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Pipoさんの読書ノート

文庫で楽しんでいます
やっぱり買ってしまうメインは文庫本です。単行本のときに迷った本、出会い頭に買った本など、あれこれを。
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 2

本業 (文春文庫)

著者 : 水道橋博士

出版社:文藝春秋

発売日:2008-03-07

評価 :

完了日 : 2008年12月03日

「WEB本の雑誌」中の連載、「オトコの本棚」第2回からのピックアップです。浅草キッドのお2人はどちらも素晴らしい才能をお持ちで、出演番組はついチェックしてしまうのですが(笑)、この本は水道橋博士さんのご本。装丁だけ見て書店へダッシュ(カップリングは児玉清さん『寝ても覚めても本の虫』)!

目次を開くまで、何の本かまったく意識せずにいたので、中身にびっくり!タレント本の書評集とくるかー。しかもラインナップにしびれる(笑)。芸能からビジネス、サブカル、政治など流れは多彩。冒頭の矢沢永吉本にだまされてはいけません!。長嶋一茂本、ガッツ石松本、アニータ本は有名どころで、なべやかん本って、どうよ(笑)。キムタク本も編集さんにすすめられた形跡はあるものの、見事に却下されており、代わりにヤマタク愛人本だったりする(笑)。

筆致は博士らしく、簡潔にハイテンションで格闘技調。アントニオ猪木全盛時のプロレス中継(古舘伊知郎さんが実況担当)のまんま、小気味よく進みます。文章がうまく、言葉の瞬発力が芸人さんらしく見事です。文中に引かれる時事ネタがまた、微妙なところを突いていて吹き出す!たまに出てくる同僚芸人さんのコメントも笑えます。

おおかたの本好きなら、立ち読み程度ですませてしまい、魔が差さない限り買わない(と思う)本をどかーんと紹介していただき、感激にふるえたクレイジーな1冊です…でも、格闘技調の筆致が合っていない本もあるように思う(あとがきでは抑えた知的さを感じるからなおさら)ので、☆をちょっと引いてこの数で。これだけ持ち上げておいて、ごめんなさい。


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 4

寝ても覚めても本の虫 (新潮文庫)

著者 : 児玉 清

出版社:新潮社

発売日:2007-02-01

評価 :

完了日 : 2008年12月03日

「パネルクイズ アタック25」「週刊ブックレビュー」でおなじみの俳優、児玉清さんによる読書エッセイ集です。「本の虫」かー、久しぶりに聞いて嬉しくなる単語です(笑)。

児玉さんご自身のお若いころの読書経験や、お好きな本に対する思いがあふれるように描かれます。お読みになっているものは日本でも必ずといっていいほど人気の出る、比較的ポピュラーな海外作品ながら、「自分の大好きな作家の翻訳本が消えてしまった」って…「人気がなくなったから絶版?」と考えた私がバカでした。翻訳が出る前に次々と追いついてしまうとは、これぞ筋金入りの読書人!私もそんなが経験してみたいです(笑)。

本から思いをはせる映画、国際情勢についても、ちまちまとせず、広く深く的確に小説の作品世界と現実世界をリンクさせての語り口は見事です。たとえば「“ライアン”はアメリカ人の心の具現者か」では、クランシー作品を楽しみつつ、アメリカ人の精神のありように思いをめぐらせる点が素晴らしく、思わず拍手を送ってしまいます。「アタック25」では児玉さんご自身も問題を作られているという、小ネタも楽しめました(笑)。「-ブックレビュー」でインタビューをされた、キョウコ・モリさんから引き出された2つめの台詞がもう、切れ味よくってスカッとします!

原題と邦題を並べて書いていただいているところが児玉さんの几帳面でご親切(だと思う)な人柄を思い起こさせます。筆致はとても真摯で端正。プロの評論家並みの筆力で、書評家というよりも「本が好きでたまらない」というスタンスをあえて選んで書いていらっしゃる印象を受けます。独文を学ばれた強みか、そこにはヨーロッパ風のものの見かたが隠れているようにも思います。タレントのYOUさんが「理想の男性」とおっしゃるのも納得(笑)。テレビで拝見する児玉さんの語り口そのままの知的な読書本で、この☆の数です。


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 1

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

著者 :

出版社:岩波書店

発売日:1978-08-16

評価 :

完了日 : 2008年11月24日

知里幸惠さんというアイヌ民族の女性が、民族の間に伝わるユーカラ(神・英雄などを歌った物語歌)をまとめ、記録し、日本語の翻訳をつけた本です。10代半ばに、『銀のしずく降る降るまわりに―知里幸恵の生涯』という本の書評を見て、すぐ手に取りたいと思ったものの、なぜか記憶が…先日、こちらを書店で見かけてレジへ。左側のページに原詩がローマ字で、右側に日本語訳が書かれているため、岩波文庫には珍しく、左側から開きます。

アイヌ語が分かるかたはともかくとして(笑)、素晴らしいのはその日本語訳!非常に知的で正確なうえに、詩情あふれる言葉づかいには目を見張ります。最初の「梟の神の自ら歌った謡『銀の滴降る降るまわりに』」からして、もう見事としかいえません。原語では確かに、「降る」にあたる(と思う)単語が繰り返されているので、ほぼ直訳であることが想像できるのですが、言葉の選びかたの妙でしょうか。ものすごくファンタジックで、金子みすずの詩を思い出してしまいます。

解説は金田一京助がさらりと数ページ、知里さんの弟さん(言語学者)が学問的な解説をつけておられるだけで、現代版の解説などはありません。とても薄い本です。不親切かとも思えるものの、なんだか潔い。民俗学者の柳田國男がこの記録のあまりの素晴らしさに、岩波書店の社長に出版を持ちかけたという逸話がある(らしい)とも聞きました。

アイヌ民族の歩んだ歴史についてはいろいろな考え方もあると思いますが、ひとつの言語を記録した文献として見事で、この☆の数です。


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 1

博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 (ハヤカワ文庫NF)

著者 : サイモン ウィンチェスター

出版社:早川書房

発売日:2006-03

評価 :

完了日 : 2008年11月20日

英語圏の辞書では外せない辞書、『オックスフォード英語大辞典(OED)』編纂中のあるエピソードから、OEDの誕生を追ったノンフィクションです。原題は"The Professor and the Madman"でそのまま。副題は原題"A Tale of Murder, Insanity, and the Making of the Oxford English Dictionary"のほうがちょっと刺激的で面白いような…。

この辞書の編纂に大きく関わった2人の人物を中心に描かれます。1896年当時、編纂主幹であったマレー博士と、意見交換の相手、マイナー博士。この2人は20年来、手紙のやりとりをしていたものの、会ったことはないという。マレー博士が謝意を伝えるため、マイナー博士のもとを訪れると…滑り出しがあまりにもできすぎで、「これってミステリ?」と思いきりハヤカワの分類を見直してしまいました(笑)。

克明な筆致で、英国のノンフィクションはこのように書くのか…ということがよく分かります。情報量が多く、途中で中だるみ気味にも感じられるものの、この2人をめぐる事実と当時の時代背景がその時代の英語とともに、細かく解説されながら、話が進んでいきます(できれば、日本人向けに注釈をつけてほしいものも…)。また、各章の冒頭にキーワードになる単語が挙げられており、その単語がOEDの項目を丸ごと使っている(もちろん訳してあります)ので、OEDがどんな辞書か分からなくても、イメージをつかむことができると思います。第1章で引かれるmurder(殺人)の語源と定義は圧巻!訳は日本語としてはもたつく面があるものの正確で、読み進めるには特に引っかかりはありませんでした。

ウィンチェスターの作品は地質図を扱った『世界を変えた地図』で挫折したことがあり(笑)、警戒していたのですが、こちらは面白く読めました。装丁は平野甲賀さんの直球勝負。図書館でOEDの実物を見てこようかな、という気にさせる本(私だけ?)で、この☆の数です。


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5.まま (2008/11/25)
私も読みました。
シェイクスピアの時代には今私たちがイメージするような辞書が無かったとか、OEDを編纂するのにこれだけの時間と労力がかかったのだとか、詳しく書かれているのを見ると、圧倒されました。そういった人々のおかげで普通に辞書を調べることができるのですね。
それから、このマイナー博士のお話、それはそれで事実は小説よりも奇なりという言葉のとおりで、別な意味で圧倒されました。
6.Pipo (2008/11/26)
ままさん、こんにちは。お運びありがとうございます。

本当に中身の濃い本でした!OEDはフランスのアカデミーのような団体だけで練り上げて作ったと思っていましたので、多くの協力者に支えられたプロジェクトだったことを知って新鮮に感じました。あんな広告が新聞に折り込まれていたら…想像するとわくわくしますね。マイナー博士の逸話も、この辞書にまつわる「伝説」にふさわしいと思いながら読み終えました。

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 8

沈黙博物館 (ちくま文庫)

著者 : 小川 洋子

出版社:筑摩書房

発売日:2004-06-10

評価 :

完了日 : 2008年11月16日

『博士の愛した数式』を映画で観て以来の、初小川小説です。柴田元幸さん『それは私です』で熱烈に紹介されていた作品。

舞台は日本ではない、どこかの国のどこかの村。「博物館技師(学芸員ではない)」の男性が、さびしい駅に降り立ちます。雇い主は大きな古いお屋敷に住む、年齢もはっきり分からない高齢の女性。自分の「所蔵品」をもとに博物館を作ってほしいという彼女の依頼を受けて、主人公は動き出します。

全てが霧の中で進んでいるようで、現実離れした雰囲気の中で物語は進みます。彼と外部をつなぐものは、時おり兄へ書く手紙のみ。庭師から「役に立つ」と手渡されたジャックナイフは事実、収蔵品の収集に役立つものの、これが不穏な動きに彼を巻き込みます。個人的には、終盤で彼が兄からもらった顕微鏡と、亡き母親の蔵書に思いをはせる場面が好きです。そこからつながる結末は、「あぁ…」と思いながらもこれしかないように思いました。彼と老女の娘、沈黙の誓いを立てる伝道師の見習い少年をめぐる、静かで細やかな描写も素敵です。無国籍がいい意味で生きている作品だと思いました。

それぞれの収蔵品をめぐる物語はレンツの『遺失物管理所』、悲壮感さえただよう想いはさだまさしさんの『博物館』という曲を思い出します。装丁はクラフト・エヴィング商會さん。霧の中で全ての音が吸い取られてしまうような作品の雰囲気がよく伝わるデザインです。新潮社クレスト・ブックスにそっと混ぜても誰もわからない(笑)、良質の淡くてほの甘、そしてほろ苦い物語で、この☆の数です。

-----[2008.10.26 未読リストアップ時のコメント]-----

柴田元幸さん『それは私です』で紹介されており、興味を持った本(小川さんは柴田さんのお気に入りの作家さんのよう)です。ストーリーにはミステリ仕立ての側面もあるようで、そこはちょっと私の好みとしては微妙なのですが、タイトルと文庫本の装丁が素敵な本ですので、お取り置きします。


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 1

モノ書きピアニストはお尻が痛い (文春文庫)

著者 : 青柳 いづみこ

出版社:文藝春秋

発売日:2008-11-07

評価 :

完了日 : 2008年11月10日

評伝の書き手でピアニストの、青柳いづみこさんのエッセイ集です。私には初青柳本。優れた芸術家には名文家も多いので、そういった趣を期待してページを繰りました。

感触は…題名と装丁がすべり気味で気の毒(苦笑)。文章がガチガチに真面目で、遊びの部分が少ないように感じました。大学院の学位論文を読んでいる感じ(試しに読ませてもらったことがある)に近いです。専攻のドビュッシーと、ご本人のお好きな19世紀フランスのデカダン文学を読み手に理解してもらうために書き連ねる姿勢は理解します。私もあの時代のキケンなきらめきは好きですし、ドビュッシーの時代背景にも「ほー」と思いました。ですが、よくも悪くも音楽家の文章の感が…。

選ばれる素材はものすごく魅力的なのですが、筆力で広げるという感じに欠けていると思いながら読みました。教養あふるる筆致とはいえ、自分の守備範囲外にいる人にも文章で届けたい、という思いが少ないような…門外漢まで「もっとこの世界にひたりたい!」と思わせる何かがすごく欠けているように思いました。演奏家としての自分、物書きとしての自分を理解してもらえないフラストレーションのようなものを感じる部分は多々あったのですが。

まぁ、これは私がクラシック音楽(特にピアノ曲)の素養に乏しいことも大きな原因で、珍しく厳しい☆になってしまったというだけのことで…ごめんなさい。でも、旧フランス国立図書館の描写はよかったです。「壁から丸天井まで5階ぶんぐらいが全部本棚」とは実に素敵かと。それと、1分間に300字もタイプできるというのはさすがピアニストだ(フォローになってないか:笑)。


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 2

今朝子の晩ごはん 嵐の直木賞篇 (ポプラ文庫 ま 1-2)

著者 : 松井 今朝子

出版社:ポプラ社

発売日:2008-10

評価 :

完了日 : 2008年11月05日

前作『今朝子の晩ごはん』を面白く読んだので、続きで読みました。装丁は前作のほうが可愛いのですが、こちらのほうが粋だと思います。

メインはやはり、『吉原手引草』の直木賞受賞に関するあれこれでしょうか。選考結果発表の当日のできごとは割合あっさりと片付けられているのですが、その直後から始まる、お祝い+取材攻勢+新作依頼のすさまじいこと!これが「取ると取らないでは原稿料その他が断然違う」といわれる文芸の賞なんでしょうね。だから前半でコードネーム「QP」の出番が少ないのが納得できます(笑)。その代わりに、東京23区内の美味しいお店ガイドとして楽しめます(でも五穀米弁当は必須)。祇園生まれのお嬢さんは、実に口贅沢でいらっしゃいますこと!

前作のとおりお芝居をたくさん観られており、その的確で辛口な批評も楽しいです。結構、巷では「絶賛の嵐!」といわれている作品にダメ出しがされていたりするのもただの好き嫌いというわけでもなく、相変わらず分析的で素敵です。

時事問題に関するコメントなどは少し前の椎名誠さんのエッセイをほうふつとさせる攻撃性が面白いのですが、やはりアフター直木賞ということもあってか、執筆やイベントのスケジュールの合間にちょこっとという感じで、ちょっと注意散漫ぎみにも思えました。

松井さんの小説観は前作よりもよく分かりますし、☆の数は前作どおりにしたいと思うものの、直木賞のあおりを食らった感じで記事がお疲れぎみに感じられることと、自分がちょっと慣れてしまったようで、この評価となりました。☆半分だけ引ける、とかいうシステムがあったらいいのですが…ごめんなさい。


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 6

今朝子の晩ごはん (ポプラ文庫)

著者 : 松井 今朝子

出版社:ポプラ社

発売日:2008-04

評価 :

完了日 : 2008年11月03日

お楽しみにとっているうちに読む時期を逃しつつある(涙)作品、『吉原手引草』の松井今朝子さんによる、ブログをまとめたエッセイ集です。中身を読むと仕掛けがわかる、ちょっと可愛い装丁もなかなか。

タイトルのとおり、自炊・外食を含めた毎日のごはんネタをメインに、ご自身の周りのできごとについてのあれこれがつづられます。頻繁に登場する五穀米弁当ともっちり豆腐はともかく(笑)、「○分クッキング」、侮りがたし!思わず作り方を熟読してしまいます。ご実家が京都で料亭を営んでいらっしゃるというバックグラウンドが「おいしいものをきちんと食べる」という姿勢につながっていらっしゃるんだろうと思います。

それに、松井さんの歌舞伎演出者としてのキャリアが生きている、和洋含めた演劇評がまた素敵です。一般には「もう、見られただけで幸せ!」という感じの歌舞伎役者のできにケチをつけ(でもちゃんとほめられる作品はほめる)、返す刀で自民党政治を含めた昨今の世間に罵声を浴びせる姿勢が品よく暴れん坊で素敵です。時どき登場する妹さんも、めっちゃ京都人ー!なもの言いが見事。ガラパゴス諸島旅行記(解説に同行者の萩尾望都さんのマンガ)は、やはり作家さんとしての筆致の滑らかさを味わえます。でも、他の部分の暴れっぷりのほうが好きかな(笑)。

ブログの愛読者さんでしたら目新しいものは少ないので☆も少なくなるとは思いますが、私は演劇評が大変気に入ったのと、この軽やかでピリッとした筆致もキライではないので、この☆の数です。


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1.manu (2008/11/12)
「吉原手引草」は自分の知識不足からか、イマイチだったんですが、この本は読みたいと思ってました。
11月に入ってやたら源氏特集をテレビで見たので、すっかり古典気分なんですよねぇ。
江戸も又良さそうです。
2.Pipo (2008/11/12)
manuさん、こちらにもお運びありがとうございます。

『吉原手引草』は「遊郭ものを読もう!」と思った時期に宮木あや子さんの『花宵道中』とどちらにしようか迷い、結局後回しにして今まできています(笑)。『花宵-』は描写の好き嫌いがありますが、遊郭の様子が無理なく分かりやすく描かれていました。

今年は源氏物語千年とかで、王朝ものにスポットが当たっていますが、私はきびきびした江戸ものも好きです。
 

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 2

子午線を求めて (講談社文庫 ほ 29-2)

著者 : 堀江 敏幸

出版社:講談社

発売日:2008-10-15

評価 :

完了日 : 2008年11月02日

最近では新潮クレスト・ブックス『記憶に残っていること』の編者をなさった、堀江敏幸さんの読書エッセイ集です。柴田元幸さんのご本でその訳が「清新」と評されていることがうなずける装丁。

表題作はウチから電車で…の日本標準時ではなく、グリニッジ子午線の前に「世界標準」として使われていたパリ子午線にまつわるエッセイです。パリ市内に点在するこの標識(測量の標識のような小さいもの)を求めて、パリの街をさまようさまが、穏やかに、滑らかに描かれます。少し長めのセンテンスを流れるようにつないでいくさまが、フランス語の文章をそのまま訳したテキストのようで驚きました。堀江さんの仏文学者というキャリアがそのまま表れている、気品と教養のあふれた1編です。

全体を通して、内容は「フランス文学」からイメージするような華やかな恋愛物語を扱っているわけではなく、むしろ殺伐としたザラザラ感のある作品世界です。「ノワール」と称される、郊外の集合住宅に住む、低所得の移民2世の置かれた世界を扱った作品や、もともとある人種的な問題など、フランスのダークサイドを扱っていると感じました。このダークさが如実に表れている第Ⅲ部が印象に残りました。

本音のところでいって、現代フランス純文学をたくさん読んでいないと、ついていけない話題が大半だと思います。私も持ちダマが皆無に近く、第Ⅰ部を読み終わった時点でリタイヤ?の危機に遭遇(笑)。ですが、そういった不安点を補ってあまりある筆致の清々しい品のよさと、フランス文学とアメリカ文学との性格の違いを大いに楽しめる、知的なエッセイ集だと思いますので、この☆の数です。こんな文庫を出すなんて、講談社さん、ポイントアップです(笑)。


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 4

推定少女 (角川文庫)

著者 : 桜庭 一樹

出版社:角川グループパブリッシング

発売日:2008-10-25

評価 :

完了日 : 2008年10月28日

ダークなきらめきの表紙にひかれて購入しました。『私の男』と同じ、鈴木成一デザイン室の装丁。第一印象で目を奪うインパクトと、小説の世界観がぱっとわかる色彩感覚の鋭さはさすがです。

「ぼく」の似合う中3女子、巣籠カナが主人公。あることが原因で家にいられなくなった彼女と、彼女が偶然出会った少女、「白雪」とのランナウェイ物語です。記憶を持たず、大人でも扱えないような銃を手にする(ただし、自分仕様ではないらしい)白雪に振り回されぎみに、カナは住んでいた街を出、東京へと流れていきます。

日常に焦りと苛立ちを抱えたカナの語りで物語は進みます。この語りのテンポは見事で、ページをうまく繰らせます。ですが、物語の細部は…どうだろう(苦笑)。確かに、銃器とぶっ飛んだ女の子、バッドなストーリー展開、SFチックな単語(ややステロタイプ)はキラキラとして、子供向きの本を卒業しかけている10代前半のかたにはたまらん道具立てだと思います。私も正直、小4くらいだったら陥落するかも(笑)。でも、話がただ「前へ前へ」持って行くだけで、「どうしてそうなのか」というディープな部分になると妙に軽くて、読み手としてはちょっと欲求不満になります。オトナはそういう濃ゆい部分がツボなのですが(私だけ?)。

それに、この物語の縦糸になっている、大人に対する15歳の苛立ちみたいなものが判断しづらかったです。私は「子供なんてつまらないから、早く大人になりたいなー」と思ってはいたものの、だからといってこんな閉塞感を持つことはありませんでした。のんき+クールに「中学生って期間限定だし♪」と割り切って過ごしていましたので(笑)、一定のラインでこの感覚を理解しながらも、少々ステロタイプな感触を持ちました。結末については…RPG形式そのまま、またはハリウッド映画のアンケート方式とだけ記しておきます。

装丁◎、素材○、調理法△で、この☆の数としました。桜庭さん、貴女の持ちダマはこんなもんじゃないはず…コドモは手加減されるのがいちばん嫌だということは、聡明な貴女が一番おわかりでしょう(笑)。


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 1

ゼンダ城の虜 (創元推理文庫 F ホ 4-1 Sogen Classics)

著者 : アンソニー・ホープ

出版社:東京創元社

発売日:1970-02

評価 :

完了日 : 2008年10月24日

原題が"The Prisoner of Zenda"。そのままの邦題です。prisonerの訳がシンプルながらも「やっぱりこれしかないよなぁ」と見事。チェコとドイツの国境あたりに設定された王国、ルリタニアの王位をめぐる物語です。

主人公は英国の名門貴族の次男坊で無役。この青年がルリタニア国王の戴冠式に赴いたところから、物語が動き出します。彼と瓜二つの人物、その異母弟、美しく才知あふれる女性…もう活劇成分てんこ盛り(笑)。筆致は英国の作家らしく、こまごまと克明な印象を受けます。デュマ『ダルタニャン物語』のやたらめったらな疾走感(笑)とは異なりますが、この手堅い運びも捨てがたいです。読み進むうちに、タイトルが効いてくるというのがなかなか!

続編『ヘンツオ伯爵』は後日談。少しだけ視点を変えた語りが面白く読めました。ルリタニア王妃がちょっと『ダルタニャン-』のアンヌ・ドートリッシュのような側面を見せながら物語が進みます。結末は…やっぱりこれしかないなあと。

訳にはやや時代が出ている名詞もあって、改訳もアリかと思いましたが、これはこれで時代小説の許容範囲かと思います。装丁もシックで、小さな活字がまた創元文庫らしく(笑)、ひさびさにこのシリーズを手にした懐かしさも手伝って、次々とページを繰りました。そりゃあお約束の展開だけれども(笑)、それがどう見事にまとまっていくかを楽しむのもまた一興で、それを楽しく思い出させてくれた本です。それに、きゃろるさんとだまだまさんの応援で読むことができた1冊だとも思います。ありがとうございました。

-----[2008.9.30 未読リストアップ時のコメント]-----

野田秀樹さんの同名のお芝居で有名、でも原作は知らない(笑)ということで読んでみたい作品のひとつです。ヨーロッパの小国を舞台に、王位をめぐるそっくりさん+スリル満点の大活劇。創元社さんでかなり前に見つけており、そのままになっていますので。


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3.だまだま (2008/10/02)
こんばんは。お邪魔します。
『ゼンダ城の虜』、昔大好きだったので思わず反応して出てきてしまいました。マイナーな物語なんだと勝手に思い込んでいましたが、そんなに舞台化されていたんですね。ちなみに私がこの物語を知ったのは、藤子不二雄の『まんが道』ででした(笑)。
創元推理文庫の冒険小説には一時期ハマっていて、そればっかり読んでいた記憶があります。
4.Pipo (2008/10/03)
だまだまさん、こんにちは。お運びありがとうございます。

確かに、私も友人とお茶を飲みながら『ゼンダ城』の原作について話をしたといった経験はなく(笑)、今はあまり読まれない部類に入っているのかもしれません。でも、「たなぞう」ではこういった本のお話もできて嬉しく思っています。創元推理文庫の活劇ものも好きで、たまに手に取ります。

大甘でとぼけた感想ばかりですが、またお運びいただければ嬉しいです。

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 1

パンとワインとおしゃべりと (中公文庫)

著者 : 玉村 豊男

出版社:中央公論新社

発売日:2002-02

評価 :

完了日 : 2008年10月18日

もう、表紙のシャンピニオンがかわいすぎー!表題のとおり、パンとワインとおしゃべり満載の本です。玉村さんがヨーロッパで味わったお味と、日本に戻られて信州で暮らされてからのお味が、ちょっと気取った感じ(でも嫌みではない)の粋な文章で語られます。

もちろん、お酒もワインだけではありません。ヨーロッパはお酒が強くないと面白くないので、お酒の味は好きなのに量が飲めない私にはうらやましいかぎりです。グルジアの乾杯のあいさつ、「シャンパンのような元気を!」で乾杯してみたい!さまざまなお料理も紹介されており、楽しいことしきり。シュー皮にチーズを詰めたグージェールや、チーズフォンデュ代わりになる、ベルトゥーはとても美味しそう!イギリスのキュウリサンドイッチは、玉村さんいわく「渋い滋味があって病みつきになる」そうですが、どうだろう(笑)。イギリスの下宿で大家さんが作ってくれた、お世辞にも美味しいといえなかったジャガイモのサンドイッチにまつわる思い出など、味とは別に心にしみるお料理も紹介されています。あるキノコを食べる話にはちょっとびっくり、です。

1編1編がとてもコンパクトで巧みな筆致のエッセイで、本自体もとても薄い本ですが、決して物足りないとは感じません。「美味しい食べものと飲みものがあれば人生幸せだー」と思ってふふふと笑える本なので、この☆の数です。


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 1

鈴木亜久里の挫折―F1チーム破綻の真実 (文春文庫)

著者 : 赤井 邦彦

出版社:文藝春秋

発売日:2008-10-10

評価 :

完了日 : 2008年10月13日

文春文庫の10月新刊広告を見てすかさず購入(笑)。2006年にプライベートチームとしてF1参戦し、わずか2年で資金難のために撤退せざるをえなくなった、「スーパーアグリF1チーム」を追ったノンフィクションです。

鈴木亜久里さんの「F1チームのオーナーになる」という自分自身の夢と、「日本人ドライバーが羽ばたくためのシートを作る」という目的でこのプロジェクトはスタートします。もちろん、それは簡単なことではなく、ビジネスの側面を抜きには語れない。F1エントリーのための多額の供託金の調達法、技術のサポートを受けるメーカーとの関係など、ビジネスとしてのF1がどのようなものであるかがきちんと取材されており、興味深く読めました。

また、難しい状況の中でレースを成立させようとするドライバーやクルーの頑張りも熱く描かれており、現場は『プロジェクトX』な感じで熱血です(笑)。第1ドライバーの佐藤琢磨さんが非常にクールな大人の考えを持っており、彼の存在が大きかったのがよく分かります。第2ドライバーのライセンス剥奪や、立場の近いチームのコース内外のプレッシャーなど、F1のウラも見えて怖い(笑)。

こういうルポは判官びいきになりがちなのですが、擁護するべきところを擁護したのちに、鈴木さんサイドのビジネスセンスと読みの甘さを指摘しているというのもフェアで好感が持てました。うさんくさい「出資者」に振り回される様子、一時融資を申し出たソフトバンクのしたたかさ、技術協力したホンダの冷静な読みなど、さまざまな側面をコンパクトに理解できて面白く読めました。鈴木さん、外人のリップサービスをうのみにしちゃだめだよ(苦笑)。

ボリュームはそれほど大きくない本ですが、1つのプロジェクトが生まれてから破綻するまでを追ったスポーツノンフィクションとして、中身の濃い1冊だったのでこの☆の数です。


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 2

コドモノクニ (河出文庫)

著者 : 長野 まゆみ

出版社:河出書房新社

発売日:2008-08-04

評価 :

完了日 : 2008年10月11日

書店の棚に可愛くディスプレイされていたので購入しました。清楚な感じの装画も長野さんのものと知って驚き。東京近郊に住む女の子、マボちゃんの小学校から中学校時代がメインのお話です。

年代は1970年前後のこと。私に歳の離れた姉がいれば?という時代設定です。登場するアイテムにはちょっとわからないものもありますが、感覚はジャスト。カバー裏に「連作小説集」と銘打たれているものの、このリアルに細やかな記憶の数々は、どう考えても9割以上自伝でしょう(笑)。

読んでみて、細やかな描写力に驚きます。『小鳥の時間』に出てくるセキセイインコのピッピの話は、私もたくさんセキセイインコを飼ったこともあり、「そうそう!」と激しくうなずきながらも、幼い頃の記憶を細部まで再現される力にただただ驚きます。

他の2編も含めて、博学で美意識が高く、明治屋さんのアイテムが好きな女の子であるマボちゃんの身辺が克明に描かれています。彼女は好き嫌いがはっきりしていて、その毒づきっぷりもなかなか小気味よい(笑)。年齢的には木地雅映子さんの『氷の海のガレオン』と似た世界を扱っているように思いますが、『ガレオン』のほうがやや観念的かな…と思いながら読みました。中盤以降に登場する、旅芸人の子、セイちゃんのキャラクター造形が長野作品らしいのかなと思います(ほかに1冊しか読んでいないから断言できませんが)。セイちゃんの登場で、マボちゃんの目線が子供から大人へなめらかに変わっていくような印象を受けました。

第一印象は☆3つで、もう少しひねってもいいかも?と思ったのですが、やはりこの克明でなめらかな描写力に感心することしきりで、この☆の数です。


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 3

本に読まれて (中公文庫)

著者 : 須賀 敦子

出版社:中央公論新社

発売日:2001-11

評価 :

完了日 : 2008年10月07日

須賀敦子さんの書評集です。ウィリアム・モリスのテキスタイルを使った装丁が美しく、そのまま持って歩きたい1冊です。書店の書棚を見上げたら目にとまりました。

守備範囲はイタリア文学からフランス文学、ラテンアメリカ文学…といわゆるロマンス諸語の世界の文学が中心です。かといってそこに固執するわけではなく、現代アメリカ文学まで幅広く読まれているご様子です。ラインナップは古典から学術書、文芸まで幅広く紹介されています。日本の作家の作品では池澤夏樹さんのものが数篇取り上げられていることからみれば、骨太ながらも詩情豊かな作品がお好みのよう。私には池澤文学のルーツもわかるおまけとなりました。もちろん、ただお好きな本を並べてほめそやすわけではなく、ピリッとした批評眼も効かせておられ、しかもそれが嫌みではないんですよね。洗練、というのでしょうか。ヨーロッパ伝統の慇懃無礼さを感じないわけではないですけど(笑)。

見返しのプロフィールを見て、あの年代に特有の、良質の教育(何をもって「良質」とするかはきちんと説明できないので、あくまでもマイ感覚的に:苦笑)を受けられた女性文学者が持つ、香気を含んだ筆致に納得することしきりです。この筆致は田辺聖子さんの書評に通じるかな…とも思います。もっとも、田辺さんのほうは国文学がホームで、もう少しロマンチック転びの作品がお好みのようですが。男性であれば、この気品は間違いなく『背教者ユリアヌス』の辻邦生さんのものでしょう。

取り上げられている本にひるみながらも手を伸ばしたくなるのはもちろんのこと、須賀さんの書評をもっと読んでいたい気分にさせられるのか、ゆっくりページを繰りたくなる本ですので、この☆の数です。


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ただマイヨ・ジョーヌのためでなく (講談社文庫)

著者 : ランス アームストロング

出版社:講談社

発売日:2008-06-13

評価 :

完了日 : 2008年10月03日

今年の夏に読み残していたものを今読みました。自転車界の「鉄人」、ランス・アームストロングの自伝です。ツール・ド・フランス7連覇の英雄。でも、私は山岳のスペシャリスト、ミゲル・インデュラインのほうが好きでした(笑)。

彼が自転車界で栄光の絶頂にありながら癌の宣告を受け、常人では耐えられないような治療の末に復帰を果たしたことはあまりにも有名。自転車に対する情熱、闘病の苦しさと不屈の闘志、家族への愛もよくわかるよ…と思うのですが、文章として読ませる力が低い(笑)。稀有な才能の持ち主が、さらに稀有な闘病生活を語るのに思わず力がはいるのは理解します。ですが、1人称語りでヒートアップする部分が鼻につき、冷静に情報を得たい読み手(それは私:笑)には重たいのです。

これはおそらく口述筆記なのでしょう。執筆当時のアームストロングは30代初めで、自分の体験を熱っぽく語るのは仕方ない年齢だと思いますが、彼は誰かにインタビューしてもらって、その記事を本にまとめてもらったほうがいいタイプの人物だと思います。アメリカには『PLAYBOY』誌のインタビューなど、驚くほど素晴らしいインタビュアーがあまた育っているお国柄なのだから、そちらを選択したほうが硬派で質の高い本ができたような気がします。ただ、ライダーしか表現し得ないであろう、はっとするほど的確で見事な表現もあったりして、小説だったらばちっとはまるように思う部分が多々あったのはさすが、と思いました。

訳はアームストロングの喋り口調を文章にするのに苦労されていることがよくわかります。「この人、訳ヘタなの?」と一瞬思ったのですが、訳者あとがきを読むと、巧みな文章を書かれるかただというのがよくわかったので、そこが少し惜しい気もします。

邦題も素敵だと思いますが、原題"It's Not About the Bike"のとおり、アームストロングの人となりを描く作品であり、ライダーとしての彼とレースとの位置づけを知りたかった私としては、ターゲットが違ったのでこの☆の数とします。ごめんなさい。


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11.ryoukent (2008/10/08)
年齢のこと。
あまり気になさらないのは結構なことだと思います。

おっしゃるとおり、たなぞうのみんなはそのあたりの年齢層がいちばん多い様ですね。
最高年齢のかたはどなたかなぁ、とか時々あちこち見てるのですが、会社を定年退職された男性はいらっしゃるみたいで、そうなるとわたしもまだまだ若輩者です(笑)
12.Pipo (2008/10/09)
ryoukentさん、おはようございます。

「たなぞう」メンバー、幅広いですよね。10代はじめから大先輩、趣味から研究系とそれぞれに特徴があって、面白く拝見しています。私は本のラインナップに結構クセがある(と思う)ので、ノートにコメントをつけていただくたびに、「コメントいただいて嬉しいけど、なぜにこの本なんでしょうか?」とおっかなびっくりで拝見しています(笑)。

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マリコはたいへん! (小学館文庫)

著者 : 松久 淳

出版社:小学館

発売日:2008-09-05

評価 :

完了日 : 2008年09月28日

雑誌連載のときに「うまい企画だなー」と思いながら楽しんでいました。27人(+α)の「マリコさん」のお仕事と恋愛事情のインタビュー集です。インタビュアーは『天国の本屋』の松久淳さん(ただし未読)。

登場するマリコさんたちのお歳は、雑誌のターゲット年齢に近い幅(20代~30代)でのセレクト。お仕事は地味めのものもありますが、「目立つ憧れの職業」といえるものが多いように思います。このマリコさんたちに、インタビュアーの松久さんが気弱モードで立ち向かう姿がなんだか可笑しい(笑)。松久さんでなくても「はー!」と思ってしまうつわものマリコさんあり、「ちょっと考えようよ」と諭したくなる、すっとこどっこいマリコさんあり…と、マリコさんたちと松久さんのやりとりをツッコミながら、共感しながらすいすいと楽しめます。マリコさんたちが抱える、ちょっと困った事情が描かれていたりしてもいやみなく読めるのは、松久さんのお優しさと、筆致のやわらかさだろうなぁと思います。ガールズ・トーク全開で、ちょっとナマっぽくて、松久さんでなくとも男性(特に未婚の)は引くネタもあるでしょうけど、男子諸君、女子というのはそんなもんだ(笑)。

リリー・フランキーさんの装丁がキュート(帯のコピーは大泉洋さん)で、「ザ・女子本!」として気楽に楽しめる1冊です。ただ、欲をいうならば、章分けに使われているページが黒刷りなことに違和感があるのと、そこに書かれた英語が少し微妙だったので、出版社さん、ここを考えていただければなおよし、です。


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パレオマニア―大英博物館からの13の旅 (集英社文庫)

著者 : 池澤 夏樹

出版社:集英社

発売日:2008-08

評価 :

完了日 : 2008年09月25日

「パレオマニア」とは聞きなれない響き…「古代(妄想)狂」という意味だそうです。池澤夏樹さんが、副題のとおり大英博物館の収蔵品にちなんだ旅を13の章立てで紹介した紀行文です。

最初はギリシャの女神の形の柱、「カリアティド」。博物館に収蔵されたとびきりの美女(「何人め」とか指定がある:笑)のふるさと、アテネへと舞台は移ります。続く舞台は四大文明からアジア、北中米など。取り上げられた収蔵品はうなるほどの通好みというほどではなく、意外とオーソドックス(手元の図録にほとんど掲載されていた)でした。まぁ、大英博物館の収蔵品はあまりにも有名なものばかりなので、既視感があるのは仕方ないかもしれませんが…。

スタイルは、収蔵品についてうんちくを傾けるというよりも、収蔵品がひきがねになっていろいろな考えが頭をよぎる…といった感じです。その土地の風土、食べ物の描き方がうまく、各地で旅の連れとなるかたがたがとても知的に素晴らしいかたばかりで、その物言いが池澤さんのひとり語りに深みを添えます。惜しむらくは、あまりに情緒的になりすぎてちょっとキザ(笑)。人称の使い方は減点です!

もう少し硬質な書きようだったら間違いなく☆5つだったのですが、タイトルを見ての第一印象と期待がちょっと上回ったかなとも思います…「内容○、筆致△」を冷静に考えてこの☆の数とします。ごめんなさい。

-----[2008.9.11 未読リストにアップ時のコメント]-----

ハードカバーで出版されたときに迷っていて、このたび文庫本で見つけました。

まず、「パレオマニア(paleomania:古代妄想狂)」という言葉があることに驚愕!私も古代ものは大好きですし、マニアではない(かもしれない)けれども、近くの展覧会には必ず足を運びます。金銀細工や陶磁器、その他いろいろ…の年月を過ごした美しさがたまりません。

この本は、「パレオマニア」を自称する池澤さんが大英博物館の収蔵品をヒントに、出土地をめぐる13の旅がつづられています。なんて贅沢な企画。装丁もシュメールの牡山羊(いいデザインのものを:笑)と、上品にまとめられています。

絶対読む鉄板本ですが、暫定的にこのノートへ。


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1.manu (2008/09/12)
こんにちは。
又しても…。(^.^)
私も古代もの大好きで、これもチェック入れておりました。
ここを拝見して、更に読みたくなってきたきたきた~(笑)
2.Pipo (2008/09/12)
manuさん、お運びありがとうございます。これ、私も文庫を見つけたときに「ヤバい!開いたら買っちゃう!」と思ってちょっとだけ避けました(笑)。

でも、ずっと前にAmazonで大英博物館の簡単な図録を買ってあり、「取り上げられている中にどれか載ってるものがあるのかな…」とすでに参照スタンバイ状態なんですけどね(笑)。
 

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本当はちがうんだ日記 (集英社文庫)

著者 : 穂村 弘

出版社:集英社

発売日:2008-09

評価 :

完了日 : 2008年09月21日

『吉野朔実劇場』で吉野さんのお友達としてレギュラー出演中の歌人、穂村弘さんのエッセイ集です。文庫の表紙もちょっとポップでダークな感じが可愛いのですが、ハードカバーの表紙(もろ小動物系)のほうがよかった(笑)。

もう、最初からへなへなと笑いがこぼれます。『エスプレッソ』で語られる、「エスプレッソが好き→でも苦くて飲めない→でも頼む→理由は○○」って…。高校生がブラックコーヒー飲むのと同じじゃん!『結果的ハチミツパン』の、ハチミツパンを食す時間とスタイルがすごく、しかもそこから考えることが…なんか迷走している。「何とかしなさい、41歳総務課長(当時)!」と思わず教育的指導をしてしまいそうです(笑)。

全編へろへろと迷走していくさまが面白いのですが、自分の持つ弱さみたいなものを見つめる視点は鋭くてちょっと温かいです。『リセットマン』で穂村さんが「怖い」とおっしゃることは、川上弘美さん『ニシノユキヒコの恋と冒険』でニシノ氏がのたまう「怖い」の中身と(おそらく)同じものだと気づいてはっとしましたし、『硝子人間の頃』ではご自分の苦手ポイントをほんの少しずつクリアしていこうとする気持ちにじんわりきてしまいます。『嘘と裏切りの宝石』の峰不二子の描写、まさにそのとおりで美しゅうございますー。

解説は三浦しをんさん。いつものしをんさんトーンよりもちょっと抑えめのテンションがくすりと可笑しくて心地いいです。へらへらと楽しめるエッセイですが、このジャンルでは森見登美彦さんが激しく追い上げているようにも思うので(笑)、激励をこめてこの☆の数です。


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ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)

著者 : 川上 弘美

出版社:新潮社

発売日:2006-07

評価 :

完了日 : 2008年09月09日

『センセイの鞄』を書店に偵察に行き、なぜかこちらを(笑)。ファースト川上作品です。キュートな装丁に「軽やかなラブコメディーでしょう、これは!」と思って読み始めました。後で間違いに気づきますが…。

ニシノユキヒコ(漢字では「西野幸彦」)なる男性と、彼が恋愛をした女性(の一部)ごとのリレー短編集です。見た目まじめで清潔で男前、そこそこ堅い人生を送る男性。でも夕方の携帯は女性からの着信ばっかりで…と、実は軽い男?のニシノ氏。そんなオトコと付き合った女性たちの目線で、彼と、彼との恋愛が語られます。

各エピソードの並べかたが構成の妙だなぁ…と思いました。登場する女性とニシノ氏のお付き合いした時期が、微妙に他の女性とかぶったりして(笑)語られます。エピソードを機械的に時系列に並べちゃえば、ただニシノ氏を「ワルいやつだなー(笑)」と思って終わりでしょう。ですが、最初のエピソードで、それがすっと薄まっていく感じ…この構成はある意味卑怯かもしれませんが、ひとりの男性の面白哀しい、そしてちょっと切実なストーリーなんだ…と思える効果を出しています。

年齢はばらばらながら、ニシノ氏を語る女性たちがみなとても賢い印象を受けました。彼との出来事を厭うわけでもなく、懐かしさを含ませて淡々と静かに語ります。こういう女性たちを落とす彼は凄腕(笑)。それもみな、彼がときどき発する虚ろな台詞に、うわべだけではない何かを見てしまうからなのだろうと思います。もっとも、これも彼の手のひとつかもしれませんが…個人的にはバツイチ女性とニシノ氏と猫の微妙な三角関係のエピソード、「しんしん」をイチ押ししますが、年齢と恋愛観によっていろいろかと(笑)。

「こんな男性、お試しもアリ」と思うか、「即却下!」と思うかはすっぱり分かれる恋愛小説ですが、静かに熱を帯びて面白い作品だと思います。それに、こういう「主人公の出てこない」作品は私のツボ(確定:笑)なので、この☆の数です。


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