たなぞう

WEB本の雑誌

K9さん > 読書ノート

K9さんの読書ノート

犬の出てくる本
犬に関係する作品を集めました。ともかくチラッとでも犬が出てくればここに入ることになっています。タイトルだけということもアリ。
<前のページ 1  2  次のページ>

 

みんなの感想を読む
 17

ハル、ハル、ハル

著者 : 古川 日出男

出版社:河出書房新社

発売日:2007-07

評価 :

完了日 : 2007年08月25日

 初出「文藝」。2006年『LOVE』で第19回三島由紀夫賞を受賞した古川日出男の作品集。母に捨てられた兄弟の耐乏生活の描写に始まる表題作「ハル、ハル、ハル」ほか、三島賞受賞直後の異様な精神状態のなかで書いたという「スローモーション」、そして「8ドッグス」の3編を収録。本書は犬吠埼の一頭の犬に捧げられている。
 これはもう文章というより詩であろう。音楽、と言ってもいい。たとえばこんなかんじ。

 ママ。
 ママ。ママ。ママ。ママ。ママの顔は忘れちゃったよ。
  ねえママ? それでいいわけ? 一万円札を十枚でいいわけ? どんどん減るよ。おれはわかったんだけどこんなんじゃ三ヶ月と持たないよ。全然まるっきり実際に持ちそうにないんだって。おれたち。ママの息子のおれたち。それで何これ? テーブルに積まれてた十枚のこれ。 元気でねってどういう意味?
 ねえママ?
 世の中甘くみてるンじゃねえよ。ママ。ママ。ママ。ママ。ママの顔は忘れちゃったよ。いいかげん忘れちゃったよ。あんたの顔。(「ハル、ハル、ハル」p.12)

 「ハル、ハル、ハル」の冒頭で、「この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ」と作者は言っているのだが、「この物語はきみが読んできた“僕の”全部の物語の続編だ」としたほうがわかりやすいかもしれない。最終ページに挑戦的なメッセージを置いているから、ここからまた、なにか始まるのだろう。要観察。次作期待。

▽『ハル、ハル、ハル』特設サイト
 http://mag.kawade.co.jp/haruharuharu/
▽古川日出男 朗読ギグ『スローモーション』@京都METRO
 http://www.youtube.com/watch?v=GvPFAGdKlLU
▽古川日出男公式サイト
 http://www.kanshin.com/keyword/1178479


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

氷結の森

著者 : 熊谷 達也

出版社:集英社

発売日:2007-01

評価 :

完了日 : 2007年06月12日

 初出「小説すばる」2005年5月号〜2006年10月号。2004年に第17回山本周五郎賞を受賞した『相剋の森』、そして2004年の131回直木賞受賞作『邂逅の森』に連なる「森シリーズ」マタギ三部作完結編。
 舞台は20世紀初頭の樺太・ロシア。日露戦争から帰還した元マタギの柴田矢一郎は、銃を捨て、故郷を離れて樺太の鰊場や材木の伐採現場を転々としている。過去のしがらみから矢一郎をつけ狙う松岡辰治が樺太に渡ったという噂を耳にしてから五年。凍てつくタイガの森で、ついに辰治の標的となった矢一郎は、少数民族ニブヒの長ラムジーンの助けを借りて逃げのびる。が、その一方で辰治の仲間がラムジーンの愛娘を連れ去る。娘の行方を追って犬橇でロシアに渡る矢一郎。革命前夜の混乱のなか、彼はふたたび銃をとる。
 もうね、矢一郎かっこよすぎ。タフで、ストイックで、ここいちばんというときに確実に決める。悪条件はあたりまえ。過酷な自然環境でさえ彼の晴れ舞台となり果てる。そんなスーパー・マタギが銃を捨てた事情に、樺太での義理人情がからむ。故郷秋田でのいざこざに端を発する矢一郎の漂泊の旅は次第に明確な目的を持ちダイナミックに展開して行く。マタギと同じく狩猟をなりわいとするニブヒの民をはじめ、彼を取りまく当時を象徴するような人々もそれぞれに印象深い。完結編にふさわしい一級の冒険小説である。


この感想へのコメント

1.船橋胡同 (2007/09/06)
勝手に入りました。①ノートを犬に纏められたのは素晴らしい。②"熊谷 達也”は、全部読まれた模様。うらやましい。<タフで、ストイックで、ここいちばんというときに>
の表現は素晴らしい。③読了本すべてに書評がしっかりしてる。素晴らしい。また寄らせてください。
2.K9 (2007/09/08)
あっ、ありがとうございます。
おほめにあずかり光栄です。
孤独な作業の励みになります。
 

みんなの感想を読む
 2

犬のしっぽを撫でながら

著者 : 小川 洋子

出版社:集英社

発売日:2006-04

評価 :

完了日 : 2006年05月06日

 2004年に『博士の愛した数式』で読売文学賞と第1回本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞を受賞した小川洋子のエッセイ集。
 ううむ、これはつまらぬ。小説の作風といい、文章からにじみ出るお人柄といい、なんだかとっても悪口の言いにくい人なんだけども、つまらぬものはつまらぬ。ファン向け。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

愛犬王 平岩米吉伝

著者 : 片野 ゆか

出版社:小学館

発売日:2006-04-01

評価 :

完了日 : 2006年04月06日

 第12回小学館ノンフィクション大賞受賞作。動物行動学の先駆者、平岩米吉の情熱あふれる生涯を描く。
 こんな人物がいたとは知らなかった! 学者や文人など著名人との交流も深く、雑誌「動物文学」を創刊、犬や犬周辺に関する著書多数、昭和9年には「フィラリア研究会」を設立している。これほどの活動実績がありながら、知る人ぞ知る存在だったとは。
 愛犬王というタイトルはだてじゃない。研究のためということもあったのだろうが、犬だけではなく、なんと狼やジャッカルやハイエナ、狐、狸にくわえ猫科の朝鮮山猫やジャコウネコまで自宅で飼って、それこそしぬほど可愛がっている。どれくらい可愛がっていたかは、家の様子からも知れる。

狼の行動範囲はどんどん広くなり、犬と同じように庭から廊下や座敷、書斎などへも自由に行き来し、時には階段から二階に上がり(中略)そのために板の間は傷だらけ、畳の目はすべてなくなり、障子は破れ放題だったが、そんなことを気にする者はすでに平岩家にはいなかった。(P.64)

 しかし、どうやらこの「奇人先生」は、動物たちの食事の世話や寝床の掃除などの雑用は奥さんに任せっきりだったようです。それでも米吉の動物たち、とりわけ犬にそそぐ愛情は深く、犬たちもその思いに全身全霊でこたえている。彼が生涯を通じてもっとも愛したおすのシェパードを失い、悲しみに打ちひしがれる様子は涙なくしては読めない。
 著者は1966年生まれのフリーライター。やはり犬好きで、仕事でも人と犬の生活をテーマとしたものをお書きになっているようだが、平岩米吉を知ったのは書店のペット関連コーナーで、その著書に感銘を受けたのが本書執筆のきっかけ。「犬研究者のなかでもっとも尊敬する人物」と明言するだけあり、平岩米吉という人物と著書を少しでも多くの人に知ってほしいという熱い思いが伝わってくる。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 9

はるがいったら

著者 : 飛鳥井 千砂

出版社:集英社

発売日:2005-12

評価 :

完了日 : 2006年01月18日

 第18回小説すばる新人賞受賞作。園(その)と行(ゆき)は四歳違いの姉弟。両親は9年前に離婚。園は母とともに家を出たが、就職を機にひとり暮らしを始めた。中華料理店を営む父の家にとどまった高校生の行は、自室で老犬ハルの介護をしている。ハルは14年前、園と一緒に公園で拾った犬だった。
 意地の強い姉と、病弱だが何事にもそつのない弟の内なる成長物語。二人の一人語りが交互に出てくるという構成で、登場人物は少なくないし、姉弟それぞれの生活、対人関係、悩み、さらにミステリじみたエピソードなどなど盛りだくさんだが、意外にもすっきりと読了。ストーリーの中心に物言わぬ犬を置いたことで成功している。次作期待。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

ママ、大変、うちにコヨーテがいるよ!

著者 : エルモア・レナード

出版社:角川書店

発売日:2005-07-30

評価 :

完了日 : 2005年10月18日

 ハリウッド渓谷にすむ野生のコヨーテ、アントワン。アントワンは住宅地でゴミあさりをしている最中に見覚えのあるジャーマン・シェパードに出くわす。彼を専用のドッグ・ドアから家の中に招き入れたシェパードは、かつてハリウッド映画で大活躍した名犬バディだった。「なあ、おい、おれと入れ替わってみる気はないか?」ふかふかのカーペットがはられたファミリールームで、バディはアントワンに言う——はい、言うんです犬が。犬もコヨーテも猫もカラスもしゃべるんです。
 犯罪小説の巨匠エルモア・レナードが39作目にして初めて書き下ろした動物ファンタジー。1925年生まれの巨匠は今年80歳。12人のお孫さんたちのために書いたそうです。だからといってベタ甘の少年少女向けではない。バディが孤高の元映画スターなら、アントワンは街の悪ガキ。この2頭の会話がいい。たとえばアントワンがバディが人間に飼われていることを冷やかす場面。

 「で、リスやウサギを追いかけまわしたいのかい?」
 「ああ、リスやウサギを追いかけまわすのは嫌いじゃない」
 「じゃあ、猫を追いかけまわすのは?」
 「猫なら、これまでに何百匹もおいかけまわしたさ」
 「でも、あいつらを食べたことは?」
 「なあ、おい」バディはのっそりと立ち上がった。そうすると、耳のとがった痩せっぽちのコヨーテは一まわりも二まわりも小さく見える。まだまだこんなチビに遅れをとることはない、とバディは確信していた。「おれが何を追いかけて何を食おうと、それはおまえさんの知ったこっちゃない。それを皿にのせて食おうと、地面に置いたまま食おうとな。おまえさんのきいたふうな、冷やかしの文句を聞くのはもううんざりだ。おれがペット犬だってことをもう一回でも言ってみろ。そのもしゃもしゃの尻尾を食いちぎって、おまえの口に突っ込んでやる」(p.49)

 子供たちが何が好きかをよくわかっていなければ、こういうふうには書けない。渓谷でのエンディングはかっこよすぎて涙が出ました。こんないかした物語、子供だけに読ませておく手はない。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 24

ベルカ、吠えないのか?

著者 : 古川 日出男

出版社:文藝春秋

発売日:2005-04-22

評価 :

完了日 : 2005年10月03日

 2002年に『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞と第23回日本SF大賞をダブル受賞した古川日出夫の書き下ろし作品。第133回直木賞候補作。
 1943年5月。アリューシャン列島アッツ島の玉砕を受け、日本軍はキスカ島からの全員撤収の「ケ」号作戦を敢行。島には4頭の軍用犬が置き去りにされる。北海道犬の北、ジャーマンシェパードの正勇、勝、そしてエクスプロージョン。モウ誰モイナクナッタノダ——自分たちは捨てられたという事実を犬たちは理解する。そして米軍が上陸し1頭は死ぬが、3頭は保護される。間もなくエクスプロージョンが出産。彼らを祖とする犬たちはやがて世界中に散らばって行く。
 もうひとつ、並行して語られるのがソ連のスプートニク号5号に乗った2頭、ベルカとストレルカを祖とする犬たちにまつわる物語。この2系統は後に交わることになるが、その頃になるともう、どれがどの子やら。簡単な系譜でもつけてくれないものかと思うが、「ガルシア・マルケスの『百年の孤独』に学んでつけなかった」とWEB本の雑誌のインタビューで著者自身が語っている。ふむ。
 犬の年代記を通して描く戦争の世紀。こんなアプローチがほかにあっただろうか。天空の高みから語りかけるような文体に多少難渋するが、読み進むにつれ強く引き込まれる。340余ページとは思えないほどの重厚な読後感。この壮大な物語を堪能するためには丁寧に読むことをおすすめする。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

わたしを見かけませんでしたか? ハヤカワepi文庫

著者 : コーリイ・フォード

出版社:早川書房

発売日:2004-04-09

評価 :

完了日 : 2004年10月28日

 ——このごろの階段は、むかより勾配がきつくなったように思う。わたしたちの時代に比べて、いまの学生は非常に礼儀正しい。みんながわたしに「サー」と呼びかける——などなど中年男性の悲哀をユーモラスに描き、そのあまりにも身につまされる内容から盗作が相次いだという名作『あなたの年齢当てます』をはじめとする、日常生活のスケッチ19篇。「ユーモア・スケッチの第一人者」である著者は1902年生まれ。故人です。
 発表年が1949〜1957年と古いがじゅうぶん楽しめる。パーティなどに招かれて、気の利いたことのひとつも言わなければならないはめに陥ったときに有用かも。ただし中高年限定。若い人にはスベリまくるか無視されるかのどちらかであろう。

 以下、愛犬マニュアルならぬ「愛人マニュアル」より引用。
何度読んでも笑える。

「人間の選び方」より
 まず第一歩は、自分に合った人間を選ぶことである。子犬は細心の注意をはらって選択をおこなうだけでなく、決断する前に犬舎の外のあらゆる状況を頭に入れなくてはならない。(中略)なによりも大切なのは、犬に呼ばれたらいそいそとやってくる人間、利口で、気だてがよく、健康な人間を見つけることである。これはと思った人間に前足をあずけたら、歯ならびがいいか、歯ぐきは丈夫か、口臭はないか、目が澄んでいるか、扁平足ではないか、血色はいいか、表情はどうか、こうした点を注意深く観察しなくてはいけない。(p.165-166)

「高度な服従訓練」より
たいていの人間には、先天的に物を拾う癖が備わっているため、犬がすこしおだててやれば、平均的な人間でもとびきり優秀なレトリーバーになれるのだ。(中略)人間はボールを居間の一端に持っていき、二、三度つばをつけてから、敷物の上でボールを犬のほうへころがし、同時に「とって!(フェッチ)」とさけぶ。犬はそのボールが自分の横を通りすぎて、書棚の下にもぐりこむのをじっとながめる。それを見て、人間は居間の反対側まで行き、四つんばいになってボールを書棚の下からかきだし、ズボンでゴミを拭きとってから、犬のほうにころがし、「とって!」と同じ言葉を繰り返す。(p178)


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 3

犬―クラフト・エヴィング商会プレゼンツ

著者 : 阿部 知二,網野 菊,伊藤 整,川端 康成,幸田 文,ほか

出版社:中央公論新社

発売日:2004-07

評価 :

完了日 : 2004年10月03日

 犬と暮らした作家たちの随筆集。1954年に刊行された単行本『犬』を底本に、クラフト・エヴィング商會の創作・デザインを加えて再編集。バセットハウンドに似た「ゆっくり犬」かわいい。随筆の著者は、川端康成、幸田文、志賀直哉、林芙美子、阿部知二、網野菊、伊藤整、徳川夢聲、長谷川如是閑。
 川端康成氏の「わが犬の記 愛犬家心得」がいい。氏の犬好きは有名だが、文中に出てくる飼い犬もグレイハウンド、ワイヤーヘアード・フォックステリア、コリー、狆などなど、当時としてはたいそうな犬ばかりである。純血種を選ぶことに関して、氏は次のように述べている。

 純血種を飼ふことは、愛犬家心得の一つである。
 純血種は死にやすくて、飼ひにくいといふ。ヂステンパアにも弱いといふ。だから、初心の人は先づ雑種を飼へという。それも一理あるが、麻疹や疫痢がこはいから子供は産まない、賢い子供は体が弱いから阿呆な子供が生まれればいい、そんな風に思ふ親があるだらうか。また高い犬を殺してはと恐れる人もあるが、そんなことをいへば、家財道具だつて、いつ火事で灰になるやらしれず、貯金も株も確かではなく、第一さういふ御当人の命が明日知れない。貰った犬ならば粗末にする、高く買った犬ならば注意する、それで結局同じである。私の経験によれば、犬はさう死ぬものではない。ヂステンパアにかかつた子犬など、私の家にはまだ一頭もいない。(p.85-86)

 川端家の犬については、伊藤整が「犬と私」の冒頭で触れている。これがおかしい。

 昭和七年頃、川端康成氏が鎌倉へ引っ越す前、上野にいた頃、その邸宅は犬の吠え声で大変だつた。庭の中には何匹もの犬がいて、私たち外来者があると五色ぐらいの声で吠え立てた。(中略)ケンニンジ垣のかげの中庭で、犬がケンケンケンと声をふりしぼつて鳴き立てると、それはこう言つているようである。「その人間、いまそこに立っているその男の中には、僕の敵がいます。あやしいものが、たしかに、その人間の内側にかくれています。それが、誰も分からないのだ。おれしか、このおれにしか分からないのだ。もどかしい、苛立たしいことだが、おれにしか分からないのだ。そいつを警戒して下さいよ」どうもそう言われるような気がする。そして川端さんが門口へ出て来て、あのマバタキをしない眼で、当たり前より心持ち長く見つめるあの見方で、じつと、私の顔を見ると、私は「もう駄目だ、この世には隠れ場所がない」という気がしたものである。(p.58)

 巻末に「今日の権利意識に照らして、不適切な語句や表現がある」とことわってあるが、さほどの大昔ではない。ほんのひとむかし前まで犬はじつにそういう扱いだった。阿部知二の「赤毛の犬」に出てくるジュジュという名前ののら犬に、わたしは胸が苦しくなるくらいの懐かしさをおぼえるのだ。いつの時代も、犬は人とともにある。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 13

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

著者 : コニー・ウィリス

出版社:早川書房

発売日:2004-04-17

評価 :

完了日 : 2004年06月01日

 オックスフォード大学史学部の大学院生ネッド・ヘンリー。第二次世界大戦中、空襲で焼失したゴヴェントリー大聖堂の復元計画に駆り出された彼の任務は、大聖堂内にあったとされる“主教の鳥株”を見つけること——だが、20世紀と21世紀を行き来しているうちに過労で倒れ、二週間の絶対安静を言い渡される。しかし再建プロジェクトのスポンサー兼責任者の猛女レイディ・シュラプネルに、過労ごときが言い訳になるはずもなく。同情した史学部のダンワージー先生は、ネッドを19世紀の「完璧な休暇スポット」ヴィクトリア朝に派遣することを決める。“時代差ぼけ”状態で事前講習を受けるネッド。ダンワージー先生の言う「子供でもできる単純明快な仕事」が、時空連続体の存亡を賭けた任務だということなど夢にも思わずに。
 ヒューゴー賞、ローカス賞のほかにも、クルト・ラスヴィッツ賞(ドイツ)、イグノトゥス賞(スペイン)など数々の賞に輝いた作品。前作『ドゥームズデイ・ブック』の姉妹編だが、未読でもだいじょうぶ。
 「訳者あとがき」に「抱腹絶倒のヴィクトリア朝タイムトラベル・ラブコメディ」とあるが、抱腹絶倒かどうかは読者の好みによるかも。冒頭のドタバタは相変わらず。このとめどもなさについて行くにはかなりのパワーが必要。じぶんが登場したせいで、結婚するはずだった誰かさんと誰かさんが出会わない! という、どこかで聞いたような話を軸に、冒険あり、謎解きあり、恋愛ありで2800円はお買い得。
 犬と猫出てきます。テニスン引用しまくり青年テレンスの飼い犬シリルはブルドッグ。「かあいいジュジュ」ことプリンセス・アージュマンドは「顔の白い黒猫」。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 4

雨はコーラがのめない

著者 : 江國 香織

出版社:大和書房

発売日:2004-05

評価 :

完了日 : 2004年03月30日

 大和書房ホームページ連載(2001.3〜2003.8)に加筆+書き下ろし。ふしぎなタイトルだが、「雨」というのは著者の愛犬の名。その雨といっしょに聴いた音楽にまつわるエッセイ集。
 「かつて私は、しばしば音楽にたすけられました。いまは雨にたすけられています」という帯の文句にぐっときてしまい即購入。ちなみに雨はコッカー・スパニエルです。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 3

25時 (新潮文庫)

著者 : デイヴィッド ベニオフ

出版社:新潮社

発売日:2001-08

評価 :

完了日 : 2004年03月23日

 厳冬のニューヨーク。モンティはあす収監される。刑期は7年。刑務所で若い白人男性を待ち受ける運命は恥辱に満ちている。選択肢は服役、逃亡、自殺——モンティは愛する者たちと淡々とした一日を過ごす。
 ひとりの若者が刑務所に収監される前日を描いた作品。終盤、連邦刑務所に向かうモンティが思い描く、もう一つの人生は胸を打つ。
 スパイク・リー監督で映画化。映画ではダルメシアンが演じているモンティの愛犬ドイルは、作中ではピットブル。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 3

冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

著者 : アリステア・マクラウド

出版社:新潮社

発売日:2004-01-30

評価 :

完了日 : 2004年03月21日

 カナダ東端の厳冬の島ケープ・ブレトン。動物たちとともに祖先の声に耳を澄ませながら生きる人々がいる——人生の美しさと哀しみに満ちた8篇を収録。表題作は、力は強いが「まったく役に立たない」犬と少年を描く。

 犬が私たちと暮らしたのは短い年月で、いわば自業自得で自分の運命を変えたのだが、それでもあの犬は生きつづけている。私の記憶のなかに、わたしの人生のなかに生きつづけ、そのうえ肉体的にも存在しつづけている。この冬の嵐のなかで、犬はそこにいる。耳と尻尾の先端が黒く、家畜小屋のなかや、積み上げた薪の山のわきや、海に面した家のそばで体を丸めて眠っている、あの金色と灰色の混じった犬たちのなかに。(p.75)

 忘れられない思い出として語られる猛吹雪の日の秘密。心にしみわたる作品集。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 9

負け犬の遠吠え

著者 : 酒井 順子

出版社:講談社

発売日:2003-10

評価 :

完了日 : 2004年01月05日

 初出「IN☆POCKET」連載に加筆訂正+書き下ろし。嫁がず、産まず、この齢に——どんなに美人で仕事ができても、30代以上、未婚、子ナシは「女の負け犬」とズバリ言い切り、それをあらゆる角度から検証した本。
 ためしにちょっと検索してみたら、ずらーっと出てきた賛否両論。思わず唸ってしまったある否定派サイトから一例を引く。

 望んでいるのに、結婚できず、子供がもてない人を、こんなにも傷つけています。酒井さんのようにご自分をネタにして商売する「強者」や、「わたしまだまだ結婚したくない!全然結婚したくない!」と笑い飛ばせる「強者」以外の、大多数の現実叶わず苦しんでいる「弱者」にとっては、ひどい人権侵害です。

 ちゃんと読んでから言ってるんだろうかこの人は。もし読んでたとしたら頭悪すぎ。
 「勝ち負け」や男女にかかわらず楽しめると思うが、やはり30〜40代女性向けか。
 負け犬がそれぞれのアディクション症状から垂れ流しているという「イヤ汁」と、「負け犬にならないための十カ条」の「腕を組まない」には笑った。
 


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 9

太陽がイッパイいっぱい (文春文庫)

著者 : 三羽 省吾

出版社:文藝春秋

発売日:2006-09

評価 :

完了日 : 2003年09月06日

 第8回小説新潮長篇新人賞受賞作。三流大学の四回生に籍を置くイズミは、一年ほど前に「くだらない事情」で始めた肉体労働がやめられない。その理由は、達成感とか満足感という立派なものではなく、仕事帰りに飲むビールのうまさにあった。
 著者は1968年岡山県生まれのコピーライター。主人公イズミは中堅型枠解体業者「マルショウ解体」で働いているが、著者本人が実際にやっていたとしか思えない。仕事仲間のキャラク汗、恋、喧嘩、ツユだく大盛りの青春成長小説。ターや建設業界の裏事情などなど、取材しただけではこうもリアルに書けまい。「ナニワ饒舌文体」と評される、まるで速射砲のように繰り出される軽妙な文体が、現場の「気分」をよく乗せている。チンピラまがいのゴンタクレ、アル中、シンナー中毒、留学生くずれ、リストラされたおやじなど、ワケあり人間を丸ごと引き受けているマルショウ解体の親方いい。立ち飲み屋の近くのガード下で、赤目を光らせておこぼれを狙うのら犬の“ヨゴレ”も欠かせないキャラクターだ。楽しく読んだ。おすすめ。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

ギャングスター〈上〉 (新潮文庫)

著者 : ロレンゾ カルカテラ

出版社:新潮社

発売日:2003-07

評価 :

完了日 : 2003年08月21日

 炎上する密航船の甲板で母の命と引きかえに生まれたアンジェロ・ヴェスティエッリ。イタリアから逃亡してきた父パオリーノはニューヨークで負け犬となり、病弱なアンジェロはウェストサイドで悪ガキに叩きのめされる。酒場の女傑アイダに拾われた彼は裏社会の大物マックウィーンに出会い、ギャングスターへの道を歩み始める。愛する者を奪われ、常に敵対勢力の脅威にさらされる日々。やがて大物になった彼は、かつて自分もそうであったように、孤児の少年を拾い帝王学を授け始める。 
 映画化された『スリーパーズ』でベストセラー作家の仲間入りをしたカルカテラの小説第2作。後にアンジェロに関わるゲイブとメアリーという男女によって語られるギャングスターの一代記。イタ公で“弱助”のアンジェロが、悪童パッジとともに成り上がって行くさまは圧巻である。やくざ映画を観たあとの男はみんな肩をいからせているという笑い話があるが、本書を読めばそんななりきり野郎にも少しは優しくなれるかもしれない。
 描かれているのは1906年から1996年の90年間。ニューヨークのギャング史という側面も見逃せない。
 登場人物はそれぞれに魅力的だが、圧倒的「男の世界」のお約束ともいうべき女傑アイダがいい。美人で優しくて強い。できすぎだがゆるす。特筆すべきはやはり犬である。孤独なギャングスターたちが真に心を許したのは、片時もそばを離れない忠実な飼い犬であった。アンジェロのボスだったマックウィーンはゴーファーという名のブルドッグを飼っていた。敵対勢力のボスも無類の闘犬好き。アンジェロ・ヴェスティエッリも、かつて愛した者たちの名を受け継ぐピット・ブルを生涯飼い続ける。歴々の犬は、彼らと同じ秘密の場所に葬られる。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 17

平面いぬ。 (集英社文庫)

著者 : 乙一

出版社:集英社

発売日:2003-06

評価 :

完了日 : 2003年07月09日

 2002年7月刊の『石ノ目』改題。天才・乙一の新世代ファンタジーホラー作品集。肌に棲む犬と少女の不思議な共同生活を描く表題作「平面いぬ。」ほか、その目を見た者を石に変えてしまうという魔物の伝承をめぐる怪奇譚「石ノ目」など4編を収録。
 全編とっかかりはどこかで聞いたような話だが、展開が巧みで味わい深い作品に仕上がっている。とくにアンデルセンの「鉛の兵隊」を彷彿とさせる「BLUE」が印象に残った。この痛々しい愛らしさ、ただ者ではない。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 2

ニッポンの犬 (新潮文庫)

著者 : 岩合 光昭,岩合 日出子

出版社:新潮社

発売日:2001-12

評価 :

完了日 : 2003年06月06日

 かわいくて、りりしくて、たのもしいニッポンの犬たちのフォト&エッセイ。富士山と桜を背負った柴犬の表紙写真がすばらしい。収録犬は柴犬、紀州犬、川上犬、甲斐犬、四国犬、北海道犬、秋田犬など。文庫になってうれしいワン。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 1

秋の猫

著者 : 藤堂 志津子

出版社:集英社

発売日:2002-11

評価 :

完了日 : 2002年12月02日

 第16回柴田錬三郎賞受賞作。初出「小説すばる」2000.1〜2002.8。表題作ほか5編を収録。ぜんぶ犬猫がらみです。「秋の猫」と「ドルフィンハウス」が猫、「幸運の犬」「病む犬」「公園まで」が犬。とくに離婚する夫婦の愛犬をめぐる攻防を描いた「幸運の犬」をおもしろく読んだ。しかし5編中2編が、女が主に生活のために男に取り入る話だというのがちょっと気になる。そういうのが“おとな”ということなのかしらん。


この感想へのコメント


みんなの感想を読む
 2

スパイク

著者 : 松尾 由美

出版社:光文社

発売日:2002-11-19

評価 :

完了日 : 2002年11月29日

『バルーン・タウンの殺人』でハヤカワSF新人賞を受賞した松尾由美の書き下ろし恋愛ミステリ。表紙はなんだかやけに表情に乏しいビーグル犬のイラスト。
 29歳の江添緑は、下北沢の街で同じビーグル犬を連れた林幹夫に出会う。二頭は姿かたちがそっくりで名前も同じスパイク。緑は青年に電話番号とメールアドレスを教え、また会う約束をする。だが、約束の日、幹夫は現れなかった。アパートの部屋で「あの人、どうして来なかったんだろう」と独りごとを言う緑に、「まったくだ。どうしてだろうね」と応じたのは、犬のスパイクだった。人間の言葉を話し始めたスパイクは緑にある事実を打ち明ける。
 パラレルワールドもの。この人の書くものは、なんというか、とてもかわいい。少女期からの空想癖を引きずっている女友だちの話を、酒も飲まずに延々聞かされているような気分になる。つまらぬと言っているのではない。ようは好き嫌いの問題。パラレルワールドものは内容の硬軟にかかわらず丁寧に読む必要があるため、忙しく、気分がささくれ立っているときなどには向かない。


この感想へのコメント

<前のページ 1  2  次のページ>

Copyright c 2006 WEB本の雑誌 All rights reserved.