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小梅さんの読書ノート

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 1

熱風! 新装版 (徳間文庫 さ 12-19 古着屋総兵衛影始末 5)

著者 : 佐伯 泰英

出版社:徳間書店

発売日:2008-03-07

評価 :

完了日 : 2008年03月09日

佐伯康秀の「古着屋総兵衛影始末」シリーズ第5作。

前作「停止!」の紹介の際にこのシリーズを伝奇小説にカテゴライズした理由を述べましたが、この作品ではそれが色濃く出ています。

江戸時代には「お伊勢参り」が流行しましたが、60年に一度くらいの周期で「抜け参り」という500万人規模による集団参詣という宗教的狂熱現象があったようです。

現代の伊勢神宮参詣者が年間600万人くらい。ましてや日本の人口がいまの4分の1程度だった江戸期に500万人が夏の一時期に集中したというのは凄いことです。

なんで「抜け参り」かというと、お店の小僧さんとか(主に子供)が勝手に飛び出してお参りに行ってしまうのだけれど、お店の主はそれを咎めてはならないという不文律があったようです。

で、大黒屋でも3人の小僧が「抜け参り」に行ってしまうのですが、なんとこの年の「抜け参り」にはまたしても柳沢吉保の謀略があった・・・。

そして鳶沢一族の鬼っ子、寝小便垂れ小僧の栄吉がまさに神がかり的な大活躍をなすという・・・。


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 1

湖水に消える (Hayakawa novels)

著者 : ロバート・B. パーカー

出版社:早川書房

発売日:2002-04

評価 :

完了日 : 2008年03月03日

ジェッシィ・ストーン署長シリーズ第3作。

この後にすでに続編3作品が発表されているというのに、まだ3作目です。

パラダイスの湖畔で若い女性の他殺死体が見つかって、ジェッシィ以下、パラダイス署員の地道な捜査が始まります。署員たちもジェッシィに信を措くようになってきたし、プライヴェートではソフトボールのナイトゲームを楽しむようにもなって、だんだんと彼も町になじんでいきます。

スペンサーと大きく違うのは、スペンサーがスーザン一筋なのに対して、ジェッシィがけっこう誰とでも寝てしまうところでしょうか?元妻のジェンはもちろんですが、今作ではハイスクールの女性校長とも寝てしまう困ったちゃんです。

しかし、ジェッシィはやはり元妻のジェンを愛しているし、アルコールを止める努力もしています。セックスは楽しんでいますが、彼なりに努力もしているようで、好感が持てます。

今作では、スペンサー・シリーズでもお馴染みのガンマン、ヴィニィ・モリスも登場します。楽しめる一冊です。


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 1

三国志〈1の巻〉天狼の星

著者 : 北方 謙三

出版社:角川春樹事務所

発売日:1996-11

評価 :

完了日 : 2008年02月27日

北方謙三は、大好きな作家の一人です。

また、純文学しか読まなかった私をエンタテインメント小説の世界へ引き込んでくれたのも北方謙三の小説に触れたことによります。

その意味で、彼が新しい境地を開くたびに感嘆していましたが、この「三国志」だけは10年以上も手をつけられませんでした(全巻初版で買ってはいるのですが)。

しかし、今年はいよいよ挑戦します。

これは第1巻。劉備が馬を都に運ぶところでの関羽や張飛との出会いから物語が始まります。

しかし劉備にしても、曹操にしても、孫堅にしてもよくここまで人物を描き分けますね。当然もっとたくさんの人物がこれからどんどん出てくる訳ですが、北方謙三の小説にいつも感じる、「心の震え」は、この小説においても同じです。

今年の楽しみがまた増えました。


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1.そら霧人 (2008/05/25)
小梅さん初めまして!!そら霧人です。いや~!!これから、読むってのは、或る意味とってもうらやましいです!! 北方謙三の中国歴史小説は「三国志」<「楊家将(血涙)」<「水滸伝(楊令伝)」の順で深く面白くなっていきます!!先は長いですが、楽しい道のりになる筈です!!北方中国史のダイナミックさを楽しんで下さい。
2.小梅 (2008/05/26)
そら霧人さん、はじめまして。
北方謙三大好きなんですが、中国ものには手をつけていませんでしたが、このところ『水滸伝』や『楊令伝』が若い女性たちにも大ブレイクしているようですね。慌てて本棚を浚ったところ、『三国志』は全巻、『水滸伝』も途中までハードカヴァーで買ってたので、これから読んで行こうと思ってます。確かに先は長いですね・・・。
 

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 10

チェーザレ 1―破壊の創造者 (1) (KCデラックス)

著者 : 惣領 冬実

出版社:講談社

発売日:2006-10-23

評価 :

完了日 : 2008年02月27日

ユリウス=カエサルといえば、古代ローマ帝国の礎を築いた人物として知られるが、歴史上にあって、もう一人のカエサルの存在は、意外に知られていない。本作は15世紀の末に、混迷を深めるイタリアに現れた、天才とも悪魔とも称されるチェーザレ・ボルジアその人を描いた物語である(チェーザレはカエサルのイタリア語読み)。

不幸なことに、我が国では塩野七生による「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」が殆ど唯一のチェーザレ像を描いたものであり、あの澁澤龍彦や中田耕冶らですら、その妹のルクレツィアについて、著作の一部で触れているのみであり、ボルジア家についての偏見だけが残るという状況にあったが、本作におけるチェーザレ像のなんと理知的で、美しいことよ!

気鋭のダンテ学者である原基晶を監修者に据え、本邦未訳のサチェルドーテ版「チェーザレ・ボルジア伝」を踏まえた惣領冬実の紛れもない労作にして傑作である。誤解を恐れずに敢えて言うが、この作品は読者をすら選ぶと言わせていただこう。心して読まれんことを。

「チェーザレ-破壊の創造者」は、週刊モーニングに不定期連載中。単行本は講談社から今年4月にも最新第3巻が発売予定。

(※2007年1月29日号より転載)


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 1

幻の森―ダルジール警視シリーズ (A HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK)

著者 : レジナルド ヒル

出版社:早川書房

発売日:1998-10

評価 :

完了日 : 2008年02月20日

ダルジール警視シリーズ(ってゆうか、ダルジール、パスコー&ウィールド・シリーズ)の長編第14作。

今作は凄いよ。

まず、四代に亘るパスコー家の歴史が語られること。パスコー主任警部の曾祖父である、ピーター・パスコー伍長の第一次大戦における悲劇とこれが80年を経た現代の事件にまでつながってくるというストーリィ構築力の見事さ。

次に、なんと太っちょアンディに恋人が!警視もやるなあ、と思っていたら、なんとその恋人が2件の殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう!

そしてゲイのウィールディは、前作『完璧な絵画』で出会った恋人(?)と田舎暮らしをはじめる。

さらに、今作からこの三位一体にシャーリー・ノヴェロという女性刑事が新たに加わり、中部ヨークシャー警察犯罪捜査部はより魅力を増してきそうな期待感が膨らんできます。

事件は、製薬会社の動物実験に抗議する動物愛護団体のメンバーが、会社に侵入しようとして白骨死体を見つけてしまうのだけれど、これは誰の肢体なのか?ラストで明かされる衝撃の事実まで、眼が離せません。

今作は476頁だったけれど、頑張って比較的短期間に読むことができました。


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 1

停止! 新装版 (徳間文庫 さ 12-18 古着屋総兵衛影始末 4)

著者 : 佐伯 泰英

出版社:徳間書店

発売日:2008-02-01

評価 :

完了日 : 2008年02月05日

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末」シリーズの第4作です。

ま、これを伝奇小説にカテゴライズしていいのか、というご意見もあるでしょうけれど。

1.主人公は表の顔は古着屋の主人であるが、実は神君家康公以来の影の武闘集団の領袖という裏の貌を持っている。

2.幕閣にいる「影」の指令を受け、徳川幕府の危難に対して働くことを役目としている。

とまあ、こうゆうことです。

時代は宝永年間、綱吉の治世ですから、敵は当然ながら御側御用人・柳沢保明ですね。

このシリーズは佐伯泰英が抱える10のシリーズの中で唯一、全11巻で(取り敢えず)完結している作品です(まあ、第1部完結らしい)。

この作品は4作目なんですが、柳沢保明との暗闘も段々と佳境に入り、今回はなんと古着屋の大黒屋が「商停止」つまり営業停止処分を受け、総兵衛も北町奉行所に囚われて(別件逮捕)拷問を受けます。

殆ど死にかけていた総兵衛を助けたのが、なんと前作で敵方であった美貌の女武芸者・深沢美雪・・・。

この写真は新装版ですが、私が読んだのは旧版です。


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 1

恋愛空間―高樹のぶ子エッセイ集 (講談社文庫)

著者 : 高樹 のぶ子

出版社:講談社

発売日:2000-04

評価 :

完了日 : 2008年01月24日

この本は小説ではなくて、エッセイ集。とゆうか映画評論や文学評論、あるいは渡辺淳一との対談などを集めたものとなっています。

でこの中の全編を通じて、高樹のぶ子の恋愛観が滲み出ているというか、高樹小説のファンなら「そうそう」とうなづいてしまうかもしれません。

私自身は、それほど感じませんが高樹氏は「不倫」という言葉にネガティヴというか「悪い」イメージを感じるということで「ふたごころ」という言葉を作って使っています。結婚した相手がベストなパートナーであるならともかく、そんな例は極めてレアケースだと思うし、そうなると結婚してからそうゆう相手に出逢う確率は高い訳ですし。

その前提として、高樹氏は「第二次恋愛期」という言葉も使っています。「第一次恋愛期」の恋愛というのは、どうしても結婚に結び付けられる、あるいはそうゆうものを前提としていることが多い、そうすると、結婚、出産とか、「恋愛感情」だけではない「しがらみ」が付随してきて、「純粋な」恋愛感情とは言えないのではないか?

その意味で40~50代の恋愛というのは、そうゆう「しがらみ」からは自由である、とゆうか、結婚する訳でもないし、子供産む訳でもないし、そうゆうことを考える必要がない。だから「純愛」に近いのだと。

まあ、異論や反論は多いと思うけど、高樹氏の考えをうまく伝えられてないかもしれんけど、私はこの本に強く共鳴したひとりです。


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 1

完璧な絵画―ダルジール警視シリーズ (A HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK)

著者 : レジナルド ヒル

出版社:早川書房

発売日:1998-07

評価 :

完了日 : 2008年01月17日

レジナルド・ヒルという作家も、「ダルジール警視シリーズ」(というより、ダルジール、パスコー&ウィールド・シリーズ)というシリーズも大好きなのですが、やはりここ10年も積読状態。

ずっと買い続けてはいるのですが(ただ最新2作はまだ未購入)、なぜ手をつけずにいたのか?

やっぱこの厚みだよなぁ~。当時、イアン・ランキンとポケミスの厚さ(と定価)の記録を交互に更新していたように記憶しています。未読の山が高いもの!

で、この作品はシリーズ第13作。既刊本は未訳の2作をのぞいて全部読んでいるハズ(ただし手元にはない)。

やはりこのシリーズの魅力は、ふとっちょアンディ・ダルジール警視、優男ピーター・パスコー主任警部、醜男でゲイ(しかし有能)のエドガー・ウィールド部長刑事のそれぞれの個性の描き分けと、文学の薫り高い格調高い(?)文章、緻密な構成となんといっても全編に溢れるユーモア、というところでしょうか。

冒頭から銃の乱射事件のシークエンスが出てきて、思わず昨年末の佐世保のスポーツクラブ乱射事件が頭に浮かんできましたが、これがどうなるのかを最後までとっておいて、いきなり事件の2日前に立ち戻るという構成の心憎さ。

各章の頭にジェーン・オースティンの手紙が引用されているんですが、これまた「ようこんな内容にピッタリの文章探してくるなあ」とただただ感心させられます。

しかし、いくら厚い(といっても377頁)とは言え、元旦から読み始めて今日までかかるのはちょとまずいでしょという遅読ぶりでした(もちろん面白くない訳ではけしてないのだけど)。


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 9

PLUTO (1)

著者 : 浦沢 直樹,手塚 治虫,手塚 真

出版社:小学館

発売日:2004-09-30

評価 :

完了日 : 2008年01月12日

我々が生きているこの現実社会は、人間が人間らしく生きていける社会であると果たして言えるのであろうか。

手塚治虫の述懐の中で「鉄腕アトム」シリーズ中、最も高い人気を博したのが「地上最大のロボット」というエピソードであったという事実を踏まえたうえで、この作品は浦沢直樹がそのエピソードを下敷きにして、全く新しい物語を紡ぎ出したかのような傑作の予感すらを秘めている。

手塚治虫という神格化された存在を畏敬しながらも敢えてアトムではなく、ユーロポールのロボット刑事であるゲジヒトを主人公に据え、彼の視点でエピソードを展開・変奏させる浦沢の大胆不敵な試みは、他の作家ではなし得ない「野望」と言われても不思議ではないが、すでに「MONSTER」や「二十世紀少年」等の傑作群を世に問うてきた浦沢ならではの荒業であると言ってもいいだろう。

無論、浦沢が描いているのはロボット群像ではない。アトムを始めとするロボット達を介して、人間の本質とは、人間が人間らしく生きていく社会とは、という問いを絶えず発し続けているのだ。

「PLUTO」は月2回刊ビッグコミック・オリジナルに連載中。単行本は小学館から、来月中旬に最新第4巻が発売予定。
(※2006年11月27日号に掲載)


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 2

初花 吉原裏同心(五)

著者 : 佐伯 泰英

出版社:光文社

発売日:2005-01-12

評価 :

完了日 : 2008年01月05日

「吉原裏同心」シリーズ第5弾。

あいもかわらず(そこがシリーズものの安心感ではあるが)御免色里・吉原の四郎兵衛会所の用心棒稼業で生計をたてる神守幹次郎と、花魁らに手習いを教えながら情報収集工作に勤しむ妻の汀女。

旧田沼派の残党との暗闘もありますが、この作品から重要なキャラクターも登場します。「身代わりの佐吉」という「けちな野郎」(自称)ですが、幹次郎のよき相談役として、吉原の四郎兵衛会所とは一歩距離を置いたところで、幹次郎を助けていきます。


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 1

最終章 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

著者 : スティーヴン グリーンリーフ

出版社:早川書房

発売日:2002-04

評価 :

完了日 : 2008年01月05日

「私立探偵ジョン・タナー」シリーズ第14作。

けして忘れてた訳ではないんですが、このシリーズの第14作(最終作)の紹介をやってませんでした。

「最終章」というタイトルが示唆しているように、この作品がこのシリーズの最終作となります。

まあ、この作品の前2作くらいで、シリーズ作品にとっては「致命傷」となりかねない事件も起こってしまった訳ですが、でも前作では終わりとならずこれが出てきた。

最後の(もちろん文中では最後とは書いてないけど)依頼となる事件は、売れっ子女流作家の護衛。なんか似たような事件が、他の作家の作品にもありますが、ジョンはこの仕事を引き受けることになります。

でまあ、これまで同様に事件は解決(?)する訳なんですが、今作ではその後に「エピローグ」という章がついている。そこで、ホントにこのシリーズに幕を降ろすべく、タナーの友人たちがいっぱい出てくるという趣向になっています。

これでいちおう「私立探偵ジョン・タナー」シリーズは終わるんですが、途中からの紹介だったんで、今度は第1作からとなりますが、なにしろ昔に読んだのでよく覚えてないんです・・・(汗)。


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1.take9296 (2008/07/16)
一部のシリーズを除くと、私立探偵ものが最後まで翻訳されるケースは少ないのですが、ジョン・タナーものはすべて出ましたね。文庫化されたのは一部だけなのが、惜しい。もっと広く読まれてほしいのですが。
2.小梅 (2008/07/16)
確かにこの作家はもっと評価されるべきだし、もっと紹介されるべきだと思います。ジョゼフ・ハンセンのデイヴ・ブランドステッター・シリーズも同様。
 

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 17

クワイエットルームにようこそ (文春文庫 ま 17-3)

著者 : 松尾 スズキ

出版社:文藝春秋

発売日:2007-08

評価 :

完了日 : 2008年01月05日

この手の作品を読むのには、ぶっちゃけしんどいものがある。これを書く前に、あくまで「参考までに」現在の新刊採点員のみなさんの書評を読ませていただいたのだが、なんとまあ皆さん揃いも揃って「健康的な」対岸からのお言葉だろう。この作品はホントに「精神的に健康な」ヒトが読むべきものであって、<わたし>と同じようなクスリを、20年以上も服用し続けている私自身が読むにはやはり辛すぎるのかもしれない。

この作品は芥川賞の候補作で、舞台が精神病院の女性専用閉鎖病棟、もちろん<わたし>も女性なのだが、作者である松尾スズキはれっきとした男性だ。男性でありながら、ここまで女性の視点で作品が描けるとは、という評価もされているようだが、私自身の眼からみるならば、この閉鎖病棟の女性患者たちの姿は、いわゆる「カリカチュアライズされた精神病患者」としての存在以上のものではなかったような気がするのだ。その意味において、この作品が芥川賞候補作になったときの山田詠美の選評である「映画『17歳のカルテ』の日本版ノヴェライズとしては上出来」という言葉に込められた深い意味を感じとってしまったのは、ちとヤバイのかも。


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 8

雨恋 (新潮文庫 ま 30-2)

著者 : 松尾 由美

出版社:新潮社

発売日:2007-08

評価 :

完了日 : 2008年01月05日

切ないよね。誰かを好きになりそうな予感がしているのに、その恋心が叶えられることが万に一つの可能性もないことが判っているなんて。なぜならその相手は「自殺したとされている」女の子の「幽霊」なんだから。

<ぼく>は「三十歳になり、社会人としても個人としても、安定している」言い換えれば「一種の停滞期」にあることを客観的に自覚している人間だけど、この若者が抱く「諦念」めいた人生観は、現代社会の若者の基準に照らしても少々老成している感がある。もちろんだからこそ「自殺したとされているけど、本当は殺されたのだ」と主張する<千波>の幽霊をして、「真相を探って欲しい」と相談されてしまう所以なのだろうけれど。

ただこの作品は「事件の真相を探る」ミステリとしてではなく、ひょっとしたらもっとも上質な部類に属するかもしれない「恋愛小説」として成立している。最初はおとなしくて地味な女の子にも思えた<千波>が、次第に「やりたいんじゃないの?」と叫ぶような女を露わにしてゆくさま、そしてそのことを否定しきれずに苦しむ<ぼく>。雨上がりの朝の美しいラストシーン。久し振りに切なくてたまらない作品を読ませていただいた。


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1.たね (2008/04/09)
小梅さんはじめまして。お気に入りに登録していただきありがとうございます。
恋愛小説は苦手なのですが、この本はなぜか惹かれて購入しました。今は積読状態になっているのですが、小梅さんの★5つを参考に読んでみようと思います。
2.小梅 (2008/04/09)
たねさん、コメントありがとうございます。
プロフに恋愛小説は苦手って確かに書いておられますね。
もちろんこの作品は恋愛小説として意識する必要はないと思います。最初<千波>という幽霊の存在に、驚愕し困惑する<ぼく>が次第に<千波>に惹かれていく。そして<千波>とはどんな女の子だったのか。そうゆうドラマが徐々に視えてくる構造がよくできていると思うのです。
 

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 18

逃亡くそたわけ (講談社文庫)

著者 : 絲山 秋子

出版社:講談社

発売日:2007-08-11

評価 :

完了日 : 2008年01月05日

「ロードノベル」と呼ぶほどかっこよくはないし、「オデッセイ」と呼ぶほど大仰なものでもない。かといって「道行物」と呼ぶほど暗くて悲惨なものでもない。ただ<あたし>と<なごやん>はひたすら逃げる。目的地がある訳じゃない。とにかく南の方へ行ってみたい。精神病院からの逃亡劇なら、もう少し悲壮感に見舞われそうな気もするが、読み手にとってはなにやら『国境の南』めいたラテン的な明るさまでが伝わってきてしまう。

その理由は、必死の逃亡劇のはずが「組織からの執拗な追撃」みたいなものもないし、滑稽とも思える騒動には巻き込まれるけど、本当に追われているのか(いや探されているのかどうかすらも)判らないという微妙な彼我の温度差(あるいは錯覚)からきているのは明らかだ。

追われているから(あるいはそう思い込んでいるから)<わたし>と<なごやん>の宿は車の中も多い。久し振りに飛び込んだ旅館での夜に<わたし>が<なごやん>にふともらす「してもよかよ」という台詞。別に恋愛感情がある訳じゃない。ただ「幾晩も一緒にいて、させてあげないのは可哀想」という気持ちで男に抱かれようとするイマドキの女の子の気持ちが実にリアルな佳作だ。


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 7

リアル (1) (Young jump comics)

著者 : 井上 雄彦

出版社:集英社

発売日:2002-09-18

評価 :

完了日 : 2008年01月03日

あなたは「障害」と向き合わざるを得なくなったとき、どのようにしてそれと関わって行こうとするのだろうか。

野宮朋美。バスケだけが唯一の取り柄。練習好きが他の部員から敬遠され、居場所を見失い、ナンパした少女を単車に乗せて事故に遭い、彼女を障害者にしてしまう。

戸川清春。中学時代、日本を代表するスプリンターと嘱望されながら、骨肉腫のために右脚を切断せざるを得なくなり、障害者となる。

高橋久信。自分が「特別な存在」であると自惚れ、面白半分に盗んだチャリで逃げる途中でトラックに撥ねられ、障害者となる。

三人三様、それぞれが「障害」と現実に向き合うことを余儀なくされているが、戸川は「車椅子バスケ」というスポーツと出会い、全日本代表候補にまで昇り詰めてきた。野宮は自分が「障害者」にした少女の笑顔を見るために、前進しようと模索を続ける途上。高橋は正にこれから「障害」という現実に向き合って行かねばならない。彼らはみなそれぞれが、自らの「リアル」を抱えて生き方を探りながら、あなた自身の生き方にまで問いを発しているのだ。

「リアル」は週刊ヤングジャンプに随時連載中。単行本は集英社から来月中旬に最新第6巻が発売予定。
(※2006年10月17日号に掲載)


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 1

沈黙 (Hayakawa Novels)

著者 : ロバート・B. パーカー

出版社:早川書房

発売日:1999-12

評価 :

完了日 : 2007年12月20日

スペンサー・シリーズの第26作です。

いや~スペンサー・シリーズはこの前の「突然の災禍」までの25作を全て読んでいますが、それ以来ですから実に久し振りに読みました。

この解説の中でも池上冬樹氏が書いていますが、私が暫くスペンサー・シリーズを読んでいなかったのも、池上氏と全く同じく感覚です。ある意味予定調和とでもいうか。面白いのは判っているんだけど、他に読んでみたい本があって、そっちを先に読んでしまうというか。後回しにされやすいのね。

今回もいつものキャラクターでストーリィが展開していくけど、ちょっと驚いたのはホーク(スペンサーのよき相棒であるタフでオシャレな黒人)が、過去について初めて語っているのですよ。そのエピソード自体も本作のストーリィに重要に関係してくる訳ですが。

このシリーズの魅力のひとつは問題に対して、スペンサーがどのように決着をつけるのか、という点にあると思うのです。例えば今月出た最新作の「ドリームガール」では第9作の「儀式」に出てきた少女娼婦のエイプリルがまた登場しているらしいのですが、「儀式」での決着のつけ方が普通の私立探偵小説とは少々違う、かなり現実的な決着のつけ方であっただけに、このシリーズは極めて興味深い。

故・菊池光の名訳が冴え、辰巳四郎の装幀が素晴らしい、大好きなシリーズです。


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 1

特攻の島 1 (1) (芳文社コミックス)

著者 : 佐藤 秀峰

出版社:芳文社

発売日:2006-04-24

評価 :

完了日 : 2007年12月17日

あなたは、あなた自身の人生を、あなたのものにしていると言い切れるだろうか。

大東亜戦争末期、絵の好きな貧しい少年だった渡辺裕三は、何をしたいのかも判らぬまま、海軍航空隊予科練に入隊する。戦局は既に敗色を濃くしていたが、形勢を一気に挽回するという特殊兵器が開発され、渡辺はその搭乗員として志願する。天を回し日本を窮地から救う兵器、ゆえに「回天」と命名された新兵器は「生還を期さぬ」即ち「特攻」の人間魚雷であった。

これまで「海猿」や「ブラックジャックによろしく」という作品群で「人間の命の重さ」について執拗なまでの問いを発し続けてきた佐藤秀峰が、なぜいま「特攻」というテーマに取り組んだのか。

渡辺は回天の搭乗訓練に際してこの兵器の開発者である仁科中尉に告白する。どんな死に方であれ、自分の死に意味が持てるかどうかは個人の問題に過ぎぬ。だからここで命を燃やすのだと。では何のためにと問う仁科に、渡辺は答えるのだ。「俺自身の人生を、俺のものにするため」であると。ここでは「殉国」という暗愚を遥かに超越した哲学が存在するかのようだ。

「特攻の島」は、週刊漫画TIMESに不定期にて連載中。単行本は芳文社から、現在第1巻が発売中。
(※2006年8月21日号に掲載)


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1.NYPD (2008/10/22)
『特攻隊員』に対する視点はいろいろありますが、小林よしのり著の『戦争論』に描かれた隊員達の心境に私は共感を抱いてしまいます。
2.小梅 (2008/10/24)
小林よしのりは読んでませんね~。子どもの頃、『東大一直線』は単行本も持ってましたが。
島尾敏雄の『出発は遂に訪れず』をはじめとする一連の作品群に、若い頃は肩入れしておりました。
 

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 2

清掻―吉原裏同心〈4〉 (光文社時代小説文庫)

著者 : 佐伯 泰英

出版社:光文社

発売日:2004-07

評価 :

完了日 : 2007年12月09日

「吉原裏同心シリーズ」第4弾。

前作「見番」で、吉原の後ろ楯であった、老中田沼意次が失脚し、十一代将軍家斉が就任すると、その父である一橋治済が旧田沼派を一掃し、吉原の利権を我が物にしようと暗躍を始めます。

しかし吉原会所も早々に旧田沼派に見切りをつけ、老中首座に就任した松平定信に接近し(この経緯はこの後の巻でも詳しく語られます)、一橋治済の野望に対抗しようとします。

このように幕閣の有力者らと権謀術数を巡らし合う吉原会所との間で、神守幹次郎の戦いは続きますが、そのような中にタイトルの「清掻」のようなエピソードが巧みに織り込まれて、吉原に生きる人々の風雅な趣が伝わってくるという仕掛けになっています。


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 1

ブラック・ラグーン 1 (1) (サンデーGXコミックス)

著者 : 広江 礼威

出版社:小学館

発売日:2002-12-12

評価 :

完了日 : 2007年12月06日

 あなたは自らの拠って立つべき場所について、どれだけの確信を持って知り得ていると言い切れるだろうか。

 商社マンであった岡島緑郎(ロック)は、某国への核開発輸出計画を収めたディスクを移送中に海賊に拉致された挙句、己の会社の隠蔽工作によって「事件の被害者」として葬り去られてしまう。

彼を拉致した南シナ海の運び屋=海賊であるラグーン商会は、切り捨てられた彼を仲間として引き入れるが、そんなある日相棒のレヴィはロックに「お前、どっちの側にいたいんだ?」と尋ねる。彼は「俺は俺が立ってるところにいる。それ以外のどこでもない」と答えるが、これは己を「棄民」として切り捨てた会社や「祖国日本」への訣別宣言であると同時にまた、自らが拠って立つべき場所(立ち位置)を明確に知り得ている者の言葉として極めて重い響きを持っている。

 かつて死んだ詩人は「身捨つるほどの祖国はありや」と呟いたが、己の立ち位置を確りと認識することができるのであれば、何やら胡散臭いばかりの「愛国心」など持ち合わせる必要はなかろう。

「BLACK LAGOON」は、月刊サンデーGXにほぼ毎月連載中。単行本は小学館から、現在第5巻まで発売中。
(※2006年6月26日号に掲載)


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 1

一瞬の光のなかで

著者 : ロバート ゴダード

出版社:扶桑社

発売日:2000-02

評価 :

完了日 : 2007年12月02日

ロバート・ゴダードの『一瞬の光のなかで』をやっと読み終えました。購入してから実に7年10か月もの間、なんで手をつけなかったのか?

ゴダードに関して言えば、処女作の『千尋の闇』から、この作品の前作に当たる『惜別の賦』まで、いちおう全部読んではいたのですが、この作品は初めての単行本で出たのね。文庫じゃなくて。もし文庫で出てたら、そのまま読んでいただろうに、扶桑社もあざといことしたなあ。そのあと文庫で出たのをみて、「これまで待ってりゃなあ・・・」と思いましたよ。でも新作をみると買いたくなる時期だったので単行本買ったのね。

例によって主人公のカメラマン。ダメ男とゆうより人としてどうなの?という気にさえさせられます。雪のウィーンに仕事(撮影)に行って、ある若い女と出逢う。その女も人妻なのだが、ふたりはたちまち恋に落ちて、あんなことやこんなことをした挙句に、帰国したらそれぞれ自分の家族と別れて一緒になろうと約束するのです。妻との仲が冷え切っている(それも彼の浮気が原因なのだが)のは判るのだが、かわいい娘もいるのに、自分の感情だけで別れようと考える自己中心的な男。

はっきり言ってこの主人公は、人としてまずダメなんですが、こうゆう主人公の設定はゴダードの作品では多い。だから嫌いな人も多いかもしれません。でもそこを敢えて我慢して読み続けると、ほらもうあなたはゴダードの世界にどっぷりはまってしまいます。

主人公がカメラマンという設定のためか、写真の歴史がひとつの大きなテーマとなっていますし、章立ても、第一部「構図」、第二部「露光」、第三部「現像」、第四部「展示」という風になっていて、読み進めるうちに謎が深まって行きます。最初はウィーンで出逢った女性が消えてしまって、その行方を執拗に捜そうとする主人公ですが、第三部の直前あたりから「オイオイ、どこ行くの?」という思いもよらぬ展開になって行きます。

ま、これがゴダードの醍醐味なんですけどね。


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