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ぎんこさんの読書ノート

2003年読んだ本
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 2

始祖鳥記 (小学館文庫)

著者 : 飯嶋 和一

出版社:小学館

発売日:2002-11

評価 :

完了日 : 2003年04月30日

 この小説は歴史小説です。そして、「男の熱いロマン系」です。歴史小説というと、どうしても戦国武将とか、お侍とか、そーいう話が多いですが、この本では表具師、幸吉を主人公としています。面白いですよね。幸吉は「空を飛ぶ」ことに情熱を傾けていて、他の事…出世とか、お金、女は目に入りません。現代に生きていたら、すごいエンジニアになって「プロジェクトX」に取り上げられていただろうに。
 
 で、このへんを読んで、私は先日読んだ「驚異のエンヂニアの形見函」を思いだしました。これも、天才発明家の一生を描いた本で、「始祖鳥記」に似てなくもない。しかも、作者がその時代をとても良く調べていて、ディティールが細かいところも共通点かも。
 
 ワクワクして読み進めていたのですが、第2部に入ると、ガラッとお話は変わってしまいます。幸吉は脇役に周り、商売人伊兵衛がメインになるのです。話も、幕府が江戸の商人に塩の独占販売をまかせた事から、品質の低い塩が出回る。それに対抗するために伊兵衛は奮闘します。この男がねー、また熱いんだ(^ ^)。幕府の悪政を批判した男の評判(つまり幸吉)を聞いて、一念発起。彼の意気込みを受けて、協力する船乗りたちもまた熱い男たちです。
 
 2部もとても面白かったけど、3部ではまた幸吉に話が戻り、ちょっと中途半端になっちゃった所もあるかな。私としては、幸吉の話をもっと見たかったけど…。このへん、「驚異の…」でも同じ事を思ってたりして。でも、それぞれの男の生き方が、とても魅力的だし、面白かったです。この作者の別の作品も読んでみたいと思いました!(2003.4.30)


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 37

第三の時効 (集英社文庫)

著者 : 横山 秀夫

出版社:集英社

発売日:2006-03-17

評価 :

完了日 : 2003年04月19日

 この本は連作短編集になってます。F県警の捜査第一課に所属する刑事さんたちの話。この部署は3つの班に分かれていて、持ち回りで捜査活動をしています。
  
 「沈黙のアリバイ」
【第1班の朽木班長は、ある残忍な強盗殺人事件の公判に出廷した。自白したはずの被告、湯本が一転して「アリバイがある」と無罪を主張。動揺する朽木たちだが、アリバイには意外な事実が…】
取調室。そこは完全な密室。刑事と犯人という2人の人間の力関係が事件を複雑にします。まさにミイラ取りがミイラに…。過去に遭遇した事故から、笑うことが出来ない朽木の執念の推理が冴える。ラストは「太陽がいっぱい」風味?
 
 「第三の時効」
【1班から2班に応援に回された森刑事。2班では、15年前に起きた殺人の時効がせまり、最後のチャンスにかけていた。容疑者は、一時海外に滞在していたので、その期間時効が伸びる。その事を犯人は知っているのだろうか】
表題作。ここでは2班班長、楠見のキャラクターが異色。公安出身の彼のやり方は、まさに陰険そのもの。同僚刑事の「矯正不能な奴は現実にいる」とのセリフが納得。追うものと追われるもの、それはほんの少しの差しかない。そんな楠見の行動にプライベートまで揺さぶられる森だが、ラストはとっても良かったです。苦労するのは間違いないが、ガンバレ!
 
 「囚人のジレンマ」
【捜査第一課の課長、田畑。同時に3つの殺人が管轄で起こる。3人の個性的な班長を束ねる彼には苦労がつきない。捜査が大詰めを迎えた時、特ダネを得ようとする記者が、突然官舎に現れ、刑事しか知らないネタをつきつける。動揺する田畑だが】
今回の主役は、捜査する班長たちのさらに上に立つ課長、田畑が主人公。キレものだが、個性的すぎる班長をまとめ、マスコミと渡り合う田畑も苦労しています。刑事たちへの信頼を失いそうになるが、まだまだ捨てたもんじゃない、そんな温かさが残る1本でした。
 
 「密室の抜け穴」
【山林で見つかった女性の白骨死体。容疑者が浮かび、3班と暴対の刑事が合同で張り込みをするが、逃げられてしまう。完全に包囲したはずなのに、どこから容疑者は逃げたのか。F県警会議室では、責任の所在をつきとめる会議が行われていた】
3班の班長、村瀬は事件の起こった当初、脳溢血で倒れていたがこの会議で復帰。班長代理の東出は、容疑者に逃げられた責任を問われ大ピンチ。村瀬は、警察の包囲から逃げ出した犯人のトリックをあばきます。心理戦が見どころ。
 
 「ペルソナの微笑」
【隣のV県で、青酸カリを使ったホームレス殺しが起こる。それは過去に起きたF県での青酸カリ殺人に似ていた。子供を利用した非情な事件で、時効はあと2年。第1班の田中と矢代は捜査のためV県に向かう】
過去に起きたF県の事件と現在起きたV県の青酸カリ殺人は、同一の犯人なのか?自らも犯人に利用された過去を持つ矢代。その反動で刑事になった今、また同じような事件が…。貼付けたような笑顔を持つ刑事と犯人の、息詰まる取り調べが白眉。
 
 「モノクロームの反転」
【一家三人刺殺事件。この凄惨な事件に、田畑課長は1班と3班を投入。ソリのあわない2つの班は、お互いに牽制する。捜査が進むうちに、さらに対立が深まる2つの班。頭をかかえる田畑だが、捜査線上に2人の容疑者が浮かぶ】
ラストは1班、朽木と3班、村瀬の共演?(楠見はやっぱり無視ですか。そうですか)普段から手柄の競争をしているので、お互いに協力しようとする気は全くありません。ですが、一家三人惨殺という事実の前に、冷静で事件にのめり込むタイプの朽木と、現場の閃きを大事にする村瀬、2人の天才が事件を解決。オッサンたち、かっこいいです…。
 
 刑事さんたちが、とても魅力的。いろいろと解決していないエビソードもたくさんあるので、ぜひとも続編期待します!(2003.4.19)


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 14

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

著者 : 岩井 志麻子

出版社:角川書店

発売日:2002-07

評価 :

完了日 : 2003年04月15日

 変わった語感のタイトルは、岡山弁で「とても、怖い」という意味。4つの短編が収録されています。
 
 「ぼっけえ、きょうてえ」
【明治時代、岡山の遊廓で女郎が眠れぬ客に寝物語を始める。飢饉の時に生まれたこと、姉がいたこと、自殺した女の事。そこには暗い影が…】
表題作です。女郎の語りで話は進んでいくのですが、彼女の心の奥深い闇が次第に明らかになるのが怖い。ですが、ちょっと「コワイ要素」を盛り込みすぎかも…。もう少し押さえた描写の方が、私は好みかもしれないです。
 
 「密告函」
【明治時代。岡山のある村ではコレラが流行っていた。村役場に勤める男は、「密告函」の担当を命じられる。この函は、コレラに感染した家を密告するために置かれたのだった】
「ムラ」という社会のいびつさを書いた話。しかーし。これは妻のオソロシサが際立っています。世間の夫たちは、この本を読んで戦慄するべし。浮気は、奥さんに必ずバレてます。気が付かないフリをしてるのです。ほら、あなたの食べてるミソ汁…いつもより、辛くないですか?
 
 「あまぞわい」
【岡山のある漁村。この村には「あまぞわい」という伝説があった。猟師の妻となった女は、夫の暴力に耐える毎日。ある日、網元の息子と恋に落ちるのだが…】
「あまぞわい」という伝説が、男と女によって全く違う話というのが面白い。その伝説に呪われたように、深みにはまっていく女…。彼女の終の住処は?
 
 「依ってくだんの如し」
【貧しい生活をしている兄と妹。母親がツキノワと呼ばれる神聖な田で自殺したので、村人から蔑まれている。飢え死にするよりは、と兄は日清戦争に出征。心配する妹に、兄は必ず生きてかえると言う。「くだんに教えてもらったんじゃ」と…】
4つの中では一番気に入った一遍。かなり陰鬱な話でしたけど…。「くだん」という言葉がもう怖いしね。
 
 この短編集では、明治時代の岡山が舞台の話ぱかりでした。今度は違ったモチーフの話も読んでみたいです。(2003.4.15)


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 1

スパイダー (ハヤカワepi文庫)

著者 : パトリック マグラア

出版社:早川書房

発売日:2002-09

評価 :

完了日 : 2003年04月14日

 タイトルの「スパイダー」は、母がデニスに名付けたニックネーム。うーん、母親が子供につけるにしちゃブキミなニックネームのような気がします。でも、この不気味さがまたこの作品にはふさわしい。
 
 この作品のミソは、主人公が物語の語り手でありながら、狂気に陥っているということでしょう。だけど、とっても冷静に語っています。静かな狂気です。話はどこからどこまでが「真実」かわからないし、かなりウソも混じっています。ですが、デニス自信も混乱していて、どこまでが本当に経験した事なのか、わからなくなっている気がしました。私は精神病に詳しくないですが、かなりリアルな狂気しじゃないかなぁ〜。人格もいくつかあるみたいだし…。
 
 映画の方は、クローネンバークが監督したそうですが、私としてはこの作品は映画としては難しそうな気がしました。推理小説に「叙述トリック」と呼ばれるものがありますが、この作品もそれに近いからです。ですが、もちろんこれは推理小説ではないし、何よりも主人公の精神の迷宮でフラフラ惑わされることが肝心じゃないかな〜。もう一度読むと、もっと理解できるかもしれません。


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 1

驚異の発明家(エンヂニア)の形見函 (海外文学セレクション)

著者 : アレン カーズワイル

出版社:東京創元社

発売日:2003-01

評価 :

完了日 : 2003年04月10日

 この物語は、形見函が10の仕切りに分かれているのと同じように、10章に分かれています。そして、各章はそれぞれのオブジェの名前がついています。1章は「わたし」が形見函を手に入れるいきさつですね。これがとってもいいですね〜。オークションでたまたま安く手に入れたナゾの函。ガラスに気泡が入っていることから古い品物だと推察するところなんて、ワクワクします!イタリア人コレクターから、この函は「メメント・ホーミネム」というものであり、この函に納められた物体がその人の人生を象徴している事を聞く。函を作ったクロード・バーシェとはいかなる人物だったのか?
 
 2章からは主人公、クロードの奇異な人生が描かれます。指の間に変わった腫瘍があったばかりに、人間の奇形を集める医者に中指ごと切り取られてしまったクロード少年は、それがきっかけで地元を納める貴族で「尊師(アベ)」と呼ばれる老人と生活するようになります。絵の才能を見い出されたのですが、彼にはもっと別の形の才能があった。それは父親ゆずりの機械工学の才能だったんですね〜。
 
 こんな感じで、私的には非常にワクワクするネタが多く、すごく楽しく読んだのですが、中盤からはクロードの本来の才能とは関係ない所で働くハメになります。それはそれで、とても興味深い内容なんだけど、私は早いとこクロードの「驚異の発明」が見たかったし、もっとたくさんページをさいて欲しかった…。ブレゲなんて出てきて、おおっ、あの高級時計メーカーでさっそくクロードは天才ぶりを発揮するのね!とコーフンしてたのに…。ただ雇ってもらえなかっただけなのね。ちと残念。
 
 ラストのあたりは、私の期待した部分に突入するんですが、とにかく短くて。もう続編も邦訳されるのが決定してるそうですが、作者もこの第一作で書ききれなかった部分がたくさんあったんじゃないかなぁ?あきらかに最後の方はバタバタと終わってますし。1作目は序章に過ぎなかった!とか言いそうな予感が…(笑)。あ、でも私は続編ぜひ読んでみたいです!
 
 とにかく一行一行が、ホントによく調べてないと書けない文章だし、18世紀という激動の時代(政治的にも、科学的にも)を良く書いていると思いました。「時計」「自動人形(オートマタ)」「職人」などのキーワードにピンとくる人は読む価値ありかと思います!「ヴォーガンソンの家鴨」とかをこの本以外で読んだことある人はぜひどうぞ。(2003.4.10)


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 6

ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上) 新潮文庫

著者 : 塩野 七生

出版社:新潮社

発売日:2002-06

評価 :

完了日 : 2003年04月06日

前巻の「ローマは一日にして成らず」は、まだまだローマの幼年期といった感じでしたが、いよいよ力をつけてきます。そして、大国カルタゴとの戦争が。「ポエニ戦役」と呼ばれる戦いです。
 
 私は、世界史をあんまりよく勉強してないんですが、このポエニ戦役って教科書だと5行で終わっちゃうそうですね!うーん、やっぱり学校の勉強って、ホントに一部分なんだなぁ。この文庫の表紙の金貨だけ見ても、おお!ローマは発展してるな!と感慨深いものがあるんですが、これも教科書では味わえない楽しみかも。
 
 で、今回は海に進出したローマが、いかにして海軍を発達させたか、という部分が面白かった。船の作り方もよくわかんないローマなんですが、カルタゴと争うためにどんどん船を改良していく。3段の船を、5段にしたり。あと、軍隊の運営方法とか面白かったです。給料はどのくらいだったか、とか、野営はマニュアルがあって、ローマはシステム化が好きだったとか。
 
 もちろん食べ物の話ははずせない(笑)。ローマ人ってお魚好きだったそうですねー。肉よりも魚。あとはパンとかおかゆとかチーズが多かったんだって。ふーむ、魚好きとなるとなぜか親近感を持ってしまうなぁ。
 
 この巻では、まだあの「ハンニバル」は出てきませんでしたー。お父さんは出てきたけど。次巻が楽しみです!


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 1

黒い犬 (Hayakawa novels)

著者 : イアン マキューアン

出版社:早川書房

発売日:2000-07

評価 :

完了日 : 2003年03月25日

 薄い本なので、気楽な気分で読み始めたのだが、とっても重たい内容の本だった。マキューアンは「愛の続き」とこの作品を見る限り、人間と人間の深いミゾがテーマのうちの一つになってるような気がする。しかも、かなり近しい人たちのミゾだ。今回は、バーナードとジェーンという夫婦のミゾが重要なテーマになっている。
 
 若い頃は、理想に燃える社会主義者として出会う2人。ジェーンは、新婚旅行中に「黒い犬」に出会ったことで、考えが変わってしまった…と娘婿であるジェレミーに話す。このジェーン、なかなか肝の座ったばあさん。だが社会主義を捨てたあとは、スピリチュアルな世界にはまりこんでしまう。

 夫のバーナードは、離党するまでは積極的に活動し、今では大学で教えたり本を執筆していた。ジェーンの告白が終わった後は、バーナードが昔を語るのだが、2人の意見はかなり食い違ってしまう。初めて出会った時や、愛をかわした時の記憶も違う。そして、「黒い犬」に出会った新婚旅行の記憶も。

  
「いくつに分割されても減ることのない悲しみは、この大陸を塵のように覆う人々、たとえ個性があっても胞子のようにひとまとめにされる人々に、それぞれ分け与えられる。その悲しみの総量は、まさしく想像を絶するものなのだ」
 
 この文章が印象に残る。ヨーロッパに横たわる、戦争の深い闇がどっしりと感じられ、息がつまるような気持ちになった。残念ながら、政治的な主張の少ない世代の私には、実感できない部分もある。しかし、そのへんを差し引いても、何か胸に残る作品だと思う。(2003.3.25)


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 1

寝盗る女〈上〉 (カナダの文学)

著者 : マーガレット アトウッド

出版社:彩流社

発売日:2001-04

評価 :

完了日 : 2003年03月25日

 原題は「The Robber Bride」。直訳すると「泥棒花嫁」だそうです。本文でも語られるのですが、グリム童話の「The Robber bridegroom」(泥棒花婿)を 花嫁に変えたもの。この物語がよく知られていない日本では、ピンとこない題名だと思います。
 
 主人公のトニー、カリス、ロズは、それぞれに過去に傷を持つ女たち。同じ大学に通っていたズィーニアは、彼女たちとそれぞれ関わっていくことになります。その方法といったら巧妙で悪質!「あなただけに私の秘密を教えるの」「あなたしか頼る人はいないの」と、甘く魅惑的な言葉で男も女も手玉にとる。男も寝盗れば金も巻き上げますからねー。
しかも、人の弱味につけこむのがうまいのね。多分、トニーたちに自分と同じ「におい」を感じ取ってるんじゃないかなぁ…。
 
 主人公たちに対し、影のようなズィーニア。その存在感は圧倒的です。「黒いヒマワリ」と形容される彼女は、まるで青空にぽっかりと空いた暗闇のよう。そばを通るすべての人たちを飲み込んでいきます。
 
 私は中盤からかなり一気に読んだんだけど、なぜそんなに引き付けられたかというと、やはりズィーニアだったと思う。怖いんだけど、出てきて欲しいみたいな(笑)。そろそろ出てくるぞー、出た〜!って感じで、ズィーニアの極悪非道ぶりを中ぱ感心しながら見てました。
 
 トニーたち3人の生活をズタズタにしてしまうズィーニアですが、私は結局、勝者というものがこの物語に存在するなら、勝者はトニーたちだと思う。彼女たちはズィーニアに振り回されたけど、結局生き残った。そして、「感謝の感情」さえ覚えてしまう。この3人は、ズィーニアをネタに傷を持ちつつも楽しく過ごすだろう…。家族と友人と共に。
 
 そんな所が「昏き目の暗殺者」よりも気楽に読める本でした。これもやはり女性、そして、あんまり本を読まない若い女性にも読んでみて欲しいなぁ。ぜひ感想を聞いてみたいですね。女として!(2003.3.25)


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 1

秘密諜報部員 (創元推理文庫 M モ 2-1)

著者 : サマセット・モーム,龍口 直太郎,William Somerset Maugham

出版社:東京創元社

発売日:2000

評価 :

完了日 : 2003年03月22日

 この本は作家、モームが実際に英国諜報部に所属していた時の体験に基づいて書かれたものだそうです。私は、この事を全然知らなかったので、すごくびっくりしました。だって、モームといえば大作家、名作!というイメージで、まさかスパイをしてたなんて…。英国諜報部…といえばやっぱり007ですけど、この本ではあんなにハデなカーチェイスや銃撃戦は出てきません。リアルな諜報合戦が繰り広げられます。
 
 16章で構成されていますが、各タイトルはそれぞれアシェンデンが出会うスパイや女優、大使など、様々な人々を表しています。私が面白いな〜と思ったのは、この人間ドラマでした。それぞれに人生があり、彼ら(彼女ら)の語る物語を、もうちょっと聞いていたい気分になりました。ですが、モームはとっても冷静で客観的な筆致です。突き放したような感じで、ベタベタした所はありません。
 
 アシェンデンのボス、R大佐は飄々として、いかにもキレ者だなぁ〜って感じで印象深かったです。スパイたちも、敵・味方といった安易な二次元論で書かれてません。スイスで出会ったスパイは、妻と仲睦まじい生活ですが、その末路は…。悲惨です。あと、イギリスの大使が語る過去の恋が面白かったなぁ〜。「虚栄心」について語る文は一見の価値アリ。ロシアで革命を阻止しようとする最後の章は、展開にドキドキする事間違いなしです!
 
 私の読んだこの創元推理文庫版では、滝口直太郎さんが翻訳されています。文章は問題ないのですが、時々単語が古くって、少しびっくりしました。「ビリケン頭」とか…(ど、どんな感じなの?これ)「ようござんす」とか。新訳は河野一郎さん。新訳読んだ方は、どんな感じだったか聞いてみたいです。(2003.3.22)

※「アシェンデン」というタイトルでちくま文庫でも発売されています。


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 1

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)

著者 : コルタサル

出版社:岩波書店

発売日:1992-07

評価 :

完了日 : 2003年03月09日

 双子・分身・影などをモチーフとした短編小説のアンソロジー「ダブル/ダブル」の中のコルタサルの一遍が映画「欲望」の原案だ、というのが興味を持った理由でした。表題作他、8つの短編が収録されています。とても不思議な世界でした。ストーリーは特になくて映像的かなぁ。オチとか理由とかは無いのです。幻想的な短編でしたね。
 
 「続いている公園」
【小説を読んでる男の後ろには…】
わずか3Pの短編だけど、私はこれ好きだなぁ。本好きなら憧れる恐怖だと思う。
 
 「パリにいる若い女性に宛てた手紙」
【男がある女のアパートに引っ越して来た。男はフワフワの小兎を吐き出し始める】
ウサギを吐き出すと、のどに毛がいっぱいひっかかりそう…。
 
 「占拠された屋敷」
【兄妹二人は大きな屋敷に二人きりで住んでいる。何者かが占拠しはじめる】
兄妹2人の淡々した生活と、正体不明の「占拠する人たち」。理由も実体もないのに兄妹の生活を圧迫していく。屋敷が主役の話で、好みでした。
 
 「夜、あおむけにされて」
【バイクで事故った男。軽症だったが、夢の中で別の世界と交錯し始める】
真夏の夜に見るわるーい夢のような一遍。
 
 「悪魔の涎」
【カメラマンが撮影した一枚の写真。ふと見ると、写真の女の手が動きだした…】
悪魔の涎というのは、ゴッサマー(Gossamer)の別名で「穏やかな秋の日など空中に浮遊する細い蜘蛛の糸」だそうです。日本では山形の一部で「雪迎え」「雪送り」などと呼ばれてるそうです。シェイクスピアの「リア王」にもゴッサマーが出てくる場面があるんだってー。中国では「遊糸」と呼ばれて杜甫も詩をよんでるそうな。感想ですが…。「写真」という窓で繋がった2つの世界という感じかな。「夜、あおむけにされて」にも見られるモチーフで面白かったです。映画の方は内容を忘れてしまいましたが、この短編とはかなり違うお話だと思います。
 
 「追い求める男」
【サックス奏者、ジョニーと彼の伝記を書いたブルーノの交流】
この作品集の中で一番長い話です。才能豊かだが、ドラックに溺れ疲れた生活をしているジョニーと、その才能を崇拝しつつ、作家としてしたたかな部分も持つブルーノの不思議な関係が面白い。このジョニーにはモデルがあるそうで、Jonny Colesというトランペット奏者だそうです。
 
 「南部高速道路」
【事故で大渋滞した道路で仕方なく待つ人々。次第にそれが日常になる】
この話、なんとなーくゴダールの「ウィークエンド」に似てるなぁ…。たくさん出てくる車の種類を知らないのが残念。
 
 「正午の島」
【飛行機からいつも見るあの島に住んでみたい。男は休暇に念願の島へ旅立つ】
これも悪夢的。空から見る目と島から見る空が交錯して、地獄が現れた…って感じでしょうか。うまく言えませんが…。とりあえず、怖い話だった。
 
 「ジョン・ハウエルの指示」
【劇場へ行った男。幕間に係員に呼ばれて舞台裏にいくと役を演じろと言われる】
このアイデア、面白いよね。いきなり「おまえが演じろ」と言われたらびっくりですよ。しかも、次の幕では別の人が演じてて、自分よりうまかったり!
 
 「すべての火は火」
【古代の競技場と、現代での電話の会話が交錯する。そして火が…】
全く関係ないと思われる2つの世界がシンクロするのは「夜、あおむけにされて」と似てるかも。作者の好きなモチーフみたいですね。タイトルがまたかっこいい!(2003.3.9)


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 2

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

著者 : カズオ イシグロ

出版社:早川書房

発売日:2001-09

評価 :

完了日 : 2003年03月03日

 カズオ・イシグロの両親は日本人だが、5歳の頃から渡英していて日本語は出来ないそうだ。長崎を舞台にしてるのに、長崎という感じが全くしないのが始めは抵抗があった。
 
 主人公の悦子は、日本で結婚していた夫とはあまり理解しあえなかったらしく、どことなくしっくりいってない。だが、夫の父親とは夫より前に知っていたらしく、とても親しい。この雰囲気は映画「東京物語」(小津安二郎)のようで、実際の日本というよりは外国人が抱くイメージの「ニホン」だと思った。言葉を方言にしろ、とまでは言わないが、長崎ならではの風景が感じられない。それなら、いっその事東京か特に舞台を特定しないか、の方が私は良かった。
 
 だが最後に解説を読んで「これはあくまでイギリス文学」ということが書いてあって、たしかに、つい日本の物語のような気がするのだが、実際はイギリスのアイデンティティを持った作家の本であり、英語で書かれた本なのだからと納得した。作者は長崎生まれなので、まさに「遠い山なみの光」のようなうっすらとした美しい記憶が長崎にあるのかもしれない。
 
 物語は、「日の名残り」のような回想する形になっている。が、悦子に何があったのか、隣の母子はどうなったのか、はっきり語られることはなく、どことなく幻想的。読みながら「きっとどうしてこうなったかは語られないんだろうな」と思っていたが、余韻を楽しむものであり、会話の端々に彼女たちの運命は描かれていたと思う。
 
 読んでる最中より、不思議と読んだ後の方が糸ひく感じの本。会話の中に見えかくれする、親子の小さな溝、夫婦の心許せぬ関係などが印象に強く残る。(2003.3.3)


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 1

パストラリア

著者 : ジョージ ソウンダース

出版社:角川書店

発売日:2002-12

評価 :

完了日 : 2003年02月27日

 ソウンダースは1958年生まれで、今アメリカで注目されている作家の一人だそうです。本の帯によると、小説家志望の学生がスタイルを真似したくなっちゃう作家ナンバーワンなんだって。うーん、英語で読んだわけではないので、文章のスタイルはわかりませんが、独特の世界観と風刺に満ちた物語は、とても魅力的なので「なるほど」と思っちゃいました。
 
 「パストラリア」
表題作。テーマバークで原始人の生活をしながら見せ物にしている男女の話。この2人、夫婦でも恋人でもありません。原始人のマネをしつつ、ファックスでお互いの評価を会社に送信、というのが笑えます。リストラ、病気、イジメなど、現代社会の「ヒズミ」を描きつつ、淡々とした主人公の語りがナイスな一本。
 
 「ウインキー」
「自己啓発セミナー」を思わせるシーンから始まります。ニール・ヤニキーはトム・ジョーンズなるかなりアヤシい男のセミナーで、色々と啓蒙されて帰宅するんだけど…ってな話。家族という名の「不幸」を振払えないニールだけど、それはそれで愛情なのかな?とも思います。少なくとも自己啓発セミナー男よりも大事にすべきものなんじゃないかなぁ…。
 
 「シーオーク」
「ぼく」は、ホストで金を稼ぎつつ、妹と従姉を養っている。ある日、バーニィおばちゃんが死んでしまった。生前は文句ひとつ言わなかったおばちゃんだが、墓場からゾンビとなって生き返ってしまい、それからは暴言につぐ暴言。この暴言がすさまじく面白い。そして、「世の中にはすべてを手に入れる人間もいるっていうのに、わたしはどうしてなんにも手に入れられなかったんだ?」と言うおばちゃんの魂の叫びが悲しい。
 
 「ファーポの最後」
いじめられっこの少年は自転車に載って、仕返しをする空想をしている。少年の家族に関する描写からすると、義父からの虐待?の陰が見えかくれ。母親は知りつつも見てみぬふりなのかな?そして「最後」には、神父の空々しい言葉が…。現代では空虚になってしまった家族と信仰が短い文に折り込まれていたと思いました。
 
 「床屋の不幸」
床屋は自分の商売もそこそこで、女にももてないわけではないけど、ずーっと独身。教習所でかわいい女性と目が会うのだが、体を見て即Uターン。彼からすれば「顔に比べて、太りすぎ」だったのだ…。自分をかえようとはせず、自分の「理想の女」を求めすぎ、そして「理想」と違うとなると、相手をどうにかして変えようとする。タイトルにもある通り、彼の恋(というか、一方的なものだけど)の結果はあきらか。
 
 「滝」
小さな村に住むオッサン2人の独り言。かつてはあんな夢、こんな夢があったなのにな、あーあ…というつぶやきは古今東西変わらぬよう。私的には、2人の接点がもう少し欲しかったな、という気もしました。結局おじさんは自分のことしか考えてはいないのですが、とりあえずヒーロー目指して駆け出すのでした。
 
 現代の社会をシニカルに、ユーモラスに捕らえたストーリーが持ち味かな。気張らずに読めるいい本だと思いました。アメリカの社会がよくわからない私には、苦しい部分もありましたが、人間の営みはどこの国もそう変わらないもんですよね。(2003.2.27)


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 1

エーテル・デイ―麻酔法発明の日 (文春文庫)

著者 : ジュリー・M. フェンスター

出版社:文藝春秋

発売日:2002-06

評価 :

完了日 : 2003年02月23日

 この本は呼吸麻酔法を用いた初めての外科手術について描いたノンフィクションです。
 
 今では歯の治療などでも普通に使われる「麻酔」。しかし、人類の歴史の中で、麻酔が使われるようになってまだ200年も経っていないとはオドロキです。それまで、手術も麻酔ナシで!行われていたんですよね。歯ならともかく、足を切断したりもしてたんですよ、意識があるまま…。「手術する」と医者に宣告されて、自殺する人もいたそうです。
 
 1846年の「エーテル・デイ」から46年前、実は笑気ガスと呼ばれてショーなどで笑いのタネにされていた亜酸化窒素。イギリスの科学者は「外科手術に有効」と記しているのですが、まともにとりあげる人は誰もいなかった。不思議です。アメリカ人、モートンは1846年にマサチューセッツ医科大学にエーテルを使った麻酔器具を持ちこみます。外科医ウォレンは「患者の苦痛を取り除けるならどんな事でも試したい」と思い、モートンの麻酔を使ってみると、あーら大成功。人類初の「麻酔を使った手術」が行われたのでした。
 
 さて、ここからがこの本の真骨頂。この麻酔を発見したモートンは、なんと「特許」を取るのです。ただ普通に売ってるエーテルを吸わせるだけなんですが、器具を作ったり、香りづけをしたりして、「発明品」に仕立て上げる。その当時の研究者は特許など取らず、国に認めてもらって報奨金を得るというのが一般的だったので、これが大論争になる。
 
 このモートンという男は研究者ではなく、小悪党と言っていい人物。借金を踏み倒したり横領したりして、転々と暮らしていました。そこで目をつけたのがエーテルだったわけです。が、所詮小悪党の彼には、人類そのものを変える力をもつ麻酔法の発見はあまりにも重いものでした。この特許に関わるウェルズ、ジャクソンも自分こそが発明者だと名乗り、論争に加わるのですが、彼らもまた、重い運命に振り回され、破滅していきます。
 
 人が「痛み」から解き放たれたことで、近代化に向けて大きな一歩を踏み出すのですが、「医療は金になる」という今までになかった概念をも生み出しました。そして、医療関係者や学者のあり方まで変えていくのです。現在、ヒトゲノムの解読に特許を取るという民間会社に反対する動きがありましたが、さかのぼるとここから始まったのかもしれません。「人の命」を救うことが金になる時代の始まりだったのです。
 
 主に麻酔に関わった3人の運命を描きつつ、ジャクソンが「アイデアを盗んだ」と思ってたモールス信号の発明者、モースや、笑気ガスで興行を行っていたコルト(拳銃のリボルバーの特許をのちに取る)、ジャクソンの姉に恋心を抱いた若き日の作家のソロー、オルコットやコペンハーゲンもちらっと登場し、脇役にも興味深いエピソードが沢山ありました。
 
 残念ながら、これはアメリカでのエーテル・デイを中心とした本なので、日本でも麻酔で外科手術を行った華岡清州は取り上げられてません。エーテル・デイより40年の前に行ったのにね。ま、この本では麻酔そのものよりも、それを取り巻く「俗人」と「金」のドラマに注目してるので、仕方ないかもしれません。この本一冊で麻酔の歴史すべてが分かるわけではありませんが、医療の近代化に伴うドラマは十分楽しめると思います。(2003.2.23)


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 5

覘き小平次

著者 : 京極 夏彦

出版社:中央公論新社

発売日:2002-09

評価 :

完了日 : 2003年02月22日

 この作品は「巷説百物語」というシリーズの登場人物が一部登場します。まぁ、この本を読んでなくてもわかるけど、読んだ人にはわかるという部分もあったかなぁ。でも、基本的には独立した話で、これ1冊読んでもさし支えありません。
 
 んで、引きこもりの(オイオイ)主人公、小平次なんですが、生きてるのに普段からユーレイのような男。家にいるのに、押し入れに入ったまま動かない。いつも隙間から奥さんを覘いています。いやーっ、キモチワルイ…。でもね、性的な意味での覘きではないんですよねー。本を読み進めるうちに語られるんですが、彼には彼の事情があって、今にいたっている。
 
 小平次の妻、お塚に手を出したがってる多九郎や、女形の玉山歌仙など、登場人物の運命は微妙に絡まっていて、彼らの過去が明らかになっていきます。そして、東北への「興行」を仕掛けた理由とは?
 
 なんつーか、これってもうミステリではないと思うんですよね。ジャンル分けしにくい本だなぁ〜。夫婦愛(?)の物語といえば、そうも言えるかもしれないし。
極夏彦ならではの面白さはあるんだけど、読み終わった時の満足感はものたりないかもしれません。何かこう、ちっちゃい感じなんですよね。スケールが。作者のファンなら、読んで見る価値はあると思いました。
 
「信じるってこたァ、騙されてもいいと思うこと。信じ合うッてこたァな、騙しあう、騙され合うってェ意味なんだ。(中略)真実ってなぁ、全部騙された奴が見る幻だ」
 
 このセリフ、なかなか興味深かったです。京極さんらしいセリフと言えばそうなんですけどね。この物語の中心は、小平次とお塚の夫婦なんですが、男と女って、騙す真実、騙される真実ってのが、あるかもしれないなぁ。幻かもしれないけど、それも真実なのかもしれません。逆もまた真なりってことで。(2003.2.22)


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 1

天球の調べ

著者 : エリザベス レッドファーン

出版社:新潮社

発売日:2002-10

評価 :

完了日 : 2003年02月16日

 物語の舞台はフランス革命から6年を経過したロンドン。私は歴史に詳しくないですが、フランスではロベスピエールによる恐怖政治がやっとこさ一段落した所のようです。そして、イギリス政府は共和国に反対し、王制を復活させようとする王党軍に協力しております。そんなワケでフランスから貴族の亡命者は相次ぎ、戦争中なのでスパイもウヨウヨしている、そんな時代設定です。
 
 主人公はそんなスパイを取り調べる内務省勤務のジョナサン・アプシー。彼は優秀な役人ですが、1年前に娘を殺されてから何もかもがうまくいってません。そしてまた、新たな赤毛の娼婦殺人がおこり、殺害方法は彼の娘の殺害方法に酷似。彼の犯人への追跡が始まります。彼は結構精神状態ボロボロでね〜。仕事は左遷されるし、家族はバラバラだし、今はただ犯人を挙げるしか生き甲斐ないって感じ。このへんハードボイルドの主人公みたいかも〜。昔の人だけど、現代人でも共感しやすい設定だと思いました。
 
 そんな主人公と正反対と言えるのが、義兄のアレグザンダー。天文と音楽を愛する心優しき男ですが、同性愛者で過去に監獄に叩きこまれそうになったのを助けてもらったので、ジョナサンにイヤイヤ協力します。潜入したフランス貴族のモンベリエ家で起こる愛憎劇にいやおうなく巻き込まれるのでした。
 
 私はこの本で、暗号と天文学を楽しみにしてたんですが、うーん、その点は正直イマイチだったかなぁ。暗号は、まぁ大体そんなところだろうなって感じだし(暗号のキーをあんなに分かりやすい所に置いてちゃいかんよね^_^;)暗号のプロのおじいちゃん、もっと出番欲しかったよ!「ふむ、これは換字式ではないな…」いいね!天文学も、面白いとは思うけど、まぁ想像つきやすかったし…。あ、アレグザンダーの作る木星の模型!あれ良かったです。私も欲しいなと思いました!
 
 犯人を探すミステリ要素も驚きは無かったです。まぁ、この本はそんな所よりも18世紀のロンドンの歴史と、スパイ活動を通しての戦局を見るのが面白かったです。ジョナサンに戦争は直接関係ないんだけど、戦争の諜報活動に知らない間に巻き込まれていく。そこには様々な思惑があって、運命を変えていく。そんな部分が見どころだと思いました。
 
 ドロドロとした愛憎劇のあとのエンディングは、意外とサワヤカ。思ったよりも堅苦しくないし、登場人物も覚えやすい。陰謀うずまくロンドンで起こる赤毛の娼婦の連続殺人事件!なんて聞くと、読みたくなっちゃう方には楽しめるエンタメ本です。(2003.2.16)


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 3

黒い時計の旅 (白水uブックス)

著者 : スティーヴ エリクソン

出版社:白水社

発売日:2005-08

評価 :

完了日 : 2003年02月09日

 「高い城の男」ではヒトラーが敗れなかった世界が舞台でしたが、この「黒い時計の旅」は、2つの世界が交互に展開し、お互いを侵食し、溶け合っていきます。それはとても幻想的。しばしば文章中にでてくる「黒い時計」とは、2つの世界のあいだをゆれ動く振り子なのでしょうか?
 
 そして、「旅」。バニング.ジェーンライトはペンシルバニアからニューヨークへ、さらにオーストリアへと移動。もう一つの世界では、ロシアから亡命した父親とデーニアは、アフリカのスーダンからオーストリアへ。旅の中でバニングの書く物語がデーニアと世界に影響を与え、変えていく…。
 
 この世界が交差する部分がこの作品の真骨頂なんですが、ちょっと油断すると混乱します。全体的に空気は重苦しく、抑圧された雰囲気。色にたとえると深い緑から黒って感じかな。戦争やヒトラーというモチーフということもあるのかもしれません。エリクソンってアメリカ人作家なんだけど、ちょっと雰囲気違うね。デイックは同じような話でも、どこかカラッとしてるのに、エリクソンは湿気があるというか…。
 
 土地と時間と空間の旅は、ある終着点を迎えます。2つの世界は融合し、そしてループする。エリクソンの作り出す世界にハマれると楽しい作品だと思いますよ。好みは分かれるかもしれませんが。(2003.2.9)


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 2

ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー (朝日文庫)

著者 : ビル ブライソン

出版社:朝日新聞社

発売日:2001-12

評価 :

完了日 : 2003年02月08日

この本の作者、ビル・ブライソンはアメリカ生まれですが、26歳の時にイギリスに渡りました。20年ほど新聞社などで働いたのち、アメリカに妻子とともに帰国。アメリカ人でありながら、イギリス人としての考え方も持ち、アメリカに帰ってきてからもどこか「異邦人」のような感覚を持っています。だから、アメリカに対して愛着を持ちつつも、シニカルなエッセイを書けるわけなんです。
 
 んで、エッセイの内容なんですが、これがホントに普通の生活について。奥さんの買い物についていって、ジャンクフードを山ほど買ったけど、まずかったとか(笑)そんなホホエマシイ(?)ことばかりなんです。ですが、そのジャンクフードから、アメリカという国の特徴を書きだしています。なんでもポテトチップスだけでも何十種類もあったり、シリアルだけでも一つの棚を占領してたりするんですって。さらに、飛行場のコーヒースタンドで、「コーヒー1つ」と言っても出てこない。豆の種類から、ラテにするか、ミルクはローファットかとか、いちいち店員に聞かれてブライソン氏、種類が多すぎるとブチキレです(笑)。
 
 端的に言っちゃうと、日々の生活での文句が多いんですが(奥さんにもそう言われていた)、なんというか、表現の仕方が面白いし、ホント愉快なオジサンだな〜って感じです。そして、もちろんキラッとする知性もあっちゃったりして、楽しいんですよ。クスッと笑えたり、ええっ!アメリカではこんなことが!と驚いたり。
 
 残念なのは、時々単語でわからないところがあるんですよ。人物の名前とか。どうも名指しで批判している人がいるんですが、この人がわからないからピンとこない。あと、生活用品でもしらないものがあるんですよね。大体想像はつくんですけど…。できたら、注釈とか欲しかったかな?(物知らずなもので)
 
 ところで、アメリカの(イギリスもかな?)作家は朗読会や講演を本を売るためよくすると聞いたことがあるんですが、この作者も3週間で16都市を回るブック・ツアーをしています。そして、出版社がメディアに向けてのトレーニングもつけるんですよ、作者に!これはビックリしました。日本の作家さん・出版社さんも、どうでしょうか、ブック・ツアー。いやね、今の時代、本が売れないとおっしゃるけど、本も一つの「商品」ですし、売る努力も必要かなぁと思うのですが、どうでしょうか?パソコンのCD-ROMのトレイをドリンクのカップ・ホルダーと勘違いしていたアメリカ人に興味のある方は、ぜひ。こんなエビソードが満載です。(2003.2.8)


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 12

壬生義士伝 上 文春文庫 あ 39-2

著者 : 浅田 次郎

出版社:文藝春秋

発売日:2002-09

評価 :

完了日 : 2003年02月04日

今まで浅田次郎の本は「シェエラザード」「蒼穹の昴」を読みましたが、どれも面白いのに、どうにもラストがイマイチだったりとがっかりする事が多かったのです。今回の「壬生義士伝」は、評判がいいようなのでちょっと期待してました。
 
 この物語の主人公である吉村貫一郎は、史実にも名前のある人物です。ですが、ほんの数行だけで死ぬ時に家族の心配をしていた…その程度の情報しかなかったそうです。それを、作者はかなりふくらませて書いています。
「新撰組一強かった男」でありながら、なによりも家族の為に生き、そして義に生きる武士であった彼は、ちょっと完璧すぎる気もしますが、作者のヒーロー像なのかもしれません。
 
 そんな彼を語るのは、大正時代まで生きた元仲間や、関係のあった人たち。彼らの視点で見る吉村は、様々な顔を持っています。家族の為に送る金欲しさのあまり、金をせびる姿。そうかと思えば、仲間を思い、たった一つの握り飯すら渡してしまう姿。そして、鬼とまで呼ばれた剣の腕。
 
 私は、この話は「新撰組血風録」+「忠臣蔵」だと思いました。新撰組の描写は「新撰組血風録」に影響うけてるな〜って思うとこがありましたし(沖田とか)。義に生きる武士というところは「忠臣蔵」を思わせましたね。作中でも触れてましたし。大石親子と吉村親子は似てるところがありました。
 
 そんなワケで、いろいろと楽しめる部分が多かったんですが、吉村と関わった人たちが語るという形式のせいもあって、どうしても同じ事を繰り返すことになってしまったり、だんだん話が広がってしまって、まとまりに欠けた部分もあった気がします。こーいう形式って、バチッとはまるとメチャ面白いのですけどね…。かなり力量が必要なんでしょうか…。
 
 新撰組が好きな人には「新撰組異聞」といった感じで楽しめます。そして、南部盛岡という北国からきた新撰組隊員ってのがかなり面白かったです。きっとこーいう人がたくさんいたんだろうな、と思いました。ラストあたりは泣かせてくるので、涙腺の掃除が必要な方にもいいかもしれません。(2003.2.4)


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 1

キャッチ=22 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV 133)

著者 : ジョーゼフ・ヘラー

出版社:早川書房

発売日:1977-03

評価 :

完了日 : 2003年02月02日

 タイトルの「キャッチ=22」は、アメリカではとても有名な言葉として使われるようになり、英語の辞書には「どうあがいても見動きできない矛盾」とか、「ジレンマ的な状態」と載っているそうです。(「One author,One book.」/新元良一著/本の雑誌社/1600円より)
 
 この物語は、戦争に行って国や家族のために勇敢に戦う…という話では断じてなく、あらゆる人々は私利私欲、食欲に走り、ただ生きて帰ることしか考えていない。その姿は悲劇的でもあり、とっても滑稽でもあります。なんだかドリフターズのコントみたいな感じもありません?(「ヨッサリアン、うしろ、うしろ〜」みたいな)。ひたすら行進を兵士にさせる事しか考えてない上官、なぜか食品や資材のシンジケートを運営し、大金持ちになる兵士マイローは綿花で大失敗し、「チョコレートかけの綿」をムリヤリヨッサリアンたちに食べさせようとしたり。もうハチャメチャです。笑うしかありません。
 
 しかし、そんな中でも戦闘は行われ、ヨッサリアンは部下を死なせてしまいます。その死はとても悲惨。物語の中でも何度か出てくるシーンですが、残酷な死の描写はキツいものがありました。美化された戦争の死ではなく、恐ろしくも惨い死でしかないということが胸につきささりました。
 
 この本の特徴として、時間軸が奇妙にねじれています。何度か同じシーンが繰り返されるし、前後するので少々混乱しますが、私はその混乱を体験するのがこの作品の醍醐味だと思うし、そのエピソードを素直に楽しんでいいんじゃないかな。訳者の方が上巻の巻末に年表を作ってますが、読み終わったあとに見て頭を整理する方がいいと思いました。私、先に見ちゃったんで…。(見ても面白さは損なわれないですけどね)
 
 登場人物も個性的で、読みにくいですが楽しめる本です。ただ、私はすべて理解したとはとても言えないので、また何年か経ったら読み返してみたいと思ってます。そうそう、私はローマの売春宿のじーさんが好きだったなぁ。言ってることがいちいち真実で。「ローマは滅ぼされた、ギリシャも滅ぼされた、ペルシャも滅ぼされた、スペインも滅ぼされた。大国はみんな滅ぼされますじゃ。あんたがたの国だけなせ滅びんのですかな?」(2003.2.2)


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 14

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫

著者 : 塩野 七生

出版社:新潮社

発売日:2002-05

評価 :

完了日 : 2003年01月22日

話題の本がいよいよ文庫化、という事で、手にとった方も多いのではないでしょうか?面白そうだけど、ハードカバーだしな…と敬遠してた私は買ってみました。面白かったです!歴史の本だというのに(しかも西洋の)結構売れてるので不思議だったんですが、それには理由があったんですねぇ…。
 
 この本は、ローマ帝国の始まりから終わりまでを描いた、とっても長い歴史小説です。うわー、難しそう…と思いますが、塩野さんがわかりやすい口調で、昔こーいう国があって、いろんな人が生きて死んでいったんですよ、と語ってくれているようなので、歴史に詳しくない私でも楽しく読めました。それに、興味深い小話も途中で入れてくれるんです。サラリーマンの語源は、「サラ」(塩)というラテン語からきていて、貨幣を持ってないころ、塩で給料を払ったところからきてるんですって。いやー、びっくりしましたよ。友人や家族の話題になることウケアイです(笑)
 
 そして、私がなによりも評価したいのは、この作者が文庫化するにあたって、いろいろ工夫をしているのです。まず、むやみに厚くせず、分冊にした事。これは、やはり持ち運びがしやすいように。通勤・通学の人にはありがたいですよね。そして、ハードカバーは彫像の写真が表紙なんですが、文庫には貨幣の写真が使われています。本を並べると、通貨の歴史も追えるようになっているのです。通貨の解説も冒頭ページにありますし、これもまた面白い。「本造りには、『グラツィア』(優美)を欠いてはならない」いう言葉を、作者は大事にしているのです。

 こーいう心遣い、嬉しいですよね〜。だって、女性のカバンって、いろいろ入ってるじゃないですか?化粧品だの、小物だの…。その中に本を入れるとなると、ある程度薄いものがいいですもんね。もちろん男性もですけど。時間が空いた時、バックの中に「ローマ人の物語」があったら。いつでもどこでも2000年以上前のローマに行けるのです。いやいや、愉快。最近、厚い文庫が多いですが、ベストセラーはこういう心遣いもあっていいんじゃないかな?と思います。
 
 内容は、ローマ建国から共和政に移るまで。政治や戦争の話が多いですが、それに巻き込まれる人々の話が面白いのです。2500年前だろうと、人間のドラマは今とそんなに変わってないものです。しかし、ローマという国は、王制を廃止して共和制にしたり、投票によって政治家を失職に追い込んだりと、すっごい進んでたんだなぁ〜と感心。こーいう感覚は、(ほぼ)単一民族で、しかも陸続きでない日本にとっては、なかなか育まれない部分かもしれないなぁ。今の日本より、古代ローマの方が政治感覚優れてるかも(^_^;)
 
 長い本になりそうですが(第二期は2004年刊行予定)、ボチボチ読んでいきたいと思います。世界史苦手な学生にはもちろん、海外文学や絵画が好きな人にも結構オススメ。絵のモチーフになってるエピソードもあるし、西洋社会の考え方などの参考になるかと思います。


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