる。セン夫人は、いつもインドを懐かしんでいる。「ここの人、みんな自分だけ世界にいる」というセリフが印象的。
 
 「神の恵みの家」
【若い夫婦、サンジーヴとトゥインクルは、新居でたくさんのキリストの像やはがきなどを見つける。喜ぶトゥインクルだが、サンジーヴはキリスト教でもないのに、飾るのはおかしいと不機嫌に】
一緒に暮らすようになって、こんなはずじゃなかった〜とか、こんなヤツだったのか、と思うことはたくさんあるはず。2人が同じものを見つけたのに、反応がまったく違う姿がオモシロイ。こーいう事がありつつ、うまくやって行くんだろうな。
 
 「ビビ・ハルダーの治療」
【ビビ・ハルダーは生まれつき病んでいた。医者が「結婚すれば治る」と苦し紛れに言ったことから、結婚したいと望むビビ。だが、なかなか相手は見つからない】
「本物の門番」と同じく、インドの下町の話。ビビは、病人(なんの病気かははっきりとはわからない)なんだけど、耐える女って感じじゃなくて、結構言いたい放題で清々しいぐらい。
 
 「三度目で最後の大陸」
【私は、インドを離れロンドンで学び、アメリカのマサチューセッツ大学で職を得た。下宿先ではミセス・クロフトという変わったおばあさんが管理していた】
これは〜。また涙でますっ。ええ話です。「私」は、結婚してるんだけど、妻は親が決めた相手で、ほんの少ししかインドで一緒に過ごしていない。しばらくすると、妻がアメリカにやってくるけどギクシャクしてて…ってな話になっていきます。とにかく、ラストは涙なしには読めません。月に行った宇宙飛行士の一歩は大きな一歩だっただろうが、普通に生きる人々の一歩だって、大きな一歩だったりする。そんな素敵な一遍です。(2003.5.30)


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 9

贖罪

著者 : イアン マキューアン

出版社:新潮社

発売日:2003-04

評価 :

完了日 : 2003年05月27日

 マキューアン作品で読んだのは「愛の続き」と「黒い犬」で、かなりインパクトのある作品だった。しかし「贖罪」では、そのインパクトは少し陰を潜め、趣のある大河小説という感じに仕上がっている。
  
 主人公のブライオニーは空想がちな少女。地方の旧家に育ち、年の離れた兄と姉に囲まれ、母は病弱。父親はあまり家に帰ってこないという環境ならば、そうなっても仕方ないのかもしれない。そんな少女が、あることから「贖罪」という重い言葉を背負ってしまう。罪とは?そして、それをつぐなうこととはどういう事なのか?そんな重いテーマがこの小説のメインとなる。
 
 前半は、ブライオニーとその周りの家族、姉、兄と友人、使用人の息子ロビーの過去や心情をかなり丁寧に書いてる。少しこのへん長く感じたが、ここがあるから後半とラストが生きるのだろう。後半は、時間が経過し事件から変わってしまったブライオニーと姉セシーリアと、ロビーの人生。そして、ラストに明かされる事実は、この小説自体をある意味ひっくり返し、ブライオニーが小説を書くという視点から、小説とは何か?という深いテーマにも作者は挑む。
 
 今までのマキューアンの作品よりは、かなり読みやすい作品の上、芯にはいつものシニカルな視点もあり、洗練された作品だと思う。訳者あとがきにある、マキューアンのエッセイからの言葉「愛のあとにあるのは忘却だけ」は印象深い。忘れなければ、生きていけないが、忘れてしまえば、何が残るのか。
 そういえば、「愛の続き」でも、長く続く愛は宗教的な愛(一方的な愛)だ、という話だった。この「贖罪」でも、アイロニーに満ちたマキューアンの腕前が充分に堪能できる。(2003.5.27)


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 4

ダロウェイ夫人 (角川文庫)

著者 : ヴァージニア ウルフ

出版社:角川書店

発売日:2003-04

評価 :

完了日 : 2003年05月19日

 この文庫は、映画にあわせて昭和30年に出ていたものを復刊したそうで、訳は富田彬。他には、集英社からソフトカバーで訳は丹治愛。ヴァージニア・ウルフコレクションという全集では近藤いねこ訳でも出ています。買いやすいのは文庫ですが、注釈はついてないです。

 ウルフっていうと、もう名作!で、難しそうで、私にはムリかな…とずっと思ってました。でも、「めぐりあう時間たち」という映画をきっかけに、がんばってチャレンジしてみました。結論から言うと…よくわかんなかったです。もちろん、この作品がどうという事ではなく、自分の理解力の無さが原因というのはよーくわかってるんですけどね。
 
 この作品は、ヴァージニア・ウルフの傑作で、「意識の流れ」という手法を用いたことで有名です。「意識の流れ」ってなんじゃ?と常々疑問だったんですが、読んでみると「ああ、なるほど〜」とちょっと納得。「ダロウェイ夫人」では、主人公であるクラリッサ・ダロウェイの心の描写もあるんですが、他のメイン登場人物の心象風景に自然に移動していきます。振り子がランダムに揺れてる感じかな。ある時はダロウェイ夫人のモノローグだったのに、次の段落では別の男のモノローグになってたり。
 
 まるで、人の心を次から次へと覘いているような感じは面白かったんですけど、文庫を持ち歩いて読んでいた私は、中断するとどこまで読んだか混乱する事しきり。章で分かれてないですしね。何ページか戻って、ああそうそうここだったわ、と何度も確認しちゃいました。
 
 私的には、メインから離れた所にあるセプティマスと妻、ルクレチアのストーリーがなかなか良かったかな。セプティマスは、戦争で追った精神的外傷から逃れられず、苦しんでいる。そんなダンナを愛しつつも、理解できない妻。そして決定的な破局が訪れてしまう。セプティマスは、もう一人の主人公とも言える存在で、この作品の初期段階では彼はいなかったというのも興味深いです。彼の存在は、物語に奥行きを与えていると思う。
 
 訳文でもとても美しい文章がかいま見られて、きっと英語で読むべき本なんだと思いました。日本語だとねぇ、やっぱり伝わりにくい部分も多いでしょうね。とりあえず、今回は顔みせって感じで、また再読すると良さがわかってくるかな…と思ってます。(2003.5.19)


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 1

人質交渉人―ブルッサール警視回想録

著者 : ロベール ブルッサール

出版社:草思社

発売日:2002-12

評価 :

完了日 : 2003年05月15日

 この本を手にとってみますと、シブーイオジサンの写真の表紙が目にとまります。まるで古いフランス映画の刑事のような男。彼こそがブルッサール警視です。若い頃は軍隊に所属していたこともありましたが、警察に事務員として入り、それから勉強してのしあがった、努力の人でもあります。
 
 そんな彼が「36」と呼ばれるパリ警視庁の刑事となり、探索出動班(BRI)と呼ばれる部署に入ります。ここは、「アンチ・ギャング」と呼ばれ、強盗などの凶悪犯を追うのです。さらに、凶悪化する犯罪に対抗するために、犯罪をする可能性のあるワルを調査したりもします。まだまだヒヨッコのブルッサールを指導する上司がとてもカッコイイんだな。犯人を尋問するときに、パイプ煙草に葉を詰めながら、じっくり犯人に向かいあう。ちょっとここの所、書きだしてみましょうか。
 
 「ポワブランはゆっくり窓のほうに歩き、セーヌ川を眺める。煙の渦がその身体の周りで舞っている。両手をポケットに突っ込んだまま、彼は容疑者のほうへ戻ってきて、ただ四つの言葉だけをいう。『私には、どうも、よく、わからんな……』
 
 どうです、かっこいいでしょ??フィルム・ノワールの世界でしょ?セーヌ川ってのがもうどうにもかっこいい。これが神田川とかだとまた違う感じかも…。
 
 ブルッサールさんは、たくさんの刑事の憧れの部署でしばらく働きますが、さらに新しい仕事に興味を持ち、異動します。そこがBAC、通称アンチ・コマンドです。ここでは、テロリストや犯罪者による立てこもり事件の担当。犯人と交渉し、事件を解決に導くとっても重要な仕事です。彼の担当した事件の中には、有名なオランダ、ハーグの日本赤軍によるフランス大使館占拠事件もあります。日本人テロリストと警視とのやりとりは、なかなか興味深かったです。
 
 と、大変面白い本でありますが、ちょーっと読みにくい所もあったかな。無口な男が、朴訥と語る(実際は饒舌なのかもしれないけど…)って感じで、とっつきにくさもあります。しかし、昔かたぎのギャングとの交流や、パリでのカーチェイス、仲間の負傷、そして死…と、こりゃ映画や小説もビックリだ〜ってなシーンがてんこもり。刑事モノ好きな方にはぜひおススメです。(2003.5.15)


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 1

晴子情歌 上

著者 : 高村 薫

出版社:新潮社

発売日:2002-05-30

評価 :

完了日 : 2003年05月11日

 高村薫、久々の新作なので、さっそく買ったのに1年ぐらい積んでました…(^_^;)今までの作品とは、根っこは同じなんですが、作品としてはミステリではなくなり、普通小説(っていうのかな)になってます。チラッと聞いたんですが、作者はもうミステリは書かないと言ってるそうで、新しい分野に挑戦したいのだと思います。
 
 で、この本では、主人公彰之の漁師として働きながら、自分の過去を振り返る部分と、母親晴子が送ってくる手紙としての回想シーンが交互に語られます。晴子は、東京で教師の父親と家族で住んでいたのですが、母親の死をきっかけに、父の実家、青森に移ることになります。父は漁師となり、環境は激変。でも、意外と淡々とした晴子さん。さらに運命は二転、三転します。
 
 戦前、戦後という昭和史を描いていて、私は当然そーいう世代ではないけど、少し懐かしいなぁという気持ちがありました。自分が小さいとき、友人の家の鴨居の上にあった、古い写真などを思い出したり。こういった「親、もしくは祖父、祖母」の時代を書いた最近の作品って、あまり読んだことが無かったな。彰之は母親から手紙を受け取るわけですが、実際には親から手紙をもらうことなんて滅多にないし、そのへんはフィクションとしての面白さですね。(余談ですが、作者は何年か前に、母親を亡くしているそうで、母親への思いがこの作品にこめられているのかもしれません)
 
 そんなワケで、作者のしたい事はなんとなくわかる気もするんですが、晴子さん、なんだか流されるがまま…って感じだし、結構とんでもない目にも合うんだけど、淡々としててちょっと理解できない所も。実は、現在この「晴子情歌」の続編が新聞で連載中らしいので、続きを読んでみたらわかる部分もあるのかもしれません。(2003.5.11)


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 1

警視庁刑事―私の仕事と人生 (講談社文庫)

著者 : 鍬本 実敏

出版社:講談社

発売日:1999-10

評価 :

完了日 : 2003年05月05日

 この本の作者鍬本さんは、警視庁捜査一課で数々の事件に携わりました。この本では、思い出深い事件や、警察のあり方、ウラ話などを語っています。それがとっても面白いですね〜。ちょっと驚いたのは、この刑事さん、結構ヤクザとか、そーいうウラ稼業の人たちとも交流があって、渡り合ってる。情報を取るためには、懐にもぐりこまなくてはならない、でも、なれ合ってはいけない。そんなポリシーがある。
 
 んで、可笑しいのが、総会屋に「アンタは総会屋になったら絶対もうかる」ってスカウトされたんですって。鍬本さんの胆力のあるところを見込んだのかな。他にも、愉快なスリの話が印象深い。ドヴォルザークの好きなスリとか、逃げ出した病院のお金を人を使って、わざわざ払いにきた女スリとか。

 事件の話で、驚いたのは「蛇を飼う男」というエピソード。古本屋で殺人が起きて、自殺かと思われたが聞き込みである男が浮上する。鍬本さんが家に踏み込むと、部屋の中でたくさんの蛇を飼っていた。そして、机の上には過去帳があり、それには殺人の様子がことこまかに書いてあった…。この殺人事件は、昭和40年ごろだそうですが、かなりサイコというか、猟奇的というか…。こーいう犯罪者って、昔からいるんだなぁと納得してみたり。
 
 捜査の話や、上司とうまくいかなくて誤認逮捕の責任を押し付けられたりするエビソードは、高村薫の「マークスの山」や横山秀夫の刑事物なんか好きな人にはたまらないかも。実際、この鍬本さんは高村薫や宮部みゆきらミステリ作家に警察のアドバイスをしています。この本の最後には、交流のあった作家のエッセイも収録されています。
 
 刑事さんの昔話という感じで、正直もっと詳しい話をして欲しかったけど、気楽に読めますし、興味深いエピソードも多いです。刑事モノ好きな人だったら、軽い気持ちで読んでみてもいいのではないでしょうか。(2003.5.5)


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 3

妖異金瓶梅―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

著者 : 山田 風太郎

出版社:扶桑社

発売日:2001-10

評価 :

完了日 : 2003年05月04日

 まず「妖異金瓶梅」というタイトルについて調べた事を少々。「金瓶梅」というのは、明の時代(16世紀末)に書かれた小説で、中国四大奇書の一つとして有名です。「四大奇書」には2つの説があって、「西遊記」「水滸伝」「三国志演義」は確定みたいなんですが、最後の1つが「封神演義」か「金瓶梅」という説があるそうな…(余談だけど、「封神演義」は数年前マンガとしてヒットしたので、知ってる人が多そう)。この「妖異金瓶梅」は、「金瓶梅」を元にしたパロディ的ミステリ小説です。

 この小説は、15の短編から成る連作になっています。あるパターンがあって、ミステリ的に犯人は誰だ?という楽しみは少ないし、トリックもそうビックリするわけではありませんが、とにかく面白い!グイグイ読ませてくれます。登場人物も魅力的ですしね。特に女性陣は、よりどりみどりの美女で、しかもキョーレツな性格だったりします。
 
 女好きと妾の話とくれば、まぁお分かりと思いますが、かなーりエッチな話です。というか、そればっかり…。しかも、ヘンタイ入ってるし…。美少年もはべらせてるしなぁ…西門慶。もう手当たり次第です。でも、そんな主人にゾッコンな犯人は、愛をひとりじめしたいがために殺人を犯します。超勝手なヤツですが、どこか憎めないところもあったかな。魅力的で危険な人間でした。探偵役の応伯爵は、フラフラした男ですが、頭が回って面白い男。結構ワルな所がいい。
 
 ラストの展開は、かなりビックリしました。もつれた愛憎がこーいう所に行き着くのね、という感じで。調べたら、この時代ってかなり豊かな時代。文化は花開き、街もとっても賑わっていたようです。この時代の絵を世界史辞典で見たら、たくさんの店が並んでいて、人が行き来していて華やか。うーん、この中に西門慶やたくさんの妾が、お買い物したり、食事に出かけたりしたのかも…。そう思うとちょっとワクワクしてしまいました。余談ながら、徽宗ってかなり浪費家だったみたいですね。1120年に農民が反乱起こしたりしてるし。1125年に160年続いた宋は終焉を迎えるので、その前兆だったのかもしれない。
 
 エッチな話は好きじゃない人、西門慶のような妾たくさんの男はダメ!という人は、ちょっとおススメしにくいですが、とても面白い一冊でした。ミステリはダメという人にも、結構いける気がします。エンタメ小説として、完成度は高いと思いました!(2003.5.4)


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