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Pipoさんの読書ノート

Amazonにもちょこっと
Amazon.co.jpのレビュー欄に書き込みをした本たちです。再読して印象がちょっと変わったり、書き方を変えたりしたものを挙げました
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 5

博士の本棚

著者 : 小川 洋子

出版社:新潮社

発売日:2007-07

評価 :

完了日 : 2008年11月16日

実はこれがファースト小川本です。タイトルからして『~愛した数式』つながりの本?との第一印象でしたが、開いてみると全く違いました。幼いころの愛読書や忘れられない本など、「作家・小川洋子を作ったもの」が詰まった読書本です。

全体的にみると、採りあげられている作品は古典というより、比較的最近のものが多いように思います。本の批評といった点はまるでなくて、中身を紹介しつつも、それを通して自分の経験や考えを描いているという側面が強いように思います。そのテイストはやさしく穏やかで、ちくっとした痛みを感じさせる小川さんの作風そのままです。個人的には「図書室の本棚」「書斎の本棚」の章が小川洋子エッセンス満載で好きです。装丁も穏やかで、読んでいてやさしい気分になります。たびたび登場する「同級生の勝谷くん」に「へーっ!」と思うことしきりです(笑)。

読書本というのは、自分の読書体験とあまりに合わないと反感めいたものも出てくるように思うのですが、この本では「こんな繊細で豊かな世界を感じさせるんだ」とうらやましさばかり残りましたので、この☆です。最初は☆5つで考えていましたが、『博士の~』という題はやはりどっちでもいいように思いますので、1つ引きました。

[2007.8.13 に Amazon.co.jp のサイトにアップしたレビューを一部書き直し、たなぞうに再アップしました]


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 14

百年の孤独 (Obra de Garc〓a M〓rquez (1967))

著者 : ガブリエル ガルシア=マルケス

出版社:新潮社

発売日:2006-12

評価 :

完了日 : 2008年08月04日

2年ほど前に読んだ、ファースト・マルケス作品です。タイトルは数多くのパロディで有名。「100年の孤独」ってありえるのか?と思わせる、しかもSFチックなタイトルが魅力的です。

ある開拓村を作った一族の栄枯盛衰の物語です。華々しいサクセスストーリーというよりは、貧乏くさくってほこりっぽい、陰鬱な印象を受けます。この開拓は壮大な目的のもとに…というより、男女の駆け落ちの果ての妥協点であり、世の中もこの村もそれなりに動いているのに、数多い一族の中に取り込まれるとぴたりと外界と遮断されるような、暑っ苦しい陰湿さが強烈でした。この一族の当主の信仰にも似た心情や土着の信仰と、キリスト教などがミックスされた雰囲気もそれに拍車をかけます。

装丁がなかなかアーティスティックで素敵(帯はえんじ色でこれがまたいい)ですが、個人的には99年版のお城の表紙のほうが、この一族の複雑で閉ざされた状態を表しているような気がします。もっとも、今回の版では他のマルケス作品と装丁が統一されているので、まとめ買いするにはこちらがよいと思いますが…。それに、巻頭の系図は不可欠ながらもややネタバレ?しおり兼用のカードにしてそっと後ろのほうに忍ばせておくとか、何か別の方法を(笑)…少し惜しい気もします。さらに巻末の解説によれば「42の矛盾と6つの重大な誤りがある」と著者が指摘を受けているらしく、作品としての緻密さには疑問も残りますが、「まぁ、この濃い物語は分かりにくくても」と思います。

消化不良といえば消化不良ですが、そんなに欲求不満にはなりませんでした。この作品を読んで、現在世界で起こっているあれこれを考えるというのではなく、1つの村に吹きだまった一族の隔絶感を感じる作品です。


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 4

裸者と裸者〈下〉邪悪な許しがたい異端の (角川文庫)

著者 : 打海 文三

出版社:角川書店

発売日:2007-12

評価 :

完了日 : 2008年07月13日

疾風怒濤の佐々木海人くん編(上)から視点が変わって、こちらは月田桜子・椿子さんの双子姉妹編。時間の経過は(上)からほぼ連続していますが、映画「スワロウテイル」の円都(イェンタウン)を思わせるスラムが主な舞台となります。

姉妹は海人の援助を蹴って自分たちの道を進む(これは海人のやりかたを嫌ったんじゃなくて、彼女らなりの大いなる遠慮だと思う)わけですが、これがポップでアナーキーなガールズ・マフィアの結成。「秩序の破壊」をうたう破壊組織の側面メインではなく、現代マフィアの原組織であるコーザ・ノストラの精神を思わせるテーゼにつながるように描かれています。

瞬く間に誰も看過できない存在となる組織のボスとして(正確には結成直後に)思いがけず海人と再会し、自分たちの未来に関する思いを話したときに異を唱えた海人に対し、姉妹が投げつける「宝石箱」のたとえはあまりに見事としかいいようがないです!しかも海人のそれに対するリアクションの設定もお見事!それでも、3人はお互いがコインの表裏ということを理解している(ふしがある)ため、完全に反目し合うわけではなく、時には信頼する友人として、時には共同作戦のパートナーとして前へ進みます。具体的に描かれているわけではないんですが、姉妹との共同作戦時に海人が見せる、「しょーがねーなぁ(彼としてはもっと胸の痛む深刻な問題なんだけど)」感がなんかいいです(笑)。しかも、作戦中に読んでる本のセレクトにはまたやられます!

北上次郎氏の解説のように、悲惨な中に妙な明るさのある巻です。(上)より凝った設定ですが、こちらの巻のほうが、各登場人物の思いが出揃ってストレートに伝わってくることもあり、スピードが増しても軽やかに読めます。月田姉妹のハンサム・ガールズぶりも小気味いいですが、バイプレイヤーに回った海人の印象も薄すぎず、かといって主張しすぎずという立ち位置で絶妙(彼のビジュアルに関する描写が1か所出てきますが、やっぱり男前のようです)でしたのでこの評価とします。

[2008.3.2にアップした感想を2008.7.13に並べなおしました。松本仁一さん「カラシニコフ」を読んだあと、ちょっと読み方が変わったように思うんですが、そのままとしています]


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 7

裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争 (角川文庫)

著者 : 打海 文三

出版社:角川書店

発売日:2007-12

評価 :

完了日 : 2008年07月12日

内戦状態となって大小の暴力が渦巻く近未来の日本で、弟と妹を守るために腕一本で生き抜く道を選んだ少年、佐々木海人の物語(この巻は)です。

描かれる時代のビジュアルイメージは

「コードギアス」の日本内戦状態
「北斗の拳」の世紀末荒涼感
「ガンダム00」の主人公の持つ少年兵メンタリティ

かなぁと思います。内容はそれはそれはハードでジェットコースターなこと。海人くん、フツーなら命がいくつあっても足りない(笑)。戦場描写は市街地の白兵戦中心(空戦が展開されない理由はさらっと出てきます)でリアルに濃いのですが、登場人物がみなある種の落ち着きを持っており、彼らの落ち着いた語り口によって物語がオーバードライブにならないような仕掛けになっているのかなと思います。また、登場人物の知的レベルを台詞の漢字の多さで区別してあるのが、ありそうでなくて新鮮(私の読書経験上)です。海人くんは結局、正規の学校教育を一度も受けることがないままプロの軍人の道を選んだため、台詞の語彙が増えてもほとんどひらがなで、センテンスも長くない。でも何というか、「粗にして野だが卑ではない」とでもいいましょうか、いくばくかの気品のあるキャラクター造形(ビジュアルの描写はほとんどないけどおそらく男前でもある)が魅力的です。次巻以降のキーパーソンとなる他の登場人物もみな、さまざまな立場にいながら背筋がのびた生き方で魅力的です。

個人的に気に入っているのは、海人が(おそらく)17歳のときにきちんと読み書きを教わるようになる(それまでにも教わってるようだけど身についていないので)場面です。「生まれて初めて読む小説」として教材に使われた小説のセレクトにしびれました。こういうディテールが結構ロマンチックだったりするんですが、スピード感に乗せられて慌てて読むと違和感ばかり残るかたもあるように思うハードな素材ですので、この☆の数とします。

[2008.3.2にアップした感想を2008.7.12に並べなおしました。松本仁一さん「カラシニコフ」を読んだあと、ちょっと読み方が変わったように思うんですが、そのままとしています]


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 8

つまみぐい文学食堂

著者 : 柴田 元幸

出版社:角川書店

発売日:2006-12

評価 :

完了日 : 2008年06月27日

主にアメリカ文学の作品に出てくる食べものを枕に、その作品を紹介するエッセイです。美味しそうなものから、これはどうか…というものまで、24のエッセイが読者にサーブされます。

柴田さんの訳書は、どんなガサツな世界を描いていても日本語の品のよさが絶妙で心地いいなぁと思いながら手に取るのですが、このエッセイの中で紹介される作品の食をめぐるシーンの部分訳(ほとんどが氏の手になるものですが、他のかたの訳文も紹介されています)はもちろん、地の文も軽やかで、すいすいと読み進められます。ゼーバルトやダイベックはひととおり押さえてらっしゃるというかたも、まったく手に取ったことがないかたも、さっぱりと楽しめるように思います。

それに、装丁と構成がシンプルなようで凝っていてとても愛らしい。角川書店さん、ナイスデザインです。目次のメニュー仕立てにふふっと笑い、各ページの構成でも活字を変えて、見た目のアクセントをつけていることに嬉しくなります。吉野朔実さんの手になる表紙と口絵のラブリーさも2重マルです。巻末のあとがき対談も楽しい。柴田さん?と思われるメガネ男性がほぼ毎回描かれています。

手にとってから読む途中、読後まで楽しめる1冊でした。大事に作った作り手のみなさんの思いもびしびし伝わってくるので、☆5つでオッケーなのですが、やっぱり紹介されている作品がわかったほうが面白いように思いますので、私の不勉強分を引いてこの☆の数です。


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 1

ミステリの名書き出し100選

著者 :

出版社:早川書房

発売日:2006-12

評価 :

完了日 : 2008年06月27日

古典といわれるものから最近のものまで、ミステリ100本の書き出し(訳と原文)+書評を見開き2ページで集めた本です。本編には仏語のものも数編紹介されていますが、英米ミステリが大半を占めます。

訳者さんの見事なパフォーマンスによって仕上がった作品を手に取り、「原文ってどうなってるの?」と興味をそそられるのは翻訳文学好きにはお約束の心理(だと思う)なのですが、この本はそんな好奇心をとてもお手軽に満たしてくれます(笑)。気になった原文を探して洋書売り場でいたずらに疲れることもなく(笑)、原作者の凝りに凝った、あるいはそっけないほどすっきりとした書き出しなどをたくさん読めます。そういった意味では、ミステリファンというよりも「英語(or仏語)のペーパーバック、読めるかなぁ?」とおっかなびっくりで手を出しかねているかたに、よりおすすめなのかもしれません。

当然のことながら、こういった書き出しは作品のためにあるので、「外国語を書く能力をつけたりする手助けになるのでは?」と思って手に取るとあっさり裏切られます(それは私:笑)。各作家の操る言語を楽しむにとどめておくのが賢明なように思います。個人的にはジョン・ル・カレ「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」、ドナルド・E・ウェストレイク「踊る黄金像」が好みです。名書き出しとして名高いウィリアム・アイリッシュ「幻の女」などはやはり夢のように美しくて「これってミステリ?」と思ってしまうほどです。

早川書房さんならではの好企画だと思いますし、近ごろミステリから割合距離を置いている私にとっては、面白く読めたというだけでも☆5つなのですが、英米以外のもの(少ないですがドイツものとか)ももう少し加えていただければよかったと思いますので、☆1つ引きます。ごめんなさい。


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 11

墨攻 (新潮文庫)

著者 : 酒見 賢一

出版社:新潮社

発売日:1994-06

評価 :

完了日 : 2008年06月11日

コミック、映画、それにスピンオフ小説とたくさんの作品を世に送り出した作品ですが、「ここはやはり原作でしょう!」ということで手に取りました。

プロットはもはや言わずもがな。辺境の小城にたった一人派遣された軍師が、素人の兵隊でいかに戦争のプロである敵の大軍を防ぎきるか、またそれは可能か?という緊張と不安に満ちています。

全編を通して意外なほど乾いた淡々とした描写なのに驚きます。主人公が今ある道を歩んだ理由、城をめぐる攻防戦の描写などは絵や映像に置き換えると激烈なものになるのは否めないような濃い描写ですが、体裁は「史記(特に列伝)」などの中国歴史書の解説書を読んでいるような感じを受けます。乾いた描写に、時代背景などの説明がいいタイミングで入り、テンポ良く進んでいきます(南伸坊氏のイラストに負うところも大きいでしょう)。結末も中国歴史書ふうのあっさりとした描き方なので、「これで終わりかよ!」と思いながらも余韻が残るように思います。

墨家という、全貌も明らかになっていない集団で教育を受けた者を主人公に、みずからの戦いがはらむ矛盾を承知して「プロ」として挑む主人公の毅然とした強さを感じます。主人公と対峙する敵将もあっぱれですが、もうちょっとボリュームがあってもよかったかな…というわけで、この☆です。


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1.manu (2008/06/13)
酒見さんは、デビュー作「後宮小説」のアニメを見てからずっと原作を読もうと思いつつ、そのままになってる方です。(汗)
先日、「メッタ斬りシリーズ」のどれかで(ご存知かもしれませんが、大森望氏、豊崎由美氏の書評本)酒見氏の名前を拝見して読みたくなっていた所です。
2.Pipo (2008/06/13)
manuさん、たびたびのお運び、ありがとうございます。

いちばん新しい「メッタ斬り」は読もうと思ってそのまま…こんど書店で立ち読みしてきます(笑)。酒見さんの「後宮小説」はアニメ版よりディープテイストでしょうか。「墨攻」はドライな感じが意外ですが、中国文学のエッセンスをうまく利用しており、「やるなぁ!」と思う仕上がりです。薄くてさらっと読めますし、おすすめできる1冊ですよ。
 

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 14

パリ左岸のピアノ工房 (新潮クレスト・ブックス)

著者 : T.E. カーハート

出版社:新潮社

発売日:2001-11

評価 :

完了日 : 2008年05月21日

パリ市内の「セーヌ川左岸(リヴ・ゴーシュ)」といわれる地域にあるピアノの修理工房と、そこに出入りするようになったアメリカ人の著者のお付き合いを描いた作品です。ひょいとのぞいた工房はなかなか新参者が気軽に入れない雰囲気だったのですが、その中の若い職人さんと何とかやりとりができる機会ができ…。

「ピアノもの」といえば演奏家や作曲家がクローズアップされるものですが、この作品はそういったアーティストを描くのではなく、それを支えているピアノたちとピアノをこよなく愛する職人さん、著者を含むその周りの人々とのかかわりを描きます。このやりとりが素敵だったりするんですよね。ちょっと昔の「一見さんお断り」的なヨーロッパに足を踏み入れて戸惑うアメリカ人の著者を通した目が新鮮さ、温かさを等分に描いています。登場するピアノたちは現代のストロングなフルコンサート用のものではなく、プレイエルやガヴォー、エラールなどのひと昔もふた昔もまえの瀟洒なものばかり。柔らかで軽やかな音色が聞こえてきそうです。日本でも修復専門のかたはいらっしゃいますが、そういった見えそうで見えない、西洋音楽を支えるひとたちの愛情もあふれるごとく伝わってきます。

なかなか繊細なノンフィクションで素敵な気分になれるのでこの☆の数です。こんな幸せな時間が持てるんだったら、ピアノ習ってればよかったな…旅行に行ったら、この工房も思わず探してしまいそうだ!


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 9

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

著者 : ロバート・アトキンソン ウェストール

出版社:岩波書店

発売日:2006-10

評価 :

完了日 : 2008年04月25日

ウェストールの作品を3編まとめた短編集です。剣と魔法の物語があふれる昨今の翻訳児童書の中では全く異質の、リアルWWIIもの(厳密にいうとリアルではないけれど)。対象読者はローティーンなのでしょうが、軍ものとは、なかなかストロングな素材です。日英の青少年、ついていけるのか?多分アウトかも!(笑)。こちらから入り込んでいく想像力が必要ですし、分かるとその描写がとても辛くなるし。

大人の目線で読むと、「ブラッカムの爆撃機」は極上の密室劇といえるように思います。おんぼろ爆撃機の新米乗務員たちと、ベテラン上官。それに、僚機の「ブラッカムの爆撃機は必ず帰ってくる」という伝説…。機内の状況は飛行機図鑑を見なくても(笑)、宮崎駿氏による解説が大いに手助けしてくれます。岩波書店さん、ナイス解説!英国は(おそらく)勝つ、でもそれはここに描かれるような日常の数えきれない戦闘(敵味方のどちらにも)のうえに成り立っている…。この苦さはなんだかトム・ウルフ「ライト・スタッフ」の冒頭で感じるものに似ています。

個人的には「チャス・マッギルの幽霊」のほうが好みです。読んでいて感じる辛さは「ブラッカム」よりやや軽め?と油断してしまいますが、そんなことはありません。主人公の見たものは…うまく言えませんが、アーウィン・ショーの短編に常盤新平さんがつけた「愁いを含んで、ほのかに甘く」という邦題のフレーズがぴったりくるように思います(これは全編を通じて変わりませんが、この話では特に)。 とにかくチャス、ナイスアシストだ!

「ぼくを作ったもの」でも少し描かれるように、ウェストールのよって立つ世界は「愁いを含んで」いるどころの話ではありません。苛烈な戦時の現実です。ただ、そこに描かれている、英雄的ではないけれど、目の前にあることを見つめて生きる主人公達に注がれる目線がとても優しい。この優しさを感じ取るにはおすすめです。

☆Amazonのレビューにもアップしましたが、これはぜひ「たなぞう」にもストックしておきたい作品ですので、ちょっと読み直しました。


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 19

ミノタウロス

著者 : 佐藤 亜紀

出版社:講談社

発売日:2007-05-11

評価 :

完了日 : 2008年04月17日

ロシア革命前後のウクライナが舞台です。地元社会の崩壊をきっかけにあらぬ方向に突っ走っていく地主の息子と、それに合流するオーストリア軍の脱走兵の物語です。この2人の行くところ、まるで草木1本残らない。合い言葉は「(あらゆる意味で)やっちまえ!」といったところでしょうか(笑)。

標題の「ミノタウロス」が示すものは正直言って日本人にはイメージしにくいと思います。ギリシャ神話ではあっさり死んでる感じなのですが、暴虐と殺戮など、あらゆるダークサイドのイメージをはらむキャラクターと考えればいいでしょう。主人公は、現代小説では流行りの幼児期トラウマなどはどこ吹く風。ナチュラル・ボーンで堅気じゃないし、相方となる兵士もまともそうで壊れています。この2人が地元のギャング集団や軍隊の間をすり抜けながら生きていくさまは壮絶そのもの。とはいっても文体自身は格調高く、下品なところは皆無です。新潮社クレスト・ブックスにそっと入れられていても気づかないほどの良質の文体だと感じました。結末は救いのかけらも何もないのですが、なぜかほっとさせるような切れのよい結末です。

主人公と相方のキャラクター造形もさるものですが、前半で異彩を放つのが主人公の兄。もともと影が薄い存在なのですが、傷痍軍人として故郷に帰ってきた後の存在感の不気味さが重たくのしかかってきます。ビジュアルを想像すれば結構怖いです。

おそらく、描き方は異なりこそすれ、桜庭一樹さんの「私の男」の目指すものといい勝負をする路線の作品だと思います。あまりに危険であるけれど、それが読み手の何かを惹きつけずにはおかない…といったところが共通するように感じます(自分のなかの毒に気づくというのも大切なことだと思っているので)。

小悪党ものでも大悪党ものでもないけれど、疾走感あふれるダークな物語をこんなにキレイに読めたというのは驚きでしたのでこの☆の数としたいと思います。


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 2

ボクはワインが飲めない (角川文庫)

著者 : 宮藤 官九郎

出版社:角川書店

発売日:2008-03-25

評価 :

完了日 : 2008年04月10日

天才、クドカンのコンプリートコラム集(笑)です。

もともと宮藤さんの作品はご自身のダメ男っぷり全開なビジュアルも含めて好きなのですが、この本はもう、読んでてただただクドカン節にやられます。ご自身が手がける映画やドラマ、舞台、コントにまつわるあれこれはもちろんのこと、「オレ、シェイクハンドに夢中!」って(笑)。それでいて、「ロック系の人は握手したがる」「山口智子のユニクロのCMが流れると会話が止まる」と、日々の観察眼はやっぱり鋭い。これが超売れっ子の脚本家さんの感覚なんだなぁと思います。2000年~2004年のコラムなのですが、言語感覚は完全に今の時代を作っているのがよくわかります。自分にツッコミ、なんかその典型でしょう。ほかにも「この言葉の使いかた、今の小説に結構出てくる!」と気づかされるものがたくさんあります。

連載後に各コラムを担当の編集さんと振り返る「あの日のオレにダメ出し!」も結構笑えます。最後に川島なお美さんたちとワインについて対談するという、取ってつけたようなおまけも宮藤さんらしく、ゆる~く楽しめる1冊です。最近、笑いから遠のいてるかも…といったアタマには抜群の効きです。


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 15

おおきく振りかぶって (1)

著者 : ひぐち アサ

出版社:講談社

発売日:2004-03-23

評価 :

完了日 : 2008年03月25日

昨春にアニメ放映された際に思わぬ面白さにハマってしまいました。お話は

ガラスのエース
→正確には「投球センスと並外れた努力を生かしづらいメンタル面ダメダメピッチャー」ですが、この気恥ずかしいほど美しい響きをあえて使ってみたいなぁと思ってしまいました。でも、中学時代に背負った荷物はあまりにも重いんだ…

尋常じゃないほど理性派・理論派で自負心あふれる超しっかり者キャッチャー
→中島敦「山月記」の「性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く…」という描写をほうふつとさせるけどいいヤツ。彼がこういうマインドセットで突き進もうと思う(or思った)のにもそれなりの背景がおありのようです。ありえない精神年齢の高さだけど、同い年の友人に欲しい!

の高1バッテリーを中心とする野球ドラマです。野球漫画の名作どころは割と読んでいるんですが、これは導入部に今ふうの問題をはらませつつ、「いきなり」感をうまく殺しながらもスピーディーな展開ですばらしくうまいなぁと思いました。まぁ、リアリズムとは別の次元かなぁと思える描写もありますが、それはどの漫画でも多少なりともあるので不問です(笑)。

あさのあつこさんの小説「バッテリー」と比べて考えると、「バッテリー」ではスポーツ選手に必要な才能と資質をすべて主人公の投手ひとりに与えて話が展開しますが、「おおきく-」はこの2つを投手と捕手にうまく振り分けて話が展開していきます。とにかく、西浦高校のチームのみんなはいいヤツで憎めない!努力と才能を同列に考えて、誰もバカにしないんだもの!監督も顧問の先生もいいひと。野球が好きなひともそうでないひとも、ぜひ手にとってほしいと願うほどのlovelyな作品です。


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 2

白夜の大岩壁に挑む―クライマー山野井夫妻

著者 : NHK取材班

出版社:日本放送出版協会

発売日:2008-01

評価 :

完了日 : 2008年03月18日

あまりにも有名なクライマー、山野井泰史・妙子ご夫妻のグリーンランドでのクライミングを取材したNHK番組のクルーによる取材記です。

山野井ご夫妻のクライミングについては泰史さんご自身の著書や沢木耕太郎さんの「凍」でご存じの向きも多いと覆いますが、この取材記はアフター・ギャチュンカン登頂とでもいうべきものです。もう以前のようなクライミングはできないと考えていたお二人が、リハビリ(→訓練)を積むうちに、意外とできるかもしれない、できるとしたら、誰も登っていないところを…ということでグリーンランド東部へ。クライマーの血、健在です。

クライミングの立案については泰史さんが前に出ているように感じるのですが、それは妙子さんの実力に裏付けられた落ち着きがあるからだと感じます(すぐにタクティクスを練ろうとする泰史さんに「まあ、お茶を飲んでから考えようよ」という台詞はラブリーです)。下見の際、隠れたクレバスに落ちた泰史さんに「途中で力尽きても大丈夫なように、ロープを張っておいて」と言われて確保できるなんて!奥さんがダンナの死体を引き揚げることになるかもしれないという、フツーの人には考えられない世界ですが、これには出会ってからすぐに「姉弟のよう」と評されたという、相性のよさ+夫婦+同志の凄みを感じます。お二人の出会いからパートナーとなって以降のことについては他の本などでも描かれていますが、この本が一番そこを丁寧に描いている印象を受けました。極地のクライミング取材記なのに、そこかよ、と(笑)。それはさておき、お二人のものすごくいい関係にじたばたしてしまいます(笑)。

語り口も平易で読みやすく、最後には登山用具の写真解説もついているので、登山に詳しくないかたでも楽に読めるように思います。クライミングそのものよりは、山野井ご夫妻のつながりに重きを置いた文面のように感じられますので、先に挙げた作品とはまた違った向きで楽しめます。よくまとめられた取材記なのですが、「凍」よりもインパクト面ではソフトなので☆ひとつ引きます。ごめんなさい。


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 2

オンディーヌ (光文社古典新訳文庫)

著者 : ジャン ジロドゥ

出版社:光文社

発売日:2008-03-12

評価 :

完了日 : 2008年03月17日

書店で見かけたときには驚きました。光文社さん、この作品の新訳とは!

ジャン・ジロドゥの代表作ともいえる戯曲です。水の精オンディーヌと、騎士ハンスの恋物語。劇団四季のストレートプレイでも上演されていますので、ご存じのかたも多いかと思います。ファンタジーと片付けてしまったらそれっきりですが、よく練られた舞台と台詞です。バレエの「ジゼル」を思わせる森の奥が舞台となり、2人の恋が時に静謐に、時にドラマチックに描かれます(オンディーヌは従来の訳よりもアクティブなキャラクター造形に感じます)。この恋も「ジゼル」と同じく、一筋縄ではいきません。恋の終わりは…最後の台詞の見事さといったらありません。こうきたか!という巧みさと感動で震えがきます。舞台見ててよかったー!と心の底から思う一瞬です。

訳も滑らかで読みやすく、堅苦しさは感じません(時どき、「これは要検討?」という言葉も見受けられますがまあ許容範囲内)。必ずしも売れるとは限らない地味な戯曲の新訳を出してくださったことに☆5つです。


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1.きゃろる (2008/04/10)
こんにちは。私も劇団四季の舞台を見ました。榎木孝明さんと山口祐一郎さんのダブルキャストのハンスとベルトラン。(最近では荒川務さんでしたね)。その頃、全集に入っているものを読んだような気がします。
いろいろ考えさせることの多い作品なので、新訳も読みたくなりました。
2.Pipo (2008/04/10)
きゃろるさん、コメントありがとうございます。

この作品の初演は加賀まりこがタイトルロールを演じ、話題をさらったと聞いています(映像が残ってたらいいのに:笑)。今でもレパートリーに加えて演じている劇団があるのはとても嬉しい、といつも思います。

今度の訳は四季版と趣は異なりますが、いろいろな演出が考えられそうな訳ですよ。
 

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 26

5年3組リョウタ組

著者 : 石田 衣良

出版社:角川書店

発売日:2008-01

評価 :

完了日 : 2008年03月14日

「池袋-」のイメージが強くて、石田さんの作品は何となく「自分に合わない」気がしていて敬遠していたのですが…これは新聞連載に1章分加筆して出版!ということで喜んで手にしてしまいました。

「いい学校」といわれており、先生にはやや「重たい」公立小の若手教師・良太先生は、熱血とはいかないまでもフツーに教育に熱い思いを持っているフツーの先生。この本では良太先生の学級内や職員室内で1年の間に起こる問題がいくつか採りあげられるのですが、これが今の時代の問題として絶妙です。教室から脱走してしまう子、先生間のパワハラ、自宅に放火?疑惑の兄弟…上っ面だけの作りこみではなく、細部がきちんと丁寧に描かれています。これらはみな、まじめすぎることや、みんなが正しいと思うことに寄りかかりすぎる末の狂気のようにも感じます。そんな問題を提起しつつ、結末はさらりと締める。その鮮やかさに「敬遠していてごめんなさい!」と脱帽です。

良太先生のクラスで持ち上がった問題をさりげなく解決に導いてくれるのがやや年上のクールガイ、染谷先生(石田さんによれば、ビジュアルは及川光博さんのイメージらしい)です。この2人のコンビの活躍で、良太先生のクラスあるいは学校の抱える悩みが解き明かされていきます。「どたばたしがちな主人公+度量の広い、頭脳明晰な相方」というのはよくある組み合わせですが、この作品では特に素敵な光を放っています。最後の章は、ちょっと展開が読めちゃうかも…とも思いますが、石田小説の真骨頂といえるラブのスパイスも効いていますよ(笑)。

この作品は石田さんから漱石の「坊っちゃん」へのオマージュでもあるとのことですが、ストーリーテリングや描写力がはるかにスマートで温かい読後感を呼ぶのでこの☆です。


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 8

本を読む兄、読まぬ兄 [吉野朔実劇場]

著者 : 吉野 朔実

出版社:本の雑誌社

発売日:2007-06-12

評価 :

完了日 : 2008年03月10日

やっと出ました、第5弾です。

今回は「絵本探偵(計3回)」のシリーズが面白かったです。絵本って、大人になると手元に残っていないものが多いので、「こんなストーリーだったかも」というあやふやな記憶と、「とにかく、すっごくどきどきした!」とか「○○が美味しそうで…」の鮮明な記憶がアンバランスに残っているんですよね。また、表題作がカラーで掲載されているので、連載時とは異なった表情を楽しめます。

いつものとおり、シンプルで軽やかな装丁も二重マルで、おまけに吉野氏の手書きエッセイが掲載されているのですが、やっぱりもう少しページが欲しい…かもしれません。ごめんなさい。でもラブリーで好きです。


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 2

楽園に間借り

著者 : 黒澤 珠々

出版社:角川書店

発売日:2007-09

評価 :

完了日 : 2008年03月10日

グリーンにピンクのラブリーな装丁です。それに、「~間借り」のタイトルがちょっと遠慮がちな表現でくすっと笑います。働く女子の部屋に転がりこみ、「ヒモ」となってしまった男子の面白いような切ないようなお話です。

主人公の男子は「彼女とラブラブ同棲中(本文より)」と言えないことはないものの、対外的にどう見ても「ヒモ」。まぁそうは言っても限りなく堅気に近く、まじめでそんなに馬鹿でもなく、そこそこ男前(だと思う)で、おまけに「専業主夫?」のテイストも漂っています。メンタル的には彼女との関係や自分の将来に思いをめぐらして微妙に悩むことも多々ある(解決できないけど)、良識あるラインの男子。「カネなし、職なし」を勘案するかしないかで分かれはしますが、おそらく収入のあるほとんどの女子は「まーしょーがねーか」と言っちゃうんでは?と思うキャラクターです。

主人公と彼女のやりとりには殺伐としたものがなく、なかなか素敵(ワンルームに2人で住んでて修羅場にならないのはすごいと思う:笑)ですが、実質的に主人公の保護者であるお姉さんや、ヒモのDNAががっちり組み込まれている連れのルイ君の2人のキャラクターがなかなか濃い味付けで、その間でぐらぐら揺れる主人公の描写が際立っているように思います。

結末は「へー、こういう風に締めるんだ」と思ってしまう終わりかたですが、全体のほわっとした感じを締めるにはこれでいいのかな、と思います。内容もラブリーで結構好きなんですが、読み手をつかむ力はちょっと弱いのかもしれません。ですのでこの☆の数です。ごめんなさい。


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 82

新釈 走れメロス 他四篇

著者 : 森見 登美彦

出版社:祥伝社

発売日:2007-03-13

評価 :

完了日 : 2008年03月08日

マイ・ファースト森見本です。標題のとおり、著者による近代文学の名作リミックス5編。

それぞれの作品と、原作が持つ緊張感が見事にシンクロしているところは「まいりました!」というほかありません。行方不明となった文学狂いの青年と、かつての麻雀仲間との再会を描く「山月記」に始まり、登場人物がそれぞれの作品にかかわる様子は、藤沢周平の「本所しぐれ町物語」に通じるようにも感じます。原作と同じ表現を微妙にからませながら、おバカ方向まっしぐらの暴走だったり、切なさ倍増だったり(どちらの路線でも、心理描写がリアルでうならされます)…文学好きのツボを心得たコンビネーション攻撃を心から楽しめます。こういった連作集では「これが好きで、これはちょっと…」という順位ができてしまうものですが、どの作品も甲乙つけがたい面白さです。

すごく気になるのが、各短編についている、へったくそなエンピツ描きのカット(笑)。おそらく森見さんご自身の手になるものだと思いますが、クレジットもついてないので微妙にナゾです。

舞台となる京都の街の様子も、あたりを知るものにとっては「あそこ、そういうヤツいるよな」「そうそう、あのあたりはね…」とくすくす感を倍増させるスパイスとなっています。

森見作品を手に取るのはこれが初めてですが、「しまった、他の作品をもっと早く手にしていれば!」と悔やませるパワーがあふれています。装丁も小粋で、文句なく☆5つの評価としたいと思います。


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 10

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

著者 : 田辺 聖子

出版社:角川書店

発売日:1987-01

評価 :

完了日 : 2008年03月06日

映画化もされた表題作を含む9編の短編集です。山崎ナオコーラさんの「人のセックスを笑うな」が大量に平積みされている隣で健闘していましたので、応援がてら購入。

「ジョゼと…」はこの中でも直球のラブストーリーです。脚の動かない美しい、人にはちょっと高飛車な物言いの女性、ジョゼと、何となく面倒を見るようになってしまった近所の大学生の青年。あることをきっかけに、すーっと引かれるように近づいていって離れられなくなっていく関係がとても美しく、時には濃厚に描かれます。

とにかく、各短編のシチュエーションが絶妙に微妙な瞬間。脚本家の女の家に自分の会社の倒産ネタを売りに来る元彼、婚約者を連れてくる妹、とか。全編を通じて感じるのは、男女の関係と心の動きが本当に穏やかに美しく描かれることです。全編、はっきりとドロドロ感を交えて描くほうがかえって簡単な素材だと思います。ですが、差しはさまれる濃厚な描写も下品さは皆無。すっきり甘い入り口ながら、実はしっかり味が残るというつくりです。それは登場する女性達のさっぱりした人生観に負うところが大きいのかもしれません。男性に引きずられまくっていないキャラクター造形は、まさに田辺作品ならでは。結末も思わせぶりな余韻が残るタイミングで切られており、つい「それからそれから?」とじたばたしてしまう(女性の勝ち!っぽいのが多いかも)…今さらながらにうならされます。ただ、これは誰のせいでもなく時代の問題なのですが、この作品で出てくるような大阪ことばを話す30代の男性はもうほとんどいません。10歳+αくらいで今風かなあ?と思います。

解説を山田詠美氏が書かれていますが、これがまた一編の短編として素晴らしい完成度です。ご自分の近況をからめて田辺作品の男女の機微を語りながら、幼い日の記憶につなげていく…この手際の鮮やかさを楽しむのもいい作品集ですのでこの☆の数とします。「恋の棺(これは抜群にセクシーな設定に、読んでてじたばたしてしまう)」を激賞されていますが、私も同感!


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 74

私の男

著者 : 桜庭 一樹

出版社:文藝春秋

発売日:2007-10-30

評価 :

完了日 : 2008年03月02日

直木賞受賞、おめでとうございます!

初桜庭作品です。しかも「このただごとではないタイトルと装丁は何?」とジャケ買い。直木賞の帯になる前の黒ラシャの帯が最高にシックです。ヒロインの花さんとお父さんの淳悟さんの秘密を抱えた濃密なかかわりを描いた中長篇です。

花さんの結婚式からカットバックした形で、2人のつながりを描いていきます。お互いに家族を失った花さんと淳悟さんが家族になったわけが少しずつさかのぼって解き明かされていきます。タイトルのとおり、多くが花さんの目線で描写されていますが、かえってそれが淳悟さんの輪郭を際立たせていく仕掛けで、淡々としながらもスピーディーに読ませます。濃いドラマですがドロドロ感は薄く、ラストもすっきりとしています。

淳悟さんがもう、「影のよう」でなくて影そのものです。世間の父親年齢よりはるかに若く、静かで貴族的でうらぶれていて破滅的。誰に危険を及ぼすわけでもないけど、全てが花さんのためでクレイジー。この体温の低い危険な香りはやっぱり最高に魅力的でしょう。彼を「父親」にすることでスパイシーな危険さが増すわけです。

なぜ2人はそんなに惹かれあうのか、ホントのところはどういう関係なのかちょっと曖昧な部分(掘り下げずにぼかしてある部分と、2通りくらいに意味が取れる部分がある)があるので、もう少しページを割いてこのあたりを描いて欲しかったとも思いますが、これは2人の苦しくて甘やかな記憶を描く作品であってミステリじゃない(豊崎由美さんも昨年末だったかに新聞書評で同様のことをおっしゃっていて嬉しかったです)ので、それを合理的に説明してしまっても意味がないのだろうなぁと思います。2時間ドラマになっちゃいますしね。

スガシカオの「あまい果実」という曲をほうふつとさせる作品世界がに文句なく☆5つです。細かいツッコミを入れて星を引こうかとも思いましたが、マスコミの、インセストの側面ばかり強調して作品の本質を見ない面白半分な扱いにちょっと怒っているので、何が何でも☆5つにします。 お願いだから、映画にはしないでください!


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3.manu (2008/05/09)
「5つ星をつけられた方」という事で同じくコメントを。
ドロドロという意見が多いようですが、設定の割りに、むしろ淡々と語られているよなぁと私も思いました。
もっとドロドロに書こうとすれば書けるのではないでしょうか。
自分では読後のあの爽快感を上手く分析できなかったのですが、Pipoさんの書評を読んで、なる程と納得しましたよ。
4.Pipo (2008/05/09)
manuさん、初めまして。コメントありがとうございます。

毒のある作品はもともと嫌いではないのですが、中には致死量を超えるモノもあるので、いっそうきちんと読まなければいけないと思っています。その結果として、あの感想を書きました。あの素材を料理する腕はやはり巧みだと思いますし、「ドロドロだぁ」だけとはちと違うように思いましたので。

大甘ですちゃらかなノートですが、またお越しいただければ嬉しいです。

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